表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

先輩と飴

同じ生徒会メンバーの逆城鈴鹿(さかしろすずか)先輩は真面目だけど少し変わり者だと私は思っている。



二年生の平メンバーではあるんだけど、会長を筆頭に最高学年からの信頼は厚い、何かあればなんでも逆城先輩に聞けば一発解決したりするので、影のボス&真の支配者とか言われていたりするけれど、そんなからかいもにこやかに笑って受け流してる器の大きな人格者。


なんでも入学当時から成績は学年トップを取り続け、各運動部の助っ人に呼ばれるほどスポーツ万能、さすがに試合には正規部員に悪がって出ないらしいが、先輩が参加する練習や模擬試合には見物の生徒が結構訪れているらしい。


見た目も作ったの? ってほど、品位と真面目さを黄金率で混ぜ合わせ、そこに儚さを醸してでき上がった涼しげな好青年だ。

立っているだけで新緑の風を感じられてるらしい。


そんな逆城先輩であるからして、女子には大変人気があり、大層おモテになる。

他校にまでファンがいるらしい。


他校にまでファンがいるらしい、ということはつまりそれだけ競争率が高いということで……当然、我先にと頑張る勇者も出てくるわけで……


「さ、逆城くんのことがずっと好きでした。お友達からでいいので連絡先を教えてくれませんかっ」


当然こういう決戦の場も生じるってことなのだけれど。


(エンカウントしちまったぁ)


よりによって生徒会に向かう前の渡り廊下で……これは隠れるしかない、と思って柱の裏に隠れたけれど、平均体重を大幅に越えた私の真ん丸いシルエットじゃ隠れきれない。


(これから生徒会なのになぁ)


いや、だからこの廊下通ろうと思ってたんだけど。でもタイミング悪っ。


このあとの会議が気まずくなるような展開にはなるなよ~っ、て息を殺していると逆城先輩が柔らかく笑った。


「ごめんね、僕……好きな人がいるから」


なんですとー?!

えー、初耳。あの逆城先輩が?

どんな可愛い子に告白されても付き合わないから、男が好きなんじゃとまで噂されている先輩の衝撃の真実! こりゃ大スクープですぜお代官さま!


(……黙っとこ)


コロン、口に咥えていた棒つきキャンディを転がした。

先輩の恋路を邪魔するほど野暮な後輩じゃねぇのさ、あたしゃ。


「付き合ってるの?!」

「そういうことではないんだけど」

「じゃあ、と、友達でも全然……!」

「ごめん、無理だよ。僕はその子のこと絶対諦めないから、ごめんね」


おわー、先輩バッサリ!

いや、やっぱ男前はフリかたもカッコいいわ。


先輩にフラれた女子生徒は泣き出して反対の方向へと走り去った。


(修羅場、回避?)


いや、修羅場未満? まぁでも、早く終わってくれてよかった。これで生徒会会議に間に合う、あとは逆城先輩が先に行ってくれれば……


遠州灘(とうとうみ)さん」

「うわっ、ビクッたぁ」


先輩はいましがた乙女心を一刀両断したとは思えないほど、いつも通り声をかけてきた。


「き、気づいてましたか」

「遠州灘さんの気配はだいたいわかるよ」


そりゃ、私、デブだから丸見えだよね。


「あのっすね、覗き見しようとか野次馬楽しんでたわけではなくて……」

「わかってるよ、会議だろ? 一緒に生徒会室までいこうか」

「はぁ」


逆城先輩は私が持っていた人数分の会議資料を黙って取り上げると片手で脇に抱えてなんでもないことのように歩き出す。

は~、イケメンっすなぁ。デブ女子にも優しいイケメン。こりゃ女子はコロっと落ちるわ。


「会議資料、一人で作って持ってきたの? 大変だったでしょう」

「いや、まぁ、下っ端ですんでこれくらい」


それに基本デブは力があるんですよ。


「今度からこういうのは俺に声をかけてね、手伝うから」

「いや、先輩忙しいじゃないっすか。お手を煩わせて長々と雑用させられないっす」

「俺、遠州灘さんと一緒だとあっという間に時間が過ぎるからいいよ」


そりゃアナタの手際がいいんですわ、先輩。


「さっきの聞いてた?」

「えっ?! いや、まぁ、はい……」


うわ、普通の流れでぶっ混んできた。せっかくこっちからは話題振らなかったのに。


「気になる?」

「いや、べつに」


あたしゃ、先輩の可愛い後輩ですよ~。噂なんて流しやしませんよ~って意味を混めて満面の笑みで答えると!

逆城先輩の笑顔がなぜか曇った。

恋バナしたかったのかな?


「……? あっ」

「これは没収」


咥えていた棒つきキャンディを巧みの技かってほど鮮やかに奪われる。


「会議中の飴は禁止だからね」

「ケチぃ」


あーあ、折角噛み砕かずに舐めきれると思ったのにな。

ゴミ箱行きになってしまうだろう棒つきキャンディを恨めしくみていると、逆城先輩がパクっと私から奪ったキャンディを口に入れる。


「レモン味だ」

「よく人の舐めた飴食えますね」

「俺、遠州灘さんの口に入ったのなら石でもいけると思うよ」

「うわ、もう先輩の前でなにも食べないどこっ」


全部取られて食べられたらこのワガママボディを維持できなくなる。


生徒会室について、会議が始まっても逆城先輩はずっと飴を舐めていた。


生徒会長が「逆城、お前甘いもの嫌いじゃなかったっけ?」って言ったのを逆城先輩は……



「僕、いま初恋を味わってるんです」


ああ、なるほど!

レモン味だから初恋ね! 参りました、座布団一枚って



いや、それ私から奪った初恋(キャンディ)だし!? 返せや!










生徒規定第138条

生徒会要項第72項



本生徒会員は一般生徒からの要望を広く受け止め恒に向上心を忘れないこと。


一般生徒からの意見、要望は感想欄で受け付けること。

一般生徒は☆にて生徒会活動への評定を定め、よりよい学校生活向上へ貢献すること。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ