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第一章「辺境の開拓地」 17話

 冬の間に僕は炭焼き窯を作った。

以前皆で食べた遠赤外線調理の猪が好評で『『『また食べたい』』』の声が多かったので、領民の皆が魔力が無くても作れるようにしたのだ。

炭は使ってみると薪と違って煙が少ないのでそう云う意味でも奥さん達に好評だ。


 相次ぐ募集で領民はとうに100家を超えている。

遠いと思えた準男爵へもう半ばを過ぎた。

仕事の組は6~7家18組で回っている。

父上達の休みはカディ(虚空神の日)で固定になった。


 仕事の組も増えたので炭焼きと養蜂が仕事に組み込まれることになった。

養蜂も冬の間に兄さんへ引き継いだ。

ここは寒くならず一年中何かしら花が咲いているので蜜蜂も元気だ。

初めていくつもの巣箱を見た時は固まっていたけれど、養蜂の仕組みを理解すると意気揚々と取り組んで領民への割り振りを決めた。

どうやらこれも領地の産業の一つと捉えたらしい。

まあ、開拓が進んだと言っても森はまだまだ広いからもっと巣箱が増えても大丈夫だと思う。


 ひょっとすると木炭や木酢液も売り物にする気なんだろうか。

木酢液を大量に作れるようになったので、使い方を領民達に教えた。

薄め方で効果が変わるから間違えないように念入りに。

麦畑や綿畑で活躍してくれるといいな。

兄さんならそのうち森の菜物類の栽培も始めそうな感じもするし、そちらにはもっと使い出があると思う。



 忙しいが天地流の鍛錬と森の探索は怠らないように頑張っている。

今のうちにカテリナの天地流と魔法をできるだけ底上げしておきたい。

と云うのも彼女に行儀見習いの話が出て来ているからだ。

綿の栽培が上手くいけば領内は農業だけでなく紡績や機織りの手が必要になり一気に領民が増加する可能性が高い。

先々父上が男爵になれば家宰のジョルジュさんは確実に貴族になる。

だから、今のうちにカテリナに貴族令嬢の行儀見習いをさせておこうと云うのだ。

カテリナがここに居なければ僕は領内の探索に拘る理由が無くなってしまう。

ジブリット辺境伯様から探索自由のお墨付きをいただいたので、成人まで辺境伯領の隅々を探索して回るのもいいな。



「うぉお、これが海か」

今日は兄さん姉さんを連れて海まで来ている。

僕とカテリナがあまりにサクサク獣を撃退するので二人ともあきれ顔だ。

冬も暖かいとは云っても海に入るには涼しすぎるし、今日は仕事だ。

自生している綿を観察して畑の種まきの参考にするのだ。


「海がキラキラして綺麗ね」

 とは云え姉さんは観光気分満々だ。

「夏はもっときれいですよ」

カテリナが追い打ちをかける。

「春を過ぎれば泳げるのよね。兄さん、種まきが終わったらみんなで泳ぎに来ましょう」

「こらこら、今はとにかく仕事だ。フィンリー、向こう岸にはどうやって渡るんだい?」

アリバイ工作は完璧なのだ。

何度も通っているうちに頑丈な筏を組んで置いてある。

潮に流されないように林の近くまで上げてあるが、魔法で運ぶので問題はない。


「これに乗って魔法で進むんだよ」

「なるほどな」

 4人で物送系を使えば海に浮かべて対岸まで進むのは簡単だ。

あっという間に対岸に着く。

「向こうに見える岩場の手前です」

「岩場に可愛いのが一杯居るんですよ」

またカテリナが姉さんの遊び心をくすぐる。

「私たちはそっちを見ましょうか。何か見つかるかも知れないし」

はいはい、ご自由にどうぞ。


「お、ここだな。ああ、こんな風に生えているのか。地面は水はけが良さそうだな。麦畑より砂が多めの方が良さそうだ。一本ずつの間隔は……」

 兄さんは真剣に観察を始める。

「フィンリー、この間隔で種を蒔けばいいと思うか」

「どれくらいの種が発芽するか分からないので今年は一か所に2,3粒ずつ蒔いて、全部芽が出たら植え替えるのがいいかも知れません」

「そうだな。初めてだから手間が掛っても慎重にしないとな」

「多年草なので根付いてしまえば何年かは収穫できるでしょう」

「そうなれば毎年畑を拡げられるな」

「万一今年が上手く行かなくてもここの自生種が絶えなければやり直しが効くしね」

「そうだな。でも失敗はしたくないよ。これを見込んで領民も多めに募集しているし」


「兄さん、そっちは片付いたの?」


 姉さんが戻って来た。

「ああ、もう大丈夫だよ」

「見て、カテリナの言う通りすごく可愛いのよ」

オットセイ(だと思う)の群れを指して姉さんが言った。

「本当だ。向こうで群れている鳥も初めて見るな」

そちらを見渡して兄さんが答える。

「夏までに泊まれるように準備が出来れば、姉さんが言うように家族皆で来るのも悪くないよね」

さあ、そろそろ帰る時間だ。


 帰りもサクサク進む。

この森ではもうカテリナに敵う獣はいない。

僕が手出しをする必要もないけれど、あまりカテリナが目立つのも問題なので僕がほとんど追い払っている。

「カテリナもあの仗術を使うのかい?」

「うん、少し教えてある。騎士に教える程まとまっていないけど、カテリナは素人だから少し位ならね」

訊いたものの兄さんは武術で僕に勝とうと云う気はとっくに失せたみたいで、興味がある訳ではないようだ。

「あまり強くなるとお嫁さんに……は、心配ないのよね」

姉さんが意味ありげにこちらを見る。

「カテリナが行儀見習いに行ってお嬢様になるのはいいけど、フィンリーがそれまでに永代貴族になっていないとバランスが取れないな」

なんだかすごく居心地が悪い。

カテリナは全然頓着しないようだけど。

「まあ、領都で武術を教える事になれば、即綬爵だろうから心配はいらないさ」

兄さんがようやく話を落としてくれた。


今日は森の小屋には寄らず直接家の方に向かう。

ジョルジュ宅の前でカテリナと別れた。

今夜は家族水入らずだ。

「「「ただいま!」」」

「おかえりぃ」

クルスが出迎えてくれる。

「海はどうだった?」

「とっても奇麗だったよ!」

やはり仕事よりそちらが先だ。

「「おかえり」」

父上と母上が部屋から出て来た。


「綿の方はどうだ。何とかなりそうか、エルナス」

「はい、もう調べる事は残っていないと思います。あとは実践で試して行くだけです」

「期待している。だが初めての事だ、先は長いので気負わないでやるんだぞ」

「はい、慎重かつ大胆にです!」


 夕食は盛り上がった。

思えばこの何年かで我が家の食事情は随分改善されている。

母上も姉さんも随分料理が上手くなったものだ。


 年が明ければ僕も13歳だ。

成人まであと3年、そろそろ身の振り方を考えないといけない。

「父上、僕は父上のように家を出て身を起こしたいと思います」

「家が大きくなればお前にも綬爵の話が出てくると思うが」

「その時は僕よりクルスを優先してください。兄さんにも言われましたが、ジブリット家で武術を教える事も出来ると思いますし」

「ありがとう、フィンリー。あなたが独立出来れば、先々領民を家臣に取り立てる事もできるかも知れないわ」

母上が父上と頷きあう。

「それでこれからどうする?成人までどう過ごすかが大事になるぞ」

「はい、辺境伯様から許しも得ていますので辺境伯領を探索して回ろうかと思います」

「うむ、それも悪くないが……どうだ、学校に行ってみないか」

「学校ですか?」

「確かにお前は強い。しかし世の中にはもっと強い奴もいるぞ。この辺境でうろうろするよりも、公爵領都や王都で色々な人に会えばそれだけで視野も広がり研鑚にもなるだろう。それにはお前の年ならレベルが高い学校に行くのが一番手っ取り早い」

「そうですね。その方面には全く知識が無いのですが、どんな学校があるのでしょう。」

「やはり王都ヨキフにある『王立魔導学院』が一番だろうな。あとは両公爵領にそれぞれ領立の学園があったはずだ」

「どうすれば入学できるのでしょう」

「辺境伯様の推薦をいただければ間違いないだろう。お前が望むならお願いしてみるが」

「はい、是非お願いします」


『ヨキフ王立魔導学院』推薦は貰えるのだろうか。

 王都……全く考えもしなかった前途に久し振りに心が沸き立っている。

最後までお読みいただきありがとうございます。これからも応援お願いします。

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