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第一章「辺境の開拓地」 14話

本日2回目の投稿です。今日初めて方は13話からどうぞ。

「この前は遠くからの景色が凄く良かったけれど、こうして近くで見るともっと奇麗だね」


 カテリナの声が弾んでいる。

早朝から馬に乗って森から川沿いを通って来た。

海まで辿り着くのは今日が初めてだ。

休憩を含まずに常歩なみあしで4時間、片道30km近くを移動したことになる……とは言えまだ昼前だ。


 まず河口付近に獣の類が居ないかを確認する。

小動物以外居ない事が分ったので木陰に2頭の馬を繋いだ。

水は川で十分飲ませておいたから木陰の下草で小腹を満たしてくれるだろう。


「まず河口付近を調べないとな」

「そうだね」


 ヤシの実はこちら側、つまり川の西側の海岸に流れ着いたんだろう。

海岸から河口にかけて点々と育っているが河口の対岸ではごく僅かだ。

広い河口をヤシの実が渡れたのはつい最近なんだろう。

そんな風に遅々とした歩みで川岸を遡って増えて行き、僕等に出会うにはいったいどのくらいの年月が必要だったのだろうか、感慨深いものがある。


 河口付近の海岸は白い砂浜だ。

河口の幅は30m近く、普通なら船が無いと渡れない幅だ。

浜辺に移動して海に目をやるとかなり遠くまで砂の白さが透けて見える。

随分と遠浅な様で『リゾートビーチに打ってつけだな』と思うが、まず『リゾート』を根付かすのが大変だろうね。


 河口にも近くの浜辺にも特別目を引くものが無いので浜辺を西に進んでみる。

300m程砂浜が続いていたがその先は磯になっている。

ごつごつした岩肌が聡の記憶を刺激して磯の生き物達の情報が蘇った。

少し入り込んで観察すると聡の世界とそれほど変わらない生態系が窺えた。

『よし!海の幸パート1ゲットだぜ。』

某大人気ゲームのアニメ版初期主人公みたいな言葉を呟きながら、ふと思った。

『僕は泳げるんだろうか?』


 聡はスポーツ全般が苦手だったが、唯一人並みに出来たのが水泳だった。

水との親和性が高かったのか、幼い頃から水への恐怖心が湧く事無く海も川も平気だった。

競泳の記録などはあくまでも人並だったが他のスポーツは酷い成績なので、それに比べれば群を抜いていたと云える。

特に潜水時間や潜水中の活動についてはダントツの結果で周りを驚かせたのだが競泳の記録が人並では水泳部等に誘われる訳もなく、聡の水泳人生は高校卒業と共に終わりを告げた。

それ以後45年以上泳ぐことは無かった……のに、僕の心は沸き立っている。


「カテリナ、そこで待ってて。あっ、こっち観ちゃ駄目だよ!」

 僕は衣服を脱ぎ棄て岩場から海に飛び込んだ。

カテリナが観ていなかったかどうかは、どうでもいい。

飛び込んだ先は海の楽園だった。

やはり水への抵抗感は皆無で聡より自由に動かせる体は海の中を自在に動き回る。

天地流を介して無意識に魔力を使っていたかも知れないなぁ。


 磯には魚や貝や海老や蟹など食材になりそうな生き物がひしめき合っていた。

確か貝や蟹には毒を持った物がいる筈なので、万一を考えて海老と背の青い魚を捕まえ──漁の道具が無いので天地流と魔法でズルしましたけど──お昼の食材にした。


「美味しいね。見た時は食べられるって思わなかったけど、また食べに来たい。皆にも食べさせたいね」

 僕の裸の事は口の端にも上がらなかった。

「陸の食材、動物の肉なんかはいぶすと美味しくなる物が多いけど、海の恵みは干すと旨味が増す物が多いんだよ。」

『捌いた魚はまだあるので一夜干しにして明日の朝食べさせてみよう。あぁ……御飯が無いのが惜しいなぁ。』


 ちなみに海の中にも磯近辺にも特に危険な存在は居なかった。

磯での昼食を終え、今日はもう帰ろうかと河口に戻る。

まだ昼過ぎだ。

時間はあるので辺りを見回していると、少し気になる事が。


「あれぇ、あっちに何かいるみたいだ」

「え、どこ?」


 対岸の砂浜が途切れる辺りがこちらと同じような岩場になっているんだけど、そこで何か動いているのが見えた。

「あ、ほんとだ。動物の群れみたいだね」

「気になるから見に行こう。どのみち川を越えないといけないからあそこまで跳ぶよ」

カテリナが掴まると岩場の手前まで一気に跳んだ。


 岩場には黒い動物が群れていた。


「オットセイかな?」

「オットセイっていうの?」

「僕が知ってるアシカやオットセイの仲間だと思うけど、別の呼び名があるかもね」

「ふーん。でも何だか可愛いね」

「そうだな。驚くとかわいそうだから近づくのは止めておこう」

「うん」

少し離れて海鳥が群れているのも見えた。

彼らにはこちらの岩場の方が良い漁場なのだろうか。

「次に来る時もここへ見に来ようね」

その日はこれで帰る事にした。


     *


 あれ以来何度も海へ来ている。

西の磯を越えた処に塩田を造った。

奇麗な砂浜でも極端な磯でもなく開発するのに罪悪感は感じなかった。

勿論海水があれば魔法で塩を作る事は簡単だ。

でも魔力の少ない領民でも運営できる物が出来ればいいなと思った。

昼前後だけの片手間仕事なので完成するのに半年以上が必要だった。


 仕事の合間にカテリナのリクエストでたまにオットセイを観に来る。

「やっぱり可愛いね。皆にも見せてあげたいよ」

「そうだな。うん、こっちへ跳んだついでに少し調べながら戻ろう」

周りを見回しながら河口方向に歩き出した。

「あ、花が咲いてるよ」

クリーム色の花を付けたかなり背の高い草が群生していた。

花の中心は明るい茶色で……この葉の形、聡の記憶に引っ掛かりそうだ。


「どうしたの?」

「うーん、何だか分かりそうなんだけど……」

『ネットかな……TVかな……うーん。そう!』

「綿だ!」

「綿?」


 TV番組で男性アイドルグループが育てているのを観てネットで調べたんだった。

いろんな品種があって、花の色や葉の形にも違いがある。

この品種は花びらの色が中心で変わっているのと葉に深い切れ込みがあるのが特徴の『和綿』……違う品種だと特徴が判りづらくて気付かなかったかも知れない。


 もちろん『和綿』そのものではないだろうけど、これだけ似ていれば間違いなく『綿花』ができる筈だ。

TVで観た畑では1m半位の高さだったけど、こちらのは自生で越冬しているから大きくなっているんだろう。


「カテリナ、凄いぞ!木綿が作れるかも知れない」

「木綿って何?そんなに凄いの?」

「ああ、この花が萎んで暫くすると『綿花』が成る筈だ。白くてふわふわしてるんだけど、それを紡ぐと木綿糸が出来て、木綿糸を織るといい布ができる」

「麻よりいいの?」

「そう、麻よりずっと肌触りが良くて、動物の毛を紡いだ糸とは風合いの違う綺麗な衣を作れるんだ」


 こちらの衣服は毛皮かなめし皮、ヒツジなどの毛織物、麻織物が殆だ。

ここは温暖なので麻布で充分なのだが如何せん肌触りが悪いので、余裕がある人達はなめし皮や毛織物も使っている。

「楽しみだね!どの位待てばいいの?」

「何週かだと思うけど、そこまで詳しく分からないから何日かおきに見に来よう」

結構広く自生しているから上手く収穫できれば紡いだり織ったり、色々試す事ができそうだ。

コットンボールを収穫すれば種も手に入るから領内で栽培もできるだろう。


     *


「この前来た時は綿の房が硬かっただろ。ほら、今日は房が伸びて柔らかく垂れ下がってる。収穫に丁度いい感じだよ」

「ほんとだ、柔らかくなってる」

 花はあの後直ぐに萎れ、何度か通ううちに小さな実が出来て、段々と大きくなって皮が弾けたのがこの前だ。

今日はまさに絶好のタイミングだ。


「房の根元にあるがくからそっと抜き取るみたいに摘むんだよ。萼まで一緒に摘むと後で掃除が大変だからね」

「はぁい、こんな感じ?」

「上手い上手い、摘んだら麻袋に入れよう」

「分かった」

先日の様子から今日の収穫を見込んで麻袋を沢山持ってきた。

兄さんと姉さんに借りた馬は帰りの荷物用だ。


 最初は慎重に摘むが、暫くすると馴れてくる。

天地流のおかげでこんな作業も正確に素早くできる気がする。

見る間に一杯に膨れた麻袋が増えて行き、昼過ぎには作業が終わった。

全部摘むと自生に影響するかもしれないので全体の五分の二ほど摘むだけにしてある。


 あとは大量の麻袋を2頭に積み分けて出発だ。

カテリナを夕方には帰らせたいのであまり時間が無い。

持ってきたパンに齧りつきながら麻袋を馬の背に振り分けできるように結び合わせる。

パンを食べ終わり、荷袋を馬の背に載せていくと見た目はすごい量になった。

もちろん見た目だけなので馬は平気だ。


 この前通った時念入りに獣をやっつけておいたので、行きも帰りも順調に進む事が出来る。

僕等だけなら獣が出ても問題ないけど、荷馬が一緒の時は慎重にしないとね。

予定通り戻る事ができたので麻袋を小屋に放り込む余裕がある。


 その後カテリナを家まで送り、兄さん達の馬を返してその日の予定は無事完了した。


お読みいただきありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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