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14話 反抗期


石壁の巨人(ウォールゴーレム)】から逃げる演出を作った(・・・・・・)僕は、なぜか美少女3人に囲まれながら夜の街並みを見下ろしていた。


【剣闘市オールドナイン】の各所に突き立つ剣塔の一つに登り、美少女たちが(つば)の端で腰を下ろしているのは、非常に絵になる。

 そのまま水路に釣り糸を垂らして、夜釣りとシャレこむのもいいかもしれない。

 淡い月明かりが降り注ぎ、ファンタジーな街を照らすシチュエーションはすごく良い。


 良いのだけれども。


「キラリンどこー!?」

「めるめるはいたか!?」

「妹ちゃんの姿もいないぞ!?」


 眼下で僕たちを必死に探す転生人(プレイヤー)がいなければ、もっと落ち着いていられたと思う。

 なぜ僕たちがこんな状況に陥ったかと言えば、それは隣で困ったような表情を浮かべ続けるウタさんにあった。


 というかこの人、やっぱりどこかで見たことある?

 なんとなくだけど僕が最近推している【うたたねキラリ】に、声もキャラデザも似ているような……?


「配信は切りましたのに……まさかモンスターからではなく、リスナーさんからの逃走劇になるなんて、申し訳ありません」


「配信者、たいへん、別にいい」


 そんなウタさんに理解を示すのは芽瑠(める)だ。

 やはり芽瑠も不特定多数の読者やファンに見られる職業柄、その気苦労を理解しているのだろう。

 そして僕たちがこんな目立つ場所にいても見つからないのは、芽瑠が施してくれた絵描き魔法【夜空に眠る】のおかげだ。

 一定距離まで近づかれなければ、夜空と同化して視認されにくくなるようだ。

 

 うーん……転生人(プレイヤー)にこんな魔法を扱える者もいるとなると、いよいよ狩りは慎重にしないといけないな。


「ソレデ、アナタたちハ背信者(はいしんしゃ)なノです? それトモ誘拐犯? オ尋ネ者? 人サライとかですカ?」


 そしてちょっと勘違いしてまったのがノンさんだ。

 やはり外国出身のようで、少しだけ日本語への理解力が拙い。

 それに少女の顔立ちは非常に綺麗で、外国の血が入ったキャラデザはこのゲームにしては珍しい。というか僕と芽瑠(める)以外、お目にかかったことがない。


「私達、人(さら)い違う。迷惑行為、受けてた、見てられない……」


 芽瑠がノンさんの言葉を否定すると、ノンさんはさらに否定してきた。


「ノンノン、私ハあのPTガ良カッタシ、引キ離サレタクナカッタです。アナタたちハ事情モ知らないロクデナシ、早トチリ、残念ナ偽善者ドモです」


 うわー……。

 確かにそうかもしれないけど、なんというかこの娘はすごかった。


「ノンちゃんさんは、どうしてあのPTに固執するのでしょうか?」

「強クナルノニ効率がイイです。オ金をタクサン稼ギタイカラです」

「そうでしたか。ノンちゃんさんは強い敵と戦えて、それをガンガン倒して金貨を稼げる仲間がほしいのですね?」

「イエス」


 だからといって八百長試合をさせられて、挙句かつあげするような奴らと一緒にいるのはどうかと思う。


「マウント厨のナリヤ、セクハラ厨のパンツマン、出会い厨のウタイテ。ミンナ強かっタです。ダカラ私ハ我慢して、モットモットお金を稼ギタイです」


 ろくでもない人ばかりだったけど、ノンちゃんにとってはそこそこ強かったと。

 

「わかった。事情も聞かずにつれて来ちゃったお詫び。私とPTを組む」

「ユーとですか?」


「うん。わたしはメル、Lv13。ナリヤより強い」

「え、えーっと……じゃあ私も一緒に遊びます! ウタです! Lvは18ですよー」


 なぜかウタさんは、そわそわしながら僕に期待するような眼差しを向けてくる。

 この流れからすると僕もパーティーに入るべきなのだろうけど、僕は『転生オンライン:パンドラ』で誰かと仲良くするつもりはなかった。


「おに……ルーンちゃん、来る?」


 メルの問いに正直に答えるとしたら、僕も参加はしたい。

 なぜならメルたちについていけば新しい魔物に出会えるだろうし、高レベル転生人(プレイヤー)の戦術だって学べる。


 転生人(プレイヤー)の動きを把握できれば、今後の狩りにも活かせるはずだ。

 しかしノンさんがとてつもない圧で『お前は来るなよ? Lv7ごときがわかってんだろ?』って勢いで睨んでくる。

 もう彼女の背景からゴゴゴゴゴォ……と擬音が鳴ってきそうなほどの眼光だ。


「ノンノン……ザコハ来ナイ方がイイです」


 多分だけどレベルの低い転生人(プレイヤー)がPTに入ってしまうと、それだけ安全マージンを取った場所での狩りとなる。そうなると金貨を稼ぐ旨味も減るだろうから、僕のPT参加を拒否しているのかもしれない。


 それでいながら、ノンさんはなぜか僕の頭をなでている。

 もう行動がチグハグで理解不能だ。


 僕は数秒間悩んだ末に、とりあえず距離を置くことにした。



()は去るとするか。みな、達者でな」


 僕が偉そうに言うと、メルは満足げに、ウタさんは残念そうになる。

 そしてノンさんは軽く肩をすくめた。


「……OK、改メテ自己紹介すルです。私はノン、Lv11です。メインスキルは片手剣ト小盾です」

「近接戦闘もできる、仲間もカバーできる、いい戦闘スタイル」

「メルさんが中近距離で、私が遠距離を得意とするので相性は良さそうですね」


 なんだか女子3人で、わいわいと戦闘について語る様子は微笑ましかった。

 芽瑠に友達っぽいそれができて僕も嬉しい。

 だからなのか、僕はついついこんな提案をしてしまった。


「ノンには我から武器を授けよう。ナリヤたちとの絆を割いてしまったお詫びよな」

「ホントニですカ!?」


 そんなわけで先ほど、ナリヤさんたちをキルした際にドロップした片手剣をノンさんに譲渡する。


「コレ、【鋼鉄の剣★★☆】! ナリヤが武器ガチャで引キ当テテ自慢シテタヤツです!」


 ノンさんが喜ぶ隣で、芽瑠(める)が無表情のままずいっと近づいてくる。


「私には、何もくれない?」

「えっ……うーん、でもメルに役立ちそうな武器は持ってないからな。それにアレは——」


 言いかけてやめる。

 言えばシスコンっぽい気がしたからだ。


「なに?」

「いや、何でもない」


 妹にキルされてほしくない。だから芽瑠と行動を共にするノンさんの戦力を底上げしておけば、芽瑠の危険も減るだろうと思ったのだ。


「ふーん? 他の女の子、喜ばす。ノンと仲良くなりたい?」


 こっそりと僕に耳打つ芽瑠に、そんなんじゃないと顔を振る。

 だけど僕たちの会話が耳に入っていたのか、ノンさんはスタスタとこちらに歩み寄ってきた。


「ノンノン! 私ガ喜ブワケナイです! アナタ、偽善者です。コンナノで私ヲ懐柔デキルト思っテルなら反吐ガ出ルです!」


 彼女の言葉は(・・・)ものすごく毒舌だった。

 だけど口元はものすごく緩みそうで、引き結ばれても再度もにょもにょと動いている。僕を見る眼もキリっと睨もうとするけど、ふんわりとろけて目尻が下がりそうになったりならなかったり。


 必死に嬉しさを押し殺しているのがまるわかりだった。



:ノンLv11から戦友(フレンド)申請が届いています:

:受理しますか?:


 あれか、中学生特有の反抗期みたいなやつか。




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