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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

三途ノ町4丁目5−9 赤岩ハイツ

作者: しえすた


冬も終わり新しい季節がきた。


マッチングアプリで知り合った2歳年上の会社員男性と付き合って2年になり同棲を始めた。

お互いの親とは挨拶も済み、元々彼が住んでいた家に私が住み込む形だ。


バイト帰りにスーパーで買い物をしてから最寄り駅で待つ仕事終わりの彼と合流、そのまま家に向かうのが毎日の日課になった。


同棲を始めて1ヶ月が経った。

バイトが終わり彼からLINEがきた。


『仕事が忙しくて、先に家へ帰ってて』


どうやら残業らしい。

私は行きつけのスーパーで買い物した後、そのまま家に向かった。


いつもなら最寄り駅から彼と目の前の商店街を抜け、車が行き交う大通りを越える。

今日はルートを変えて、商店街の脇に逸れた小さな路地を進む事にした。


桜並木が奥まで咲き乱れて、生暖かい風が身体をすり抜けた。

小さな川があり、さらさらと流れいる。

時刻は夜の20時。


街頭がポツポツと夜空と道を照らしている。


ガサッ!ガサッ!ガサッ!


後ろで音がした。

最初は買い込んだスーパーの袋からだと思った。

歩いていて揺れたのかと思い、また歩き出す。


ガサッ!ガサッ!ガサッ!


また後ろから。

振り返って見た、何もない。


パシャ!パシャ!パシャ!


すると、次は前から水が跳ねる音がする。

また振り返るが何もない。


鳥が水辺にいた?


急に鳥肌がした。

生暖かい風のせいだろうか。

そのまま路地を進み、左手に階段が見えたが素通りした。

真っ直ぐ進むとあの大通りに出た。

そこから歩いて10分。

彼と住む家が見えてきた。


彼の話を聞けば、《赤岩ハイツ》はまだ築5年と真新しい。5階建ての外観は白を基調とした洋風のハイツだ。

防音性なので、映画鑑賞が趣味な2人にぴったりだった。



405号室の鍵を開け部屋に入った。


「ん!」


奥から生臭い空気が襲った。

異様なものでかなり濃い気がした。


(生ゴミ片付けた筈なのに……)


昨日燃えるゴミの日だったので、早朝から彼にゴミ出しを頼んでいた。

おかしいなぁ、と感じながら晩ご飯の準備を始めた。









1時間程して支度を終えた後、彼からLINEがきた。


『1人にしてごめん、大丈夫?』


彼の気遣いに私は嬉しかった。

私は先にお風呂入るね、と送る。

立ち上がり風呂場に行こうとした時だ。


ガサッ!ガサッ!ガサッ!


(あれ?この音…)


私は辺りを見渡した。

長方形のリビングの先にベランダがある。

恐る恐る、カーテンを開け外を見る。


何もない。


パシャ!パシャ!パシャ!


また、この音。


次は風呂場からだ。

廊下をゆっくり歩く。


洗面とトイレを挟んだ風呂場の扉を開けた。


身体が固まった。

風呂場の湯船に水はない。

シャワーや蛇口からも水が漏れてもいない。

おかしいな、と思った瞬間。


ドン!!!


右肩に激痛が走った。

まるで上から硬い物が落ちてきた様な衝撃だ。


「つっ…!」


あまりの痛みに脱衣場でしゃがみ込んだ。


(な、なにこれ、…重い…)


ギシギシと右肩が錘になっていく。

遂に頭さえ上げるのも難しい。


(やだ…なんでよ)


彼から電話がきた。

動かせる左手でスマートフォンを掴む。


「…もしもし?」


何故か彼の声が震えている。


「さっき俺に電話した?」


LINEしかしてないので疑問に感じながら、今の状況を説明した。


「どうしょう、今肩が痛くて…」



「それって風呂場の近く?」


なんで分かるの?と、私はすぐ聞き返した。

けれど何も言わずに通話は切れてしまった。


(助けて欲しかったのに…)


項垂れてスマートフォンを床に置いた時だ。


ガサッ!ガサッ!


あの音が奥の玄関から聞こえてくる。


ガサッ!ガサッ!



目の前から歩く動作に合わせてなり続ける。

その正体が分かった。

それは戦国時代の武士が身につける甲冑同士が擦り合わさる音だった。


(こっちにくる…!)


ガサッ!……。…………。


音がやんだ。


ゆっくり前を見上げた。

何も無かった。


(これは夢なの…?)


そう思った時。

脱衣場の正面にある鏡を見つめてギョッとした。


目の前に映る自分の右肩に落武者の顔がある。

しかも落武者は大きな口で右肩を噛んだまま、横目で私を睨んでいた。


痛みの原因はこれだった。

落武者の顔は天井から私の方へ落下してきたのだ。

 



「きゃああぁぁ!」

 



私はそのまま家を出て、その日友達の家に泊まらせてもらった。

これだとこんな所に住めないと彼に打ち明けると、す

ぐ彼はその日から実家に泊まると言い出した。

私は出ていくと告げた。

バイトが休みの日、彼の部屋から荷物を取り出していた時だ。

大家さんが私に声を掛けてきた。



「あら、残念だね。次の場所は決まってるのかい?」


70歳位のお婆さんは少し腰を曲げながら咳をする。


「まだです」


「実家に帰るのかい?」


「私は彼とこの町に住む為に遠い実家から出てきたんで、申し訳ないですが別の家を探します」


それを聞いてまた大家さんは咳をする。


「私がいうのもあれだけど、この町だけはやめておいた方がいい」




この町だけはやめておいた方がいい。



その言葉に私は戸惑った。

大家さんはゆっくり口を開いた。


ここは昔、沢山の武士や町民、子供や年寄りまで巻き込んだ大きな合戦場があった。

この近くのハイツに流れていた川はその当時討ち取った首を洗い流すのに使っていたとゆう。


赤岩ハイツの赤岩の由来も、赤く染まった討ち首を置いておく石がこの場所にあったから名付けられたとゆう。

何百年経った今でも災いが起こり、更地や建設の繰り返しが続いた町だった。

築5年なのは5年前に、一家が無理心中し全焼した跡地だからなのだ。



「こういった不幸は続くもんだけど、やっぱり続いて欲しくないもんでねぇ。貴方はまだまだ若いし、未来があってほしいから」


私は大家さんの優しさを胸にこの家を後にした。



後から彼の友達から聞いた話だと、私と住む前元カノもこの家に来たらしいが1日で駄目だった。

彼自身も同じ経験があり、解約するか悩んでいたらしい。



商店街の脇に逸れた路地をゆっくり歩いて駅に向かう。

 

ふと、川の近くに立つ電柱を見た。

三途ノ町と表記がある。


この町の名前もきっと、あの世の道を示す意味が秘められているかもしれない。





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