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Act-07 『 鎧 』



 天井を破って落ちてきた何モノかが、シャンテの目の前に落下してきて、襲ってきたスケルトンを吹っ飛ばしてくれた。


「シャンテ!?」


「けほけほっ、私は大丈夫よアビス」


 アビスはシャンテの元に戻ってきた。


 巻き上がる土煙が視界を遮るが、不死の魔物は絶え間なく襲ってくる。


 落下物が気になるが、今はそれどころではない。


「……終わったみたいね」


「えっ?」


 シャンテの指さす方に目を向けると、ゾロゾロと湧いて出てきていたスケルトンたちがバラバラになって地面に散らばり、一際大きく目立っていたスケルトンオーガが瘴気に戻り、霧に帰する瞬間を目の当たりにした。


「これがダンジョンボスの最期……」


 剣を鞘に収めるオルグがこちらに来る。


「まさかボスが “アーマースケルトンナイトオーガ” だったとはな。なにがD級ダンジョンだ」


 後で聞かされるのだが、今のダンジョンボスは本来B級冒険者が数人がかりで倒すレベルの強敵だったらしい。


 それよりも今は……。


 アビスは脅威が去ったことをオルグの言葉や表情で察し、再び天井の穴、そして落ちてきたそれを改めて確認する。


「これは一体どういう事なんだ?」


「どうしたアビス、表六球みてえな面して」


「オルグ、言葉は選びなさい。ですがアビス、わたしも気になるのだが、どうかしたのかい?」


「なになに?」


 フェルマンに続いてフォルテも武器を外して寄ってくる。本当に危険ではないらしい。


「えーっと、ごめん。ちょっと驚いて……いや、かなり驚いて」


「それが落ちてきてくれたから、妹は助かった。それはあたしも理解しているけど、アビス、あんたにはちょっと言いたいことがあるから」


「それは後で私が聞くわ、姉さん。だから今は堪えて」


 フォルテが言いたいことは分かっている。それはシャンテと一緒に、ちゃんと聞かなくてはならない事も理解している。だけど今は……。


「本当にホーネストなのか?」


 天井を破って落下してきたのは、この世界風に言えばフルメタルアーマー、完全に露出部のない完全な人の形をした鎧であった。


「真っ白な鎧か……変わった装飾だな。何のために羽なんて付いているんだ?」


 オルグは背中の二枚のパネルを指さして羽と呼んだ。確かにそれは人型起動兵器アーガス、飛行可変型ホーネストの飛行安定翼ではあるのだが、畳まれたこれを見て羽を連想するのは、ちょっと無理がるように思える。


「けど間違いない。どこからどこまでも、俺が知っているホーネストだ」


 だが決定的に違うところが一つだけある。


「なんで俺と同じくらいの身長なんだぁ!?」






 とにかくダンジョンから出ようと言う話になったのだが、シャンテがミニマムの魔法を掛けようとしても、ホーネストがこれ以上小さくなることはなかった。


 もしかしたら既にミニマムがかけられた状態ではないのかと、シャンテに言われて「なるほど」と合点がいった。


 となると、この事態のままここから運び出すしかない。パイロットスーツの様に放置はあり得ない。


 しかし全長は17メートル、重量は12トンあった起動兵器は、今の身長からおよそ十分の一になっていると推測される。ミニマムの魔法性質上、その重さも1.2トンはあると推定される。


 どうすることもできないのか……。


『システムチェック修了』


 途方に暮れるアビスの耳に、覚えのあるマシンボイスが聞こえてきた。


「マイン、なのか?」


『音声認識確認、データ照合、連合国家モノリス国軍リーヴ所属、アビスレイ=クレイピア少尉と認定、ホーネスト専用コミュニケーションプログラム再起動いたしました。遅くなって申し訳ございませんマスター』


 パイロットを補佐するアーガスに搭載されるコミュニケーションAI。


 登録パイロット専属となる為、メインプログラムはパイロットスーツに保存されているのだが、この前に見つけたスーツは使い物にならなくなっていた。


「データの移送をしたのか。それでホーネスト専用か」


 アビスが端末を操作したときに作業を開始したのだろう。けっこう時間が掛かったみたいだが、こうして再起動できたのなら問題なしだ。


「けど、間に合ってくれて良かったよ」


「おーい、アビス。その鎧騎士は知り合いか? 屈強フルアーマーの中は女の人か?」


 オルグがまだ座ったままの、小さくなったホーネストを近寄ってきて見下ろす。


「美人そうな声だからって、擦り寄るんじゃあない」


 後ろに立つフォルテの回し蹴りを側頭部に受け、オルグは転がった。


「いてぇだろ!? 死んだらどうすんだ」


「それくらいで死ぬようなタマじゃないのは、メンバー全員が知ってることでしょ。ほら、早く立ちなさい。外に出るわよ」


 アビスがホーネストの様子を確認し、フォルテがオルグに手を差し伸べて起こしている間に、フェルマンがボスモンスター討伐成功特典の宝箱を回収、シャンテがミニマムで小さくして中身を袋に収め、ダンジョンを撤収することになる。


 少しだけ心配だったが、ホーネストはマインのサポートで歩行は可能、一緒に連れ出すことができた。


「なるほど、戦闘はできないが移動は問題ないと」


『はい、飛行形態での移動も可能です。細かい操作が必要な動作でなければ、私にお任せくださいマスター』


 よくは分からないがエネルギーの心配はないということで、マインは記録に残るこれまでを、アビスが持つ端末に転送した。


「……撃墜後の状況はほぼ何も分からずか」


 それはそもそも仕方がない。


 本当なら撃墜時にアビスのパイロットスーツごと、マインのメモリーは消失された。こうして再起動したのも奇跡なのだ。


『システムはオールグリーン、登場頂ければ全機能をフル稼働可能ですマスター』


「とは言ってもそのサイズじゃあなぁ~。……そうだシャンテ」


 色んな物を小さくできるミニマムの魔法。人間には使えないのかを聞く。


「このゴーレムに乗る? う~ん、やったことないし、聞いたこともないなぁ」


 アビスはホーネストの中に、人はいないとみんなに説明した。そうするとフェルマンが。


「魔法で動いているのか。これがゴーレム……、初めて見たが精巧に出来ている物だな」


 ホーネストはこの世界では、ゴーレムとして認識されることとなった。


「私はフェルマンと違って、鎧に精霊を降ろすアーマーゴーレムを見たことがあるけど、それはこんな生きているみたいに動いたり、喋ったりはしなかったわ」


 ホーネストへの質問は後を絶たないが、談笑しながら歩いているうちにダンジョンを脱出。


 外は薄暗かった。


「今なら町に戻れるな」


「こんなところで野宿もないでしょ。さっさと戻るわよ」


 長期滞在をしていた宿に出戻り、空きがないと女将さんに渋い顔をされて、紹介されたのは冒険者ギルドが経営する、寝泊りだけできる安宿だった。


「おかえりなさい。エンシェントの皆さん」


 ギルドの受付シエラから部屋の鍵を受け取って、裏手にある宿に向かった。


「ベッド二つの部屋が、二部屋だけか」


「今から他を探すのも面倒だし、オルグは床ね」


「なんで俺なんだよ」


「男と女で別れるわけなんだし、まさかあんた神官様や後輩を床で眠らせるつもり?」


 オルグは不承不承了解するが、アビスは待ってくれと言って、シャンテに数刻前と同じ質問をした。


「だからやったことがないのよ。聞いた事もないし、生き物にミニウムを掛けても、問題ないのかって聞かれてもね」


 それでもいいから試してほしいとお願いしてみたが、流石に実験もなしに本番はできないと拒否された。


 アビスはシャンテの手を引いて、ギルドの馬屋へ行く。


「まさか、この馬で試せっていうの?」


「言わない言わない。人の物に悪さなんてしないよ」


 アビスは「ちょっと待ってて」と言って、シャンテを置いてギルド本部舎に入り、しばらくすると袋に入れた針ウサギを持って戻ってきた。


「食堂から借りてきた。絞める前の魔物が残っててよかったよ」


 針ウサギを使って試して欲しいと言われ、シャンテはあっさり断った。


「だって、可哀相じゃない」


「俺もそれは思う。けど決めて欲しい。俺とウサギのどっちを小さくするか」


 針ウサギは呼んで字の如く、毛が堅い針になる魔物。Fランクの採取クエストに依頼される食材だ。


 頭から上は硬くならないと言うことで、麻袋に入れられて頭だけが外に出ている。


 耳を捕まれてウサギは怒っているが、安全は確保されている。


「……分かったわ。ウサギさんには悪いけど」


 シャンテは睡眠魔法で、動けないウサギを静かにさせて魔法を掛けた。


「……生きてるわね」


 実験は成功。食材を元の大きさに戻して調理場に返し、いざ本番。


「本当にイヤなんだけど……」


 溜息混じりのシャンテは、ワンドをアビスに向けるのだった。

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