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パンドラの箱 ~黄昏に踊る鎮魂歌~  作者: るびん
Episode2:Pray of Marionette
26/41

シーン15:離島の手招き(4)

 ゲシッ、ゲシッ!


「い、痛いって!」

「うわぁ~~ん、麻人君の馬鹿ぁぁぁ~~~っっ!」

「あは……お兄ちゃん、久しぶりに一緒に寝よ……ううん、今夜は寝かせない…………」


 ただひたすらに泣き叫びながら僕を蹴るのは当然のごとく楓だ、痛い。

 そして目をトロンとさせて問題発言をしているのはさぎり、どこでそんな言葉覚えてきた?


「いいのよ……宗田君が私の気持ちに気付いてくれないのは、私に魅力が無いからなんだわ……もういいの……きっと宗田君みたいな人は女の子らしい人が好みだと思ったから頑張って女の子らしくしてたのに……もう疲れたわ、どうだっていい…………」


 壊れた様子は兄妹そっくりだよ、明菜。

 で、一番近寄りがたいのはもちろん瑠流ちゃんで。


「うふふ……可愛いわぁ、このフォルム、漆黒の光沢……うふふ……私の可愛い“アサルトキャノンREー856”……これで先輩のハートを打ち抜いて見せちゃうから……」


 いや、それは殺人だから。

 というかどれだけの武器おもちゃのはずを持ってきてるんだこの子は。


「あはん、あ・ず・ま♪起きないとエッチなことしちゃうぞ~?」


 はいはい、規制かけなきゃいけないからこの人は放置。それどころか他の部屋に行ってもらわないとやばい。


「あはは……西村さん……白い肌綺麗ね~……」

「あなた方こそ……ピンクに染まった体、とても色っぽいわ……」

「あかん、もううちは辛抱たまらんわ……三人で一緒にどうや……?」


 あっちでは西村さん、如月さんと砂寺さんで危険な世界が展開されてる。

 なんか最近流行ってるとは聞くけど、実際に目にするのは初めてだ。

 ちょっとどきどき。


「ねえ、霧島君?お姉さんといいことしましょ?」


 そんな僕に少し浴衣をはだけさせて擦り寄ってきた香さん。

 う……いい匂いがする。

 それに、大人の女性の流し目って、何か魔法にでも掛かってしまったように視線を逸らせない。


「あら、駄目ですわよ」


 お、さすが蓮理さん。

 どうやら楓たちが匂いだけで酔ってしまったのとは違い、素面のようだ。

 香さんを僕から引き離すと、何故か瞳を怪しく煌かせておまけに僕の腕に自分の腕を絡ませてぐいっと引き寄せた。

 ん?なんだ、このアクション?

 そしてまるで宣言のようにビシッと言う。


「これは、私のものですわ」


 ……………………はい?

 何やら今、全く予想だにしていなかった言葉が聞こえた気がして合い候ですが?

 そして蓮理さんは空いている手の掌を頬に当て、体をしならせた上に頬を赤らめて照れたように言葉を紡ぐ。


「今まで、私の目にかなうような殿方は一人もいらっしゃいませんでしたの。けれど……霧島君が現れまして、初めて人並みの恋をいたしましたわ」


 なんですと?

 今、なんか衝撃の告白がありませんでしたか?


 ぐいっ!


 おぉ?

 しかも蓮理さんは頬に当てていた手も使って更に僕を引き寄せた。

 え、え、ちょっと?何、この展開?

 ところが、そんな風にちょっと現状に思考が追いつかないでいる僕の腕をしっかり掴んだまま、蓮理さんはにやりと笑って言った。


「ですから、これは私の所有物ですことよ」


 ……物ですか、僕は。

 ああ、そういうオチね、ちょっと残念。


 ――いや、それ以前に。


 なんでみんなこんなに酔ってるんだ!?

 誰だ、強いお酒を追加したの!

 すごく匂うよ!?


「んふふふふ…………わ・た・し・よっ♪」

「か、神楽さん!?」


 ああ、やりそうだこの人なら。すごく納得。


 ふっ……


 不意に神楽さんが後ろから僕の首筋に息を吹きかけてきた。


「ひゃうっ!?」

「あら、とっても純な反応。可愛い……ピュアなんだ……?」


 そしてしなだれるようにしてそのまま僕の背後から抱きつくように腕を回し、頬をすり寄せてくる。

 冗談じゃない、神楽さんほどの美人にこんなことされたら、どんな男だってひとたまりも無い。でも払いのけるなんてことも出来るわけも無く、ただ僕は固まってしまってされるがままになっていた。


 だが、その時。


「神楽さああぁぁ~~んっ!蓮理さああぁぁ~~んっ!」


 大泣きしたままの楓が叫ぶ。


「あら、どうしたの楓?」

「まあ、鈴鳴さん。いかがしました?」

「うわああああ~~んっ!麻人く~~~んっっ!」

「へ?」


 何かを察知したのか、僕から身を離した神楽さんと蓮理さん。

 それとほとんど同時に。


 ガバッ!


「は?」


 ドタッ!


 …………楓に床に押し倒されました。


「…………え?」


 呆気に取られる僕。いや、そりゃそうでしょ。


「あらあら……お酒の勢いかしら?」

「妬けますけれど、このシーンを邪魔するのはさすがに気が引けますわね」

「あーあ、もっと遊びたかったな……」


 大人の女性三人(約一名は一歳しか変わらないけど)はすでに傍観者として眺めていた。

 そして当の楓は僕に覆いかぶさっていて。


「え、え?」


 徐々に楓の顔が近づいてくる。

 酔っているせいか目は潤み、頬も赤く息も乱れている。

 彼女の長い髪が僕の顔に掛かり、シャンプーの香りが胸の鼓動を高鳴らせた。


「か、かえ…………」


 楓が目を閉じた。

 そこからもっと近付いてくる。

 そして、二人の唇が重な――


 ゴン。


 ――ん?

 なんだ、今の音は?


「あら?」

「どうしましたの?」

「スルーしたわね?」


 そう、何故か楓はそのまま僕の顔を通り過ぎて畳に頭をぶつけたのだ。


「か、楓?」


 きょとんとした様子で楓の名を呼ぶ。

 しかし彼女はもうほとんど僕に身を任せたように突っ伏したまま反応が無い。


「ちょっと楓、どうしたの?」


 もう一度呼んでみる。

 そもそもこのままでは僕が身動き出来ない……いや、それよりも僕の上に身を投げ出してだらんとしてしまっている楓が心配だ。


「楓!?」

「は…………」

「は?」


 今度は反応があった。良かった、意識はあるようだ……しかし、次に彼女が口にした言葉はとんでもないものだった。


「吐きそう……」


 吐きそう?

 えっと、お酒のある宴会でそれが指す意味は……って、えぇっ!?


「はあっ!?」

「もう駄目、限界……」

「ちょ、ちょっと待ったぁ!」

「無理……待てない…………」

「楓!ヒロインがそれは駄目だってば!」

「うぷ……」

「わわわわわっっ!」


 そして僕は大慌てで楓を抱えて洗面所へと全力ダッシュで向かった。

 …………間一髪でしたとさ。


「あら……進展しない二人ですわね」


 溜め息交じりで言う蓮理さん。

 神楽さんはなんとも楽しそうにカラカラ笑っている。


「ま、あの二人はそれでいいんじゃない?」

「逆に、だからこそ入り込む余地は無いってことね」


 香さんの言葉に、もう一度溜め息をついて蓮理さんは言う。


「そうですわね……だから私は諦めたのでしたわ」


 それを聞いた神楽さんは意外そうな顔をする。

 そして、にんまりと笑みを浮かべて、蓮理さんの柔らかい頬を人差し指でつん、とつつき尋ねる。


「へえ、本気だったんだ?ふふ……どうせなら酔った勢いって事でもっとちゃんとした告白すれば良かったのに、素直じゃないのね」


 神楽さんがそう言うと、なんと蓮理さんがむすっとしたような表情を見せて自分のグラスにジュースを注いだ。

 そして今度は香さんが惜しそうに言う。


「うーん……私が高校生だったら、もっと積極的にアプローチしたんだけどなあ」


 にやっと蓮理さんに向かって……うわ、あの蓮理さんをからかってるよこの人たち。

 だけど蓮理さんは、やれやれといった様子で神楽さんと香さんのグラスにお酒を注ぐ。

 神楽さんには赤ワイン、香さんにはウイスキーのお湯割りだ。

 とても慣れた手つきで注ぎ終えると、にっこり微笑んで言った。


「きっとすぐに無理だと分かりますわよ……それより、飲みなおしませんこと?」


 蓮理さんがそう尋ねる――というかお酒を注ぎ終えている時点で相手の答えがなんだろうと問答無用なのだろうけれど――と、神楽さんがなんとも楽しそうに、にやーっと笑う。


「あは、高校生な上に生徒会副会長さんがそんな風に言っていいの?末恐ろしいわね」

「でも時が来れば、一緒に呑むんでしょ?」


 香さんも同じように笑いながら蓮理さん、神楽さんと肩を組む。

 なんか、酔うと男らしいなこの三人。


「今日の私は、ただの島崎蓮理ですわ」

「ふふ、そうね。じゃあ私も今日はただの桜坂神楽で」

「変な表現だけど、呑み明かすにはいい口実かも。私はただの杉沢香ね」


 いやいやいやいや、そんなこと言っても蓮理さんはまだ未成年でジュースですからね?

 そこを誰も突っ込まずに、神楽さんはそばでみんなのやりとりをクスクス笑って見ていたリディアさんにも言う。何気に彼女も相当呑んでいた(呑まされていた)筈なのだが、これっぽっちも酔っていないように見える。

 恐るべし、リディアさん。


「ほらリディア、あなたもたまにはただのリディアになりなさい」

「……はい。それでは、私もただのリディアで」


 そうやって四人で輪……いや、むしろ円陣を組んだ。


「かんぱーい♪」


 そんな風にしてドタバタな夜は更けていった。

 賑やかだっただけに、余計に静寂は深遠のように深く。

 けれど、突如それは何の前触れも無く破られるのだ。

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