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Act-04 『 召喚 』



「なんだこいつ、こんな魔物、ここで見たことないぞ」


「ここでではない。この様な魔物の報告はこの国にも、隣国にも無いはずだ」


 オルグの驚きにフェルマンがフォローを入れる。


「見て姉さん、頭の中」


「妙な兜の奥はグールみたいね。臭い息がプンプンする」


 皆が見たこともない個体にざわついている中、アビスは驚嘆のあまり、まともに呼吸もできずにいた。


「ごほっ、げほげほっ……」


「だ、大丈夫?」


 シャンテが背中をさすってくれる。


「ごほごほっ、……もう大丈夫。うん、ちょっと驚いただけ」


「あのグールに? 確かにちょっと変わってるけど、そんなに慌てなくても……」


 初めてのダンジョンだというアビスが、グールを見たことがないのは普通のことだけど、この反応は普通じゃあない。


「いや、その……シャンテさん」


「シャンテで良いわよ」


「この辺りでは、あんな服も売ってるのですか?」


 アビスはグールが着ている全身鎧? に注目した。


「いいえ、見たことないわ。ねぇ、オルグ」


 シャンテはあんな防具を見たことはない。


「ああ。超レアなのは間違いない。グールなんかにはもったいねぇよな。なぁ、フォルテ」


「そうね」


 見た事ないのは、他のメンバーも同じ。


「そう、やっぱりこの世界にはない物なのか」


「この世界にって、……もしかして貴方、召還魔法で呼ばれた異世界人?」


 シャンテの言葉にまた喉が詰まる。あっさりとアビスの正体がバレてしまった。


 今は目の前の魔物のことだけ考えたいのに、意識が分散させられてしまう。


「ああ、うん。今はそっちはいいから、それであの魔物がどうかしたの?」


「え、えーっと。あの魔物の服、もしかしたら俺の物かもって」


「そうなんだ……、それであの鎧はどういう物? 材質が全く分からないんだけど」


 見たこともない特殊個体のグールには、シャンテの火魔法が全く通じなかった。煤1つ付いていない。


「ちょっと特殊な縫合がされていますが繊維です。けど耐熱耐圧がされていて、刃物も簡単には通さない。極地で着用者を保護するのに特化した物です」


「キミ、若いのに難しい言葉使うね。ちょっと私には理解できないんだけど、かなりのお宝って事は分かったわ。それでなんだけど……」


 シャンテはアビスに追加の質問をした。


「魔法? いえ、そんなはずはない。と思います」


「OK、それが分かれば十分だわ。フェルマン、その鎧には魔力付与の類はなされていないわ」


「本当ですか? ではグールを浄化して終わらせましょう」


 フェルマンの法力を浴びて、魔物は浄化され、衣類だけが残される。


「さぁ、聞かせてアビス、あなたは異世界から召還されたのよね。召還主はもしかしてこの国の王族だったりしない?」


 敵が動かなくなったところでシャンテが聞いてくるが、アビスはそれには答えずに、魔物が来ていた防具に飛びついた。


「やっぱりこれは俺のパイロットスーツだ。なんでこれがこんな所に?」


 アビスのパイロットスーツは撃墜された時にボロボロになり、使い物にならなくなったはずだが、アビスが無傷でこの世界に来たように、傷1つ無い状態で魔物が着用していた。


 ヘルメットを取ると、一嗅ぎで三途の川が見えた。魔物は消えてもニオイは消えない。アビスは慌ててヘルメットを元に戻す。。


「グールから出る粘液は、菌糸となって付着物を腐食させるからな」


 フェルマンも忠告する。このニオイは洗うだけでは消えないようだ。スーツは諦めるしかない。


「せめて、使える物を外して持っていくかな」


 左手首の端末と、膨ら脛のポケットにある二本のナイフと、腰の小銃を取り、またみんなに護られながらダンジョンを後にした。


「なるほど、ちょっと毛色の違うガキだとは思っていたがな」


「あたしも、勇者召還された異世界人ってのにも初めてなのに、まさか最初に出会ったのがハズレとはね」


 落ち着いたところでシャンテの質問に素直に答えると、オルグとフォルテが近寄ってアビスをマジマジと観察した。


「2人とも落ち着きなさいよ。アビスが怯えているわよ」


 思わずアビスは、シャンテの後ろに隠れてしまった。


 王様には隠すように言われたが、勇者召還事態は誰でも知っている儀式らしい。


 それを行えるのが王族の中でも極一部だけ、成功率はさほど高いわけではないと言う事も。


「魔族との戦争?」


「ああ、この大陸には繁栄する5つの種族があってな」


 詳しいことはフェルマンからと、オルグは説明を丸投げした。


「この大陸で最も広い領土を持ち、最も欲深く他者を虐げているのが、我々人間だな」


 神官として高い地位にあるというフェルマンは、同じ人間種として恥じて苦笑いをする。


「次にエルフ、森に生き自然と共にあろうとする高潔を謳う種族だ。次に己が欲に忠実なところは人間と同じだが、ドワーフは自らが認めた者としか交わろうとしないため、無駄な争いをしない」


 前世でも聞いたことのある異世界有名人が出てきたが、アビスが知るのと少し違う機がする。


 エルフもドワーフも寿命は人間と変わらないと言うし、食生活も大差はないと言う。


「次に魔力量が人間の倍以上あるが、魔力の影響で繁殖力が低い魔族。人間と同じくらい欲深くプライドも高い。ただ人間みたいに同族で戦争をしないだけ理知的とも言えるな。まぁ、小競り合い程度はあるようだがな」


 最後に、人に近いモノから魔獣に近いモノまで、人間ほどの魔力しか持たないが人間とは異なるモノを総じて亜人と呼ぶ。


「数で勝る人間と、能力で勝る魔族は、どちらかを滅ぼすこともできず、ずっと膠着状態に近い戦争を続けているのだ」


 その歴史の時々に人間の王族は、稀に生まれる召還術者が、勇者と呼ばれる異世界人を喚び寄せることがある。


「たった1人で魔族軍を壊滅し得る勇者が現れるのは、レア中のレアって話よね」


 フォルテがフェルマンの説明に割り込んできた。


「英雄クラスが現れるのも稀ね。そんでもってほとんどがアンタみたいなハズレ。こっちの一般的な人間と能力に差はなく、召還のための膨大な魔力を消費しただけの正にハズレ」


「ちょっとフォルテ、言い方を考えて上げて! ダメなのが普通なんだから」


 フォローしようとするシャンテの言葉は、ただのトドメでしかなかった。


「お前みたいに城から追い出されて冒険者になるって、短絡的に考えるヤツがほとんどらしいぜ」


 勇者召還は召還師が一生で一度か、よくても二度しか使えない大勝負なのである。


「にしても魔力のカケラもないとは、とんだ大ハズレだな」


「だからオルグも、ちょっとはオブラートに包んであげないと、魔力のない人も数万人に1人はいるんだから」


 シャンテがフォローをする度に、アビスは二重の落胆に見舞われる。


 だがここでアサンチサニューム製のナイフと、スタンブリッドの小銃が手に入ったのは大きい。スタンブリッドガンはバッテリーがゼロで使えないが。


「確かに凄い切れそうなナイフだな。長さも前腕くらいあるし、ちょっとそこの魔物狩ってみてくれるか?」


 オルグが指さす方に狼型の魔物が現れた。


「因みにFクラスの冒険者が討伐必須の魔物だ。無理そうなら直ぐ助けてやるからな」


 Gクラスの冒険者から、いきなりテストされて、アビスは気が動転してしまう。


 狼はオルグの意図を汲んだかのように、アビスを襲ってくる。


「ちょ、ちょっとオルグ、あまり無茶しないで」


 魔法で援護しようとするシャンテ。


「まぁ、見てなさい」


 妹の邪魔をするフォルテ。


 アビスは見事に期待に応え、あっさり狼をしとめて見せた。


「いい度胸してるじゃあないか。これならダンジョンでも、もう少し前に出せばよかったかもな」


 余裕の勝利。のように見えたが、アビスの左手に持ったナイフが、狼の前足の鋭い爪による攻撃を受け止めたのはただの偶然。


「クローウルフの爪を簡単に折るなんて、たいしたもんだぜ」


 鋼の剣を真っ二つに折る鋭さを持つ爪にぶつかったナイフは、飛ばされることも欠けることもなく、綺麗に狼の前足を切り落とした。


 右手のナイフを狼の喉から頭に向けて貫いたのは、アビスが狙ってやったことである。


「偶然かたまたまかはともかく、度胸だけは据わっているようだな」


 アビスはこうして今回のクエストを達成し、ギルドで突然オルグが「今日からこいつは俺達の仲間だ」と、受付嬢のシエラに宣言し、彼らが滞在する宿屋に招かれて、慌ただしい一日を終えて、深い眠りにつき、詳しい話をするのは翌日の朝になってからの事になった。

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