第五十三話 オーケー峡谷の戦い ー弐ー
暇つぶしの相手にネコがいてくれたので、ずいぶん気が楽になった。
ネコは、名前もなく獣人として、王国を転々としながら暮らしてきたそうだ。
背中の虎縞を見たので、「トラ」という名前にしてやった。
なにやら複雑そうな顔をしていたが、じゃあ「タマ」と言ったら「トラ」でいいと言った。
ネコの名前なんて、タマしか浮かんでこんわ。
日曜六時半からの国民的アニメにも出てるじゃん、タマ。
「トラ、馬の世話はできるか?」
「乗れないけど、世話くらいはしたことあるにゃ。」
「馬車の御者は?」
「ゆっくりでいいなら動かせるにゃ。」
「なるほどね、おまえ、普通に働けば良さそうなスキルがいっぱいあるのにな。」
「器用貧乏なのにゃ。」
「それもそうだな。」
カズマは、その辺にごろりと横になって、うとうと寝ていたようだ。
気が付いたら、日が沈み始めていた。
あたりは、真っ赤に染まって、明日も晴れる気満々だな。
トラは、カズマの懐で丸くなって寝ていた。
「なんだ、寝ている間に逃げるかと思ったのに。」
ネコにも一宿一飯の恩義ってものはあるらしいな。
カズマは、にやりと笑った。
少しうれしい気分である。
「にゃ?」
「ああ、そろそろ客が来そうだ、お湯を沸かそう。」
「はいにゃ。」
なんと言うか、チコと似たような、でも全然違う動きでくるくるとよく働く。
これは結構な拾いもんかもしれん。
峡谷に向かってサーチをかけると、木陰にまぎれて一人二人と街道をこちらに向かって歩いてくる。
なんちゅうか、盗賊たちはあんまり仲間の動向に気を配ってないらしい。
ドレンの下手な説得に、なにか共鳴するものがあったのか、思った以上にやってくる。
カズマは多くても一〇人程度と思っていたんだが、意に反してこの小屋にやってきたのは五〇人にせまる。
みな一様に薄汚れて、ドレンほどではないがくさい。
「なんだよドレン、けっこう説得できたじゃん。」
「この格好が効いたようなんでさァ、俺だけ臭くねえのはなぜだって思ったらしいです。」
ほらみろ!
くせえんじゃねえか!
「へえ、怪我の功名ってやつかい?まあいい、よく来たな、そこに風呂があるからみんな入ってくれ。」
『風呂?」とかまだよくわかっていないやつらが多い。
「なんでもいいから、人並みに戻れって言ってるんだよ。お前ら、いま、獣と変わらんぞ。」
それほど臭いかと、自分のにおいをかいでみるが、慣れてしまった鼻は役に立たない。
「ドレン、外にあるから、トラと一緒に連れていけ、服は全部洗う。」
「へい、おいみんな着いてこい。」
男たちは、ぞろぞろと外のクアハウスに入った。
ノミダニシラミ、見てるだけでかゆくなりそうなやつらだ。
カズマは、そとから軽く電撃系の魔法をかけて、やつらの体についている虫を離れさせた。
吸血虫は、電撃に弱い。
だから、ぼろぼろと落ちていく。
小さいのは焼き切れているが、大きいのはまだ生きているようだ、あとは洗えば落ちるさ。
着ていた服は、肥ダメに似ているにおいが漂う。
地面に開けた丸い穴にすべて突っ込む。
もちろんレビテーションで運んださ、素手で持てるかあんなもん。
全面を硬化させて、タライのようになっている。
カズマは、大量の熱湯をかけて、大変なことに気がついた。
よけいにくっっせえ!!!
しょむないことしてしまった!
しょうがないので、覆面して、さらに追い打ちをかけて、熱湯を浴びせる。
やっとこ五回のお湯交換を超えて、においがしなくなったので、水魔法でぐるんぐるん回してやった。
魔法の洗濯機だな。
塩素系の消毒剤が欲しい!
切実に欲しいわ。
草原に向けて排水したが、明るいところでは見たくもないな。
きっと虫だらけなんだろうさ。
熱湯で死滅してくれることを願う。
まあ、一〇〇度に耐えられる虫が居るとも思えないけどな。
風呂の中も、ひどい状態なんだろうから、外からクリーンの魔法を必死になってかける。
ごっそり持っていかれる魔力が、その凄まじさを語っている。
カズマの魔力が、そう簡単に無くなるもんではないが、腹の中から臓物を引きずり出されるような、すっげえ消耗感。
しかしまあ、努力の甲斐あって、出て来た連中は人並みになっていた。
全員の服の模様もはっきり分かるようになって、小屋の中に落ち着いた。
「ドレン、全部で何人だ?」
「へい、四十七人です。」
行け行け本所吾妻橋。
(こんなネタ、若い人は知らないだろうな。)
一割は減らしたか、上出来だ。
「討ち入りかよ、まあいい。始末したのは?」
「五人です。」
「わかった、ごくろうだったな。ちゃんと埋めてきたか?」
「へい、そう簡単にはわからない深さで。」
ドレンは、重い口調で答えた。
カズマは全員を見回した。
「お前らは、盗賊やめて百姓になりたいと、本気で思ってるんだな。」
「「「へい。」」」
「じゃあ、とりあえず飯でも食って、それから移動しよう。」
「あの、本当に俺たち殺されないんですかい?」
「そう言ってるだろう。ドレンが生きているのが、その証拠だ。」
「でも、盗賊団で…」
「それも知ってる。だから、お前たちは最初は、農業奴隷落ちだ。でも、死ぬことはない。」
「…」
「それがいやなやつは、盗賊団に戻るか、ここから逃げてどこかで捕まるかだな。よその城門では、水晶玉に触るんだろう?」
水晶玉に触ると、賞罰がばれる。
人殺しもばれる。
償ったものは、それも表示される。
マイナンバーみたいなもんだな、うっとおしいが。
「城門でバレたら、確実に死刑だな。俺のところに来れば、助けてやれる。」
「そう言えば、カズマのダンナはレジオでなにやってるんすか?警備隊ッスか?」
「言わなかったか?俺は、レジオ男爵だ。」
「しょえ~~~~!」
「今夜のうちにレジオの城門に逃げ込めば、お前たちは助かるが、もし、失敗したら盗賊たちに皆殺しの目に会うだろう。」
ドレンはこめかみに冷や汗をしたたらせる。
「そ、それはわかってる。」
「じゃあ、みんなここでシコタマ喰って、体力をためて、一気に逃げるぞ。」
盗賊四十七士は、カズマのストレージに入っていたウサギだのウルフだのゴブリンだの、塩コショウの味付けだけでシコタマ喰った。
そして、薄暗がりの中、街道を西に向かって歩き出した。
トラも、カズマの馬の轡を取って、一緒に歩いている。
「旦那様は、どうしてこんな回りくどいことをするにゃ?」
「盗賊なんてな、半分は逃げ出した農民なことが多いんだ、そのうえ、そう言うやつらは使い捨てにされる。」
剣が使えるわけじゃないからな。
「そうだにゃ。」
「だから、戦力として邪魔されたくないなら、引き抜けばいいのさ。」
「なるほどにゃ、説得に応じなかった者は?」
「ドレンが始末しただろうさ、生きてれば砦に知らせに行ってしまう。」
「ああ、そうにゃ。」
「それでも、一人や二人は漏らしたかも知れんが、なに、追いかけてくるやつもいないだろうさ。」
「さて、そこまでゆるいかにゃあ?裏切り者は皆殺しが掟にゃ。」
「そしたら逃げるさ。」
「それがいいにゃ。」
トラは、アウトローの性格がよくわかっているようだ。
人情も紙のように薄い、アウトローの世界では、気を抜いたやつがやられる。
しかし、この会話がフラグを立てているとは思わなかった。
歩き出して三十分もすると、あたりはだんだん暗くなってきて、時刻はだいたい夜の七時半ぐらい。
ポンヌ山からも五キロは離れたと思った俺は、ドレンに聞いた。
「このくらい離れたら、明りを付けてもいいんじゃないか?」
「そうですねえ、まあ尾根の見張りがみんなこっちに来てるんだから、見てるやつはいないですね。」
「よし、生活魔法の使えるやつは、ライトを点けてくれ。こう暗くなっちゃ道が見えんわ。」
行列のそこかしこで、ぽつぽつと明りが灯る。
のこりはあと五キロとちょっとか、いま気が付いてももう追いつけないだろう。
「にゃ!なんかくるにゃ、馬にゃ!」
「ちっ!気づきやがったか。みんな走れ!レジオまで行けば助かるぞ。」
みな一斉に走り出す。
カズマは、メイスを出して、肩に担いだ。
「旦那様はどうするにゃ?」
「馬の数を見て、やれそうならやる。」
「危険だにゃ、相手は腕ききにゃ。」
「わかるのか?」
「馬の足音に乱れがないにゃ。」
「そうか、じゃあこっちに隠れるか。馬は何頭だ?」
「約一〇頭にゃ。」
「は、なめられたもんだな、目にものを見せてやる。」
「どうするにゃ?」
「そう言えば、おまえはどうするんだよ、さっさと逃げた方がいいぞ。」
「旦那様が心配にゃ、助けてあげるにゃ。」
「そらありがとさん、危なくなったら逃げろよ。」
「かしこまったにゃ!」
カズマは、ナイフを出して、トラに持たせた。
トラの言うとおり、薄暗がりにライトをともして、馬が一〇頭進んできた。
けっこう革の胸当てや、腰回りも装備が充実しいている。
腰の剣も、両手の大剣だ。
馬に乗って、これはやりにくかろうに、そのへんが盗賊か。
カズマは、草むらにひそんで、馬をやりすごした。
「気が付いてない…たいしたことないなあ。」
俺は、ぼやくとランサーを精錬する。
土を固めて、二メートルくらいの槍を数本作って、風魔法で上空に運ぶ。
ほら、あの測量に使う紅白の棒があるじゃん、あんな感じよ。
一キロくらい高空に上がったところで、弾道軌道を描いて騎馬の進行に合わせて落とすと、当てずっぽうだったが三騎ほど落馬した。
ライトが近付くと、肩から槍が生えている。
「だれだ!」
「って、聞かれて名乗る馬鹿はいねえって。」
無詠唱のマジックアローを打ち出してやる。
「ぐあ!」
「え・刺さったの?運が悪いなあ。」
「ちくしょう!囲んでやっちまえ!」
「そう言うところが盗賊なんだよ、軍師が着いてるんじゃないのかよ!」
カズマは、メイスを持って走り出す。
馬の上から、大剣を振っても、そうそうあたるもんじゃねえ。
横合いから、アブミにかかった足の、向う脛を、おもきし叩いてやった。
これは痛い!
まったくだな、あんま痛いんで、持った大剣を取り落としてる。
「マジックアロー!」
無詠唱三本!
うめき声をあげるまでもなく、騎馬の一人はがくりと馬から落ちた。
止めさすまでもないな、次がせまる。
「こいつはまかせるにゃ!」
トラの声が聞こえた。
「たのむ。」
二騎一緒に来る。
「ファイヤーボール!」
どんどん!
きつい音がして、夜道を明るく照らし、二人に向かって火の玉が走る。
「どわ~!」
あわてて馬から降りたやつは賢い。
その場で避けようとして、火の玉をくらってしまったやつは哀れとしか言えない。
頭に火をかぶって、地面を転げまわることになる。
馬から降りたやつには、もう一回ファイヤーボールを打ち込んで黙らせる。
「止めはまかせるにゃ!」
頼もしいぞ、トラ。
俺は、止めをトラにまかせた。
これで六人。
特大のファイヤーボールを浮かべてやると、三人があとじさった。
「遅い!」
馬に乗ってねえやつなんざ、怖くもない。
メイスを持って正面から走り込み、横面をがんがんぶんなぐってやる。
大柄なやつが、耳から血を拭いてぶっ倒れる。
もう一人は、細剣振りまわして走り込むので、足元に火の玉ぶっこんでやったら、飛び上がって避けようとして、火の上に乗ってしまった。
「ぶあちちちちちち!」
「踊ってろ。」
その横を抜けて、カシラらしいやつの前に走り込む。
「にゃ!」
もちろん、踊ってるやつは、トラにまかせる。
「お前がカシラか?」
「おう!こいやあ!」
血の気の多い奴だねまったく!
「おりゃああ!」
頭の上から大剣がおちてくるが、動きが遅いので軽く避けて、後ろからまわしたメイスで、額を割ってやる。
「おりゃああ!」
ごきい!
「いてえ~!」
石頭め!
「てめえ殺す!」
「うるせえ、黙ってろ!」
メイスは一周回って、上空から脳天めがけて落ちてきた。
ごきい!
「けっ、油断してっからよ。」
カシラは、耳から血とかなにかを出しながらぶっ倒れた。
「俺の街に迷惑な奴は、さっさと始末するぞ。」
もう一人残っていたんだが、走って逃げだした。
「甘めェんだよ!逃がしたら、面倒なことになるだろう!」
マジックアロー無詠唱一〇本打ち出して、背後から葬り去る。
「うわ~、旦那さま情け容赦がないにゃ。」
「下手に情けかけると、背後から刺されるじゃん。」
「それもそうにゃ。」
「俺が大事なのは、俺のまわりにいる人たちだ、こんなくっさい盗賊じゃない。」
「は~、徹底してるにゃ。」
「好い人なんてやつは、迷ったあげく大事な人を死なせるやつのことだ。そんなことになるくらいなら、始めに芽を摘むのが一番だ。」
「そのとおりにゃ。」
俺は、盗賊の死体を深く埋めた。
深さも五メートルくらいにして、見つからないようにしている。
ありがたいことに、馬が十頭手に入った。
全部集めて、縄でつないでレジオに向かう。
走って逃げたやつらは、無事着いただろうか?
東門のところで、ホルスト=ヒターチが兵士を並べて待ち構えていた。
「お屋形さま!」
「おう、土産だ。」
カズマは、ホルストに馬のロープを渡した。
一〇頭の馬は貴重な財産だ。
「は、はあ。盗賊はどうしました?」
「殺して埋めて来た。もう、今日は来ないだろうさ。」
「なんと、おひとりで盗賊を?」
「ああ、あんなやつら十人が二十人でも、屁でもねえ。それより、寝返ったやつらはどうした。」
「は、とりあえず兵舎の隅に集めてあります。食事の時間でもありますので、飯を与えてあります。」
「そうか、すまんな。奴らは、俺の権限で農奴落ちさせて、罪を償わせる。業者を手配してくれ。」
「かしこまりました。」
「まあ、今のところ砦からここまで攻めてくるわけじゃない、脱走に気付いた十人は始末したしな。今日は見張りを残して解散しろ。」
「御意!」
「トラ、着いてこい。」
「にゃ!」
カズマは、朱雀大路を通って家に向かう。
「ただいま、みんないるか?」
「えっと、マルクスさんとアルマンさんはお部屋です、ゴルテスさんとロフノールさんは、台所です。マルノ、ゲオルグは裏です。マルスはホルストを呼びに行きました。」
さすがにチコはすげえな、すらすらとまあ、見て来たみたいに説明する。
「わかったチコ、みんなをここに集めてくれ。」
「かしこまり、その子は?」
「こいつはトラ、お前の助手だ。」
「わかった、トラ、あたしはチコ、着いておいで!」
「にゃ!」
すぐに玄関ホールにそろった面々に対し、俺は見て来たことを説明する。
「五百人のうち、すでに一割は減ったということですか。」
マルクスは、あきれたような顔をしている。
「かなり用心深いやつですね。」
アルマンは、あごに手を添える。
「俺は、陛下から預かった兵隊を、一人も減らしたくない。」
「左様ですな、どうします?」
ゴルテスは、こっちをしっかり見ている。
「簡単だ、降参させればいい。」
「ど、どうするんですか?」
ロフノールは、目をむいて言う。
「そうだな、こういうのはどうだ…」
俺は、全員の頭を集めて、今回の作戦を説明する。
「なんとまあ、気の長い話ですな。」
「早晩、降参するさ、まずは全部の盗賊を砦に避難させることから始めよう。」
次の日、さっそく届いた許可状を受け取り、全軍を俺の下に付けた。
「いいか諸君!かならず生き残ること!怪我は好い、勇敢な証拠だ、しかも聖女がいれば必ず治してやる。」
「「「おおお~!!!」」」
「だが、死ぬのは許さん、国王陛下から預かった大事な兵士だ、絶対に死ぬな!」
「「「おう!おう!」」」
「死ぬくらいなら無様に逃げろ!生きてこそ、国王陛下に御奉仕できるのだ!」
「「「おう!」」」
「敵に対しては、まず落ちつくこと!あわてるな!おびえるな!」
「「「おう!」」」
「落ち着いて相手をよく見れば、攻撃は当たる!」
「「おう」」
「よし!では、各隊長の指示に従って進め!」
「「「おおお~!!!!」」」
兵士たちは気合十分になった。
なんと言っても、正規の職業軍人だ、練度がちがう。
攻撃も防御も、複数でこなすよう訓練されている。
このへんが、冒険者とは違うところだ。
一人に対して二~三人で囲んで攻撃するよう訓練してきた。
まずは、アルマンの陸軍歩兵部隊を一〇〇人ずつ五隊に分け、各尾根の上から金やドラを叩いて大きな音を出して、見張りなどを追い出す。
「わあああああ!」
「うらー!」
どんどんどん
がんがんがん
「うわああああ!」
浮足立った盗賊たちは、必死になって尾根をかけ下り、狭い峡谷を越えて木造りの砦に向かった。
いきなりの大音声に、砦の頭目もびっくりして駆けだしてきた。
砦からは、鳴り響く銅鑼の音や、鐘の音が聞こえる。
「ちくしょう、尾根の偵察がみんな追い出されてやがる。」
「あ!あそこで捕まってるぞ!」
物見やぐらでは、周辺の様子がよく見えているようだ。
「ちくしょう!敵は何人だ!」
「木に隠れてわかりません!ですが、五つの尾根に上から襲いかかっているようです!」
「ふうむ、敵さんの動向がわからんな。」
「メイビー!どうする?」
「出方がわからんので、もう少し様子見だな。大将、もっとどっしりしてろよ。」
「お、おれは落ち着いてるぞ。」
「ふ、そうかい?」
メイビーと呼ばれた男は、中肉中背で苦み走った感じの、夜の酒場でモテそうな男だ。
「なるほどな、見張りを全部追い出して、砦を孤立させるか、いい策だな。しかし、ここは堅固に作ってあるぞ、下から攻めても無理だぜ。」
上は崖である。
岩盤が露出していて、ロープで降りることも難しそうだ。
背後からは攻められない。
「矢は二〇〇〇〇本以上作った、石もむちゃくちゃ集めて来た、領主軍なんざ負ける気がしねえ。」
「た、頼もしいな、メイビー。」
ゴルテスが、二〇人余りを連れて、別働隊として山に入っている。
林道は、物資の搬入に使用されていると踏んだカズマに、兵糧の焼き払いを頼まれたのだ。
メイビーのつぶやいたように、丸太の柵とは言え、山の中腹にできた砦はけっこうな大きさと、広さを持っている。
「なるほど、攻めにくいな。」
「どうしますか?」
「ふむ、もう少し見張ろうよ、どうせすぐに攻めるわけではない、兵糧の倉庫はあれとあれのどちらかじゃ。」
「ああ、少し離れたところに、似たような建物がありますな。」
「普通は、兵糧は湿気るのを嫌って、床が高いものだがな、ここでは難しかろうて。」
「まことに、しかし規模はウチの兵舎に劣りませんな。」
「確かに。」
ゴルテスは、夜陰にまぎれて火矢を打ち込むことにした。
「少し後退しよう、見つかると面倒だ。」
「「「「は!」」」」
「わあああああ!わあああああ!」
がんがんがん!
かんかんかん!
「わああああ!わああああ!」
「狩りの勢子のようですな。」
ホルスト=ヒターチは、後ろに組んだ手のひらに力を入れた。
「言いえて妙。似たようなもんだろ、あ~あ、またあのくっせえ連中との付き合いかよ。」
カズマは、床几に腰掛けて前方の山を見ている。
「くさいですか?」
「くさいんだよ!レジオに逃げ込んだやつらは、俺が洗って、電撃とクリーンの魔法とで虫や垢を落としたんだ。」
「ほう。」
「魔力がごっそり減るくらい汚かったんだよ。」
「なるほど、それは嫌ですね。」
「ホルスト、あんま嫌そうに聞こえないぜ。」
「そうですか?あ、かなり飛び出してきましたね。」
「ああ、いい感じだな。」
所詮、盗賊である、統率などと言うものとは無縁なものだ、メイビーはかなりアバウトに運用して、好成績をあげている。
それだけでも頭のいい奴だとわかる。
「ただし、軍略とか兵站とかについて、習ったわけでもあるまい?」
「そりゃあ、わかりませんよ。傭兵でもやってりゃ、習わぬ経を読むって感じで。」
「ま、頭はいいんだろうさ、盗賊が意外といい動きをしている。」
「そうですね、やつら水はどうしてるんでしょうね?」
「う~ん、俺なら井戸を掘るがな。簡単だし。」
「そうですね、人足も多いから掘る手は確保できますね。」
「俺は、あの砦が欲しいんだ。うまく使えば、反対に盗賊対策に使える。」
「さすがお屋形さま、先まで見てますね。」
「だべ?」
五〇〇人の勢子に追い出された盗賊たちは、ひいひい言いながら中腹の砦に逃げ込んだ。
「さて、お屋形さまの出番ですね。」
「おう、行ってくるぜ。」
マルクス=レクサンドを従えて、二〇〇騎の騎士を並べて整然と進む。
なるほど砦の前には、多少の広場まである。
「林道はあっちにもあるな、あれが補給路か。」
「そうですね、あまり見ないでください。」
「わかった、さて、声をかけるか。」
「御意。」
『おい!盗賊ども!よく聞け!私はレジオ男爵である!おとなしく砦を放棄して投降すれば、お上にもお慈悲はあるぞ!黙って投降したまえ!』
『やかましいやい!これでもくらえ!』
いきなり矢が飛んできた。
「お屋形さま!」
マルクスは、大振りな盾で俺をかばった。
かいんと軽い音がして、矢はぽとりと落ちた。
「これが返事か!わかった、後悔するなよ!」
俺たちは、一旦砦前から騎馬隊を引いた。
二〇〇人からの騎馬隊は、それだけでけっこうな威圧感があるのだがな。
「魔術師隊前へ!」
俺の号令で、二〇人余りが騎馬のまま前に出る。
「打て!」
小規模なファイヤーボールを連続で打ち出して、砦の城門を攻撃してやる。
あくまで、フリだけだ。
がんがんがんがん!
丸太を組んで作った城門は、小規模なファイヤーボールで焦げるが、破壊はされない。
破壊しないように威力を落としてあるからだ。
「なかなか固いな!出なおすとしよう。」
「おうおう!けえれけえれ!」
「なんだ、あいつが頭目か?」
「そのようですな。」
「後日決着をつけに参る!それまでに、降伏の覚悟を決めておけ。」
「うるせえ、二度と来るな!」
「わははははは、楽しい奴よ。」
「ちっ、なんだあの若造は。まだ小僧のくせに、やけに貫禄がある。」
親方は、物見やぐらから見下ろして毒づいた。
「あれが、魔物一万匹のレジオ男爵か。」
隣でメイビーがつぶやく。
「なんだよ、魔物一万匹って。」
「知らないのか?驚いたな、レジオに殴り込んだ魔物一万匹を一人で殲滅したって噂だぜ、聞いてないのか?」
「知らねえ。」
親方は、肩をすくめて見せた。
「か~、メルキアってのはどんだけ田舎なんだよ。情報が遅くて泣けて来るわ。
メイビーは、頭をがりがり掻きながら、よそを向いている。
「しかし、親方、レジオの英雄を知らないなんて、変ですぜ。」
物見の下から、手下Aが聞いた。
「ああ?レジオの英雄なら知ってるぞ。」
「それが、今の若造ですよ。」
「なんだよ、そうだったのか~ってぇ!なんだとう?そんなやつ相手にどうするんだよ!」
やっと事態が理解できて、親方は慌てること慌てまいこと。
それが伝播して、砦の中は騒然となった。
「落ち着け!馬鹿どもが!」
メイビーはイライラが頂点に達した。
意外と沸点の低い男である。
「この砦は、そう言うことも考えてここに作ったんだよ!わかってるのか?団体さんも山道では一列になるしかあるめえ!」
「ああうん…」
親方は、トーンダウンした。
「わかってねえな?細く長くなった軍隊なんざ、横から攻めればすぐ分断できるってことだ。」
「なるほどー。」
きっとわかっていないくせに、親方は、うなずいて見せた。




