第二章「王都ヨキフ」 2話
2章の2話目、王都編もじわりじわり。
翌朝起きて見た空は薄曇りで涼しく、窓から流れ込んだ風に思わずブルッと震えてしまう。
荷物運びの日に雨が降らなくて良かった。
「今日大荷物を抱えて出て行くって云う事は、やっぱり魔導学院の新入生さんなんだね」
宿で朝食を済ませて部屋から荷物を降ろして来た僕に女将さんが声を掛ける。
「はい、お世話になりました。今日から学生寮に入ります」
「宿の泊まりと寮生活かい。品は良さそうだから永代貴族のお子さんみたいだけど、王都に屋敷も無いようなら田舎の騎士か準男爵家だね。学院で頑張って出世できるといいね」
おお、鋭い読みだ。
と云うより王都の常識なのかな。
「ありがとうございます。では、行ってきます」
「あいよ。また何時でもおいで」
女将さんの気持ちのいい豪快な笑顔を背に、僕は大きな荷物を担いでヨキフ王立魔道学院に向かった。
身の回りの品だけにしたのにやはり一人で運ぶのは大変だ。
トラ君撃退に使った纏う魔法は強度を上げるとまだ長続きしないので荷物は物送系魔法で持ち上げるようにしている。
*
「おはようございます。今年推薦入学のフィンリー・ベルナードです。今日から寮に入れると聞いて来ました」
門衛の一人に声を掛けた。
「おはようございます。右奥の四角い建物が学生寮です。玄関横の寮監室にウォルナットさんが居ると思いますので指示に従ってください。今年はあなたが一番乗りですよ」
「ありがとうございます。これからもお世話になりますのでよろしくお願いします」
反対側の門衛さんにも頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願いします。こんな格好をしていますが我々はただの雇われ衛士ですのでもっと雑なあしらいでも気にしませんよ」
騎士の様な制服を見て僕が勘違いしたと思ったのかな。
「僕もまだ成人前で正式に貴族に成れるかどうかも判りませんので。それでは」
そう言って学生寮に向かう。
「おはようございまぁす」
玄関は開いていたので顔を突っ込んで声を掛ける。
「入学予定のフィンリー・ベルナードです。寮監のウォルナットさんは居られますか」
少し待つと寮監室のドアが開いて30前後に見える男性が台帳を持って現れた。
「フィンリー君ねぇ、魔術科の推薦組か。君の部屋は4階の2号室だよ。ちなみに男子は右の階段だ」
「ありがとうございます」
「1階は食堂や集会所などの共有スペース、2階が3学年、3階は2学年。4階は大変だけど1学年の間は我慢だね。部屋は広くは無いが全て個室。1階は共有だけど2階から上は男子と女子で完全に区切られている」
「はい」
毎年男女比はほぼ半々と聞いている。
学科が4つあり、それぞれ定員が16名で1学年64名。
王都に家や別邸がある者は入寮しないのでここに入るのは男女20名ずつ位かな。
「朝食時間は5ド40トニから6ド25トニまで、夜も時刻は同じ。寮費に昼食代は含まれないので朝のうちにチケットを買って寮で食べるか外食だね。昼休みは9ド75トニから1ドニまでだよ」
~聡さんの解説タイム:面倒な人は読み飛ばしてね~
学年の表現について
ウォルナットさんが言った1学年2学年と云う表現だが僕に全く違和感は無いが僕には学年の数を数えている様に感じるらしい。
こちらでは皆こう呼ぶのだけど。
因みにこちらで学年の数を数える時はひと学年、ふた学年、ぜん学年。
3つで全学年になるのはそれ以上の学年を持つ学舎が存在しないからだ。
時刻の表現について(過去の解説と重複あり)
こちらの世界は月齢に関わる年月日と神の名を模した曜日以外は基本的に10進法だ。
ちなみに1日の呼び方は1テア。
時に当たるのがドニで、分がトニ、秒はセト。午前午後の半テアが10ドニで、1ドニは100トニ、1トニが50セトである。
元々は10ドニを1テアとしていたが、1ドニと1トニが長くて使いづらかったので、午前と午後をそれぞれ10ドニに変えたそうだ。
1セトは短くなり過ぎるので元の単位のままなので1トニは中途半端な50セトになった。
ドニとトニを続けて言う場合は『〇ド□トニ』とドニのニを省力する。
地球の時間にすると1ドニが72分、1トニが43秒強、1セトが0.9秒弱だ。
なので『5ド40トニから6ド25トニ』は地球では『6時30分から7時30分』、『9ド75トニから1ドニ』は『11時42分から1時12分』と云う事になる。
完全に翻訳すると半端な数字ばかりが多くなるので、時刻は適当に端折って地球時間で表現する事にしているが、一度説明の為にこちらの表現を使ってみた。
~解説タイム終了~
朝食と夕食が6時半から7時半まで、昼休みが11時40分から1時10分までか。
「他の事は入学時に説明があると思う。もう部屋に入っていいよ。皆と仲良く、問題は起こさないようにな」
「はい、相手次第だと思いますが気を付けるようにしますので、よろしくお願いします」
「うむ」
荷物を抱えて右側の階段を上る。
大勢が使えるように階段は広く作られているが、荷物を抱えて上るのは魔法が無いときつい。
「荷物を一度に上げるのは無理だろう……おっと、魔法かい? 流石に推薦組なだけはあるな」
階段を上がる僕の背にウォルナットさんが少し感心したように声を掛けた。
「はい、まだ授業も無いし今日は魔力を使い切っても大丈夫でしょう」
充分余裕なのにそう答える。
魔導学院だから魔法を使うのは問題ないだろうけど、魔力量や詠唱習熟100については知られない方が良いと思う。
少なくとも最初の内はね。
2階3階には人の気配もしたけど確かに4階には誰も居そうにない。
一番乗りに間違いは無いみたいだ。
一番手前の向かい合うドアを見ると『23』『24』の表示がある。
という事は、2号室は廊下の一番奥だ。
荷物は魔法で何とでもなるが抱えて歩くのにうんざりしていたので、廊下の奥まで30m近くを跳んだ。
誰も居ないからいいだろう。
部屋は間口2m強奥行が5m程で日本の6畳間位の広さかな。
窓際にはベッドが、その左手前の壁に机と箪笥が作り付けになっている。
箪笥からドアの横まで丸い棒を渡してあるのはハンガー等を掛けるようにしてあるのだろう。
荷物を解いて箪笥にしまい込み、入らない物は丸棒の下に纏めた。
最後に小物を机の引き出しにと、一通り整頓したところで昼になった。
「いってらっしゃい」
「行ってきます」
門を出ると門衛さん達が声を掛けてくれた。
お昼の当てが無いので外出する事にした。
誰にも会わなかったので申告はしていないけれど、日頃から外食可なのだから問題ない……だろう。
王城を背にして少し歩くとちらほら看板が見える。
とりあえず一番近くの飲食店に入ってみた。
「いらっしゃい。空いてる席どこでもどうぞ。お昼は定食だけです」
若いウェイトレスの声に軽く手を上げて窓際のカウンターに掛ける。
代金を準備していると程なく料理が運ばれて来た。
「兎肉と根菜の煮込みです」
固そうなパンが2つ添えられている。
学生も来るからか広場で食べた物より割安な感じで味も悪くない。
また来てもいいな。
これからの予定を決めていないので食べながら考えていると昨日の夕食を思い出した。
『そうだ探究者ギルドに行ってみよう』
王城の近くを通って探究者ギルドに向かう。
昨日ほどの快晴とは行かないが昼になって薄曇りも晴れて来た。
王城の庭園は遠目にも綺麗だ。
王都はベルナード騎士爵領から400km程北上するので比べると随分涼しい。
春の陽射しがあるのに僕には肌寒く感じる。
『冬になるとウォムの魔法を使いすぎてしまいそうだ。』
そんな事を考えつつ、体を温めるよう足早に歩いて探究者ギルドがある広場へとやって来た。
広場はお昼を取りに屋台に群がる人々でごった返している。
昨日は少し早めだったので空いていたのだろう。
探究者ギルドの扉を開ける。
右手側にカウンターがあり、その奥は職員の仕事場のようだ。
カウンターで数人の職員が受付をしている。
扉から左手は丸テーブルが乱雑に並べられている。
食事をしている者も多いが、飲食を提供する様には見えないので屋台からの持ち込みだろう。
左手壁際に奥から上がる階段があり、正面の壁にはいくつかの掲示板が並んでいる。
掲示板に何が貼られているのか見ようと奥へ進むと階段上り口近くのテーブルで串焼きを食べている探究者たちの会話が聞こえた。
「聞いたか?あの山の主を追っ払った子供がいるって」
「山の主ってあの大トラかい?」
「ああそうだ。あの小山のようなトラだよ。俺は一度遠目に見たことがあるが……あまりに凄くて直ぐに馬を返して逃げ出したよ」
「一頭同士なら中層の魔獣よりもずっと強いってゴールドの奴等が言ってたそうだ」
「ゴールドが言ってんなら違いないだろうがぁ、そんなのを子供が追っ払ったなんてあり得ないぜ」
「でもな、駅馬車の御者が見てたってよ。侯爵領のギルドマスターが確認したそうだ。何でも王立魔導学院の新入生らしいぞ」
えぇぇ、そんな事まで調べるんですか探究者ギルドって。
バレたら困るんですけど……たぶんね。
「魔導学院ってことは魔法でやっつけたのかい?」
「いや。魔法も使ったらしいが、追っ払ったのは武術だとさ」
「へぇ。なら、子供って云っても大人以上の体をしているんだろうよ」
「あぁ、そうだ。よっぽどの大男でもないと無理な話だな」
よしよし、是非そちらの方向で噂を広めていただきたいものです。
お読みいただきありがとうございます。
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