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Act-10 『 強敵襲来 』



「まてまてまてまてまてまてぇ~!?」


「バカ!? 大きな声出すな!!」


 慌てふためくオルグとフォルテは、大声を上げながら隠れる場所を探す。


 フェルマンも混乱しているのか、身を隠すことなく祈りを捧げる始末。


 意外とシャンテは冷静で、フェルマンの鳩尾にパンチを入れて、正気に戻した神官と一緒に岩陰に移動する。


「ちょっ!? アビス、あなたもなの?」


『えっ? ああ、いやなんかでっかいトカゲが飛んでるから、つい見入ってしまったよ』


 アビスはゆっくりとホーネストを移動させ、シャンテの元にやってくる。


「呆れたわね。あれを見てそんなに惚けるなんて、自殺行為よ」


『あれ、そんなに危険な物なのか? いや、確かにゲームでも竜は強敵扱いされているけど』


 頂上付近で少し拓けた岩場、陽の光を遮る巨大な影がゆっくりと降りてくる。


「この辺りでレッサードラゴンが発見された。なんてないはずなのに」


 レッサー、つまり小型の竜が現れた。アビスは改めて感心する。


「ちょっと、頭を下げてよ。見つかっちゃうでしょ」


 シャンテも慎重に物陰から頭を出して様子を見てみる。どうやらオルグもフォルテもうまく隠れたようだ。


『あいつと戦うのか?』


「冗談じゃあないわよ。あんなのとどう戦えっていうの!? あんなの魔法士団クラスが、なんとかするしかない相手なんだから」


 エンシェントの他のメンバーは、シャンテは王宮魔法士団の、団長以上の使い手だと自慢する。将来性の話だと本人は言っているけど、現状でも凄いとアビスも感じている。


 そんな彼女が怯える相手。その種族として小さくとも、竜というのは脅威度の高い魔物なのだ。


「空を飛べないオルグやフォルテは手も足も出せないし、神聖術に直接的な攻撃術式は存在しない。ここであれに攻撃できるのは私だけだけど、私だけじゃあ一撃で倒すことはできないわ。できれば後1人、あれの気を引いてくれる人がいてくれたら……」


 最後の方はボソボソと、考え込むように俯き出すシャンテだが、今のはどうみても誰かをアテにした呟きだろう。


『つまり、君にあいつの気が、向かないようにすればいいんだな』


「でもあなたにそんな、そんな危険なことを頼むなんて!」


 ホーネストは飛び上がった。


 息を潜めて逃げ出すチャンスを窺う。それが最善と考えていた他のメンバーは、白い鎧が竜に向かっていくのを見て、みんな慌ててシャンテの元へ駆け寄った。


「いったい何を考えてるんだ!?」


「静かにしてオルグ、私は私ができる、最大の魔法を練り上げるのに集中してるの」


 ホーネストはシャンテが魔法を打つ、その時間稼ぎをしようとしている。3人は瞬時にそれを察することができたが、あまりにも無謀すぎる。


 白鎧の冒険者はフォトンソードを両手に持ち、レッサードラゴンの鼻先で一度制止し、目標を定めて更に上昇、追ってくる竜に向かい反転、勢いを付けて斬りつけた。


 並のモンスターなら、光の剣に触れた途端に蒸発してしまう物だが、竜の鱗は頑丈だ。


 それでも焼き焦がすことはできたのか? 竜の上げる咆哮が嫌がっているように聞こえる。


「マイン、最大出力でいけるか?」


『インパクトの瞬間を狙うのであれば、いくらでもいけます。マスター』


 普段のアーガス戦でもフォトンソードは、インパクトの瞬間だけ出力を高めて、エネルギーの消費を抑えている。


 最大出力はかなりの負荷が掛かるが、瞬間的な物であればダメージは最小限で済む。戦艦を狙うときの戦法を竜に使う。


「次のツメ攻撃を回避したら仕掛ける」


『了解しました。マスター』


 パイロットスーツがないので、危険度ギリギリの回避行動。


 計算はマイン任せだが、アビスにはまだ余裕がある。


 レッサードラゴンの首は自在に回り、ホーネストをしっかり捕捉してくるが、手足では届かない位置をキープしているので、警戒しないといけないのは尻尾と羽。


 竜が空中にいる間は、どうやら羽で攻撃はしてこないようだ。


 となれば気を付けるのは尻尾だけ。なら今のスピードでも十分。


「狙いは羽だ。地面に落とせばオルグ達も戦えるはず」


『ロックオンしました。マスター。届く距離になれば自動で斬りつけます』


 長い首の鋭い牙も警戒しないといけないが、ホーネストを捕捉し続けるために目線はずっとこっち。軌道が読めていればそれほど怖い物ではない。


『異常な数値を観測しました!』


 マインはアビスの操作を待たずして、回避行動に移った。


「くっ!?」


 突然の挙動に対処の遅れるアビスは、姿勢を維持することができず、シートの上で転がってしまう。


「なっ、なにがあった!?」


『高出力のエネルギー波が、敵勢個体の口内から発せられました』


 そう言えばシャンテから聞いたことがある。高位の魔物は魔法が使えると。


「長いリーチがあるのに飛び道具まで持っているのかよ!?」


『魔力反応!』


 マインは報告を自己判断で簡略化した。


 今度はアビスも瞬間的に反応することができ、衝撃波を回避とともに接近、竜の羽を斬り裂いた。


 レッサーデーモンが吠える。魔力は帯びていないが空気は振動し、警報が鳴り響く。


『センサーの一部に異常発生、再起動します。マスター』


 センサーの一部がレッドアラートを鳴らすだけで、メインモニターが消えたわけではない。


 アビスがテストパイロットではなく、戦場をよく知るベテランパイロットであるなら、変な影が視界に移ったのを、反射的に反応できたかもしれない。


 セミオート状態でマインに回避を任せていた面もあったので、落下する竜が大きく振った尻尾に襲われて、魔物と一緒に落下してしまう。


「アビス!?」


 フォルテの声に集中を途切れさせそうになるのを堪え、シャンテは特大の火魔法による攻撃をレッサードラゴンに放つ事ができた。


 最上位火魔法のボムグラントはまだ使えない。シャンテは自身で最も強力な攻撃魔法となるボムゼノスで竜を焼くと、続けてロッドに仕込んだ2等級の水魔法シャーレノンを飛ばした。


 水魔法自体は中位であったが、熱せられた体に水を被せられ、岩場をのたうち回る竜の全身の鱗にヒビが入る。


「アビスのことは私が」


 フェルマンがホーネストの落ちた辺りに走る。


 オルグとフォルテはレッサードラゴンに向かい、シャンテは再び魔力を練り直すが、アビスが心配で集中できない。


 土煙を上げたホーネストだったが、落下の寸前にマインが再起動を終え、制動を働かせてくれたお陰で、衝突前の逆噴射でダメージは軽減、アビスはまたコクピット内で転がり回ることになったが、大きな怪我をすることなく、しばらくして機体を立て直し、走り寄ってきたフェルマンに無事を告げた。


「シャンテ、安心なさい。アビスは無事です」


 無事と言っても、軽い脳しんとうを起こしていて、直ぐに戦場復帰はできそうにない。


 安全ベルトはあるが、それもパイロットスーツがあってこそ安定する物で、今の状態ではないよりはまし程度。それでもしてなければ大怪我もあり得たので、バカにはできない。


「少し休んでいてください。あなたとシャンテのお陰でレッサードラゴンは虫の息です。あとはオルグとフォルテに任せて問題ないでしょう」


 フェルマンは警戒しながら、ホーネストを庇って結界を張る。


「マイン、機体の状態は?」


『異常は感知できません。センサーも復帰しました。直ぐにでもフル稼働可能です』


 オールグリーンの状態に安心するが、パイロットの方に問題があり、この後直ぐにオルグが上げた勝ちどきを聞いて、アビスの全身から力が抜ける。


 なんにしてもこれで脅威はさった。もう探し物の邪魔ものはいない。


 フェルマンは結界を解いてオルグ達の方へ走り出し、シャンテもそちらに向かっているのが見える。


「悪い、みんなの所まで移動してくれ」


『了解しました。マスター』


 異常のない機動兵器の中のアビスがまともでなくても、誰に心配を掛けることはない。


 と思ったが勘のいい者には見抜かれてしまう。


「アビス、本当に大丈夫なの? ちょっと喋り方がおかしいけど」


『平気平気、ありがとうシャンテ。ちょっとばかし頭を打っただけだから。マインの見立てだと問題ないらしいから』


 安全になったと言ってもゆっくりはしていられない。


 アビスはマインに、ドラゴンの生命反応を確認してもらい、自分はハンドキャノンの反応をキャッチするためにセンサーを働かせる。


『魔物の生命反応を、感知できないことを報告します。マスター』


 しかしマインは別の反応をキャッチしていると、同時に報告してきた。

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