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転がる男、転がる女  作者: 下之森茂
4/7

04 焼畑農業

この会社は問題が多い。



会社がパートを(やと)っているのは、

専務(せんむ)との不倫(ふりん)奨励(すいしょう)するためではない。



当然、人手を必要とするためだが、

商品の梱包(こんぽう)以外にも発送伝票の作成を

手書きで行うのは時間がかかり、

書き(そん)じや伝達(でんたつ)ミスも発生しやすい。



そんな理由で、管理者の阿畑(あはた)(かい)する

確認作業が工程(こうてい)(ふく)まれている。



しかし(だれ)(かい)したところでミスは(しょう)じる。

ミスのない人間なんて存在しない。

手書きにこだわる必要もない。



もう古い会社なので機器の導入(どうにゅう)(おく)れ、

おざなりにした結果といえる。



そんな阿畑(あはた)が問題を起こした。



と、決めつけるのは良くないが、

阿畑(あはた)(きら)ったパートたちが

一斉(いっせい)()めてしまった。



発端(ほったん)は在庫の不一致(ふいっち)であった。



それをパートのせいと決めつけ、

阿畑(あはた)は自分の責任を無視した。



よくある在庫トラブルだが度々(たびたび)社員や経理(けいり)が、

愚痴(ぐち)陰口(かげぐち)をパートから聞かされ続けた。



まずこれが根本的に間違っている。

愚痴(ぐち)陰口(かげぐち)解消(かいしょう)する問題など存在しない。



在庫については俺も確認しているが、

注意力に()ける阿畑(あはた)(かい)してはいないので、

原因は別にあると推測(すいそく)した。



もちろん、パートが辞めたくなる要因(よういん)

ほかにもなにかしらあったのだろう。



人間関係のいざこざ以外なら、

他所(よそ)のほうが給料がいいとか?

それならば、遅かれ早かれである。



社員の阿畑(あはた)と、大勢(おおぜい)のパート、

どちらを擁立(ようりつ)するかといえば、

会社は決まって社員を優先する。



該当(がいとう)社員に()がなければの前提(ぜんてい)



しかし残ってくれたパートの

作業の負担(ふたん)も早めに軽減(けいげん)解消(かいしょう)

しなければいけない。



丸井くんに穴埋(あなう)めして(もら)い、

俺がひとりで商品の集荷(しゅうか)(まわ)ることになった。



阿畑(あはた)の仕事量が増える点については、

自業自得(じごうじとく)と思って貰おう。



パートの募集から採用までは

時間がかかるので、俺はこれを()

いままでやっていた手書きの発送伝票を(はい)し、

専用機器の導入を新たにゴリ押した。



社長の(せがれ)という外から来た人間が、

権限(けんげん)で現場を混乱(こんらん)させるのはよくある話だ。



発送伝票を専用機器で印字(いんじ)させる作業は、

覚えてしまえば(むずか)しくはない。



専門知識や、高額なリース料が必要でもない。

こんな作業はだれでもできる。



パートで伝票を作成していた工程が、

受注担当が伝票を作成するようになったので、

まぁ、(しぶ)い顔をされたが、専務に相談(そうだん)して

給与を少し上乗せするようにした。



ありがとう、専務。



そんな業務改善をしたところで

俺の給料が上がるわけもなく、

仕事は増えるばかりだった。



迷惑(めいわく)ついでにもうひとつ。

専務にあるお願いをしたら、

彼まで渋い顔をした。



「僕もこんな卑劣(ひれつ)な手段、

 使いたくありませんが…。」



俺はスマホの画面を専務に見せた。

専務に書いてもらった例の誓約書(せいやくしょ)の写真。



スマホをひったくって画面に食い入るが、

マムシに()まれた犬のような顔をして、

とても(こころよ)く引き受けてくれた。



ありがとう、専務。



いくら相手を信用したところで、

他人は自分の思い通りには動かない。



それならば信用の有無に関係なく、

利害関係で動くように仕向けるしかない。



こうやって出しゃばるので、俺の仕事は

雪だるま式に増加と変化を繰り返す。



増やした仕事で関係各所を連携(れんけい)させるべく、

さらにあちこち回るようになった。



雑用に変わりはない。



 ◆ 05 重力の井戸 につづく

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