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パンドラの箱 ~黄昏に踊る鎮魂歌~  作者: るびん
Episode2:Pray of Marionette
11/41

シーン0:手を取ったもの

 ここは、どこだ?いつも通り、夜の街を一人歩いていたのではなかったか?

 確かに辺りは闇という名の黒に包まれている。しかし、これはただの闇ではない。僅かな先も・・・無論月明かりでさえをも全く見えない完全なる闇。都会の喧騒すら闇に溶けてしまったかの様に、この耳には全く届かない。


 ――ついに、自分は裁かれたのだろうか?


「違うわ」


 誰だ?


「私は、パンドラ」


 パンドラ?あの、神話に出てくる?


「そうよ」


 はは、こりゃあいい。生きることも・・・死ぬことでさえも許されない者の前に現れたのは、同じように許されざる罪を犯した女神というわけか。なんとも滑稽だが、自分にはふさわしい。


「私は別に女神じゃないわ。それに、あなたとは違う。自分のした事に後悔はしていない」


 そんな事はどうでもいいさ、罪を犯したことに変わりは無い。


「そこまで分かっていて、どうして罪を重ね続けるの?」


 さあ?それは自身にも分からない。


「・・・悲しい人」


 悲しい?


「ええ。本当は許されたいのに、それを必死で隠そうとしている」


 なんだと?そんな馬鹿げた事を考えているはず無いだろう!?

 自分がした事に後悔はしていない!


「じゃあ、何故泣いているの?」


 ―――泣いている?


「許して欲しい・・・助けて欲しい。そうやって泣いている。その泣き声を聞いて私は貴方の元へやって来たのよ」


 馬鹿な。そんな人間の心なんて、とうに捨てた。

 許しを求めるのなら・・・助けを求めるのならば、あの時にしている!


「そう。あなたはあの時からずっと・・・泣き叫んでいたの」


 ずっと・・・?


 それは違う。

 あの時にそんな感情は全て捨て去った。

 あれから一度だって泣いていない。

 一度だって・・・そう、一度だって・・・・・・!


「自分では、気付かない。そこがあなたの最も悲しいところ」


 ・・・・・・・・・。


「今だって、無意識の奥底では助けて欲しいと泣きながら手を伸ばしているわ」


 ・・・うるさい。


「でも、表に表れるその表情はまるで人形。人の温かさは微塵も感じられない」


 ・・・うるさい。


「だけど、それさえも血の涙を流している・・・・・・」


 うるさい、うるさいうるさい・・・うるさいっっっ!


「どんなに罵声を吐こうとも、それは泣き声と変わりない。そこまで助けを必要としているのに、どうしてそれを否定するの?」


 そんなこと知るか!

 そんなこと、そんなこと・・・っ!


「チャンスを、あげる」


 ―――チャンス?


「ええ。あまりに惨めで可哀想なあなたに、たった一つのチャンスをあげるわ」


 意味が分からない。


「分かってしまったらそれこそ意味が無いわ。それにあなたが自分で気付き、受け入れること」


 どういう・・・ことだ?


「そうすれば、あなたはきっと救われる」


 救われる?そんな・・・そんなことがあるものか!

 この、全てを失った自分に、救いなど・・・無い・・・・・・。


「全ては、あなた次第。あなたの行動次第で未来は変わる。そして・・・必ず救ってくれる人がいるから、大丈夫」


 何を言っているんだ?

 失ったものは取り戻せないのに?

 罪を償うことさえ出来ないのに?

 救ってくれる人・・・?そんなの、いるわけがない。


「それじゃ、ね。もうそろそろ二つの時間が動き始めるから」


 ま、待て!おまえは一体?


「言わなかったっけ?私はパンドラ。そして、私が開けた箱から飛び出したのは人々の苦痛と災い。しかし、箱の底にはたった一つだけ残ったものがあった。それの名は、エスペランサ」


 エスペランサ・・・希望?


「願わくは、あなたにとってエスペランサが救いとなりますように・・・・・・」




 気が付くと、パンドラの姿は消えていた。そしていつも通りの夜が再びその息を吹き返す。

 だが、一つだけ異なっていた。

 はたから見たら、大したことじゃない変化。だが自分からしたら・・・ありえない変化。

 目の前で見知らぬ女が、こちらの目をじっと見つめたまま立ちつくしていた。


 それはそう、まるで―――マリオネット―――。

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