19話 白竜の眷属
「今夜もいい月夜であるな……」
ゲーム内の時間が夜になれば、それは僕にとって魔王としての活動時間にシフトする。つまり、『白き千剣の大葬原』にひそむ仲間たちに呼びかけ、大切なお金稼ぎを始める。
「さあみなのもの、集まるがよい」
草々の影に隠れながら【亡者】たちと『会話』を始める。
「貴様らはなぜこの地に縛られているのだ?」
「月樹神、言った」
「我ら神族の巨体、ティターン地に倒れ、死に伏した時」
「右目は太陽を、左目は月に、呼吸は風雲、声は雷に、毛髪は草木に、血液は海となった」
「欲深き人間、黄金女神に、たぶらかされた人間」
「今こそ、人間も等しく、世界への献上を命ずる」
「月樹神、人間の死体から、植物生みだす」
なるほど……。
【月樹神アルテミス】とやらが元々この地の農民に信仰されていて、多産をもたらす地母神だったらしい。子供の守り神ですらあったと。
それが金と欲望にまみれ、争うようになった人間に嫌気がさして【亡者】にしてしまったと……そして亡者はこの白い大葬原の養分になり続けているわけだ。
「【月樹神アルテミス】なる者は、今どこにいるのだ?」
「知らない」
「白竜の眷属、何か知ってる」
白竜の眷属……【剣闘市オールドナイン】をぐるりと囲む湖にたゆたう巨大な白蛇か。白竜ミスライールとやらの眷属だったっけ。
ふむふむ、面白い。
「【月樹神アルテミス】に【白竜ミスライール】か」
この地にかつて何が起きたのか、その辺をより深く知っていけば色々な魔物と連携して転生人を効率よく狩れるはず。
そんな風に【亡者】たちから『会話』で情報収集をしていれば、『採集』を頼んでおいたグループが戻ってくる。
「さて、今回の『採集』結果は……」
:【亡者】から【月光呪の白石】×12、【血錆びた戦士の魂】×2、【白紙の狂典】×1を譲渡されました:
「みな大儀であった。ふむふむ……前回とは採れた物が異なっているか」
これは頼んだ魔物によって取って来る素材が違うのかもしれない? 同じエリアに生息する魔物でも、その種族が違えば採取できる範囲も変わるし、着眼点も異なるはずだ。
僕は叫び声が響く闇夜の中、もっともっと他の魔物と出会いたいと思った。
「ぎゃあああ!? また【亡者】が地中から!?」
「こいつら! 次々と出てきやがる!」
「冠位種の噂は本当だった!?」
あらら。
近くの転生人たちは、僕とは正反対で『二度と魔物と会いたくない』と思っているのかもしれない。
「よし……この辺りはもう十分よな。あんまり派手にやりすぎると、いつかのように尻尾を掴まれそうなのである」
何より【亡者】第三小隊と第八小隊が帰還していない。
もしかしたら手ごわい転生人が出張ってきてるのかもしれない。
だから僕は金貨700枚弱を稼ぎ終わったところで、【白竜ミスライール】の眷属とやらに会いにいくことにした。
◇
【白竜ミスライール】の眷属、【白波の監視蛇】はLv47だ。
つまり【剣闘市オールドナイン】周辺のモンスターの中では、圧倒的にバランスブレイカーだと思う。
キラさんとの逃走劇の際はお世話になったというのもあり、すっかり危機感は薄れていたけど、餌食になる転生人は稀にいるらしい。
湖を泳ぐ【白波の監視蛇】が目に入る。星明かりが湖面に映り、まるで地上に星空が咲いてるかのような光景はいつみても綺麗だなって思う。
けれど今回は、感嘆の吐息を漏らすだけでは終わらなかった。
僕は辺りをチラチラと見回し、転生人の姿が見当たらないのを確認する。それから念のために【神々を欺く者】で存在感を薄めて、キャラ名も非表示にする。
あとは【魔を統べる者】で【白波の監視蛇】に『呼ぶ』を発動した。
「集え——」
巨大な水蛇は音もなく橋の真下まで近づき、その太い鎌首をもちあげる。
「綺麗な鱗であるな……」
間近で見ると【白波の監視蛇】の鱗は銀色に艶めき、そっと触ってみるとツルリとしていた。
「白竜の眷属らよ、我が声に応じよ」
毎度毎度ほんとに偉そうな発言になってしまうので、羞恥心にフタをするのに必死だ。可愛いは我慢の連続だ。
「御意に魔の王よ」
「【月樹神アルテミス】について、何か知っているか?」
「我らの神、白竜ミスライールの友」
「では【白竜ミスライール】はどこにいるのだ?」
「ついてくる?」
わあ、なんだか乗れそうなので【魔を統べる者】で『乗る』を選択したら、首に乗せてもらえた。正確にはしがみつくような形になる。
湖の中に入る瞬間、【白波の監視蛇】がシュ~っと呟くと僕の体がぼんやりと青白く光った。
:【白蛇の加護】を得ました:
:20分間、水中にいても命値の減少が無効化されます:
ふむふむ、普通は水中だと息が吸えなくなって命値が減少してゆくと。
これはかなり強い転生人でも、水中にさえ引きずりこめば楽勝なんじゃないかな?
それにしても白蛇は可愛いなあ。
目が宝石みたいにクリックリしてて綺麗だった。
「ありがどどどう!?」
「どういたしまして」
こうして僕の隠された水底都市の探索が始まった。
うん、ワクワクが止まらない。
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