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レストランで楽しく食事

「それじゃあ、どこにしようか?」


 白石さんは隣りを歩きながら笑顔を向けてくる。そんな彼女に対し俺は違う話を切り出す。


「そうだな……その前に誠二のやつを呼ばないか?」


「なんで?」


 白石さんは首を傾げると黒い瞳を俺に向けてきた。


「いや、飯を一緒に食うならあいつもいた方がいいんじゃないかと思ってさ」


 本当のところは友人の恋人と内緒で2人きりというシチュエーションを避けたかったのだが……。


「もしかして、日野君って私のこと苦手だったりする?」


 はっとすると、彼女は何かに気付いたかのように悲し気な表情をした。


「いや、そんなことはないけど。白石さんも俺と2人より誠二がいた方が楽しいかなって思って」


 焦ってそのように答えてみるのだが……。


「それなら問題ないよ。私は日野君と2人でも楽しいし。それに……」


 その言葉に心臓が跳ね上がる。

 白石さんはふと思い出すかのように唇に手をあてると、


「誠二君は連休中は海外旅行に行ってるはずだよ」


「なんて羨ましい奴なんだ」


 俺は海外はおろか本島から出たこともないというのに。浜野監督と一緒に旅行とは……。


「その……どうしても日野君が嫌だっていうのなら私も1人でご飯食べるよ?」


 その聞き方はずるいと思う。

 瞳を潤ませて見上げながらそんな言い方をされて断れる奴が世の中にどれだけいるというのか。


「俺、店選ぶセンスないけどそれでも良ければ……」


「うん、それじゃあ駅前の感じの良さそうな店をまわって決めようか」


 花が咲くような笑みを浮かべた白石さんは両手を胸の前で合わせると嬉しそうにそう言うのだった。





「日野君っていつもどんなものを食べているの?」


 図書館があるのと同じ建物の別の階にあるレストランフロアに俺たちは来ていた。


 そのフロアには寿司やとんかつ、焼肉に明太子の店などが並んでいる。


「俺? うーん、そうだな……。ヤックとか古野牛とかかな?」


 夕飯は基本的には由美が作ってくれるので家で食う。だが、由美は食が細く、その自分を基準に料理をするので俺としては物足りない。そんなわけで、誠二に誘われたりしたときはそういう店によって軽く食べて帰ったりしていた。


「なんか、男の子って感じでいいね」


「そう……かな?」


「そうだよ。私、一杯食べてくれる人の方が好きだし」


 誠二の姿でも思い浮かべているのか、白石さんは遠くを見た。


「逆に白石さんとかはどうなの?」


「私は……友達と……スバタとかヨネダかな?」


 どちらもお洒落なカフェで女子高生に人気があり、わりと混んでいる店だ。


「ああ……映えるあれだね」


「うん。映えだねぇ」


 野村とかも学校帰りに友達に声を掛けて行っているようで、たまに『これヤバくない?』とスマホの写真を見せてきたりする。


「でも今日は日野君に合わせるよ?」


 こういう時どうするべきなのか?

 言葉をそのまま真に受けるのならジャンクフードの店を提案するのもありだろう。だが、俺にはこの手の経験が1つあったので……。


「じゃあ、このレストランフロアにパスタの店があるからそことかどうかな? 焼きたてのパンとデザートのケーキの食べ放題が付いてくるんだけど」


「えっ、そこ素敵かも。そこにしよう!」


 ケーキという言葉には女子を惑わす魔力でもあるのか、俺の提案は1発で通ると、その店に入ることにするのだった。




「うぅーん、どれにしようかなぁ?」


 白石さんは眉を寄せながら難しい顔をしている。どうやら料理が多くて目移りしているようだ。


「日野君。もう決まった?」


「いや、俺もまだ決まってないから。ゆっくり選んでよ」


 そう答えると安心したのか視線が戻る。

 俺はカラカラになった喉を水で潤わせながらそれを待つと……。


「決めたよ」


 白石さんが注文を決めるとブザーを鳴らす。

 すると店員さんが現れた。


「私はこのサーモンといくらのクリームパスタで。ドリンクはジャスミンティーで」


「俺は海老とモッツァレラチーズのトマトソースパスタで。ドリンクはホットコーヒを」


 注文を終えて店員が下がると……。


「ごめんね。お待たせしてしまって。私中々決められなくて」


「そうなんだ? 俺も決まったばかりだったから丁度良かったよ」


 申し訳なさそうな白石さんに俺は笑顔で声を掛けるのだが……。


「それ嘘だよね?」


「えっ?」


「日野君メニュー見てなかったし、私を焦らせないためにそう言ってくれたんでしょ?」


 白石さんはじっと俺を見つめてくる。目じりを緩ませ頬をわずかに広げたその視線に俺は何も言えずにいると……。


「優しいね日野君」


 柔らかい口調で白石さんが俺を見つめてくる。


「そっ、そんなことないと思うよ。誰でもこのぐらいは気遣うものじゃ?」


 何となく彼女から視線を外した俺はコップを掴み水を飲もうとするのだが……。


「私、そういう人好きだなぁ」


「ゴフッ!」


 飲み込んだ水が喉を直撃してむせた。


「わっ! 大丈夫?」


 そう言っておしぼりを差し出してくる白石さんに俺は涙を浮かべると……。


「し、白石さん。そういうのはあまり人に言わないようにした方がいいよ!」


 俺の言葉に彼女は首を傾げると「うん。わかったよ」と笑顔で答えるのだった。





「ふぅ……美味しかったぁ。日野君。いい店知ってるね」


 食事が終わり落ち着くと、白石さんはジャスミンティーをストローで飲んでいる。


「以前一度だけきたことあるからさ」


 由美に買い物に付き合わされた時に来たのだが、その時に散々文句を言われた記憶がある。今回はその経験を生かしただけなのだ。


「もしかして女の子とかな?」


 からかうような表情。白石さんも俺が妹と来たことに気付いているのだろう。


「ご想像にお任せするよ」


 その時のことを話すとからかわれると思ったのか、俺は言葉を濁した。


「む……むぅ~」


 すると白石さんはなぜか頬を膨らませる。


「どうかした?」


 俺は気になって聞いてみるのだが、


「別になんでもないですよーだ」


 女心は良くわからない。





「それじゃあ、またね」


 あれから、店でだらだらと時間を潰した俺たち。

 白石さんと誠二の話で盛り上がったり、授業の話をしたりと楽しい時間を過ごすことができた。


 気が付けば夕方を過ぎていたのでそろそろ帰ることになり一緒にこうして家の前まで来た。


 白石さんの家はどうやら俺の家より少し離れた場所にあるらしく手を振って別れる。

 俺は由美の友達がまだ家にいるのではないかと予想しつつも家に入ると……。


「ただいま」


 家の中は静まり返っていた。どうやら誰もいないらしい。


「なんだよあいつ。出かけるならそう言えよな」


 そうすればもう少し早く帰宅することも出来たのだ。もっとも……。


「白石さんとの会話は楽しかったからな」


 たとえ妹から連絡があったとしてもそのまま話し続けていた可能性が高い。今日のことを思い出すと自然と頬が緩む。


「っと。いかんいかん」


 白石さんの顔が浮かびそうになり首を振って雑念を払う。


 ――ピコンッ――


 RIMEが着信した音が聞こえる。俺の心臓が高鳴る。

 先程、白石さんと連絡先を交換したのだ。


 本来なら誠二にことわってからすべきなのだが、以前の反応をみるに特に嫌な顔はされないと思った。何より彼女から持ち掛けられたので断るのも気が引けたからだ。


 俺は焦りながらもポケットからスマホを取り出しメッセージをみる。すると……。


 由美『友達の家に急遽泊まることになったから』


 どうやら今夜は俺1人になるようだ。俺はスマホの画面を閉じると久々の1人に浮かれる。

 父親はゴールデンウイーク中、会社にカンヅメだしうるさい由美もいない。夜更かしをしても咎める者がいないのだ。


 今夜をどのように過ごそうかわくわくしていると……。


 ――ピンポーン――


 チャイムが鳴った。もしかして由美が予定を変更して帰ってきた?

 俺は施錠を外すとドアを開けた。すると…………。


「えっ? 白石さん?」


 目の前には先程別れた白石さんの姿が。その表情はとても不安そうに俺を見ている。


「どうしたの?」


 俺が質問をすると白石さんは気まずそうに言った。


「実は……家の鍵を落としちゃったみたいなの」


 どうやら俺の今日はまだ終わらないようだ……。

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