先輩と連絡網
「遠州灘さん」
五時間目の10分休み、教室の外から名前を呼ばれて顔をあげるとドアのところには逆城先輩がいて、こっちを手招きしてる。
生命維持に不可欠のポッキーをサクサクと食べ進みながらクラスの女子たちの視線を一身に浴びて、先輩の招きに応える。
「今日の放課後の生徒会活動なんだけれど」
サクサク、サクサク。
「急遽屋外活動になったから体育服での集合になったから」
サクサク、サクサク。
「生徒会室に来る前に更衣室で着替えてきてね」
サク、ごくん。
「はあ、やっと呼吸できる」
「遠州灘さん、ずっと食べ続けてお腹空いてるの?」
「いや、逆城先輩、私の食料奪う傾向があるんで」
「酷いな、俺が可愛い遠州灘さんのおやつを取るわけないだろう」
「いやいや、前科前科」
食料どころか物品まで取っていくのは誰ですかい。
逆城先輩に奪われた私のシャーペンは、今も先輩の胸ポケットにおさまってる。
先輩が押し付けていった高級ペンもまだ私のペンケースの中にある、返そうとしてものらりくらりと受け取ってくれなくて困ってんだよね。
「その連絡なら生徒会メンバーのグループチャットでまわってきましたよ」
「うん、でもね」
先輩がポケットティッシュを取り出して私の口を拭いた。
教室の一部がざわつく音が聞こえる。
「連絡は顔を見てちゃんと伝えないと相手がちゃんと受け取ったかわからないだろう」
拭いたティッシュを丁寧に畳んで先輩はにこりと笑った。
「じゃ、あとでね」
「……了解っす~」
爽やかにさっていくけど、あの人は生徒会の皆にああやって言って回ってんのかな。律儀……というか、真面目というか。
(菓子のカスついてたかな)
一応乙女なんで恥ずかしい。まぁ、逆城先輩だし、あの人私をなにかの大型愛護動物と勘違いしてるときあるんだよなぁ。
残りの休み時間中、先輩のファンの女子からの視線が痛かった。いや、私はペット枠なんだってば、と心の中で愚痴りながら、別クラスの一年生と待ち合わせして生徒会活動という名のグランド掃除に向かう途中。
「え? 逆城先輩が直接予定変更なんて言いに来ないよ。遠州灘ちゃんとこには来たの?」
「げっ、もしかして私、連絡無視する問題児扱いされてる?!」
やべ、目ぇつけられてる?!
真面目に頑張ろう……