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Act-15 『 近衛騎士 』



 厄介な事になった。


 護衛をした駅馬車に乗っていた大商人。


「これはこれは騎士様、わたくしエゼルフと申します。ルード商会の取り纏め役をしている商人です」


 ローランド国で一、二を争うルード商会。そこの元締めがエンシェントが一人の男と硬い握手を交わす。


「エゼルフ殿か、無事でなによりだ。だが今日はあなたに用があるわけではないので」


 馬車は無事にラフエンに到着。


 レッサードラゴンを討伐し、今回の依頼で大盗賊団を一掃した事。エンシェントはラフエンの町で大きな話題となっていた。


 噂を広めたのは商人のエゼルフ。彼が大言壮語を吐いてくれたお陰で、ローランド兵士団の騎士が

ギルドにやってきた。


「クレエスタ=ボルディフだ」


 ローランド国第三王女、メルラ=イシュマイール=ローランド様お付きの近衛騎士は、活躍目まぐるしい冒険者パーティーに、王都の冒険者ギルドへの再登録を促しに来たと言う。


 当然、オルグ達は首を横に振りたいのだが、相手が相手だけに無下に追い返すわけにはいかない。


「ちょっとちょっと騎士様、このモノ達は私どもの護衛です。ここで彼らに抜けられては……」


「うん? 雇い主は駅馬車のはずだろう」


 そう、エンシェントはエゼルフに雇われた訳ではない。駅馬車の御者がOKを出せば、口出しはできない立場だ。必死になるのも分かる。


 御者としてもエゼルフはお得意様なので、可能な限り彼の意見を汲みたい所だが、国から営業許可書を取り消されでもしたら、たまったもんじゃあない。


「悪いけど騎士様よ。俺達は請け負った仕事を投げ出すつもりはないぜ。冒険者ってのは信用第1だからよ」


 リーダーのオルグの決定したことだ、他のメンバーに異論はない。


「安心するが良い。冒険者ギルドにはもう話が通っている。当然馬車組み合いにもな」


「分かってないなあんた、どこが許可を出すとか関係ないさ。俺達は自分らで決めて受けた仕事は全うする。そうやって冒険者を続けてきたんだからな」


 近衛騎士クレエスタ=ボルディフの顔色が変わる。


「一介の冒険者が王族に逆らうのか?」


「王様が俺達みたいな小者の命を保障してくれるのかよ? 小市民は自分の生活は自分で守るしかないのさ」


 あくまでも強気なオルグ、ホーネストの中でアビスはドキドキしていた。


「上層部の命令に逆らって、本当に大丈夫なのか?」


『我々は軍人ではありませんよ。マスター』


「そうか。俺達は戦地で徴用される学徒とか、傭兵みたいなものなんだよな」


 クレエスタがテーブルを手の平で叩いて、いきおいよく立ち上がった。


「キサマ!」


 何があったのか? アビスが目を離している間に次の展開に。


「あ~あ、やっちゃった」


『フォルテ、いったい何が?』


 抜剣する騎士の武器を、オルグが更に速い剣捌きで弾き飛ばしたと教えてくれた。


「すまないな騎士様よ。俺はそんな行儀の良い人間じゃあないんだ。それと悪かったな。つい反射的にあんたの剣を飛ばしてしまった。けどそんな物騒な魔剣を抜いた、あんたが悪いんだぜ」


 魔剣は強力だが、魔力を込める前なら普通の剣とさほど変わらない。クレエスタが魔力を込める前に、無力化する。オルグの行動は、決して無意識に体が動いたわけではない。


「不意打ちとは卑怯な!?」


 どの口が言うのか?


 クレエスタは弾かれた剣を拾い上げ、2、3言ほど呟いたかと思うと振り返り、改めてオルグに斬り掛かった。


「な、なんだその剣は!?」


 驚愕の表情を浮かべたのは騎士様の方だ。


 詠唱を省略したので最低限だったとはいえ、魔力を注ぎ込んだクレエスタの魔剣を、オルグの剣は折れも曲がりもせず、真正面から受け止めた。


「それは剣の法具か?」


「アタリだぜ騎士様。ダンジョンで拾ったモンなんだが、俺達が手に入れた一番の掘り出しモンよ」


 ダンジョンは自然界にある魔力の源である ”マナ” と、魔物が撒き散らす “瘴気” が混じり合い、空間を歪めて誕生する。


 ダンジョンの中ではマナマテリアルが物質化し、魔屈の中に生まれる宝、それこそが法具である。


「なるほど。そいつがレッサードラゴンを倒した切り札という訳だな!」


 ようやく合点がいったと言う顔を見せる近衛騎士様。


「えっ? ああ、いやぁ~~~、まぁ、そうだな」


 マナを触媒とする法具は確かに、普通の武具よりも数倍の力を持っているが、魔力を触媒とする魔剣ほど強力ではない。


「その法具、魔石をハメて魔剣に加工してあるな。まさかそんな物が存在していたとは……」


 この騎士、目利きは効くようだ。確かにオルグの法剣は魔剣でもある。


「それでキサマ程度の魔力で、私の剣と同格の力を持っているというのだな」


 否、魔力の乏しいオルグが魔剣に魔力を込めるのは、シャンテの役だ。今は全く魔剣としては使えない。クレエスタに負けなかったのは、オルグの剣の技量が勝っていたからだ。


「そうか、ではその剣を姫様に献上するなら、此度の無礼は見逃してやろう」


「勝ってばかり言うんじゃあないよ。あたしらにはあたしらの都合があるって言ってんの」


「ちょっとフォルテ!?」


 家名を持つ貴族様嫌いの姉が騎士の胸倉を掴む。妹は抑えようと立ち上がった勢いで蹴躓いて、フォルテの背中に頭からぶつかった。


 捲き込まれたクレエスタも転倒、頭を打って失神してしまう。


 後ろに控えていた2人の近衛騎士団員が隊長の下に駆け寄り、残りの3人がエンシェントのメンバーを逮捕する。






 エンシェントは駅馬車の護衛任務を解かれた。


 いや、近衛騎士団によって王都へ護送されてしまった。


 罪状は当然、不敬罪。


 しかし押し込まれたのは牢屋でなく、最上級の客間。ただし男女同室。


「オルグ、やってくれたわね」


「トドメを刺したのはお前だろう、フォルテ」


「それを言うならシャンテでしょ」


「ちょっ!? 私は2人を止めようとしたのよ。蹴躓いたのはその……反省してるわよ」


「過ぎた事はしかたないでしょう。それよりもここに来て、もう3日だというのに、なんの動きもない事が気になりますね」


 フェルマンは頼めば出てくる紅茶を優雅に楽しんでいる。


「余裕あるじゃないかフェルマン」


「下手に慌てても、どうしようもないでしょう」


 軟禁はされているが、自由を奪われているわけではない。


 連行はされたがオルグは剣を没収されたわけでもなく、同じく法具だと誤魔化したホーネストも調べられたりしていない。


『流石は王城、ホーネストで入ってきても、床が抜けないのは助かります』


 アビスは丁寧な言葉を発してはいない。マインがボイスチェンジをすると同時に敬語に置き換えているのだ。


「お姫様が隣国の晩餐に呼ばれて、戻るのに10日くらい掛かるんだよな」


「そう言っていたわね。あの騎士様も一緒だとか」


 修練場を使わせてもらい、兵士達と鍛錬をしてきたオルグとフォルテは入浴も済ませ、夕飯はまだかと待ちわびている。


「ラフエンまで行ったってのに、まさかの逆戻り。いつになったらエドまで行けるんだよ」


 オルグはふてくされてベッドに横になる。


「我々は冒険者資格を失う訳にはいきませんからね。今は我慢ですよ」


 フェルマンはやれやれと言わんばかりに、溜め息をついてお茶をおかわりする。


「アビスは大丈夫? 外に出られないで」


『平気です。1人なら体を伸ばす事もできますから、それとシャンテ、私の事はマインと』


「ああ、ごめんなさい。うん、あなたが平気ならそれでいいの」


『ありが……』


「どうかした?」


『外が騒がしいです。なにか起きているのかもしれません』


 アビスは近衛騎士団に拘束されてから、あちらこちらに盗聴マイクを仕込んできた。必要なのは情報だと。


 移動が許された限られた数か所だけだが、10ある内の6個を設置してある。


「どうなんだ? なにか分かったか?」


『……もしかしたらここから出られるかもしれません』


 アビスはオルグの問いに答えて口を噤んだ。


「アビ……マイン、どうした?」


 突然、大きな音を立てて扉は開かれ、王都騎士団の副団長が駆け込んできた。

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