シーン4:裏腹と真実
一番に声を掛けてきたのはやはり楓。
「麻人君・・・大丈夫?」
正直、この言葉は嬉しかった。
僕は本当に心身ともに参っていたからだ。
普通ならば一応容疑者として連行された僕に『どんなこと聞かれた?』とか『被害者と何か関係あるの?』とか聞きたくなるだろう。
だが彼女は違う、まず僕を心配する声を掛けてくれたのだ。
こんな時、幼馴染とはありがたい。
ちょっとした顔色の違いや元気の無さから、心情をすぐに察してくれる。
いつもは僕に暴力を振るってばかりの楓も、気遣ってくれていた。
たったそれだけなんだけど、何故か僕はとても心が落ち着くのを感じ取っていたがーーー
「うん・・・ありがとう、楓」
―――しかし、それはほんのひと時だった。
朝のホームルームの終わる時、僕は担任の高坂 昭典先生に職員室に来るように言われた。
「・・・じゃあ、君はあくまで事情聴取だけだったんだね?」
「はい、そうです」
本当はもっと色々あったんだけど、島崎警部との約束で言えない。
お洒落なメガネ(しかも高そう)をしていて、落ち着いた感じのある高坂先生は、とても生徒思いの先生だ。
最近では生徒に無関心な、職務をこなすだけの先生が増えている。
しかし高坂先生は、大人から見たら馬鹿馬鹿しいような僕たち生徒の些細な悩みにも正面から向き合い真剣に答えてくれるし、一緒に笑って一緒に喜んで、そして一緒に泣いてくれる。
今回の一件でも、楓に負けないくらい僕のことを心配してくれ、先ほどの僕の答えに、心底ほっとした様子だった。
僕は恵まれているのかもしれない。味方が、たくさんいる。
無条件で僕を信頼してくれる人が、家族を始め、楓に高坂先生、そしてクラスメイトたちもそうと言える(何を聞かれたか興味はあるみたいだが)。
皆、僕が犯人ではないと思っている。そのなんと嬉しいことか。
そして、僕は高坂先生にいくつか聞いてみたいことがあったんだ。
「先生、相川巴さんについて、何か知りませんか?」
こう見えて僕は結構負けず嫌いだ、容疑者にされたままで大人しく黙ってなどいられない。
だから、少しでも情報が欲しい。
推理小説の主人公みたいに犯人を暴こうと思っているわけじゃない。
ただ、何かこのままで終わりにするのが我慢できないだけだ。
何より・・・親友の無念を少しでも晴らしたかったから。
相川さんも生徒なんだから、その情報が欲しければ先生に聞くのが一番だろう。
「相川か?もちろん知っているさ。彼女は生徒会の書記だからな」
ちなみに、高坂先生は生徒会の顧問。
しっかり生徒の面倒を見つつ、規則に縛ったりしないところが任命された理由だろう。
「正義感が強く、そしていい子だったな・・・人が嫌がるような仕事を率先してやったり、誰にも誉められることの無いような地味な仕事を一生懸命やっていたりしたよ」
遠くを見るようにしみじみと語る高坂先生。
その瞳には少し涙が滲んでいたのだろうか、微かに光ったように見えた。
「じゃあ、朝倉早紀さんについてはどうですか?」
「・・・・・・朝倉か。彼女は、大人しくて真面目な子だったな」
少しだけ息をついてから、やはりしみじみと、そして丁寧に語る高坂先生。
「しかし、やはりいい子だったよ。よく生徒会室にも来ていたな。相川の付き添い・・・というか、手伝いだな」
「手伝い?」
「ああ。初めは書記になったばかりの相川が仕事に慣れるまでのつもりだったみたいだが・・・いつしか、彼女も役員の一人といっても過言ではないほど仕事をしていたな。細かいことによく気がつく子だったし、いつしか肩書きは無いけれども生徒会にとって欠くことの出来ない存在になっていたよ」
「そうなんですか・・・じゃあ、その二人と雄一・・・・・・山下との関係とかは分かりますか?」
そう、それなんだ。
連続殺人なんていうものは被害者たちに関連性、もしくは共通点があることが多い。
しかし、先の二人と雄一の関係は全く分からない。
「・・・すまんな、さすがに分からない」
それはそうだ。
いくらなんでも、あいつと親友である僕が知らないんだ、先生にだってそこまで分かるはずが無い。
僕の質問も、やはりそこで行き詰ってしまう。
警察もこの関連性について悩んでいるそうだ。
だけど、これだけは言えるー――犯人は三人の行動をよく分かっている、と。
何故なら、相川さんは正義感の強さから、まず犯人に対して自首するように説得しようとするだろう。しかし、それは犯人からしたら犯行をしやすいわけで。
雄一は、その普段の性格からは信じられないほどに演劇に情熱を燃やしていた。
だから、いつもほかの部員の誰よりも早く舞台のセッティングを開始して練習を始めている。
それが有名になっているくらいだから、そのことを利用して彼の命を奪うことは容易い。
そして朝倉さんは、と言うと―――そうだ、彼女は第一の被害者じゃないか。
それはつまり、彼女が何故殺されたかを考えれば、一連の事件の犯人が分かるのじゃないだろうか?
「先生、朝倉さんが何故殺されたと思います?」
噂話とは怖いものだ。
おそらく、もう学校中に彼女が自殺などではなく他殺だということは広まっているだろう。
僕の質問に、少し遠くを見つめる高坂先生。
しかし、それがすぐに分かるのならばとっくに犯人は捕まっている。
「・・・それは、私でも分からないよ。だが、学校生活におけることではない・・・だろう。プライベートか、それとも・・・・・・」
高坂先生も、さすがにそこまでは分からない。それは仕方が無いだろう。
―――でも、何か言葉を濁したような感覚があった。まるで雄一が言った時のように。
とはいえ、僕から先生に尋ねることはこれ以上は無い。
一時間目の始まりを告げるチャイムに慌てながら、僕は自分の教室に戻るのだった。
犯人の姿が浮かばないーーーという、もやもやしたものを抱えながら。
「朝倉先輩?」
昼休み。
僕は一年からそして今もクラスメイトであり、生徒会にも所属している篠塚 雫さんに朝倉さんのことを尋ねた。
「本当に、素敵な先輩だったわ・・・どうしてあんな良い人が殺されなければいけないのかしら・・・?」
少し目に涙を浮かべた篠塚さん。
その涙を拭った手で、癖である髪を掻き揚げる仕草をする・・・しかしどうしてか急にその長い髪をばっさり切ってしまった彼女の手は、空を切った。
そして、ふと何かに気付いたように僕に耳を貸せと言う。
「あのね・・・そう言えば先輩、指輪をしていたのよ」
「・・・指輪?」
「そう。しかも、左手の薬指!」
「そ、それって・・・!」
左手の薬指に指輪、それが意味するものはいくらなんでも知っている。
高坂先生の話では、朝倉先輩は大人しくて真面目な性格だと・・・それならば学校にファッションで指輪を、それもよりによって左手の薬指にしないだろう。
つまり、だ。
「うん。相手は分からないけど・・・それを着けるようになった頃から先輩は前よりも明るくなって・・・きっと卒業したらすぐに結婚するんだろうな、って皆思っていたのよ」
「でも、それってちょっとおかしくない?」
「わっ、楓!?」
いつの間にか楓がすぐ横に来ていて、話を盗み聞きしていたようだった。
さすがと言うか何と言うか・・・抜け目が無い。
その辺りは楓も普通の女の子、人の色恋沙汰には首を突っ込みたくなるのは彼女も多聞に漏れないようで。
「麻人君、また何か失礼なことを考えてるでしょ?」
「ぎく」
「ま、まあまあ鈴鳴さん。それより、おかしいってどういうこと?」
そう、楓は確かにそう言った。
何がおかしいと言うのだろう?
「だって・・・婚約者、少なくとも愛し合って将来を誓い合っていた相手がいるはずでしょ?なのに、先輩が亡くなってからそれらしい人を見かけた?」
「あっ・・・」
僕と篠塚さんは同時に気付く。
「ね?普通、恋人が殺されたなんて知ったら、半狂乱になるなり、犯人を見つけ出そうと躍起になったりするわよ・・・でも、そんな噂は露ほどにも聞かない。おかしいでしょ?」
「確かに・・・」
そう言われてみれば、そうだ。
僕が親友の雄一を殺されてこうして必死になっているのと同様に、恋人が殺されたのならやはりその怒りようは尋常ではないはずだ。
だが島崎警部も、そんな人物がいたなんて話は一切していない。
そこから導かれるものは一つーーー
「じゃあ、その人が犯人・・・?」
僕は慌てて島崎警部に連絡を取った。
島崎警部の話だと、朝倉さんはその大人しい性格上交友関係は狭く、相川さん以外のクラスメイトとはあまり話をすることが無かったという。
ただ、生徒会の手伝いをするようになってからは、まるで自分の居場所を見つけたかのように生き生きしていたらしい。
だから、恋人が出来たのは生徒会で・・・と島崎警部は考えたのだろう。生徒会室を貸し切り、役員を呼び出して事情聴取を始めた。
さすがに僕と楓は追い出されてしまったのだが、高校という所を舐めてはいけない。
しかも僕らの通うこの千代田西高校は、古くからある公立校なのだ。ボロさなら、他のどこの高校にも負けない。
幸い、廊下に他の刑事が見張っていることは無かった。(いいのかそれで)
僕と楓は、にやりと笑って扉に耳を当てる。すると案の定、取り調べの声は筒抜けだった。
「じゃあまず・・・君からだ。名前は?」
「和屋 一樹。生徒会長です」
和屋先輩は、まさに生徒会長という言葉から連想される姿そのものだ。
爽やかで真面目、成績優秀で性格も良く誰からも好かれるタイプ。
「ふむ・・・じゃあ和屋君、君は朝倉さんとはどういう関係だった?」
「どういう関係って・・・別に何もありませんよ。そりゃ、彼女が仕事を手伝ってくれるのはとてもありがたかったですけども」
島崎警部はうんうんと頷いている。
あれ、調書は取らないのかな・・・そういえば僕の時も何かを書いたりはしていなかった。
その時は部下の人も何か書いている節は無かったし、今は事情聴取を一人で行ってさえもいる。
まさか、聞いたことを一言一句残らず全部覚えているとか・・・は無いよね、さすがに。
「では、相川さんについては?」
「彼女は、僕が二年の時のクラスメイトですから、その性格と能力は把握していました。ですから、生徒会をうまく機能させるには彼女のような人物が必要だと思い、指名したんです。そして僕の思った以上に彼女は見事に勤めを果たしていました。そのことで尊敬こそすれ、恋愛感情を抱いてなどいませんよ」
「そ、そうか・・・」
あまりに見事に言い切った和屋さんの言葉に、島崎警部は面を喰らったようだった。
ちなみに、僕らの高校では書記は会長が当選した時に指名する仕組みになっている。指名された方はもちろん拒否権を持っているけど、相川さんはそれを行使しなかったみたいだ。
「じゃ、じゃあ次は・・・」
ああいう人は苦手みたいで、島崎警部は逃げるように次の人に質問した・・・って、いいのかそれで。警部って立場でしょうに。
「はい。私は島崎 蓮理ですわ」
うわ、きつそうな声の人・・・
「お、おまえはいい・・・・・・」
「どうしてお兄様?私だって生徒会の一員です、話を聞くのは当然ではありませんか?」
お兄様・・・ひょっとして、島崎警部の妹か!?
当の島崎警部は逃げ腰が想像出来てしまうような声になっていた。
「わ、分かったからそう睨むな・・・で、二人との関係は?」
「なにか投げやりな言い方ですわね?」
「・・・いいから、話を進めてくれ」
島崎警部、妹さんが苦手なのかな・・・どこかやりにくそうだ。
そういえば島崎先輩は副会長で、ふわふわした長い髪がとても綺麗なすごい美人だったような・・・警部とは少しも似てない、ね。
それにしても、どうして漫画とかに出てくるようなお嬢様口調なんだろう?
こんな話し方をする人が本当にいた事にびっくりだ。
「・・・・・・なんでしょう?今、失礼な事を言われたような・・・まあそれはいいです。そうですわね、朝倉さんはとても人に恨みを買うような方ではありませんでしたわ。大人しいけれども、優しくて、それでいて芯のしっかりなさっている方でした」
「ふむ」
先ほどまでとは打って変わって真剣に話を聞いている声になった島崎警部。
やはり若くして警部になったのは伊達ではないのだろう。
「ですが、やはり篠塚さんが仰られた通り、ある頃から急に明るくなりましたわね・・・おそらく、その頃からお付き合いを始められたのでしょう」
「・・・相手は分かるか?」
「そこまで私も野暮ではないですわ」
そこで少し溜め息をついた島崎警部。
結構期待していたのだろうか。
「そうか・・・じゃあ、相川さんについては?」
「彼女は真っ直ぐな人でしたわね。しかし、そのせいで少なからず恨みを買っているようでもありましたわ」
「なんだと!?」
それは意外な証言だった。
恨みを買っているとは警察の調べた情報にも無かったのだろう、島崎警部の声は心底驚いているようだった。
「ええ。たとえば、いつだったか・・・野球部の方がタバコを吸っているのを発見なさったらしくて。真っ向から注意した挙句、先生方にも停学を進言なされたのです。結局、野球部は一週間の活動停止処分になったのですわ」
「そんなことがあったのか・・・」
「もちろん、こんな些細なことで殺人まで発展するとは思えませんが、あくまで一例です。私たちの知らない所で、もっと多くの方と対立関係にあったとしても、なんら不思議はありませんわ」
・・・これで、相川さんが朝倉さんとは関係のない理由で殺された可能性も出てしまったということになる。警察の捜査方法も大きく変わるだろう。
そして警部は半ば呆れたように言った。
「おまえな・・・どうしてそんな大事なことを今まで言わなかった?」
「あら、だって尋ねられませんでしたもの」
にやりと笑みを浮かべた島崎先輩。すごい、警部を完全に手玉に取ってる。
「まあ、おまえはもういい。次」
そう警部が言うと、島崎先輩は少し不満が残るようだったが一応は兄をたてるつもりのようで、異義は特に言わなかった。
「・・・徳永 充。副会長」
無愛想に聞こえるこの人は、もう一人の副会長(副会長は二人)。
本当はいい人らしいのだが、あまりに口数が少なく、角刈りでいつもぶすっとしているため勘違いされやすいとか。
「徳永君、君と朝倉さんとは?」
「・・・別、に」
あれ、なんか声のトーンが変だぞ?
警部もそれに気付いたのか、即座に追求する。
「何を隠している?」
「・・・別に」
「まさか、君が彼女の恋人だったのか?」
うわ、いきなりそこを尋ねる?
「違う」
「本当に?」
「自分はまだ誕生日が来ていない。だから、結婚は出来ない。自分が結婚を申し込むならば、誕生日まで待てなどとは言わない。18歳になってから申し込むまで」
なんかこの人が言うと妙に説得力があるように感じるのは気のせいだろうか。
そしてそれはどうやら警部も感じ取ったようだ、それ以上の追求はしない。
「では、相川さんとは?」
「大変感謝している。生徒会の面々は皆優秀なのだが、島崎さんを除いてほとんど全員がどうしてか筆不精で、相川さんがいなかったら生徒会は機能していなかっただろう」
こうやって見事に言い切るところは和屋先輩と似ている、やっぱり生徒会というものはこういった人が役員になるのだろうか。
しかし生徒会役員がほとんど筆不精って・・・大丈夫か、この高校。
「次は私ですね。篠塚雫です」
彼女は肩書きこそ無いが、生徒会役員として堅実な仕事ぶりは僕も良く知っている。
もともとは腰まで届きそうな長く綺麗な髪が印象的な子だったのだけど、今は短いのは少し前にお話した通り。
あまりに劇的に切ったものだから、中には失恋でもしたのじゃないかという声もあったのだけど、彼女は笑って否定していた。真実の程は知りえないが。
「朝倉先輩には、私が先輩を慕っていたのも手伝ってか、色々良くしていただきました」
「ふむ・・・ならば、君と彼女との交流は他の役員よりも深いと言う訳かな?」
穏やかな声だった、それは篠塚さんの人柄がそうさせるのか、島崎警部が彼女は事件とは無関係だと見ているのかどうかは分からないけれど。
「そうですね、朝倉先輩と親友である相川先輩を除けば、ですが。恋人の話もいくつか聞きました、相談みたいなことも何度か・・・」
篠塚さんのその言葉は少しだけ引っかかった。
島崎警部も飛びつくように尋ねる。
「何だって!?そ、それで、どんなことを?」
「はい・・・自分とじゃ釣り合うか不安だとか、男の人はどんなプレゼントを喜ぶのか教えて欲しい・・・といったものですね」
「相手が誰か、とかは?」
「すいません・・・それは教えてくれませんでした。それどころか、どんな人なのかも・・・」
「そうか・・・・・・」
彼女の言葉に相当の期待を寄せていたのか、警部の声には落胆の色が感じられた。
「・・・麻人君、どう思う?」
突然、それまで静かに聞き耳を立てていただけの楓が問いかける。
「何を?」
「自分と釣り合うかどうか尋ねておいて、その相手がどんな人なのかを教えないなんて、変じゃない?」
「・・・うん、それは僕も思った」
そう、恋愛相談していてそこを話していない。
名前は仕方ないにしても、その特徴さえも、だ。
「でしょ?どうしてかしらね・・・」
「知られたら都合が悪いとか?」
「う~ん・・・確かに、学生の立場で婚約まで話が進んでいるのが公になったら問題だけど」
そうは言うも、どこか納得がいかない様子の楓。
生徒会室内での聴取は続く。
「相川先輩は・・・正直、苦手でした」
だろうとは思っていた。
篠塚さんは大げさかもしれないが、相川先輩とは対照的な性格だ。
真っ正直で正義感が強く・・・悪く言えば頭が固い相川先輩。
篠塚さんは逆に・・・もちろんいい子なのだが、囚われることが無い。
適当な性格というわけではない。悪いことは悪いと言うけれど・・・柔軟性に富むと言うべきか、少しくらいなら校則を破っても人に迷惑を掛けていなければ注意はするけれど叱りはしない。
好き嫌いがはっきり分かれる相川先輩とは違って、誰からも好かれる人だ。
まあ、それくらいならいいんじゃない?で済ませる彼女にとって、先輩が苦手なのは仕方が無いことだろう。
雰囲気からも、そのことは想像に容易い。
「苦手・・・ね。では、君はこの事件についてどう思う?」
一応は篠塚さんも容疑者の一人なのだろう、そう問いかける島崎警部。
「どうって・・・ショックですよ。親しい先輩が殺され、苦手とはいえ同じ生徒会の先輩が無残な殺され方をしたんですよ・・・平気な顔なんて出来るはず無いじゃありませんか!」
自分たちが疑われていることが分かっているからか、少し声を荒げる篠塚さん。
それに対して島崎警部は、とても真摯な口調で答える。
「すまん。だが、事件が起これば例え身内でも疑わなければならないのが俺たち刑事の仕事なんだ。俺自身はいくら恨んでもらっても構わない。しかし、刑事全てを嫌わないでくれ・・・頼む」
「・・・・・・」
島崎警部って、本当の意味で大人なのかもしれない。ちょっとカッコいいって思ってしまった。
それはさておき、役員は後二人。
「・・・やっと俺の番だな。俺は城ヶ崎 茂友。まだ二年だから肩書きの無い普通の役員に甘んじているけれども、いずれは生徒会長になる者さ」
こいつ、以前に篠塚さんが困ったように言っていた。
確かに顔は良くて能力もあるけど・・・すごく変わった性格だ、って。
「・・・で?」
警部もなんとなく相手にしたくないのか、その言葉にはあしらいの気配すら漂う・・・って、さすがにそれはまずいと思うのだけど。
「朝倉先輩はなかなかの美人だったが、俺は正直言って大人しい人よりも元気な人がタイプなんだ。ま、物静かな人を俺色に染めるっていうのもなかなかオツではあるけどな」
やばい・・・何言ってるか分からない。しかもそのままベラベラと続ける。
「その点、相川先輩は割とタイプかな。ちょっと真面目すぎるのが玉にキズだが、強気な性格はポイント高い。ああいう人が俺にメロメロになった時のギャップがたまらない」
どうしてこんなのが役員になれたのか、本当に分からない。
警部も、もうほとんど聞き流しているのか、何も言わない。
しかし次の言葉に警部だけでなく、僕と楓も思わず身を乗り出した。
「けど、惜しかった・・・どうやら、彼女にも恋人がいたようでな」
「な、なんだと!?」
その言葉の後、少しだけ室内がざわついた。
どうやら、役員の誰もが知らないことだったらしい。
「なんだ、誰も知らなかったのか?」
「・・・詳しく聞かせて欲しい」
島崎警部の声は真剣そのものだった。
対して城ヶ崎は先程までとこれっぽっちも変わることない声で。
「別に、俺も先輩から直接聞いたわけじゃないが。でも最近の先輩の目・・・いや、表情は恋する乙女そのものだった」
「・・・そんな根拠か?」
実に馬鹿げた根拠。警部も気が抜けたように尋ねてしまっている。
しかし城ヶ崎は自信満々。
「そうだが?だが、馬鹿にしてくれるな。俺は女性のことに関して間違えた事は、ただの一度も無い」
「そうなのか?」
思わず、島崎先輩に尋ねたようだ。
「確かに・・・城ヶ崎君が女性関係で間違ったことを仰った事はありませんわ」
「・・・・・・相手は?」
妹のことを絶対的に信頼しているのか、彼女がそう答えたことでまた警部は真剣な声で尋ねた。
しかし城ヶ崎は相変わらず全くトーンを変えずに答える。
「そこまで分かったら超能力者だ。それに、俺は彼氏持ちの女性にまで手を出すことはそうそうしない・・・ナンパくらいはすることもあるが」
「そ、そうか・・・・・・」
ちなみに、今日は残りの一人は欠席していたため事情聴取はこれでお開きとなった、最後がこれなのはいかがなものかと思うけれど。
そして、これで殺された内の二人に恋人がいたことが分かったのだから、捜査本部はこれから大忙しだろう。
「おい、霧島」
「へ?」
午後の一つ目の授業が終わり、休み時間。
用を足して教室に戻ろうとしていた僕は、不意に後ろから掛けられた声に振り向く。
そこにいたのは実に意外な人物だった。
「城ヶ崎?」
「よぉ」
そう、城ヶ崎。
一応お互いに面識はあるものの、特に親しいといったことは無い。
だからこうして声を掛けられるなど、意外としか思えないのだけど。
「霧島・・・おまえ、何様のつもりだ?」
「え?」
「探偵気取りか?」
「!?」
そう言った城ヶ崎の目はとてつもなく鋭かった。もしいつもこの目をしていたら、誰もが身がすくんでしまって変態や馬鹿などとは言えないだろう。
城ヶ崎は続ける。
「おまえが他の奴等とは少々毛並みが違うことは知っている。だが、興味本位で探偵まがいのことをしていると痛い目を見るぞ、やめておけ」
「な・・・どういうことだよ?」
「気付いていないと思っているのか?おまえ、鈴鳴と二人で盗み聞きしていただろう?」
「えっ!?」
特に物音を立てたり、姿を見せたりはしていないはずだ。
事実、同じクラスの篠塚さんは全く気付いていなかった。
だが、こいつは。
「つまり、所詮はおまえも素人ってことだ。どんなにバレない様にしたつもりでも、気付く人には気付かれる・・・俺だけでなく、島崎先輩とその兄貴にも、な」
「だけど、警部と先輩は何も・・・・・・」
すると、城ヶ崎は溜め息をつく。
「おそらくおまえ達に聞かせたかったんだろうな・・・あの二人も何を考えてるんだか。まったく、きっと俺がこうやって忠告することも計算してるな、これは」
「?」
城ヶ崎は何を言っているんだろう。
僕が首をかしげているのを見た彼は、再度溜め息をつく。
「なにはともあれ、気をつけろってことだ。死にたくなければな」
「う、うん・・・でも、まさか城ヶ崎にそんな風に言われるなんて・・・」
確かこいつは、自分以外の男なんて全滅しやがれ、とか思ってるって聞いたんだけど。
その城ヶ崎に心配されるなんて、雪でも降るのだろうか?
「勘違いするなよ?おまえが死んだら鈴鳴が悲しむから言っているだけだ」
「ああ、そういえばそうだっけ」
以前に一度、城ヶ崎は楓を真剣に落とそうとした事があったという。
もちろん、その結果は言わずもがなだ。
だけどそれで城ヶ崎は楓を無下に扱うようになったりしてはいないのがこの言葉から分かる。
こいつ、ひょっとするとひょっとして。ただの女好きじゃ無さそうだ・・・紳士とも違うだろうけど。
「・・・・・・まあ、数少ない俺と同格の男がいなくなるというのが少々寂しいというのも、あるにはあるがな」
「え、なんだって?」
「なんでもない」
こいつらしくなく、ボソッと何かを呟いた。
それは僕には聞こえなかったので聞き返したのだが、何も言わない。
そしてその代わりに。
「ああそうだ、どうせ探偵ゴッコをやるなら死ぬ気でやれ」
「さっきは死にたくなければやるなって言って、今度は死ぬ気でやれって・・・どっちだよ」
「知るか。自分で考えろ」
そう吐き捨てるように言うと、一瞬だけニッと笑ってそれ以上何も言わず去って行く。
僕は何がなんだか分からず、頬をぽりぽりと掻いた後、鐘の鳴る直前であることに気付き大慌てで教室に戻った。
「じゃあホームルームはこれで終わりだ。みんな、気をつけて帰るんだぞ」
「さようならー」
少し急ぎ気味に帰りのホームルームが終わり、先生をはじめとして一人また一人と教室を出て行く。
結局、ここまでにもうエスペランサが僕に不吉な未来を見せることは無かった。正直また何か起こるのではないかとビクビクしていた。
それがせめてもの救いとはいえ、暗闇は晴れることは無い、事件が完全に解決するまでは。
――エスペランサがその名の通り、僕に希望を与えてくれることはあるのだろうか?




