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第一章「辺境の開拓地」 12話

今日はいつもより遅くなってしまいました。金曜は遅くなる場合が多いと思います。もし、万一、待って下さった方がいたら申し訳ございません。

「うわぁっはっは。ランドルフ、それにしても先程のお前の顔は見ものだったぞ」

「ご勘弁ください。あのような事を子供達にお尋ねになるとは思ってもおりませんでしたので」

食事を共にして父上の呼び名が家名から『ランドルフ』に変わっている。


 昼食には辺境伯婦人ルディーネ・フォン・ジブリット、長男アルベルム、アルベルム夫人ユリアナ、アルベルム長男ケントリオ、長女マリアーナ等の参加となった。

アルベルム様は長男だが末っ子で二人の姉は嫁いでおられる。

ケントリオ様はエルナス兄さんの一つ年下で今年のヨキフ王立魔導学院主席合格を目指して研鑽中、マリアーナ様は10歳でアメリア姉さんの一つ年下だ。


「ベルナード卿、こちらへの道中で狼の群れを一蹴したそうだね」


 アルベルム様が父上に話しかける。

「始末を託された騎士隊長に聞いたよ。子牛のような大型3頭を含む6頭の群れだったと」

アルベルム様は父上と年も近く、話が盛り上がっている。

「わしも聞いたぞ。さすがに『例のベルナール家』一族の者だな」

そこからは『ベルナール家』についての話になった。


「おじい様、『例の』とは何の事なのでしょう?」

 ケントリオ様が問う。

「ベルナール家は王都の騎士爵なのだが、下手な伯爵家よりよほど力があると言われておる」

「いえいえ、とんでもございません。噂話に過ぎませんので本気になさらないで下さい」

父上の言葉を受け流して辺境伯は続ける。


「パノン王国建国時にベルナール家は高位貴族にと王家から推されたのだが、政争や何だに巻き込まれるのを嫌って騎士爵位にこだわったそうだ。その後も代々陞爵の打診を固辞し続けているらしい」

「そんな貴族がいるのですか。信じられない……驚きです」

「それだけなら唯の変わり者だがな。騎士爵家なので家を継げるのは一人だけ、騎士爵家ではあぶれ者に爵位を与える事はできないよな、アルベルム」

「その通りです。父上」

「次男三男は当然家を出て身を立てるしかないのだが、驚くべきことにその殆どが成功しておる。」

「そうなのですか」

とケントリオ様。


「パノン王国の伯爵家以上の領地にベルナール家に連なる者が居なかったのは今や我が領地だけだった。

他の王国に出た者も含め、騎士爵家の分家に子爵男爵家が山のようにおり、全てがベルナール家を本家として敬っておるのだ。

そんな一大勢力にはどんな伯爵家も敵わんわ。儂らは『例のベルナール家』と呼んでおるが、王都宮殿周辺では『あのベルナール』で全て通じる程有名な一族だ」


 父上は身の置き所も無いほど恐縮しているが、母上姉上ら女性陣はなぜか胸を反らして誇らしげだ。

「そしてこの度ランドルフが我が領地で身を立てた訳だ。わしにはランドルフがベルナール家を出た者の中でもこれまでにない逸材だと感じられた」

「それが陞爵の儀でのあの話に繋がるのですね、父上」

「そうだ」


「長男はエルナスだったか。もうすぐ成人であろう。何か取り組みたい事など考えているのか?」

「はい、父は麦畑の開拓で身を立てましたので、私は別の事に取り組む事が出来ればと思います」

「ほう、具体的には?」

「開拓はこの地の基本ですので、できれば新たな作物の導入を。また、当家の家宰が商家の出でして、その繋がりで取引できる物を生産できるよう耕作以外の事にも取り組みたいと考えています。ですが、まだ考え始めたところで具体的な物は何も決めておりません」

「そうか、陞爵の条件は何も農地の開拓だけではないぞ。先は長いからな、何をするかはじっくり考えるのも良かろう」

辺境伯の言葉は暖かく響く。


「ところでフィンリー、先程の問いもう一度繰り返すが、お前には何ができる?」

「はい。今初めて兄の考えを聞きましたので。まず、領地の内外で兄に提案できる物が無いか探索しようと思います」

「その年で探索をか」

「辺境伯様、兄は父と同じ位強いのです」

クルス、余計なことは言わなくていいから。


「ランドルフ、おぬしは開拓受付の審査で騎士隊長と遜色ない強さだったと聞いたが」

「はい、仰る通りです」

「この体格で、そのおぬしと変わらぬとは本当か?」

「力に依らず私の剣を受け流し懐に入り込まれて危うく鳩尾を突かれるところ、辛うじて力業で突き飛ばしました。私が学んだものとは太刀筋が異なりますので、自分なりに研鑚したのかと」

「面白い・・。アルベルム、騎士隊長には勝った事があったな」

「はい」

「少しフィンリーと手合わせしてみないか」

「私も少し興味が湧いて参りました」

何ですって、止めてください。

強い人相手に手加減できるほど天地流極めてませんから、ホント。


 有無を言わせず手合わせをする事になってしまった。

いや、慣れない剣だと本当に危ないので

「鍛錬用の槍をお借りできるでしょうか」

鍛錬用の槍は穂先が無いのでほぼ長めの仗だ。

よぅし、剣と仗との手合わせに持ち込んだ。


「槍の構えとは違うようだね」

「自己流ですので恰好が付かず申し訳ありません」

中庭には多くは無いが人も集まって来た。

辺境伯様直々指名の手合わせだ。

僕が聞き付けたとしても見逃す手はないよなぁ。

陞爵の儀の出席者が帰った後で本当に良かった。


 立会人は騎士団長で、領内一の剣の達人だそうだ。

『困った。手を抜いたら一発で見抜かれそうだ。真面目になるべく大人しく勝つしかないな』

「始め!」

騎士団長さんの掛け声で手合わせが始まった。


 アルベルム様が様子を見るように細かい突きを出して来たので槍を小さく回して絡め止める。

槍の中ほどを持つ仗の構えなので間合いは突き出した剣よりも短い。

引かれた剣が前に出した足を斜めに薙いできた。

槍の後ろを下に出して剣を受け流し、その勢いを借りて穂先側の横腹で剣を持つ腕を叩く。

「うっ!」

痛そうだが剣は取り落とさない。

左下から脇腹を狙って跳ね上げられた剣を両手で持つ槍の中心で後ろに送りながら体を回して左足を振り上げた。

僕の回転に巻き込まれて前に重心が流れ少し低くなったアルベルム様の肩越しに、首筋の下へ踵を落とす。

右足と後ろに突いた槍で支えているので体重はほとんど掛っていないが、勢いに逆らえず倒れ込み転がって上向きになったアルベルム様の喉元に穂先を向けたところで

「勝負あり!」

騎士団長さんの声が掛った。

アルベルム様は何が起きたか分からない様子で、呆然としたまま騎士たちに助け起こされている。


「何だったのだ、今のは?」

コンラッド様が騎士団長に訊いている。

「私にも分かりません、あんな武術は見たことがございませんので」

「おぬしなら勝てるか?」

「手合わせが一瞬で終わってしまいましたので、フィンリー殿の手の内を殆ど見る事が叶いませんでした。初見同然で戦うとなれば、私でも難しいかも知れませんな」

「それ程か。ランドルフ、おぬしとの手合わせは剣と剣だったか」

「はい」


「どうやらフィンリーの神髄は今の流儀にありそうだな。フィンリー今の武術は何と云えば良いのだ」

「自己流ですが、仗術と呼んでいます」

「杖術か。それを我が領の騎士に教える事は出来るか?」

「まだ自己研鑽の途上で全てが中途半端ですので人に教えるのは難しいかと。流儀として一つ区切りを見極められればよいのですが、少なくともまだ数年は必要と思います」

「そうだの、まだ10歳にも成らぬのだな。あまりの事についお主の歳を忘れてしまったわ。先々、見極めが付くようになれば報告に来るが良い。それなりの処遇を考えよう」

「はい、承知しました」

「魔法の鍛錬が進まなければ魔獣相手は難しいだろうが、魔窟以外でフィンリーを阻める物はないだろう。ベルナード領近辺と言わず、我が辺境伯領内魔窟を除く全ての場所での探索を許そう。ベルナード領発展の為に尽力するのだぞ」

「はっ。ありがとうございます」


 やったね、思わぬところで手に入っちゃいましたよ……『お墨付き』。

明日は2話投稿できればと思います。応援いただければありがたいです。よろしくお願いします。

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