Act-12 『 転生の女神 』
「つまり元マインのプログラムを勇者に選んだものの魂がなく、その側にいた俺の魂をマインのモノと勘違いして、俺ごと呼び寄せたってわけか」
こちらに来てからマインが饒舌になったのも、女神エナからの恩恵によるものだ。とマインは分析している。
「ホーネストが再生された時にマインの人格も進化したってことか。それでなんでアーガスのエネルギーが魔力なんて事になったんだ?」
「勇者マインが望んだからじゃ。この世界でお主等の世界の燃料なぞ手に入らんからの。代わりに一切枯渇することのない、魔力を使えるようにしてやったのじゃよ」
この世界に来て、マインが避けたかったのは、動けなくなること。
女神エナは手始めに、魔力を用いて回復するスキルを与えた。これで自動メンテナンスが可能となった。
次にただのAIが人と同じように考えられるよう進化させた。再会したマインが今までと違うとアビスが感じたのはその為だ。
「マインが勇者だという証明は理解したよ」
女神の準備は整い、勇者はダンジョンに、廃棄されたハズレのアビスが召喚者の許へ。それもまた魂があるかないかが、間違いの素だったのだろうとマインは分析した。
「過ぎた事はもうよい! さて妾が勇者とした者がマスターと呼ぶ、お主がここまで来たのじゃ。ただのハズレと追い返しはせんぞ。どうじゃ、なにか望みがあるなら、一つだけ叶えてやるぞ」
自分のミスを誤魔化したいだけだろうが、これは願ってもないチャンス。
しかし今すぐに1つ、と言われても何も思い浮かばない。
だが今もそうだけど、時間は大丈夫なのか?
みんなの事も気になる。考えている時間はない。
「だったら俺に……」
おまけだと言って、女神エナはホーネストのコクピット内でだけ、アビスは魔力を外に出す事ができるようにしてくれた。
「動けるな」
『はい、問題ありません。マスター』
気が付けばホーネストの中、山の頂、二匹の竜が目の前に。
時間は1秒も経っていない。
つまりピンチの場面に戻されたわけで。
『三度、ブレスがきます。マスター』
魔力を感知したマインが警告する。シールドの再展開は間に合わない。
「アビスの動きが変わったぞ」
「本当、あんな目の前でブレスを吐かれたのに、まさか避けちゃうなんて」
地上から観戦するオルグとフォルテが、感嘆の声を上げる。
『尻尾攻撃がきます。マスター』
「体が安定するってのは、なんとも有り難い」
女神エナはどんなものでも、理解できたなら復元することが可能なのだとか。
「まさか俺の為に調整されたパイロットスーツを、そっくりそのまま用意してもらえるなんて、ちょっと出来すぎだろ」
安定した姿勢でコントロールできる機体は、無茶な急加速をかけてもパイロットへの負担をかなり軽減してくれる。
連続尻尾攻撃も華麗に回避し、アビスは子竜の時と同じように羽根を切り裂き、二匹を地面に叩き落とした。
「生身の生き物を傷付けるのは気が引けるが、これも生存競争だ」
ホーネストは急速落下と逆噴射、と同時に二匹の竜の首を切断した。
動かなくなる二匹、土煙が落ち着いたところでホーネストは子竜の許に降り立ち、フォトンソードを思いっきり振るった。
「おお、すげぇ~」
オルグ達も岩陰から出てきた。
「あっと言う間だったな。アビスがドラゴンブレスを喰らった時は、もうダメかと思ったが」
ドラゴンの鱗を剣でカンカン打ち鳴らすオルグ。
「その後からの動きが圧倒的だったわね。なんなのあの子、あんな重そうなフルアーマーで空飛んで、目にも止まらない早さでレッサーとは言え、ドラゴンを瞬殺なんて」
フォルテは鱗を剥ごうとするが、なかなか剥ぎ取れない。
「本当に、にしてもレッサードラゴンがドラゴンブレスを撃てる。という事実にも驚きました」
フェルマンは竜の頭に近づき、その鋭い牙に触れてみる。
「これ、本当にレッサーだったのかしら、どこが小さな竜なのよ」
シャンテは警戒を解かず、いつでも魔法が発動できるように、ワンドに魔力を込め続けている。
皆が親竜に気を取られている間にアビスは子竜の腹を割いて、お目当ての物を探し当てることに成功した。
「……マイン」
『イエス。マスター』
「間違いなく、これだよな」
『間違いありません。マスター』
これがハンドキャノンであるのは間違いなさそうだ。だが……。
「竜の胃液ってトンでもないな」
『そうですね。マスター』
強烈な酸によって、原形をとどめていないそれをどうしたものかと、アビスは眉間に深い皺を寄せる。
「これ、使えるのか?」
『問題ないかと思われます。ハンドキャノンを腰にマウントさせてください。マスター』
ホーネストの腰部には、ハンドキャノンを固定するフックがある。
確かにドロドロになっていても接合部はまだ元の形に近い状態だが、本当にこれを接続していいものなのだろうか?
悩むアビスだったが、サポートAIの指示に従い、フックに掛けてロックする。
『……ハンドキャノンの修復を開始します。魔力を込めてください。マスター』
女神エナがホーネストに授けた回復スキル。それを使ってハンドキャノンを修復しようと言うのだろう。
「エネルギーを注入したように、このパネルに魔力を込めればいいんだな」
コンソールの真ん中に小さなモニターがあり、それはタッチパネルになっている。
そこに女神は、アビスから魔力を受け取る機能を追加してくれた。
今のホーネストの動力部には融合炉は存在しない。そこには大きな魔力結晶が入っていて、時間を置きさえすれば、自然とエネルギーが回復するのだが、緊急時には女神から授かったアビスの魔力を活用することができる。
実のところ、転生時にアビスには人の身では、扱いきれない魔力量が備わっていた。
ローランド城の測定装置では計れなかった量の魔力は、人の身では扱いきれない。だからアビスは生身では魔法が使えない。
魔力を使うには大きな器が必要で、その為には相当の魔力結晶を使った魔道具が必須である。
『修復が完了しました。試し撃ちをなさいますか? マスター』
「そうだな。一度撃っておく方がいいよな」
戦闘時にまさかがあっては困る。
アビス達がここへ来てしまったが為に、殺めてしまった竜の亡骸を、腐肉とならないよう焼き払うことにする。
アビスはホーネストを仲間の許に移動させた。
「そうだな。俺達じゃあ鱗一枚を剥ぎ取ることもできないし、ドラゴンの肉は硬くて食べられてモンじゃないって聞くしな。いいぜ、焼いちまってくれ」
オルグでも剣にソウルを込めれば、レッサードラゴンの鱗も肉も切れなくはないが、素材採りにそんな疲れることはしたくない。
それに焼いてしまえば、鱗は残るだろうし、回収もしやすくなるだろう。全ては憶測でしかないが、焼かなければ何も採れないし、アビスが言うように腐らせるだけになってしまう。
「思い切ってやってくれ」
因みにソウルとは魔力のことである。ただし魔法や神聖術のように祈る対象はなく、人のみで行使される術の源だ、主に身体や武器を強化するために使われる。
アビスは仲間達がまた岩陰に隠れるのを確認し、空中に舞い上がった。
『焼くのであれば火魔法が良いでしょう。引き金を引く際に“ボム”と仰ってください。マスター』
「ボムって最低位の火魔法だったっけ? よく分からんが分かった」
先ずは子竜から。
『ビーム粒子拡散モードに設定します。マスター』
「なんでだ?」
ビーム粒子は収束するほど熱量が上がり、破壊力が増す。
アーガス戦で粒子を拡散させれば、そんなに狙わなくても着弾はしてくれるが、装甲を多少赤くする程度でダメージを与えることはできない。
それでも相手のセンサーを焼くくらいはできるので、頻繁に利用されるモードである。
でも今は……。
「分かった任せる。俺は火をイメージして魔力を込めればいいんだな」
『イエス。マスター』
「よし、いくぞ。……ボム!」
ハンドキャノンは問題なく使えた。
これで全て揃った。
アビスはホーネストがあれば今後、仲間の足手まといにならずに済みそうだ。




