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婚約破棄される前に婚約破棄したい姫と、そんな姫を宥める婚約者の話

作者: 下菊みこと

「婚約破棄じゃ、婚約破棄じゃ!妾は婚約破棄するのじゃー!」


「…姫さん、そんなに俺との婚約は嫌か?今度は何があった?」


八歳になったばかりの婚約者、蛇蔓國の菖蒲姫を宥めるため、同じく十八歳になったばかりの夜鷹はその小さな身体を抱き上げた。


この蛇蔓國は同じ誕生日に生まれたものを〝運命の相手〟として婚約者に据えることが多い。夜鷹と菖蒲もまさにそうだった。


夜鷹は朝廷に仕える若き天才陰陽師である。また、公家の生まれでもあり菖蒲の婚約者としては十分な生まれでもある。また言葉遣いはその生まれの割には粗野だが、見た目は洗練されたいい男であり、モテる。菖蒲の手前、あからさまにアピールする者はいないが、まあ、隙あらばという者はいる。


そして夜鷹はロリコンではない。菖蒲の成長を待つのも、年頃の夜鷹には限界だった。だから夜鷹は手は出さないものの、可愛らしい嫋やかな女性に口説き文句の一つを贈ることはあった。


が、どうやらどこからかそれがバレたようである。


「夜鷹は妾よりぐらまらすでせくしーな大人の女性の方がいいのじゃ!妾は婚約破棄されるのじゃー!その前に妾から婚約破棄するのじゃー!」


「あー…んー…まあ、それは、俺が悪いわなぁ…」


夜鷹は菖蒲を宥めるようによしよしと揺すっていたが、菖蒲を降ろした。菖蒲はその行動に涙目である。


「やっぱり夜鷹は妾が嫌いか?大人の人のところに行ってしまうのか?」


「姫さん、自分から婚約破棄しておいてそんな顔すんなよ。婚約破棄したら俺とはもう永遠にお別れだぜ?」


「…!」


菖蒲は顔面蒼白になる。


「い、嫌じゃ!嫌じゃ!妾は婚約破棄しないもん!夜鷹とずっと一緒にいるのじゃ!」


「じゃあ、婚約破棄はしないか?」


「しないのじゃー!」


「姫さん」


夜鷹は、菖蒲の前に跪く。


「ちょっとした火遊びで手は出してない。が、姫さんを傷つけて悪かった。もうしない。…俺はこれから、姫さんだけを大切にするよ」


「本当かの?」


「おう。まあ、生殺し状態は地獄だが仕方あるまいよ。こんなに可愛い姫さんからの婚約破棄なんて、心臓が止まるかと思ったしな」


「その割には夜鷹、余裕そうだったのじゃー」


「そりゃあ気のせいだろう」


夜鷹はまた菖蒲を抱き上げてその背をぽんぽんと叩く。


「んー。良いぞ。眠くなるのじゃー」


「おう、寝ちまえ。俺が見守ってやるから」


「…」


ー…菖蒲は、ある呪いに侵されている。


それは、一目惚れの呪い。ある陰陽師が、菖蒲の夫という地位を欲しさに術を掛けた。ところが、いざ菖蒲に自分の顔を見せようとした瞬間術を感知した夜鷹が部屋に乱入。その時菖蒲は夜鷹の顔を見て惚れてしまった。五歳での出来事である。


強力な呪いをなんとか解いてやろうとする夜鷹だったが、なんと主上は丁度いいと夜鷹と菖蒲の婚約を取り決め、呪いを解かなくていいと命じてきたのだ。


夜鷹は菖蒲に同情した。せめて、とびきり甘やかした。それでなくても、姫君として厳しく育てられる菖蒲は初めて甘やかされ更に夜鷹に懐いた。


いつからか、同情はなんとも言えない愛情に形を変えてしまった。菖蒲が夜鷹に恋しているなら、夜鷹は菖蒲に情をかけていた。


「…さっさと大きくなれよ、姫さん」


夜鷹はロリコンではない。だが、いつのまにか菖蒲にだけは特別な感情を持つようになった。それを誤魔化すように、大人の女性を口説いていたのに。…まさか、それで可愛いヤキモチを妬かれるとは。


「どうか、この呪いが解ける日が来ませんように」


夜鷹は優秀な陰陽師だ。最近段々と、あれ程強力だった呪いに何故か綻びが生じているのになんとなく気付いている。だが、解けてしまったら。それを考えると怖くて仕方がない。夜鷹はいつからか、呪いが解けなければいいと思うようになっていた。


ー…その数日後に、呪いが完全に解けた。


だが、菖蒲の態度は変わらなかった。呪いによる恋は、心からの愛となっていた。夜鷹は初めて、運命に感謝した。

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