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パンドラの箱 ~黄昏に踊る鎮魂歌~  作者: るびん
Episode2:Pray of Marionette
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シーン16:離島の手招き(5)

「!?」


 跳ね上がるように目覚めた。


「…………?」


 何かが見えたからだ。人が死ぬ様ではなかった。

 しかし、それはある意味で惨劇の幕開けのように思えて。

 宴会場でみんな酔いつぶれたまま眠っていた。

 一人も減ってはいなかったことに、心からの安堵を覚える。


「ん……麻人君?」


 僕の横で眠っていた楓が目を覚ます。


「あ、ごめん……起こしちゃった?」

「ううん、それはいいんだけど……すごい汗掻いてるよ」


 楓に言われて気づく、確かに僕は酷く汗を掻いていた。

 その理由は分かっている。


「あ、ちょっと変な夢を見て……」

「夢?」

「うん。エスペランサとは違うんだけど、なんていうかな……嫌な感じだった」

「話してみて。嫌な夢っていうのは、話したほうがいいんだよ。私でよければ、いくらでも聞いてあげるから」


 こんな時、楓は本当に優しい。

 普段は人を蹴り飛ばしたりばかりして乱暴極まりないんだけど、僕が本当に辛い時や悩んでいる時はこれ以上無く力になってくれるんだ。

 僕も、それが何よりも落ち着く。


「楓……ありがとう。実は…………」


 話しかけた時だった。


 ドォンッッ!


「!?」


 何かが爆発するような音と振動が場に伝わる。かなり揺れた。


「な、なんだ!?」


 さすがにこれにはみんな目覚めた。皆、酷く驚いている。


「爆発音……?外か!?」


 博也さんが先頭を切って走り出し、僕らもそれについてゆく。

 外へ出ると、黒い煙が上がっているのが見えた。


「おい、あそこは……」


 誰かが言った。

 もうそこからは、僕が見た夢と全く同じで。


「クルーザーが燃えてる…………」


 もうそれは、とてもではないが消せるような勢いの火ではなく。

 僕らはただ呆然と眺めているしか出来ない。


「おい、どうやって帰るんだよ?」


 不意に有本さんが博也さんに尋ねた。確かに彼の言う通りだ。

 この島にはクルーザーで来たし、ほかに帰る手段は無い。


「期日が過ぎても我々が戻らなければ、不審に思い、迎えに来ると思いますが……」

「ホントか?」

「はい。ちゃんとそれまでの食料などは十分にありますから、大丈夫ですよ」

「なんだよ、驚かせやがって」


 その博也さんの言葉でほとんどの人が安心したのか、また寝るために戻っていった。

 しかし、僕をはじめとする数人はその場に残っている。


「クルーザーが自然に、いきなりあんなにも激しく燃えるはずが無いですわ……人が介入しない限りは」


 少しして、蓮理さんがそう切り出した。


「同感です。それに、瑠流の耳が確かならば、あの爆発音はプラスチック爆弾なのです」

「瑠流がこう言うってことは、間違いないぞ」

「分かってるよ、城ヶ崎。それから……」


 瑠流ちゃんは、おそらく爆発物にも詳しいのだろう。城ヶ崎が保証するまでも無くそれがおそらく間違いないことは僕にも予想がつく。

 そして、僕の言葉に続くようにさぎりが真剣な瞳をして口を開く。


「うん。爆発の瞬間はみんな宴会場にいたはずだよね。ってことは……」

「ほかに誰かがこの島にいる?」


 望にも僕らの考えが分かったのか、そう尋ねる。

 それには神楽さんが頷いた。


「可能性としてはありうるわね。これだけ大きい島だもの、隠れるところはいくらでもあるわ」


 そしてみんなが黙った時、不意に楓が呟く。


「切り裂きジャック21…………?」


 その瞬間、糸を張り詰めたような緊張が走った。

 まるで、非現実がいきなり現実として具現化したかのように。


「そういえば、ここには外界との通信手段なんて一切ありませんよね」


 何故か若干考え込んだかのように、リディアさんがそう呟く。

 どうしてか分からないが、僕にはその言葉が少し引っ掛かった。

 しかしそれは気のせいだったのか、ほかの誰も気に留めた様子は無い。


「ええ。そしてクルーザーが駄目になったことですぐには脱出不可能ですわ……つまり、私たちはこの島に閉じ込められた、ということになりますわね」


 蓮理さんの言う通りだ。

 僕らはどうあがこうとも、ホテルからの迎えが来ない限りはこの島にいるしかないのだ。


「サスペンスとかでよくあるパターンなのです」


 瑠流ちゃんがそう口にする。

 おや、なんでそんなに嬉しそうなのかな?


「次から次へと殺人が起きるってやつね……望むところじゃない!」


 まずは楓がそう言って、胸の前で右手の拳を左の掌にパンと音を立てて合わせた。

 なんかそういう男らしいの似合うな、言ったら殴られそうだけど。


「ええ。私たちを甘くみないほうがいいわね」


 腕を組んでうんうん頷く神楽さん。

 そして、にやっと不敵な笑顔を見せる……これは犯人をどう料理しようか考えてる顔だ、怖すぎる。


「ふふ……返り討ちにして差し上げますわ」


 瞳を邪悪な色で光らせて嬉しそうに微笑んだ蓮理さん。

 危険過ぎます、もしこれに舌なめずりでも加わった暁には無条件で土下座しちゃいそうです。

 すると凶悪な三人に呼応したかのように元気いっぱいに手をあげたのは瑠流ちゃんとさぎりのちびっ子たち、ただし取り扱いは要注意の二人。


「武器なら瑠流に任せてくださいなのです!」

「作戦は私ねー♪」


 やる気まんまん過ぎる女性陣。

 なんてたくましい。


「なあ、俺さ……この人たちにボコボコにされる犯人の方が不憫なんだけど……」

「……同感」


 望の意見に同意していても、実は僕の心はまだ不安で満ちていた。

 何かが引っ掛かっているのだ、その正体は分からないけれども。


 そもそも、本当に”ほかの誰か”がいるのか?


 時限式爆弾にしておけば、アリバイは作れる。

 ひょっとすると、犯人はあそこで知らぬ振りをして眠っていたかもしれないのだ。

 それは考えすぎだし、身近に犯人がいるなんて考えたくは無い。


 それでも。


 これほどたくましい凶悪な女性陣が張り切っていても、胸の奥でくすぶるざわめきは、とどまることを知らずに。


 ――結局、眠りにつけたのは日が昇り始めたころだった。

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