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第九章「竜魔のたくらみと新たな旅立ち」 23.1話

本日最後の投稿です。

22.5話をお読みでない方はそちらからどうぞ。

「よぅし、ジニエルは今日から僕の弟分だ。タゥズィッシャの件が風化するまではスリフォに戻り辛いだろうけど、僕の弟分なら4王国何処でも受け入れてくれる。ねぇ皆さん」

「当り前さ。フィンリーの弟分ジニーはどの王国だって大歓迎だよ。住民退避の目途が立ったらまずアルトスうちに来れば良い。万が一タゥズィッシャが復活してもジニーが一撃で倒せる様に切磋琢磨して鍛え合おう」

「アシキタの周りは灌漑と工事の真っ最中だ。思う存分働くのも気分転換には悪くないと思うがね」

「トケアの美少女達を愛でるのも良いものらしいがね。まぁ、僕と地方軍の視察三昧もお薦めだよ」

「ヨキフでも大歓迎だが、辺境伯の領都を巡るのもきっと良い経験に成るぞ」


 タゥズィッシャに乗っ取られたとは云え実の兄を倒さざるを得なかった困惑と未だ見ぬ怪物への懸念で沈み込み勝ちなジニエルを何気に気遣う5人が軽口めいた調子なのは、少しでも彼の気が晴れればと想ってだろう。

結局、撤退船団はスリフォ各港湾から個別の出帆でエトゥレプで集結、シェムエル王太子が王都から総監として統率の責を負う事に成った。

そしてジニエルを同道するフィンリー達はハクバに乗り込み、別途先行して飛び立った。

操舵室で各人好きな様に陣取って語り合いながらもハクバを飛ばしているのは当然フィンリーだ。

6人だけならマジェンジだけでも充分だが、退去民を乗せる必要があるかも知れない。

マジェンジ単体と変らぬ速度を出せなくも無いが、成層圏を抜けるか空気の壁をスキルで無い物にするかしないと超音速の衝撃波は消せない。

何方を(どちら)を選んでもハクバの図体では手間と魔力を要するのは確かなのだが、成層圏を超えれば下界が遠すぎるし、超音速で成層圏の下を飛べば視界がどんどん後ろに消え去ってしまう。

5人だけでなくジニエルもラオパイダへは渡った事が無い。

海上地上の状況を把握しなければ今後の方策を決めるのも難しいので、ずっとプロペラ機程度の速度で飛んでいる。


 とは云えそれはフィンリー以外の為なのだが、肉眼でどれ程観ても細々(こまごま)とした事まで見分け記憶してはいられないので、フィンリーが鑑定スキルで地上を走査しており、操舵室で飄々と喋りつつ過ごすフィンリーの脳裏を掠めるだけの情報が全て克明に記録される。

『何だか【聡】の成分……じゃなくて転生の【おまけ】がどんどん侵食――でも無くて融和か?――してるな』等とフィンリーが感じる様に、聡とフィンリーを恣意的に同一視しているとしか思えない能力やスキルが身に付きだしている。

特に記憶については解り易く『聡の記憶を覚えている』と云うのが、『聡とフィンリーどちらかが一瞬でも見たり触れたりした情報を克明に記録する』に既に置き換わっていた。

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