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第五話 冒険者ギルドもめんどくさい

さあ、新展開を追加しちゃいました。

うへへ。

まだ、ユフラテは、地味にがんばります。

 どこの組織も一本化なんてのは、夢のような話で、この街のギルドも一枚岩(みんなが同じ意見)とは限らないようだ。


 と言うのも、盗賊の村長はけっこうな賞金首だったようで、金貨三枚付いていた。

 これについて、俺に渡す渡さないでもめたそうだ。

 バカじゃないのか?

 組合が組合員の金をピンハネしたら、次からだれも言うこと聞いてくれないぞ。

 なんだか、アホの寄り合いみたいな組合だな。


 ま、結局は俺のところに来るんだけど。


 手下も二~三人賞金が付いていて、銀板も数枚追加されている。

 これだけで、けっこうな稼ぎだよ。

 一年ぐらい食えるわ。

 ヨールの言っていた若いのは、馬車をしつらえて何人かでモイラの村に向かったらしい。

 ま・どうせ役にもたたんガラクタしかないぜ。

 あ、馬小屋の盗賊のポケットは探ってないから、少しは現金もあるかな?

 こいつはくれてやろうと思う。

 なんでもかんでも巻き上げると、反感を買うからな。

 ギルドマスターにも、何も言わない。

 お前らの飲み代にでもしろ。


 あ、松明もってた若いのは生きてたみたいで、ロープでぐるぐるまきにされて帰ってきた。


 それ以外は、全員死亡。

 顔も知らん盗賊なんかにかける情けは持ち合わせていないよ。

 夜で暗くて、顔も見えなかったしな。

 俺の持ち帰った剣は、二本減っていた。

「持ち主の冒険者の家族に渡したい。」

 ギルドの、まじめそうな中年が教えてくれた。

「ああ、あのドッグタグの持ち主のものか、いいよ渡してやってくれよ。」

「すまん。」

「なに、形見くれえなきゃあ、葬式もできんじゃないか。お互い様ってもんよ。」

「すまんな、本来なら…」

「いいっこなしにしようぜ、明日はわが身だからな。」

「ユフラテ・いいやつだなお前は。」

「よせやい、相手の気持ちを考えたら、そんなもんの一本や二本、屁でもねえよ。」

「ありがとう、俺からもよろしく伝えておくよ。」


「ああ、たのむ。」


 組合にも、まじめなヤツは多数居るようで安心した。

「ああ、お前は今日からEクラスだからな。」

「ああ?」

「腕のたちそうなやつは、早めにいい仕事をさせたほうが組合のためなんだとさ。」

「ひでえ。」


 俺は、残りの剣をリュックに詰めて、がちゃがちゃ言わせながら、ギルドを横切る。

「ユフラテなんだYO、その剣は。」

「ああ、盗賊からの戦利品。鋳つぶして新しい剣にしてもらおうと思ってな。」

「へ~、ま、俺が見ても二束三文だYO。」

 ヨールでも食指が動かないようなナマクラなんだな。

 言ってみれば、鉄の棒だな。

 まあいい、チグリスにはどんなもんでも、名刀にしてしまうスキルがある。

 つか、あいつほんとにすげー腕してるんだよな。

 マジ・尊敬するわ~。


 なんだかんだで、賞金ももらったし、剣もかえってきたし、今日はもう上がりだな。


「ユフラテ~、そのナマクラどうするんだ?」

 同じFクラス冒険者のマルソーが、ギルドのカフェから声をかけてきた。

「おう、こいつは職人街のチグリスに鋳とかしてもらうんだ。」

「へえ、チグリスと言えば、名人じゃないか。」

「ほう、知ってるか。」

「そりゃあな、こういう商売してると、自然といい鍛冶屋はマストだぜ。」

 俺もいすに座ってエールを頼んだ。

「チグリスはいい鍛冶屋だぜ、こいつを見ろよ。」

 俺は、腰の短剣を抜いて見せた。

 青白く光る、深い色の波紋を見て、マルソーは目を輝かせた。

「こいつぁ…」


「こいつは借りモンでな、チグリスの売りモンを貸してくれたんだ。しかし、いい色だろ。」

「ごくり。」

 マルソーが喉を鳴らした。

「売値は、銀板八枚だそうだ。」

「た・短剣でか!」

「ああ、これだけの出来だと、やっぱそのくらいは出さないとな。」

「そうか~、さすが名工チグリスの短剣だな。」

「おれも、盗賊なんかにこいつを抜くことはできなかったよ。ほとんど落とし穴でやっつけたようなモンだよ。」

「落とし穴ァ?詳しく教えてくれよ。」


 マルソーは、身を乗り出してきた。

「ああ、別に特別なことをしたわけじゃない、モイラの村って旅人宿が馬小屋だろう?」

「うん。」


「おれ、土魔法が得意なんだよ。」

 うんうんとうなずくマルソー。

「で、馬小屋の四方を土壁で覆ったんだ。寝るのに夜風が気になってさ。」

「うん。」

 ぐびりとエールを口に運ぶ。

「それで、寝てたら、夜中に盗賊が小屋にやってきたからさ、あわてちまって、入り口にでっかい穴掘っちまったんだよ。」

「へえ~。」

「深さが五メートルも掘っちまってな、そのころには落ち着いてきたので、落とし穴の底にトゲびっしりはやしてな。」

「とげえ?」

「ああ、土ボコを細くして、尖らせたんだ。俺、得意なんだぜ。」

 手のひらの上にトゲを出して見せた。

 直径一〇ミリくらいで、長さが十五センチくらいのやつだ。

 ころりとテーブルに転がる。


「うげえ!」

 マルソーは、想像したんだろう。

 すっげえ痛そうな顔をした。

「二メートル四方の床にびっしり植えたから、落ちたやつは足なんかザクザクだろ。」

「だあ~、やめてくれよ、想像したら歯が浮いてきたよ。」

「あはは、盗賊に同情なんかいらんだろう。」

「いや、自分の身につまされてな~。」

「おれ、着火の魔法がへたくそでさあ。」

「着火って、これか?」

 ぽっと、指の先に火がうまれる。

「そうそう、俺がやるとでかすぎて、使えないんだよ。」

「そうか~、そう言うやついるな。」


「で、練習していたら、へんなことになってさ。」

「あんだよ。」

「まあ、それはいいんだけど、練習したら小さくなったから。」

「話が見えん。」

「小さく細くして出せるようになったんだ。」

「そらよかったじゃん。」

「でも、土魔法のほうが得意だから、落とし穴で敵を減らすのが一番だよ。」

 俺は、いろいろ考えて、話をそらした。

「まあな、俺たちFクラスには、なかなかいい武器もないしな、安全第一だよな。」

「そうそう。身の丈にあった仕事でないとな、今回はちょっちハード過ぎたよ。」

「ギルドマスターもひでえよな。」


「組合員は、大事にしないとアカンよな。」

「そうだよ。」

 あぶねえあぶねえ、危うく自分の手の内明かしてしまうところだった。クワバラクワバラ。

 クワバラってなんだ?

 知らんけど。


「ああ、ガラクタの中に少しはマシな防具があったから、ギルドで売りに出るかもしれんぞ。」

「なに?それは聞いてこよう。今の革の防具では、心もとなくてな。」

「早めに抑えることだな。」

「わかった、すまんな。」

 盗賊にやられた冒険者の鎧があったはず。

 本来なら俺のものだが、放置してきたからギルドがチョロまかしたシロモノだ。

 なかなか稼げないFランク冒険者には、掘り出し物は重要なものだ。

 そう言う情報の共有も、お互いに有利になるから、できるだけ手に入れたいものだよ。

 ま、がんばってくれ、マルソー。

 あんたは気のいいやつなんだからさ、付き合いやすくて俺は好きだぜ。

 だめだったら、俺の手持ちをうまく回してやるから、そう気落ちしなさんなよ。


「ただいま~。」

「お帰りユフラテ、父ちゃんは工房に居るよ。」

「お、そうか。チコ、また儲かったから金預けておくわ。」

「もういっぱいもらってるのに。」

「ま、あって邪魔になるものでもあんめえ、これだ。」

「げげ、金貨じゃん!それをどうしろと?」

「まあ、生活費の足しにしてくれ、俺はまだもらってるから、こいつ一枚だけど、預けておくわ。」

「聞いたよ、盗賊の賞金だって?危ないことはしないってやくそくだったのに。」

「まあ、成り行きだもん、しゃあねえじゃん、そう怒るなよ。」

「今回は、だいぶん儲けたみたいだから、預かっとくよ。」

「かっちけねえ。」


 俺は、背中の剣をがちゃがちゃ言わせながら工房に入った。

「チグリス、ナマクラもらってきた。」

 チグリスは、横目でチラッと見て、ぼそりと言う。

「本当にナマクラだな、そんなもんゴブリンでも切れんぞ。」

 俺も、チグリスの剣を見てきたから、こいつが粗悪品だとわかる。

 鋳型に質の悪い鉄を流し込んで作ったナマクラだ。

「だねえ。鋳つぶして、何かの足しにしてくれよ。」

「ああ、その辺に積んどいてくれ。」

「了解、このへんでいいか?」

「ああ、そこでいい。」

 ほとんど見てもいないんですけど。

「ユフラテー、お茶飲む?」

「お~う。今行く~。」


 工房を出て、もう一度台所に戻る。

「ああ、これ返すよ。」

 チコは、前掛けのポケットから、小さな皮袋を出した。

「おう、すまなかったな。」

「なにそれ?」

「ああうん、名前はしらんが、便利な袋だ。」

 俺は、中から金貨を出して見せた。

「げげ!魔法の皮袋じゃん!そんなもの預けるなよ!」

「え?まんまやん。」

「それ、買ったらいくらすると思ってんのよ!」

「い~、見たことないからわからんし。」

「金板三枚はくだらないね。」


 チコは、ため息混じりに言った。

「そ・そんなにするのか!ヤベ~!」

「で?お金以外に何が入ってるのさ。」

「ああ、塩に砂糖にコショウに…」

「げげ、もっとヤバイモンが入ってたのか。」

 俺は、イスに座ってカップを手に取る。

「塩や砂糖は必要だろう?」

「そりゃまあ、あればありがたいけどさ。」

「じゃあ、台所に置いておこうよ、さすがに全部出すと台所が狭くなるから、一個ずつで。」

「ドンだけ入ってるのよ。」

 チコもいすに座ってあきれている。

「塩が壷で一五〇個。」

「はあ?」


「砂糖が壷で三〇個。」

「…」

「コショウがこの壷で、一〇〇個。」

 カップより少し小さい壷に入ってる、粒コショウだ。

 すり鉢ですりつぶすと、鮮烈な香りが立つ逸品だな。

「それ、家が建つ…」

 チコは、若干青ざめた顔で言う。

「そうなのか?」

「この地方で、砂糖・コショウは金持ちの食べ物だよ。」

「へ~、そうなんだ。」

「甘いお菓子なんて、なかなか高級品だしね。」

「そうなんだ、みんなチコにやる。」

「やめてよ!どこから盗んだかなんて聞かれちゃうよ!」


「ひとんちの台所なんて、だれも見やしないよ。」

「そりゃそうだけどさ。」

「ま、塩は丁度品切れ状態らしいから、あって損はないよ。」

「そうだね、ありがとう。」

 塩も砂糖も、台所の高い棚に収納された。

 湿気がこなくていいんだってさ。

 塩は、ピンクがかった粒の細かいヤツだ。

「これも少しお高いやつだよ。粒が大きいほど品質が悪くなるし、砂とか混じってくる。」

「砂あ?」

「だって、塩なんて地面に埋まってるし、露天掘りだよ。砂なんて、入ってあたりまえじゃない。」

「へ~、そうなんだ。なるほどねえ。」


「塩なんて、安くて当たり前だと思ってた。」

「どこのお貴族さまよっ!」

「あはは、さて魔法の練習でもすっかー。」

「うん。」

 俺は、裏庭に出て行った。



 裏庭には、まき割りをする場所があって、丸太がごろごろ転がっている。

 そいつを一本出してきて、イス代わりに腰をおろす。

 路地との境目は、生垣がある。

 陽当たりのいい一角に、木陰が涼しい。

 今日は、指先レーザーの検証だ。

 便宜上レーザーと呼んでいるが、これは収束した熱線だから、本来はレーザーなんてモンじゃない。

 だけど、高熱の熱線で、ほかに呼びようもないから、こう呼んでいる。


 ちゅいん


 指先レーザーは、あいかわらず暴力的な熱を地面に向けて発射している。

「これをもっと収束させると…」

 しゅぼ!

「うは、すげえ細い穴が深くなった。」

 爆発もない。


 さて、ここからが今日の課題だ。

 俺は、指先レーザーを丸太に向ける。

「どうかな?」

 レーザーは、太さ三〇センチはありそうな丸太を、やすやすと切り裂いた。

 つか、真っ二つ。

 すばやく上下に動かしたので、焼け焦げもうっすらと、切れ目は磨いたような艶々。

「いい感じだな。」

 それを何回も繰り返すと、巻き割りいらずで、おがくずも出ない。

ただし、かなり早く動かさないと、勝手に燃え始める。

「うわ、こりゃあ速度の調節がキモだな。」

 丸太は、豆腐を切るように、すぱすぱと切れて行き、ほぼスクエアな薪が量産される。


 魔法の補正か、ほぼ等間隔に刻めるのだ。

 ものの五分ほどで、そこにあった丸太はすべて薪になった。

「すげえ、ぜんぜん力入れてないのに。」

 目の前には、マキの山。

 盗賊に使ったより、さらに収束しているので、たぶん厚みは紙ほどもないんじゃないか?

 俺は、薪を持ち上げてしげしげと観察する。

「こいつ、振動しているんじゃないか?磨いたみたいにきれいになってる。」


「ユフラテー、何してるの?」


 振り向くと、チコの丸い顔が合った。


「ああ、薪を割ってる。」

「あら、ありがと…って、なにそれ?」

 俺の手には、きれいに磨かれたような、四角い薪。

 簡単に言うと、カンナがかかった短い垂木のようだ。

「いま割った薪だよ。」

「どう見ても、建物のはし材にしか見えない。」

「だよなあ。」

「どうやったの?」

「ああ、ほら指から出るやつだよ。」

「あれ?」

「そう、ほら。」


 ちゅいん


「すごい、今日は穴が開くけど爆発しない。」

「たぶん、また温度があがってるもんだから、地中深く掘れているんだよ。」

「なるほどねえ。」

「で、これで丸太を切ると、こうなるんだ。」

「すごいなー、製材所があがったりだわ。」

「あははは、そう言う使い方アリだな。」

「ユフラテ、こっちの丸太を板にしてよ。台所の棚にしたいんだ。」

「どれだ?」

「こっち。」


 庭を移動すると、家の軒に長いままの丸太が建ててあった。

「こんなにあるのか?」

「うん、こうして立てて干しておくのよ。」

 鍛冶屋には薪も大量に必要なようで、何本も立っている。

「これでいいかな?」

 チコは、一番太そうな丸太を指差した。

「よし、ここに立てて…」

 俺は丸太を軒から離して、まっすぐに立てた。

 指先から高収束レーザーを出して、一気に真っ二つにする。

 倒れる前にそれを繰り返すと、二メートルある丸太はばらばらと板になって倒れた。


「すご…」


 刃物を見てきたチコは、その切れ味の凄まじさが理解できたようだ。


 高収束レーザーは、今のところ二~三メートルしか伸びない。

 いろいろ踏ん張ってみたけど、これだけしか伸びなかったんだ。

 まあ、使い方はいろいろあるさ。

 しかも、そもそもが魔法消費量の少ない生活魔法の延長だ。

 体に対する負担が、極端に少ない。

 面白がって、立てかけてある木材をすべて板にしても、ぜんぜん疲れていない。

 土魔法で、地面に台を作り、板を並べてやった。

「なにこれ?」

 チコが首をひねる。


「板を地面に直接置くと、腐ってしまうから浮かせておくんだよ。」

「へえ~、そうなんだ。」

「これだけじゃ面白くないな…」

 俺は、土魔法を練って、三方に壁を持ち上げた。

「壁?」

「ああうん…薪小屋を作ろうと思ったんだけど、失敗した。」

 板も、雨が当たらないようにすると、きれいに乾燥する。

「あははははは、なんだ、壁だけでどうするんだろうと思ったわ。」

 チコは、かなりウケたようだ。

「失敗だな、屋根から作らなきゃな。」

「そうだね、壁の上に木で作って乗せればいいじゃん。」

「ああそうか、全部土で作る必要もなかったな。」

 結局、束を立てて、屋根を後付けで作った。

 屋根には、草を刈ってきて乗っけたので、かやぶき屋根だ。


「ユフラテ、庇のところきれいに切って。」

「こうか?」

「そうそう。」

 小屋の中から、外に向けてひさしを切り取ると、草のモサモサがそろって見場がよくなった。

「立派なものよ。大工いらないわね。」

 俺も、出来上がりに満足してる。

 二人で、せっせとマキを運び込んだので、庭はすっきりした。

 職人街の家の庭って、こんなに広かったんだな。

「そりゃあ、材料とかいっぱい置かなきゃならないからね。」

「ああなるほど、鉱石とかもあるもんな。」


 鉱石はさびるでしょう…




 ヨールやマルソーのほかにも、Fランク冒険者は、ジャックやレミーなどたくさん居る。

 みんな薬草取りや、ウサギ、野鳥なんかを獲って、ギルドに卸している。

 ギルドはそれを業者に販売して利ざやを稼ぐ。

 まあ、銭を循環させる方法を、組合と言うかたちで作り上げているんだ。

 もちろん、イノシシやオークなんかも、獲れたら持っていく。

 ま、ゴブリンなんかは、食うとこ少なくてあんま利ざやはないけど、出てくると子供や女性を襲うから退治しないといけない。

 Fクラス冒険者は、とにかくいろんなことをして稼ぐんだ。

 ドブ掃除や、煙突掃除、迷いネコ探しなんかもそうだ。

 それでも、一日の稼ぎで、宿屋に泊まって飯食って、酒飲んだら終わりみたいなもんだけどな。

 階級が上がると、身銭も増えてグレードも上がり、貯金もできる。

 こいつは、ギルドで貯金できるシステムがあるんだ。

 まあ、互助組織的なもんだけど。


 今回みたいに、冒険者が死ぬとその家族にそいつの貯金なんかを知らせる。

 そこでチョロまかしたりすると、生涯言われる。

 だから、まあ・あんま不正はできない。

 あくまで、あんまりの範疇だけどな。

 やるやつはやるよ。

 バレると、冒険者から袋叩きに合うけど。

 バカはどこにでも居るさ。


 今日は、ジャックとレミーに頼まれて、ウサギ獲りに来ている。

 やっぱ、シングルだと怖いんだってさ。

「そんなもんかねえ?」

「ウサギって、けっこうチカラ強いじゃない。」

 レミーは、ブスじゃねえけど、むちゃくちゃきれいでもない、普通のねーちゃんだ。

 ちょっと痩せぎすな気もするけど、これは食えてないからだろう。

「まあ、それは否定せんけど。」

「ユフラテの、ウサギの獲り方を覚えたいんだよ。」

「ええ?参考になるかなあ?」

「見て盗むのも、冒険者だよ。」

「ま、いいけどさ。」


 俺は、風の波を出して、ウサギの位置を探った。

 風魔法なんて、あんまし使い道のないものだ。

 エアハンマーなんて、けん制にしか使えない。

 エアカッターなんて、レベルが低いと葉っぱくらいしか切れない。

 でも、こうして波にして出すと、なにかいるくらいのレーダーの役目を果たすんだ。

 つまり、波が跳ね返るのを利用している。

「なんかいないなあ、森のほうかなあ?」

「森?もりは危ないぜ。」

 ジャックは、肩をすくめる。

「でも、薬草なんかも森のほうが多いだろう?」

「だけど、魔物との遭遇率もぐんと上がるじゃないか。」

「そりゃ願ったりだろう。現に、今日だってウサギを獲りに来てるんだし。」

「頼りになるやつが一緒かどうかで決まるんだよ。」

「へ~。」


「お、いたいた。ウサギだぞ。」

 風の波に引っかかったのは、ウサギはウサギでも角ウサギだ。

 眉間に、ドリル状のねじくれた角を生やしている。

 こいつがまた肉食ウサギに輪をかけて凶暴なやつなんだ。

 人間・動物、見境なしに攻撃してくる。

 その角でブッ刺して、ゴブリンなんか一撃だぜ。

「つ、角ウサギじゃんか!」

「ウサギはウサギだ。」

「そう言う問題じゃないでしょう!」

 レミーも、悲鳴のように言う。


「まあ、見てろ。」

 俺は、メイスを構えると、ウサギの突進に備えた。

 ウサギは、俺の投げた石に反応して、こちらに気づいたようだ、まっすぐに草原を駆けてくる。

「うわ!はや!」

「ジャック、レミー、少し離れてろ!」

「「おう」」

 さっと下がる二人。

 ウサギはもう目と鼻の先だ。

「そい!」

 ごちん!

 メイスは、うまく角の上三センチくらいに当たった。

「ぐぎゃ!」


 ウサギは鼻から血を噴出して、あごから地面に落ちた。


「い、いちげき…」

「すごい…」

 俺は振り返って笑う。

「な、わかったか?」

「わかるか!」

 ジャックが悲鳴を上げる。

「なんでだよ、ウサギの頭のこの位置をおもいきし叩くと、一発で決まるんだよ。」

 俺は、ウサギの眉間の上を指差して言った。

「あんた、それ見えてるの?」

「あ?狙ってるんだぜ、見えてなくてどうする?」

「あの速さでくるウサギの、そんなせまい場所が見えるなんて。」

「おまえら、ナニ見て暮らしてるの?速さに慣れる訓練くらいしろよ。」

「え?そんなことするの?」

「レミー、冒険者は目がよくないとダメだぜ。」


「うう…」

「ジャック、一撃でなくてもいいんだ、とにかく一発目で相手の動きを抑えるんだ。」

「動き…」

「そうだよ、とにかくアタマをゆすると、人間でも起き上がれないものだ。」

「は~。」

「ケンカするときは、とにかく相手のあごを狙え、横にぶったたけばアタマが揺れて立てなくなる。」

「そ、そういうことか。」

 俺は、ウサギの足にロープを巻いて、木の枝に吊るした。

「そんでもって、心臓が動いているうちに喉を切って血抜きをする。」

 すぱりとナイフを首に入れた。

「お前ら、始末が下手だから、ギルドに買い叩かれるんだよ。」

 ウサギの下には、土魔法で穴を掘ってある。


「レミー、お前ウサギが来たとき、目を瞑ってるだろ。」

「え?あ、うん…」

「だから、見えないんだよ。」

「あう~。」

「怖くても、目の前までしっかり見てろ!瞬きもするな!」

「はい!」

 レミーは、全身硬直したみたいに直立不動で答えた。


「お前ら二人でこいつは運べるな。」

「うん。」

 ちょっと小さめで、三〇キロ前後の大きさだ。

「じゃあ、もう一匹獲るから、見てろ。」

「「はい!」」

 ジャックまで、いいお返事になってきた。

 俺の波は、普通のウサギを一匹捕らえている。

 俺は、足元の石を拾って、ウサギの居る草むらに投げつけた。

「ぎゃう!」

 いい声がして、ウサギが飛び出してくる。

「あーあー、でっかいコブになってる。」


 ウサギは、額にコブを作って怒っている。

「こい。」

 俺の声に合わせて、ウサギがダッシュする。

 こんどは、ウサギのあごを狙って真横にメイスを振るう。

 狙い通り、ウサギはあごに一撃を受け、脳をゆすられてふらふらと千鳥足でさまよう。

「今だ、喉を突け!」

「はい!」

 俺の声に、レミーが反応した。

 持っている短剣で、ウサギの喉に一撃を入れる。

 ウサギは、ビクン!と反応した後崩れるように倒れた。

 こいつは、三十五~六キロはありそうだ。


 こいつも木に吊るす。

「よくやったぞ、レミー。」

「すごい、あたしがやったのか~。」

「タコ殴りするより、数段いい毛皮が取れたぞ。」

「ほんとだね、喉の傷だけだから、毛皮に無駄がないよ。」

「油断はするなよ、どうやって動きを止めるかがキモだからな。」

「はい!」

「お前ら、俺より年上なんちゃうんか?」

「冒険者は、強いやつが偉いんだよ。」

「そんなもんかねえ?」

「ここまで実力差があると、ユフラテはもう師匠だよ。」

「よせよー。」


 二人は、妙にまじめに俺の話を聞いていた。


 まあ、馬車もないので三人でウサギを担いで戻る。

「ユフラテ、すげえ。なんでそんなウサギを担げるんだ?」

 ジャックは、さも不思議そうに聞く。

「へ?このくれえ担げるだろう?」

「いや、さすがにそんなでけえのは無理だよ。」

「あたしは、もっと無理だ。」

「なんだよ、しょうがねえなあ、もっと鍛えろよ。」

 俺は、木の枝を切って、二人で担げるように、ウサギを縛り付けた。

 それでもふうふう言いながら、二人はウサギを担いで着いてきたのだった。


 ギルドでは、ふたりで担いできたウサギがいい値段で売れた。

「うわ~、一日に銀板二枚半も稼げるなんて、びっくりだ!」

 ジャックはほくほくしている。

「二人で分けると、銀板一枚とちょっとになるぞ。」

「いやでも、これってユフラテが狩ったやつじゃん。」

「まあいい、二人で担いできたんだから、二人で分けろ。」

「いいの?」

「いい。俺にはこいつがあるからな。」

 俺は、大きいほうのウサギをゆすって見せた。

「ありがとう、ユフラテ。」

「どうだ、だいたいわかったか?」

「一日じゃわからないよ。」

「もう一回頼める?」


「しょうがねえなあ、じゃあもう一回やろう。」


もう少し、地味回が続きます。

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