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パンドラの箱 ~黄昏に踊る鎮魂歌~  作者: るびん
Episode2:Pray of Marionette
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シーン30:瞳の先(7)

「か、過激ね。というか、そんなものどこから……?」

「非常事態に手段は選べませんわ」


 蓮理さんはさも当然のように述べ、ハンマーをどこかへとしまう。

 ん、ひょっとしてデフォルトで四次元のアレを持っていたりするのかな?

 まあ、蓮理さんなら持っていても不思議じゃない気がするが。


「けどねぇ……さっきまであんなに甘えていた相手に、よくもまあ」

「だからこそ、です」

「弱みや情けないところは見せたくないってトコ? あなたの方が先輩だから?」

「そういうわけではありませんわ。色々と事情がありますので」


 蓮理さんがそう言うと、お姉ちゃんは意味ありげな瞳をしてにやりと笑う。

 ……普通、美人ってこういう表情しないよね?

 ま、そこがお姉ちゃんらしいところなんだけどさ。

 もちろん、こんな表情は親しい一部の人にしか見せないのだろうけど。


「ふぅ~ん……青春っていいわねぇ♪」

「あら、まだ若いとご自分で仰られていたではありませんか?」

「う”」


 からかうつもりが見事に突っ込まれてしまったお姉ちゃん。

 というか、自分で言うってことは……アレだよねぇ。


「ふふ……それより、一体いつから覗いておられましたの?」


 蓮理さんが急に話を切り替える。

 ところが、お姉ちゃんは別段驚いた様子は見せない。


「あらら、気付いてたんだ? さすがねぇ」

「ええ、色々学んでいる身ですので」


 趣味悪いなぁ、お姉ちゃん。

 彼女はどうやら、僕と幼児退行した蓮理さんとのやり取りをどこからか覗いていたようだ。

 対して、蓮理さんの意味ありげの答えに、お姉ちゃんは冗談交じりで質問したのだけれど。


「色々……ひょっとして、スパイの資格もあるとか?」

「もちろん」


 即答だった。マジですか?


「……あなただけは敵に回さないことを誓うわ」

「ええ、そうしてくださいな。それで、いつから?」

「く、煙に巻こうとしたのに」


 妙に冗談めいた物言いだと思ったら、お姉ちゃんは蓮理さんの追及から逃れるつもりだったのか。

 まったく、油断ならない。

 しかしさすがは蓮理さん、それくらい軽く見抜いていたようで、溜め息混じりに告げる。


「答えてくださらないと、あなたにもお休みになっていただかなければなりませんわね」

「あはは、それはご勘弁こうむるわ……えっと、大体あなたの関西弁が素じゃなくなったトコくらいかな。あっちが素でしょ?」

「……さすがですわね」


 お姉ちゃんの返事に蓮理さんは呆れたような、そして感心したかのような溜め息をついた。

 そこからお姉ちゃんなら何かからかうかのような物言いをするのかと思ったのだけど、そうではなく、どこか怪しげな瞳で、さも楽しげに口を開いた。


「まあね。それから――私ね、少しだけど読唇術も出来るのよ」


 すると、なんと蓮理さんが驚いた表情を見せる。

 彼女にこんな顔をさせるとは、さすがはお姉ちゃんか。

 蓮理さんは慌てた様子で尋ねた。


「まさか、あの呟きも読み取られたのですか?」

「さあ? ただ、これからまだまだ面白いことになりそうね」


 蓮理さんを慌てさせるとは、一体どの言葉を読んだのだろう?

 そんな言葉があったとは思えないけれど……。


「私としては、ドロドロの三角関係を期待しちゃうわね。結構好きなのよ、昼ドラ」


 いきなり何さ、お姉ちゃん。しかもそんなに楽しそうに。


「……一応、姉ですわよね?」

「ええ」

「弟がそんなことになってもよろしいのですか?」

「世の中の定説! 弟は姉のオモチャ♪」

「な、何という方……」


 呆れた様子の蓮理さんだけど、僕としては呆れるじゃ済みません、本気で勘弁してください。


「ふう……ともかく、それも黙っていて下さいます?」

「どうしよっかな~?」


 楽しそうにニヤニヤと笑うお姉ちゃん。

 だけどからかわれるだけの蓮理さんじゃない、彼女は一つ溜め息をつくといつもの冷静な表情になり、少しだけ鋭い瞳を見せた。

 すると、そのことにお姉ちゃんも気付いたのか、表情を引き締める。

 その場の空気は、一瞬にして緊迫したものになった。


「……いい事を教えて差し上げましょう。私は、ささやかながら様々な薬作りを趣味としています」

「へえ、どんな薬なのかしら?」


 探りを掛けるような口調で尋ねるお姉ちゃんに、蓮理さんは不敵な笑みを浮かべて答える。


「そうですわね……たとえば自白剤、ですわ」

「!?」

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