17話 忍び寄る奇跡
俺の名前は弓塚弓弦。
高校一年だ。
好きなものは女の子とゲーム。
そんな俺は今、絶賛好きなことを遊んでいる。
そう、【転生オンライン:パンドラ】はめちゃめちゃ楽しい。
普通の冒険ならLvを上げて、強さを増して、やれる事が増えて、その充足感だけで終わりだった。
だけどこの冒険にはその先がある。
金だ。
モンスターからドロップする仮想金貨から始まり、魔物の素材、アイテム、武器などなど。全ては仮想金貨で取引きされ、全てがリアルマネーに変換できる。
やればやるだけ、小遣いを稼げるシステムってのが熱い。
そのくせ難易度がバカ高いから緊張感の連続で、アドレナリンもドバドバ出る。本気で攻略法を編み出すために思考錯誤を重ねるのも癖になる。
完全に熱狂しちまってる。
「金貨のドロップがしぶすッス……」
「なにかの奇跡が起きて、パパーッとレベルを上げられたら嬉しいのにね」
中学からの友達である三郎と力也はそうぼやくが、俺はそうは思わない。
「奇跡に左右されるより、努力や工夫がものを言う方が楽しいだろー?」
「へーへー。身分に恵まれたユミヅカはいいっすねー」
「不公平だよ」
たしかに、俺は幸運にもステータス身分【狩人】に目覚め、最初から【鷹の目】という技術がある。
望遠鏡を覗き込んだみたいに遠距離を見れたり、遠くからでも弓を命中させるのに便利な技術だ。
さらにはこの目で捉えた者の詳細を簡易的に見れることだってある。
とにかく弓スキルを強化している俺からすればバッチリの相性だ。
そして俺はそれを十全に使いこなすための努力を惜しまない。
毎日毎日、ゲーム内で弓の鍛錬を欠かさずにしている。
現状に不平不満をこぼし、不確かな奇跡とやらに頼るなんてもったいない。
これは持論だが、積み重ねってのはナンパの成功や人間関係を構築する上でも欠かせないと思っている。
「羨ましいっす【狩人】! 俺なんて身分【村人】っすよ? 【狩人】の身分って、今のところどこに行ってもなれそうにないし」
「狩猟を生業にしてる村落でも発見して、そこの神の封印を解ければ【狩人】になれそう」
三郎の不満に、力也が冷静な分析を述べる。
確かに人類が活動できる【黄金領域】を増やしていけば、【狩人】の身分をもらえる街や村はあるだろう。初期の五大黄金領域ですら、特定のクエストや諸々の条件をクリアすれば様々な身分に変更できるわけだし。
とはいえ【狩人】のように、優秀な技能を習得できる身分は極僅かだ。
だからこそ運や奇跡なんかに頼らず、実直にコツコツ積み上げた方が建設的だと思う。
「封印された神々を復活させれば、【黄金領域】が解放されるっていうっすけど。実際に解かれた街って、まだ3つだけっすよね?」
「難易度が高いっ!」
「だけど復活させた神によって、特定の身分に恩恵があるってシステムはワクワクするっすね」
「一昨日解放された【金歌めぐる花街】の神は、【詩人の神リュート】だよね。【身分:吟遊詩人】の転生人に祝福とかいいなー」
「あ、それは俺も聞いたっす。たしか『ステータス:信仰+2』っすね」
「Lv二つ分のステータス強化は強すぎる! 羨ましい!」
「そのうち祝福の内容が、限定スキルや技術の付与とか出たら熱すぎるっすねー」
「でかいな……パンドラはさ」
「まさに、この広大な世界は攻略のし甲斐があるよなあ」
遠くを見渡せるこの目でどこまでも見てみたい。
そんな思いが胸中に広がる。
「ったく、ユミヅカばっかりLvが上がるっすね」
「サブロウも俺みたいに身分【剣闘士】になるのはどう? 闘技場で3勝すればなれるし、技能もなかなかいい感じだよ。当分は【剣闘士】のままLvを上げて、今よりもっと強力な魔物を倒して金貨を稼ぐ!」
「闘技場で稼がんのかい」
「いや、あそこは負けた時のことを考えるとリスキーすぎるので」
「そんなところを俺に勧めめんなっす」
言い合う2人を眺めれば、彼らの頭上にはLvが表示される。
:サブロウ Lv1:
:リキシ Lv3:
三郎は昨夜までLv5の身分【戦士】だった。
しかし【強欲の人食い箱】というトラップ系のモンスターと遭遇して、レベルドレインと身分の劣化という永続デバフを受けてしまったのだ。
そして力也は【村人】Lv5だったが、【剣闘士】になると習得できる技術『対人戦』を手に入れるために闘技場に挑戦し、結果は3勝2敗でLvが2つもダウンしてしまった。
勝利で稼いだ大量の金貨は技術に注ぎ込んだらしく、Lvは二の次にしたらしい。
そして俺はLv6の【狩人】だ。
三郎の『自分だけ置いてけぼり感』で焦ってしまう気持ちはわかる。
だからこそ、俺たちは今ここにいる。
「まあまあ、【白き千剣の大葬原】でLv上げをこうして手伝うんだし、そんな文句言うなよ。ほら、コツコツ努力。奇跡なんざ願ってもそうそう来るもんじゃないぜ」
「ユミヅカの言う通り。ここは私が習得した技術【対人戦】の恩恵にあやかっておこうよ?」
「わるいっすね……2人ともありがとうっす!」
この地に出現する【亡者】は、Lv5以上、記憶5以上の冒険者には金貨を落とさなくなる。だから三郎は俺が完全にお手伝いになると理解しているから、素直にお礼を言ってくれた。
ちなみに力也が新たに習得した技術は、人型の魔物に与えるダメージ量が増えるというもの。また、闘技場などで戦う人間に与えるダメージも増加するっぽいな。
「【亡者】は人型の魔物だよ! 今夜は狩り尽くす!」
「わかってると思うけど、腰より高い草が生える場所は近づくなよ」
「わかってるっす」
こうして月夜が降り注ぐ白い草原で、俺たちの【亡者】狩りは始まった。
この時の俺たちはまだ、まさか狩られる側になるとは夢にも思っていなかった。
そしてあんな奇跡を目の当たりにするなんて————




