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第七話 ウルフって強いの?

令和二年の新年あけましておめでとうございます。

本年も変わらずごひいきに。

 引き続き、マリエの解説が続いています。


 グレーウルフについての報告が上がってきたが、ギルドマスターは鼻で笑った。

「そんなに強い魔物がぽんぽん現れてたまるか。グレーウルフがたまたま周回していたんだろう。」

 短絡的な判断をして、流してしまおうとしている。

 そんな、希望的なこうあってほしいなどと言うもので、現状をはかっていいものだろうか?

 いいや、良くない。

 と言うわけで、森へ向かう冒険者には、それとなく注意を促しているマリエ。

 マリエの希望は、最悪の形で表れてしまった。


「ルパートがやられた!」

 ギルドに駆け込んできたのはカルロス。

 Eクラス冒険者で、ルパートと組んで働いていた。

「どうしたの?だれに?」

「森との境目付近で、グレーウルフの群れに囲まれた。」

 グレーウルフ、そのあごにかかると、クマでも喉を切り裂かれてしまう危険な動物。

「なんとかマゼランまで逃げてきたが、ルパートは足をかまれて、教会で治療を!」

「そうですか、ギルドマスターに説明をお願いします。」

「わかった。」


 この前の群れでは二匹が逃げた。

 彼らは、もう群れがないので、二匹だけで過ごさなければならない。

 グレイウルフは、群れを作るが、それは家族単位でなければならない。

 群れから離れたものは、生きていけなくなるのだ。

 ユフラテが倒したひときわ大きな個体が、群れのボスだったんだろう。

「グレイウルフは何頭いましたか?」

「わからん、追いかけてきただけでも十五頭はいたと思う。」

「かなり大きな群れですね。」

「生きて帰れただけで幸運だったよ。」

「まさに、その通りですね。畑にいる人たちを避難させないと。」

「ああ、できる限り声をかけてきた。」

「それはけっこうですね。」


 カルロスは、二階のギルドマスターの部屋に向かった。


「ち!ユフラテの撃ち漏らしじゃなくてか。」

「マスター、それは私も責めていると受け取っていいですか?」

「う、いや…」

「ユフラテと一緒に狩りをしたのは私です。私を責めているんですね。」

「そんなことはないっ!」

「ではけっこうです。言葉には気を付けてください。」

「ああ。それでグレイウルフ十五匹の群れだな。」

「十五頭以上の群れです。」

「うむむ…」

 この小物め。

 マリエは目を細めて、横目に睨んだ。


 ギルドマスターは、ギルドの入り口を睨んで考えていた。


「討伐隊を組むべきでしょう。」

 マリエの声に、マスターは我に返った。

「そ、そうだな。だれにする?」

「そうですね、マスターが隊長で、Dクラスからマリオ、ドイル…」

「二人とも護衛で王都に行っているだろう?」

「そうですね、あと三日しないと戻りません。」

「ではEクラスしかいないのか。」

「私はDですよ。」

「お前はギルドの職員じゃないか。」

「非常時には、それも言っていられませんよ。」

「ではどうする?」

「だから、マスターが出ればいいじゃありませんか。あなた元Cクラスでしょう?」


「そ・それはそうだが…」

「ま、腕も鈍っているし、おなかも出ているし、無理ですね。」

「うむむむむ」

 マスターはうなっていた。





「こなくそー!」

 がきん!

「ぎゃん!」

 ユフラテの一撃で、グレイウルフは地面にたたきつけられた。

 地面で白目むいてピクピクしている。

「レミー、俺の後ろに隠れろ!」

「はい!」

「マルソー、後ろの警戒!ジャック、右を警戒!ヨール、左の警戒!」

「「「おう」」」

 ユフラテがみんなとウサギ狩りに来た草原では、グレイウルフの大きな群れが襲ってきた。

 ユフラテの落とし穴で、何匹かやっつけた。

 左右、後ろにも落とし穴を掘って、空堀として防衛し、正面からしか攻撃できないようにしている。

 それでも、ウルフの数が多くて、どこから攻撃されるかわからない。


 ユフラテは、いま倒したウルフを右の穴にけりこんだ。

「ちくしょうが!メイスで手加減している場合じゃないな。」

「ユフラテ、どうする?」

 ジャックが目を配りながら聞く。

「おうさ、毛皮がどうこう言ってられる場合じゃない、なんでもいいから殺せ!」

「了解。」

 レミーは、弓に弦を張っている。

 これは携帯してきた本体に、手持ちの弦を出してつがえるものだ。

 けん制くらいにはなる。



 がぼぼぼぼぼぼ!

 ユフラテの右手の指から、炎が噴き出した。

「なんだそれ?」

 マルソーがあきれている。

 指先に二メートルの炎。

「着火の魔法だよ!」

「生活魔法のレベルじゃねーぞ!」

「ウルフは怖がってるじゃん。」

「まあそうとも言う。」

 がぼぼぼぼぼぼ

 赤い炎が、だんだん集束されていく。


 ちゅいん!

「ぎゃん!」

 青白い熱線が走った後には、ウルフの足が転がっている。

「なにした!」

「なあに、足をぶった切ってやったのさ。」

「それが、生活魔法なのかよ!」

 ジャックの悲鳴が聞こえる。

「何が起こっても、もう驚かないYO!」

 

「生き残るの優先だからな、毛皮なんか気にしないぞ!」

「それでいい!余裕はないよ!」

「賛成!」

「それでいいYO!」

「ユフラテ!やっちゃって!」

「おおおおおおお!」

 ユフラテは雄叫びをあげて、熱線を振り回す。

「ぎゃん!」

「ぎゃう!」

 ウルフは、足を切られ、胴体を真っ二つにされ、首がなくなった。

 右手でレーザーを発射し、左手でメイスを振り回す。


「ががが!」

「ぎゃう!」

 レーザーを使わなくても、良くなったころには、ウルフは一匹になっていた。

「さあこいよ、お前で最後だ。」

「がううううう」

「本当は俺は犬好きなんだけどな、襲われちゃしょうがねえ。」

「がう!」

 鼻にしわを寄せて、攻撃意思を乗せた牙が迫る。

「どっせええええいいい!」

 ばご!

 嫌な音がして、ウルフの頭が爆散した。


「ふう~。」

「すげえ、ひとりでやっちまったよ。」

「ユフラテかっこいい!」

「俺だって惚れちゃいそうだよ。」

「YO~」

「バカ言ってんじゃねえよ、足のねえやつの止めを頼む。」

「「「「おう」」」」

 みんな一斉にウルフの首を切り裂く。

 数えたら、十七頭いた。

「死ぬかと思ったぞ。」

 ジャックは、ウルフを眺めながらぼそりと言った。


「まあいい、もう居ないだろう。つるそうぜ。」

「真っ二つなのはどうしよう?」

「あ?埋めちゃおう。穴もあるし。」

「そうだな、ヨール穴の中のやつはどうだ?」

「全部やっつけたYO」

 ヨールは半分になったやつまで吊るしている。

「また馬車がいるな。」

「少しやすんでからにしようぜ。」

「ジャックのいうとおりだな、俺も一休みだ。」

 ユフラテは、腰のカップに水を出して飲んでいる。

「ユフラテ、あたしも出して。」

「ん、ほれ。」


 レミーの出したカップに、水魔法で冷水を出した。

「つめた~い!」

 ジャックたちもカップを差し出した。

「お前ら、俺の火魔法は内緒だぞ。」

「へ?」

「特に、ギルドマスターには言うなよ。」

「わかった。」

「あいつ、ちょっといやな感じなんだよな。」

「わかったよ、何も言わない。」


 血なまぐさい戦場で、一息つけるとは、冒険者って家業も殺伐としたものだ。

 やがて、マリエが馬車に乗ってやってきた。

 横にはギルドマスターが乗っている。

「ユフラテ!大丈夫?」

「お~う、生きてるぜ~。」

「YO~YO~」

「ウルフが出た…って、あんたたちがやったの!」


 周り中、血なまぐさい戦場なのに、気づくのがおせえよ。


 凄惨な現場に、マスターも鼻を鳴らしている。

「ちょうどよかった、マリエ、獲物乗せてってくれ。」

「ちょっと十五匹って聞いてるけど、載せるの?」

「正確には十七頭だ。」

 一匹真っ二つになってるけど。

 全部のグレイウルフを乗せて、みんなで馬車を押して城門を目指した。

「今度は、撃ち漏らしなしだぜ、群れ全部やっつけた。」

「へえ、大きな群れだったのね。」

 マリエは、素直に驚いた。

 いままで、ウサギもまともに獲れなかったFクラスのお荷物が、グレイウルフの群れを倒した。

 そのことに驚愕を覚えている。


「ユフラテが引率してくれると、弱い冒険者が強くなるの?」

「へ?」

「だって、ヨールやジャックなんか、ウサギすらちゃんと獲れなかったのよ。」

「ふつうは三人くらいで囲んで倒すもんだろうが。」

「仲間がいなかっただけだYO」

「それが、グレイウルフよ。」

「人間の使い方が悪いんだよ、ここのギルドは。」

 ユフラテは、そういって嘯<うそぶ>いた。

 マスターは苦虫を噛んだような顔をしている。

「ちゃんと育てれば、ヨールだって強くなれる。」


 マリエはそう言われて、ユフラテの顔を見た。

 彼は、にこにこと罪のない笑顔を見せていた。

「こいつらが後ろを守ってくれていると、前からくるウルフなんか怖くない。」

 マリエは思わず頷いていた。

「もう、ヨールとジャックの二人でも、ウサギは獲れるぞ。」

「本当?」

「うそじゃない。」

 驚いたのは、言われた二人だろう。

「落ち着け、腰を入れて突け、この二点を忘れなければ、ウサギなんかに負けない。」

 ユフラテは、ふてぶてしく笑った。


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