シーン23:はじまりの足音(7)
4グループ:『杉沢優斗』、『如月渚』、『リディア・アリストゥーン』
「おーい、早う歩かんと置いてくでー?」
「如月さん、待ってください! 灯り無しに進むと危険ですよ!」
「……私もそう思います」
きっと逆にお化けが逃げていくだろう思えてしまうほど元気に、あとの二人の先をどんどん進んで行ってしまう如月さん。
少し怯えている優斗さんとどっちが男なんだか。
リディアさんは、やはり特に感情を出す事無く。
ところが。
「あっ!?」
「リディアさん!?」
さすがのリディアさんも、足元がほとんど見えない状態だったものだから石か何かにつまずき転んでしまった。
「痛……」
「大丈夫ですか!?」
「は、はい。申し訳ありません……」
すぐに立ち上がろうとするも足が痛んだのか、ふらついて尻餅をついてしまった。
すると即座に優斗さんがしゃがみこむ。
「ちょっと見せてください」
「いえ、大したことありませんから……」
「いいから。ほら、少し足を捻っているみたいですよ」
その通り、リディアさんの足首に明かりを当てると、少し腫れているのが分かる。
軽くではあるが、捻挫をしたようだった。
「少しじっとしていてくださいね」
「はい……」
優斗さんは持っていたミニ救急セットから湿布と包帯を取り出す。
実は、事前に男性陣に懐中電灯と共に渡されていたのだ。
「慣れているのですね」
そうリディアさんが思わず感心して口にするほど、手当てに慣れていた優斗さん。
少しはにかんで答えた。
「はは。昔は姉さんが今以上におてんばで、よく怪我をしてたんです」
「では、いつもその手当てを?」
「はい……男女逆転した方がいい、って、しょっちゅう言われていました」
ちょっと気にしていたのか、少しだけ苦笑いで言った優斗さん。
だがリディアさんは、そんな彼に笑顔で。
「そんなことはありません。杉沢様は、素敵な男性ですよ」
「えっ」
予想もしてなかった言葉に、戸惑う。
リディアさんは微笑んだまま続けた。
「それに、お姉様のことはやはり大好きなのですよね?」
けれど、その問いかけにはすぐに答えることが出来て。
「あはは、もちろん」
「ふふ……」
リディアさんは、その答えに何故かとても嬉しそうな表情を浮かべた。
「あ、如月さんとはぐれちゃいましたね」
「そうですね……申し訳ありません。すぐに追いかけましょう」
「ですね。それじゃあ、どうぞ」
そう言ってリディアさんに背を向けしゃがみこむ優斗さん。
リディアさんにはその行為の意味が分からないようだ。
「?」
「足、痛むでしょう?おぶっていきますよ」
「い、いえ、そんな……」
「気にしないで下さい。姉さんで慣れていますから」
そんな穢れない笑顔で言われたら、リディアさんにも断ることなど出来ず。
「それでは……お願いします」
「はい、任せてください」
リディアさんは優斗さんの背にそっと身を委ねる。
ひょいと、信じられないほど優斗さんは簡単に立ち上がれた。
「あの、重くありませんか?」
「全然。姉さんより大分軽いですよ」
「そ、そうですか」
少しだけホッとした様子のリディアさん。
やっぱり彼女も女性なんだな。
「少し早足で行きますから、しっかり捕まっていてくださいね?」
「はい」
そして、暗闇の中、少しだけ早足で如月さんの後を追っていった。
「あらら、完全に見失ってもうたなぁ。前も後ろも真っ暗や」
言葉とは裏腹に、はぐれたのにもかかわらず呑気な如月さん。
高らかな笑い声をあげてずんずん進んでいく。
「ま、適当に歩いとったらどこかに出るやろ。構へん、構へん♪」
とことん能天気だ。
きっと砂寺さんはときどき胃に穴が開くことだろう。
◇
5グループ:『有本知哉』、『城ヶ崎瑠流』、『鈴鳴楓』
「へえ、西崎先輩ってそんなに鈍いんだ」
「そうなのです! 瑠流はいつだって本気なのに、全然信じてくれないのです!」
「でも……あの伝説もそうだし、何かと良くない噂を聞くわよ? 麻人君は面識あるらしくって、全然怖い人じゃないって言ってるけど、どうなの?」
「噂は噂でしかないのです。本当の先輩は、すごく優しいし、正義のヒーローなのです!」
「ふぅん、噂なんて当てにならないのね」
と、楓は結構お化けとか苦手のはずなんだけど、瑠流ちゃんとの話に夢中で怖いも何も無いみたいだ。
「じゃあさ、蓮理さんに惚れ薬の作り方を教えてもらったりしてみたら? 蓮理さんならそれくらい知ってると思うわ」
「それは既に一度試したのですが、失敗して西崎先輩に怒られてしまったのです。ですが、また今度違う種類の惚れ薬に挑戦してみるつもりなのです」
さりげにエライこと暴露したな、今。
そんな楽しそうな二人とは対照的に不機嫌な有本さん。
「ち、なんで俺がこんな小娘どもの面倒を見なきゃいけないんだ」
どう考えても紳士の台詞じゃないよなあ……。
「お、そうだ!」
何か悪巧みをした表情をする。
「じゃあな!」
「え、ちょ、ちょっと!?」
突然一人で走り出してしまった有本さん。
もちろん懐中電灯も彼が持っていたので、あっという間に楓と瑠流ちゃんは暗闇に飲み込まれることになる。
「な、なんなのよあの人!?」
「瑠流とは別の意味で無茶苦茶なのです!」
瑠流ちゃんにこう言われてはもう救いようがない。
「……どうしようか、瑠流ちゃん?」
「仕方ないのです、ここでじっとして次のグループの人たちが来るのを待つしかないのです」
「それしかないかぁ。じゃあ話の続きでもしてましょうか」
「なのです」
普段の様子からは意外なほど、冷静かつマイペースな二人だった。
◇
6グループ:『天外東』、『竹内明菜』、『霧島さぎり』
「ねえねえ天外さん、白須谷さんとの馴れ初め教えてください!」
「ちょっとさぎりちゃん。いきなりそれは……」
とは言いつつ、明菜も相当興味ありげな顔をしていた。
やはり彼女は一番普通の女の子だ。
「ははは。いいよ、それならいくらでも教えてあげる……そう、あれは大学の入学式のことだった。桜舞い散る幻想的な風景の下、俺たちは出会った」
「ドキドキ」
「……そ、それで?」
すでに二人共聞き入っている。
というかやはりこのグループも全く怖がっていない。
さぎりはともかく、明菜も大丈夫なのはちょっと意外。
「そうだね、何か予感がしたんだ。吸い寄せられるようにして一番大きな……老木とでもいうのかな、どこか寂しい感じの桜の木の下へ行ったんだ。そして下から見上げていると、不意に声を掛けられた」
「それが白須谷さんだったんですね?」
「そう。あなたも惹かれたのですか?ってね。彼女も、俺と同じように自然と足が老木に向いたんだそうだ」
「きゃ~、ロマンチック~♪」
さぎりめ、本当にませてるなあ。
と、その時。
「あれ、あそこにいるの……」
「ん?」
「あー、楓お姉ちゃんと瑠流さん!」
天外さんの持つ懐中電灯の明かりに照らされた先には確かに影二つ。
それはまぎれもなく楓と瑠流ちゃんだった。
「あ、やっほー」
「思ったより早かったのです」
そして簡単に事情を説明。
「……酷い人だね」
「ホントにね。なんで西村さんはあんなヤツと……」
そう愚痴る楓。
それは彼女だけでなく、誰もが思うことだろう。
「それはともかく、後で百合に怒られそうだなあ」
男一人に女四人。ちょっとしたハーレムだ。
と、僕ら第3グループを除いてほとんど肝試しにはなっていなかった。
しかし、この後に起こることをその時は誰も知る由もなく。
――月に、そっと雲がかかった。




