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パンドラの箱 ~黄昏に踊る鎮魂歌~  作者: るびん
Episode2:Pray of Marionette
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シーン19:はじまりの足音(3)

「……痛っ!」


 まったくあさっての方を向いていた楓の頭にビーチボールがものすごい勢いで直撃する。


「だ、大丈夫ですか!?」


 アタックを放ったリディアさんが慌てて彼女に駆け寄る。


「試合中に余所見は禁物ですわよ?」


 何故か始まっていたビーチバレー対決。対決、というからには一対一、その途中の出来事。

 蓮理さんが言った忠告に、一応は言い訳を言おうとする楓。


「だ、だって……」


 楓は座り込んだまま頭をさすり、それから僕とお姉ちゃんの方をちらりと覗き見た。


「……なるほど、そういうことですか」

「あなたにとっては、気が気でないものね?」


 納得した蓮理さんとは対照的に、からかうように言ったのは香さん。

 この人はどうやらこういった物言いが好きなようだ。


「ええなあ……浮気発覚! 嫉妬に狂う美少女たちが見せる骨肉の争い! なんて、どや?」

「なんかゴシップみたいだけど、実名を出さなければいいんじゃないかしら? とっても面白そうだしね♪」


 ……まったく、この二人、如月さんと砂寺さんには呆れてしまう。


「ど、どう説明したら良いものでしょうか……?」


 事情を知っているリディアさんは困った様子だが、どうやらこのテの説明は苦手のようで、一番頼りになりそうな蓮理さんに尋ねた。


「放っておけばよろしいですわ、後で事情ははっきりするでしょうから。それに、少しは積極的になってもらわなくてはこちらも諦めがつきませんので」

「うーん……お兄ちゃんって、昔っから無意識で女性を惹きつけるのよね……楓お姉ちゃんも大変だ」


 溜め息のさぎり……妹に溜め息をつかれる兄っていったい。


「それより、決勝の相手はリディアさんなのですね、ふふ……腕が鳴るのです!」


 何気に男性陣は全員一回戦負けだったりする、博也さんは審判。


「まさか、蓮理さんが負けるとは思いませんでした……」


 明菜が呟いた。

 そう……蓮理さんは運動能力も圧倒的で、学校で彼女と互角以上の人は男子を含めてもおそらく西崎先輩(一年のときに学校に殴りこみに来た暴走族100人を1人で返り討ちにしたという伝説を持つ)くらいだろう。

 なのだが。


「リディアさんには驚かされました。まさか、まったく動きが読めないとは恐れ入りましたわ」

「いえ、それほどでは……」


 そんな人間離れしているリディアさんに楓が勝てるわけもなく……というか、準決勝まで来れたのが奇跡だ。楓の方のブロックは弱い人ばかりだったのだろう。

 そもそも天外さんと白須谷さんは不参加、二人で岩陰に姿を消した。

 明菜も運動は普通だし、さぎりはからっきし。

 一見強そうな望、有本さん、城ヶ崎はそれぞれリディアさん、蓮理さん、瑠流ちゃんにボコボコにされた。

 この三人は反則的に強かった。


「……やっぱり、近年は女性の方が強いんですね」


 そう呟いたのは、いつも香さんの尻に轢かれている優斗さん。


「な、納得されても困るんだけど……あの人たちは例外だと思ってくれると嬉しいな」


 西村さんは確かに優しそうな、僕らのイメージする女性像だろう……明菜もそうだね。


「じゃあ、そろそろ決勝戦を始めようか?……二人以外は下がったほうがいいよ」


 博也さんの注意宣告、普通ビーチバレーでこんな言葉は発しないだろう。しかし、この決勝戦は危険だ。

 楓は相当手加減してもらっていたから無事だったが、リディアさんと蓮理さんの戦いはすごかった。

 なにせ、まず球が破裂した。

 また、近くで観戦していた城ヶ崎が、レシーブミスで飛んできた玉を避けきれず直撃し、数メートル吹っ飛びもしたくらいだ。

 瑠流ちゃんの運動能力は蓮理さんより劣るとはいえ、それでも十分ものすごいし……何より、さりげなく隠し持っている武器を使う。

 水着姿のどこに隠しているのかは本人にしか分からないが、それをうまく使う(もちろん、直接相手に向けたりはしないが)。


 つまり、この二人の決勝戦は非常に危険なのだ。


「さあ、二人共準備はいいかな?」

「はい」

「いつでもどうぞ、なのです」


 緊迫が漂い……ただ、波の打ち寄せる音だけが響く。

 そして。


「……はじめ!」

「いきます!」

「手加減はしませんなのです!」



 とてもビーチバレーと思えない光景と轟音が、僕とお姉ちゃんの元に届く。


「……無茶苦茶ね」

「リディアさん、大丈夫ですかね?」


 さすがに相手が瑠流ちゃんだと心配だ。


「あなたは私の弟なんだから、リディアって呼んでいいのよ?」

「でも……」

「ま、確かに年上を呼び捨てにはしにくいわね。だけど、私に敬語は無しにしてね?」

「は、はは……頑張るよ、お姉ちゃん」

「うん、よろしい♪」


 みんなの前でこう呼べるだろうか……不安。


「さて、そろそろお昼だけど……今あそこに近寄るのは危険よね」

「そうだね、それはただの自殺行為だもんね」

「……っ、そうね」


 何故か僕の言葉に一瞬詰まったお姉ちゃん。

 だがそれが気のせいだったかのように、すぐ笑顔を見せた。


「それじゃあ、あれが終わるまでは高みの見物といきましょうか」

「うん」


 そう答えると、お姉ちゃんはニタリと笑う。

 これは、また何か良からぬ事を考えついたな。


「でも、ただこうしてるだけなのも退屈だから、楓に私達がいちゃついてる所を見せつけよっか♪」


 ほら来た、しかもなんとも楽しそうに申してきましたよ、っと。


「姉と弟でいちゃつくってのはどうかと思うよ」

「ちっ……冷静ね、麻人」


 そりゃ、後で楓に病院送りにされたくないから。

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