未来予報をお送りします。
『皆さまこんばんは!田中です。ここ最近どんどん暑くなってきておりますが、皆様は如何お過ごしでしょうか?先日、芸能人の〇〇さんが屋内での撮影中に脱水症状にて病院に緊急搬送されたとニュースがありました。熱中症は屋内でも起こりますので、オフィスワーカーの皆様も熱中症にはお気をつけて!』
―――始まった。
寝室で近隣の迷惑にならない程度にラジオの音量を上げながら、私は期待に胸を躍らせる。
水曜日の深夜帯。
かつてであれば多くの人が翌日に備えて眠っていた時間帯だが、ここ最近に限っては例外だ。
マンションの窓から少し外を覗いただけでも、いつもより電気のついている部屋が多い事が見て取れる。街全体が明かるいままで、通りを行き交う人々の活発さは既に零時をまわっているというのに、まだまだ夕方と言った風情である。
最近では水曜深夜のこの時間帯に起きている人間が多すぎて、木曜日の始業時間を遅くする企業が出てき始めたくらいだ。いい機会だと一部の政党や大企業は“木曜は午後から!”などと言って会社の労働時間や環境などに手を出し始めた、なんて話すらある。
それもこれも………
『では早速、今晩も始めていきましょう。ここからは、来週の未来予報をお送りします。』
―――このラジオ番組の影響である。
ラジオコンテンツでありながら社会現象を引き起こし、果てには働き方そのものにまで影響を与えられつつあるのだから、まさに化物コンテンツだ。それも“田中さんの未来予報”の放送が始まったのは半年前だというのだから、驚きである。
お陰で存亡の危機に瀕していたラジオコンテンツは急速に発展していて、全国の店頭からラジオが消えたり、ラジオでの広告料の桁が二つ増えたりと、話題に事欠かない。
“田中さんの未来予報”が何故これほどのビッグコンテンツになったのか……その原因は、この番組の特殊性にある。
『来週月曜日の、未来予報についてお送りします。札幌市にて三名の傷害、新潟市にて一名の殺人、東京郊外・大阪市街・その他400の市町村にて計1700件の交通事故が発生、うち八件にて死亡が確認されました。また××インターでの交通事故の結果、高速道路が一部通行止めとなっております。月曜日の総死者数は………』
この通り、文字どうりの未来予報なのである。
放送時間の問題やプライバシーの問題もあるので流される情報は非常に大雑把ではあるが、的中率は有志の計算によると毎回80%程度らしく、非常に高いと言える。
超高度なAIが演算している。
未来から来た田中さんが教えてくれている。
地下組織が世界を動かしている。
などなど、何故未来予報なんて馬鹿げたことが出来るのかについては考察されているが、どういう仕組みなのかは完全に謎である。報道機関がインタビューを仕掛けたりもしているのだが、至って普通のラジオ放送である事しか分かっていない。
まあきっと何か、一般人には及びもつかないような事をしているんだろう。
得体は知れないが、それでも参考にはなる。
来週月曜は札幌と新潟には行かないようにしておこう。幸い札幌への出張は火曜からでも大丈夫な筈だ。
この未来予報で将来何が起こるのかが分かるのだから、個人にとっても政府にとってもこれ以上ないくらい便利なのは間違いない。私のような一般人は、それだけ分かっていれば細かい事は気にしないのである。
―――まあ、何にせよ。
「来週も色々と物騒だなぁ………」
京都市内での死亡事故の予報を聞きながら、私はそう呟いたのだった。
◇
「田中さん、お疲れさまでした!!」
「はいよ、お疲れ」
放送終了後。ぐっと背伸びをしながら生返事を返す。
一時間も喋り続けたんだ、肩も凝るし、何より喉が辛い。
「それにしても、有名になったもんだなぁ…………」
カンペ読んでるだけなのに。
夏のホラーに記念参加。
20分くらいで書き上げましたので雑なところもあると思いますが、どうか見逃して下さい……。