エピローグ
此の世界に生まれた者は誰しも、大なり小なり魔力を持っている。持たない者など、居ない筈だった。
現代魔術と古代魔術、何方も6つの属性、500を越える数多の種類に分類される。
私は、聖女と同等の魔力を持った、公爵の嫡女だった。
馬車で領地へ向かっている途中、王室直轄領地の山岳部で、山賊か、将又暗殺部隊かに出会った。まぁ要するに襲われた。私を庇った侍女が背から血を滴らせ崩れた。其処に被さる様に、私も死んだ。
◆◇◆
意識が遠のき、記憶の中で蘇る痛みで目が醒めた。
一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。
只、1つ分かるのは、私が無意識下で禁忌魔法を使ったという事だ。
好奇心と変態の権化とも云われる魔法士でも、禁忌はある。例えば、自己の複製魔法(クローン生成魔法)や、先刻も言った時空間操作魔法だ。
複製魔法は、自分の魔力を込めて自分そっくりに人形を変え、遠隔操作するのと違い、アレは自分で全てを判断し、動く。故に、第2の自分と云われる『クローン』を作る事になる。だが、アレを作った魔法士は、複数存在する自分の、どれが本物(人間)で、どれが偽物(魔法生物)なのかが分からなくなり、殺し合い、全て死亡した。
時空間操作魔法は、過去に戻る事や、時間を止める事が可能で、其れだけだと滅亡戦争を阻止出来るとか考えるが、其れは違う。アレは己の魂を体から抜き取り、過去へ戻す事が出来る。魂だから、当然記憶も引き継がれる。が、過去の自分に取り入った魂と、自らの器を追い出された魂、同じ魂が同時に2つ存在する事になってしまうのだ。そして、器から抜けた魂は約1週間で自然へ還元される。要するに消滅だ。特別な魔道具で保管も出来るが、最大2ヶ月が今の限界だ。
何か目的があるのなら、最長2ヶ月迄という事だ。
そして、戻る年月によって消費魔力が大幅に変わる。1年程度なら3分の1も使うかどうかだが、私は恐らく8年程戻っている。この魔法、5年から消費魔力が格段に上がる。8年だと、私の魔力でも殆ど使い果たし、枯渇状態となってしまう。
起きた時、私は王立貴族学校に入学する半年前に戻っていた。
入学時の年齢は12、卒業まで最短8年掛かる。私は王太子の婚約者という身分に恥じぬ様、最短の8年目で最高学年に進学した。だが、私はその年の中頃、王太子との婚約破棄、王都への永久立ち入り禁止令、領地の修道院への強制送還が決まった。
理由は分かりきっている。私が聖女をいじめていたからだ。特に、後悔は無い筈だった。なのに、私を庇って死んだ、私の専属侍女、アリアの「逃げて、生きて下さい」という最期の言葉がずっと胸の内で詰まっている。コレを、後悔というのだろうか。
目が覚めると、アリアが部屋に入ってきた。
「お嬢様!?目覚められたんですね、よかったです。何処かお辛い所はありませんか?」
まだ髪を切る前の、懐かしいアリアの姿が其処にあった。
だが、声を出そうにも出ない。手を掴み返そうにも、力が出ないどころか動かない。
直ぐにコレが魔力の枯渇状態であると理解した。
「直ぐに医者を呼びますね。」そう言うと、アリアは部屋を足早に出ていった。
屋敷で待機していたのか、医者は直ぐやって来た。其れと一緒に母様と父様も入ってきた。
心拍数や呼吸、魔力の流れを調べ終わると、医者は
「お嬢様から、魔力が殆ど感じられません。大きな池から水が全て無くなり、数滴だけ残っている様な、そんな状態です。」 恐らく殆ど事例の無い症状だ。医者も嘸驚きだろう。
分かっていても、医者に言われ、安堵が湧き上がった。強大な魔力を宿していた私は、彼処まで醜く、愚かになってしまったのだから、コレは当然の報いなのだろう。そう、思わずにはいられなかった。
瞼が重くなり、急激に眠気に襲われ、再度眠りについた。次に目が覚めたのは、其れから1週間後の事だった。