32話 創造の地平船ガリレオ
「ここが【創造の地平船ガリレオ】か……」
「ぴきゅっきゅ!」
長大な船団、それが【創造の地平船ガリレオ】だった。大小様々な船が連結して海に浮かぶ街は龍のように細長い。
遠く遠く、どこまでも続いている海に架かった大橋、島そのものが動いてると錯覚するほどの規模感だ。
ファンタジー風な木造船から、金属製の船までデザインが豊富だなあ。
「しかし船の上に大樹が生えてるなんて驚きよな」
「ぴきゅきゅー!」
僕の目の前には一際大きな船がそびえ、その頂点には黄金色に輝く大樹が威風堂々とその存在感を誇示していた。アレを見た時は、【月樹神アルテミス】が赴いたといわれてる世界樹かと思ったけど、どうやら違うらしい。
「ぴーきゅーきゅっ?」
あれは【黄金樹】といって、この大船団のエネルギー供給の柱だそうだ。
ピナがそう言っている。
「船の上……とは思えない光景よな」
緑の溢れる庭園や教会、石畳にも似た街道が続くかと思えば建物群が密集してたり、個性豊かな船ばかりだ。波が起こす心地よい揺れがなければ、ここは地上そのものだと勘違いする人もいるだろうなあ。
「きゅきゅぴっぴ!」
なぜここまで多種多様な船が揃っているのか、それは【創造の地平船ガリレオ】が作られた目的に起因しているっぽい。元々この大船団は、人類の滅びが濃厚色となった時点で、人類が積み上げてきた叡智を保存するために作られた機関だそうだ。
あらゆる種の保存と、技術の保存を目的としたノアの箱舟に近い。
その中央には永久機関【黄金樹】が成っており、【黄金樹】が生み出す電力みたいな魔力を船団に行き渡らせ、【創造の地平船ガリレオ】機構は稼働しているのだとか。
遠くから大船団の明かりを見た者は口を揃えて言う。
『地平線が輝いている』と。
「地平線に輝きを灯すは人類の叡智、とな……ピナは博識よな」
「ぴ!」
さすがは【白竜ミスライール】の子供といったところだ。
その知識量は、卵の時点で色々と受け継がれているっぽくて、ナビゲーターの役目もこなせるとは恐れ入った!
「愛い奴、愛い奴」
「ぴぃぃぃー」
太陽が沈み、空に闇が訪れたとしても、地平線には再び朝日が昇る。
『創造の道を極めれば、いずれ人類復活の兆しも訪れる』そんな信念が透けて見える都市。
だけど、そんな大船団もすでに魔物の侵食によってほとんど稼働していない箇所もあるらしい。そう、長大な船団の両端から徐々に滅び、失われ、人の領域は瓦解しつつある。
ダンジョンと化した船内や、アンデットに支配された船上の古城、かつては荘厳だった朽ち果てた船街など。
それでも日々、人類救済を導くための研究が多くなされているのが【創造の地平線ガリレオ】なんだ。技術研鑽と保管が第一、そんな風潮であるため職人転生人が集うフィールドでもある。
その知恵は両端から迫る危機に抗い、最近では少しずつではあるけど黄金領域を取り戻した船をもあるようだ。
そんな場所で僕は、他の転生人に聞き込みを開始する。
特に鍛冶技術についての記録だ。
「あぁ? 鍛冶技術だと? そんな無駄な技術磨いてどうすんの? 儲からないだろ。それよりそのペットっはどうやってテイムしたんだ?」
「うちは錬金技術を専門でやってんだ。鍛冶師なんざ知ったこっちゃないねえ。そんなことより、頭に乗ってる幼竜が気になるね。素材として採取できる部分はないのかい?」
「ガチャ武器より性能の低いもんしか作れねえ鍛冶技術なんぞ早めに辞めた方がいいぜ。さっきから気になってたけど、その竜っぽい使い魔は——」
「鍛冶? だったらキミと俺で一緒に裁縫技術を学ばないかい? もしくは僕の作る服をキミがモデルとして着用すれば、売れっ子間違いなしだよ? その竜ちゃんもセットなら話題性も抜群だね!?」
【創造の地平船ガリレオ】で聞き込みをしてわかった事は、どうやら鍛冶師というのは不遇らしい。
鍛冶師は武器ガチャより性能的に低い武器しか作れないから儲からない。だから転生人の興味も薄く、鍛冶技術を研究している者はほとんどいない、と……。
「ゴチデスやメルらが言っていた通りよな……やはり、ここでも所詮は金か……」
脳裏に元カノや未来の顔がチラついたけど、僕は被りを振って意識を切り替える。
鍛冶のヒントは必ずこの都市のどこかに転がっているはずだ。僕はまだ【創造の地平船ガリレオ】に来たばかりなのだから、そう結論を急ぐ必要はない。
もっと深く聞き込みをして見聞を広めればいいだけだ。
そんな決意を胸に大船団を見上げ、情報収集に精を出す。
次にやってきたのは酒場だ。
情報収集と言えば酒場と相場が決まっている。
「おーい、こいつらと関わらない方がいいぞー。自殺願望のある馬鹿どもだ~!」
「もうっ、アナタタチには関係ナイです! このクソ虫ドモがです!」
「ああん? こっちが親切心で言ってやってんのにその態度はなんだあ?」
「親切心? ノンノン! ただ私タチを馬鹿にシテルダケです!」
どこかで聞いたような声が酒場の一角で喚き立てている。
見ればノンちゃんを筆頭に3人の転生人と、他5人が揉めているようだ。
「そりゃーノン! 馬鹿にもするだろうが。ナリヤのPT抜けたと思ったら、無謀にも【海皇族の廃墟邸】を攻略するとか言い出したら笑いのネタにしかならん」
「しかもたった4人でとか、死ににいくようなもんだしなあ!」
「ダカラ……人数が足りないからアナタタチ、クソ虫ニモ声カケタです……」
「行くわけないだろ馬鹿が。あそこはLv16の転生人でも全滅するダンジョンだぞ」
どうやらノンさんがダンジョン攻略を誘い、断られたらしい。
行く行かないかは転生人それぞれの自由だけど、断り方が妙に刺々しい。多分、ノンさんの言い方にも問題があるんだろうなあ……。
なんて思ってると、ノンさんが僕の存在に気付く。
「アレ? ルーン?」
「ん……ノンか。息災でなによりだ」
てっきり彼女はメルやウタさんと行動を共にしていると思ったけど、背後には3人の見知らぬ転生人がいる。
「ドウシテLv8のルーンがコノ都市にイルノですか?」
「む?」
「Lv10で受ケラレル【黄金教と女神の祝福】ってクエストをクリアできナイト、五大都市ヲ行キ来デキル【転移聖堂】の使用ハデキマセン。ルーンはマダLv8です」
そんなクエストがあったのかあ……。
「……これにはふかーい事情があるのだ」
「フーン……マ、イイノです。隠シ事ナンテ誰ニデモあります。都市転移ナンテ、隠しルートがごまんとアリソウです。情報ガ仮想金貨、リアルマネーに直結スルからタダで貴重ナ情報ヲ吐かせヨウナンテ魂胆はアリマセン」
「話が早くて助かる」
「ノンノン、私も人の事言エナイお互い様です。ココデ他の転生人と探索してるってメルたちニハ秘密ですよ」
「ほう」
でもどうしてメルたちに秘密にする必要があるのかな?
僕がそんな疑問を抱いたのをノンさんは察して、親切に説明してくれる。
「コッチハ【剣闘市オールドナイン】と比ベテ基本、船上だからダンジョンのギミックが複雑ダッタリ出現する魔物が厄介です。その分、ハイリターンで……メルやウタは、闘技場デノ戦いが控えテイル今は、リスクを避けろって言います」
「なるほど……」
「デモ、アノ2人と違って、私ハ……絶対に稼がないとイケナクテ……」
物凄く重みのある言い方に、ノンさんの本気度が窺える。
俺も俺なりにお金を稼ぐ理由があるし、ノンさんが必死になるのはわかる気がする。だからといって稼ぐ理由を聞けるほど、踏み込める仲でもないってわかってるのでここは黙っておく。
「あっ、ソウダ! チョウド今からもぐるダンジョンはけっこう危険地帯って言ワレテます。ルーンも手伝ってクレルですか?」
「む? だが……余はLv8ゆえ足手まといに……」
ノンさんのレベルは14に上昇していた。
他のメンツも同じようなレベル帯だ。
「ノンノン、いないヨリいた方がマシです。囮グライには使えます!」
「ええ……」
いや、待てよ?
これはもっと強力なモンスターと出会えるチャンスなのでは?
魔王スキルを駆使して、より強いモンスターから素材を譲渡してもらったりできるかも!?
「余が参ろう。余と肩を並べられることを誉に思うがよい」
僕は即答した。
とても偉そうな発言なので穴があったら入りたい。
「プハハハッ、聞いたかよ。Lv8の転生人を掴まえてやがる!」
「ひでえ」
「しかも身分は【村人】だああ」
「さすがにザコすぎだろ」
会話に乱入してきた転生人は先程、ノンちゃんと言い合っていた人物たちだ。
ちなみに今の僕の身分は、【神々を欺く者】で人畜無害な【村人】に設定していたりする。
そんな僕に大柄の男性がねめつけてきたので、一応は挨拶をしておく。
「くるしゅうない」
「はあ? 村人ごときが俺ら【傭兵】様に話しかけるなっての」
「てか、なんで偉そうなん?」
「でもものすっごく可愛い……あれ、どこかで見た気もする……?」
「頭の上に乗ってる竜っぽいやつがすごく気になるんだけど」
僕が彼を注視すると【イキリトLv14/傭兵】と頭上に表示される。
ふむふむ、名前は覚えた。
「こんなクソ虫は相手にシナクテいいですカラ、ホラ行クです」
こうして僕はノンさんに手を引っ張られ、酒場を後にした。
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