シーン14:離島の手招き(3)
「あーっ、その肉は私のよ!」
やっぱり腹ペコキャラじゃないかという言葉は飲み込む僕。マゾじゃないんだ、毎回も蹴られてたまるか。
「ほら、ちゃんと野菜も食べないと体に悪いよ?」
「あ、ああ……」
世話焼き女房タイプなのは当然明菜だ、数少ないまともな女の子ってすっごく貴重だね。
望は野菜嫌いなのだが、そこまで世話されては我慢して食べざるを得ない。いい機会だ、これで野菜に慣れろ。
「さぎりさんは好き嫌いが無いのですわね」
「うん!日本の食べものは何でも美味しいから大好きだよ!蓮理お姉ちゃんはもっとお肉食べなきゃ駄目だよ~……でも、胸は大きいんだよね……」
蓮理さんは見た目どおり菜食主義のようだし、さぎりは……そもそもバーベキューって日本の食べ物か?
ちなみにさぎりが手をわきわきさせたことで、蓮理さんが少しだけ引いた。
「それにしても、ホントに個性の強い人たちばかりね……」
「はい。圧倒されてしまいます」
呆れたようにのたもうているのは神楽さんにリディアさん。
いやいや、あなたたちも十分個性が強いのですけど。
「……いらいらするのです」
「る、瑠流……落ち着いて食べよう、な?」
向こうでいちゃつきながら食べている天外さんと白須谷さんの姿が視界に入るのか、今にもまた暴走しそうな瑠流ちゃんを必死でなだめている城ヶ崎。さすがのあいつもナンパをしている暇は無さそうだ、そして意外に妹の面倒をよく見ていることに驚いた。なんだかんだ、兄貴してるんだな。
「それにしても、これだけの人数がいると小説は嫌が応でも長くなるでしょうね」
「せやなあ。自爆やな、あはは」
砂寺さんと如月さんは不思議な会話をしていた。なんかこれからもこの二人はこういう会話をしそうだ。
「こら、知哉。もう少し行儀良く食べてよね」
「はいはい。全く、口うるさいなあ」
まるで子供をたしなめるような物言いの西村さんと、反抗期の子供みたいな有本さん。
本当に釣り合わない。いや、ある意味で合ってるのか?
「ほらほら、男ならもっと豪快に食べなさい!」
「そ、そう言われても、僕は少食だし……」
男女逆転したほうがいいんじゃないかと思ってしまう香さんと優斗さん。まあ、何とは無しにそれを互いに楽しんでいるようにも見受けられるが。なんだかんだ、姉弟仲は相当いいのだろう。
「あはは。みんな良く食べるね……これはもっとたくさん用意しておくべきだったかな?」
とことんマイペースな発言、博也さん。よくこの面子をまとめられるな、尊敬します。
「そうそう、ここにも温泉があるから、あとから入るといいよ。残念ながら、混浴じゃないけどね」
僕と望に向かってそう言った。僕は特に混浴を期待してませんってば。
「だってさ。今度こそ覗かないでよ?」
そう楓に釘を刺されるも、今度覗いたら冗談抜きで死にますから絶対にしません。
瑠流ちゃんっていう超危険人物まで加わったことだし。
「……さすがに、俺でも無理だ」
望でさえもチャレンジャーになるのは諦めたようだった。
温泉では、またさぎりの悪い癖が出たらしい、まったく。
だから、もしその場にいたら結局また望が覗こうとして僕が止めに入るも前回と同じ結果になったのだろう。けど今回僕らはその時は温泉に入っていなくて。
「わああああーーーん!」
豪快に大声で泣いたのは優斗さん。顔から何から真っ赤になっている。
「やるじゃねえか、ここまで呑めるとは、将来楽しみだな!」
そう、僕らは男勢で集まって宴会をしていたのだ。
本当はお酒無しのはずだったのだが、博也さんが施設の点検のために場を離れた途端、有本さんが密かに持ち込んだお酒を彼らに呑ませたのである、もちろん無理矢理だ。でもやっぱりそれにもなんか違和感があった。
ちなみに僕、望、城ヶ崎の未成年組はさすがに拒否を徹底した。
「うう……僕は姉さんのおもちゃじゃないぞーーっ!」
泣きながら日ごろの鬱憤を声高らかに叫ぶ優斗さん。泣き上戸かな?
「ああ?ざけんなよ……俺がモテないはずが無いだろ?世間の女に見る目がないだけだっつーの。あんなとんでもない妹の面倒もしっかり見ているくらいだぜ?こんなイイ男ほかにいねえだろうが」
目が据わってしまっている城ヶ崎。呑んでないはずだけど匂いだけでかな、意外だ。でもこんな姿を瑠流ちゃんに見られたら、確実に撃たれると思う。
「わははははははは!」
豪快に笑ったのは望、顔を赤くしてふらつきながら叫んだ。
僕も少しふらふらする……さすがにお酒なんて飲んだことない僕らは、雰囲気と匂いだけで酔ってしまうのもお分かりだろう。
そして、やっと僕らと行動を共にした天外さんはというと。
「………………」
一応さっきまで多少はしゃべってて、ラブラブ自慢をしてたんだけど……。
「………………」
今はやばい目つきでひたすら呑み続けています、はい。どうやら白須谷さんがいないとこの人は制御できないみたいだ、危ない人。
んで、ある意味で一番厄介なのは、まさかの人物で。
「……はあ。確かにね、この仕事は生きがいだよ。けどね、たまには休みたいと思ったりするわけ。なのにもう何から何まで任されて休みなんてほとんど無い……信頼してくれるのはありがたいけどね、まだ僕だって若いんだよ。色々他にしたいことだってあるんだよ。前の恋人なんて、仕事が忙しすぎたせいで浮気されちゃってそのまま……あうぅ…………」
ちょっと壊れかかってるこれは、なんと博也さん。施設の点検から戻ってきてお酒を一口呑んだ(呑まされた)だけでこんなになっちゃって。色々溜め込んでたんだなぁ、大人って大変だ。
「ちょっと聞いてる霧島君!?」
「は、はい!」
それで僕は博也さんに肩を掴まれグチを聞かされているわけだ。
「もっと呑め呑めーー!」
「うわーーーん!」
「くそったれーーーっ!」
「わははははははは!」
「…………………………………………」
「はあ、だからね……」
…………誰か、助けてください。
「……何、これ?」
温泉から上がり宴会場にやってきた女性陣は、その惨状に唖然とした。
「えーと、まあ……お酒が入りまして。僕らも匂いでやられちゃって」
唯一意識を保っていた僕が答える。
そう、僕以外は皆酔いつぶれて寝てしまっていた。
「嘘……兄さんはお酒なんて呑んだこと無かったのに……」
明菜が信じられないといった表情で呟く、その瞳には少々涙がにじんでもいた。
あれ、実は結構ブラコンかな?
「あー、あの人が無理やり呑ませたんだよ」
そうやって博也さんを庇う、というか明菜を慰める。あの人とは無論、有本さんである。
ちなみに、もうお酒は一滴も残っていない。
「仕方ないですわ、私たちだけで健全に宴会といきましょう」
女性陣が並べたのは、ジュースとノンアルコール飲料。
あとは呑む人用に、カクテルだ。
「あれ、神楽さんとリディアさんは?」
「うん、やっぱり先に仕事を片付けるって言って、温泉も後で二人で入るってさ。あ、でも宴会には参加したいから始める前に呼んでってことだったから、さぎりちゃんが呼びに行ってる」
こんな島まで来て仕事をしなければいけないなんて……僕も社会人になったらそうなるのだろうか?
そういえば神楽さんたちの仕事ってどんな仕事だろう?”どこでも出来るもの”なのかな?
「とりあえず、この邪魔な男どもを排除して場所の確保をしましょうなのです!」
そう言うや否や転がってる望たちを蹴り飛ばして隅に押しやる瑠流ちゃん。
やっぱり、過激だ。わ、城ヶ崎なんて後頭部を当たり前のように蹴り飛ばされてるよ、さすがに同情する。
「それにしても、宴会のつまみは一人か……ま、でもこの子ならいいか……ふふ……」
何か背筋がゾッとする笑みを浮かべ呟いた香さん。
な、なんでしょう?
「駄目よ、この子には相手がいるんだから……ね?」
「な、なんですか、西村さん!」
からかうような笑顔の西村さんとまたしても顔を赤くする楓。
「私も、東が寝ているならすることないし、この子で遊ぶのもありかな~?」
えっと……さっきからこの子この子って言われてるのって、ひょっとして僕か?
みんなの視線の先にいるのは、どう考えても僕だけだよね?
「ふふ、一人の純情少年を美女たちが取り囲み、いいように弄ぶ……えろう萌えるシチュエーションやんか~♪」
「駄目よ、私達は規制掛けなくてもいいものが中心なんだから。でも、たまにはいいかもね……」
あああ、なんか怖い事言ってるよ、如月さんと砂寺さんの作家コンビ。
ってか、規制って何さ?
「ふーん……なんかハーレムじゃないの、麻人?」
「あ、神楽さん。リディアさんも。お疲れ様です」
「どうも、お待たせしました」
宴会場の入り口でニタニタ笑いながら僕にからかうような物言いをした神楽さん。
その横にいたリディアさんはぺこりとお辞儀した、礼儀正しい人だ。
「お兄ちゃん、私もお酒呑んでいい?」
二人より先に宴会場に入ってきていたさぎりはそう尋ねてくる、しかも軽いノリで。
駄目に決まってるだろが、お子チャマめ。
「あら、興味ある?」
「うん!」
「やめてください、神楽さん……」
「ふふ、冗談よ、冗談」
そう言った神楽さん。
嘘だ、絶対本気だ、目が笑ってなかった。飲ませる気だな、しっかり見張ってないと。
「それでは全員揃ったことですし、始めるといたしましょう。どなたか、音頭を」
「あ、私!私がやるわ!」
いの一番に手をあげて立候補したのは神楽さんだ、こういうの好きそうだもんなぁ。
それには特に誰も異議は無く、それぞれのグラスに飲み物を注いで準備OKだ。
「それじゃ、この出会いが新たなドラマを生む事を期待して、今夜はぶっつぶれるまで飲みましょー!かんぱーい、チアーズ!」
こうして、神楽さんの豪快な音頭で第二次(?)宴会が始まった。




