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第二十九話 竜の気の乱れ

 亜熱帯とは言え、気候によっちゃ肌寒い日もある。

 今夜は少し気温が低いようだ。

 俺が毛布にくるまって眠っていたら、くっついてくるやつがいる。

 ラルだと思って、一緒に丸まってやったら、変にやわかい。

 シスターかよ!まったく、こちとら健康な十七歳だぞ、そんなくっつかれたら簡単に反応しちまう。

 足とかお尻とかへんにやわかい所が当たるので、しんぼうたまらん。

 たまらんので、抱きしめてやった。

 これで逃げるだろうと思ったんだけど、離れて行かない。

 ついでだで、おっぱいもんだらんとだちかんぞ~。(ついでだから、おっぱいもまないといけないですね。)

 ってことで、意外とあるおっぱいももんでやる。


 ふつう、いやならここで体をよじって、手からのがれる。

 わかってるんだよ、おんなの動きなんざ。

「はン!」

 なんか甘い声がかえってきた。


 調子に乗って両手で、後ろから揉みまくると、ますます鼻息が荒くなる。

「はァン、ふっ、ううん。」

 こらもう、理性なんかいらない、右手はおっぱいのまま、左手はオマタに進む。

「あっ」

 びくっと体がうねるので、いやなのかと思ったらそうでもないらしい。

 そのままするすると奥まで進む。


 ゆっくり上気した顔をこちらに向けるティリス。

 声が出る前に、唇を奪う。

 ぴちゃぴちゃとしけった音がするが、かまうものか。



 ティリスは、後半ほとんど意識がなかった。

 お互いの体温を確かめるように、抱き合ってその夜を過ごした。

 明け方ちかく、なんかすごい状態になっている、お互いの毛布を浄化をかけてきれいにする。

 お約束でしょう?

 ティリスは、駆け足で暗い中を風呂に向かった。

 あーあー、そんなに走るとコケるぞ。

 がくっと揺れたが、なんとか持ち直したみたいだ。


 ガニマタっぽく歩いている。

 そういやあ古ニョーボも、あんなときがあったな。


 ひょっとして、お湯がぬるくなっているかもしれないと思い直して、俺も風呂場に向かった。

「ティリス、湯加減はどうだ?ぬるくないか?」

『うぇ?あ、はいちょっとぬるいですが、大丈夫です。』

「そうか?ちょっと温めようか?入ってもいいか。」

「ええ?あの、まあいいですけど…」

 俺は、返事もそこそこに中に入る。

 ティリスは、自分の体を隠すようにして座り込んでいる。

「あ・ごめん、ちょっと火魔法かけるから。」

「やっぱり男の人って、こうなると自分のものって思うんですか?」

 なに聞いてるんだよ?

 つか、勝手に入ってきたの、アカンかったのか?

「ずうずうしかったかね?こっちの作法がわからんから、かんべんしてくれ。」

「え?」

 俺は、湯が温まるのを確認してから、ティリスに向き直った。


「少なくとも俺はそういうんじゃないな。ただ、気持ちがつながってるのはうれしいけど。」

「そ・そですか?」

「でも、シスターがこういうことしてもいいの?俺は、そっちの方が気になる。」

 自然な流れで、俺はそのまま体を洗い始めた。

「いいんです、もうシスターやめようと思って…」

「どうして?」

「司祭様の隠し財産がわかってしまったので、どうしても聖職者って信じられなくなりました。」

 そらまあ、そうかもしれんけど。

「ふうん、でもオシリス神は、信じられると思うけどな。」

「神さまが?」

 ティリスは、俺の後ろに来て、アタマを洗ってくれる。



「そうさ、きれいな神様だったよ。」

「きれいな?」

「ああ、金色の髪が広がって、白い衣をまとった、背中の白い羽も…」

「見たんですか!」

「ああ、ジェシカに先導されて、俺の前に現れた。」

「うっそ…」


「うそなもんか、ほら。」

 俺は、聖痕が刻まれた手の甲を、肩ごしに見せた。

「す・スティグマ!」

 ティリスは、ずざざっと下がって、土下座をした。

「し、知らぬこととはいえ失礼しました!使徒様でしたか!」

「そんな大仰なもんじゃない。ただの冒険者さ。」

「でも。」

「それとも、ティリスはそういう大げさなやつのほうがいいか?」

「いいえ、あたしだけのカズマさまでいてくれたらいいです。」

「なんじゃそら。」

「だって、あたしを食べちゃったじゃないですか、ちゃんと責任とってね。」

「おい!」


「にいちゃ~ン、どこだ~?」

 ラルが探しに来た。

「おう、ここだ~。」

「あンだよ、風呂か?」

 ラルは風呂を覗きに来た。

「あれ?シスターもいっしょじゃん、いつの間に仲良くなったんだよ。」

「まあいい、それよりどうした。」

「ああ、どうも城門前に人が来たようだぜ。」

「おお、町の人たちが帰って来たか?」

「そうじゃないみたいだ、がちゃがちゃ音がするから、兵隊さんかなあ?」

「そうか、ティリスは、法衣を着ろ、ラル上着を持ってこい。」

「ガッテンでい!」

 ラルは駆け出して行った。

「法衣ですか?ナマグサ坊主になった私が?」



「兵隊が、変な目で見ないためだ、ウソも方便。きにすんなって。」

 俺は素早くタオルを使い、ティリスも手伝ってくれて、着替えを済ませた。

 ティリスは、いやいやながら法衣<ローブ>に着替えて後に続く。

 おれは、ラルが持ってきた商人の上着を着て、城門の前に立った。


「あ、落とし穴掘ったまんまだった。」


 落とし穴には、川の水が満々とあふれていた。

 どうやら勝手に氷が溶けちまったらしい。

「あ~あ、ひでェなあ兄ちゃん。」

「やっちまったもんはしょうがねェ。ここ通れるように開けてやるか。」

 俺は、立ち上げた土塀を三メートルくらい削って、通り道を作った。

 そこからやたらとがちゃがちゃ言う、金属板の鎧の騎士が先頭で、三〇〇人ぐらいの兵隊が後ろにいる。

 騎士の馬の轡を持った、従卒の一人が声をかけた。



「王都第三師団、第二遊撃隊隊長、ゴルテス準男爵さまである、この町のものか。」



「遠路お疲れ様です。マゼランの冒険者、カズマと申します。」

「カズマとやら、この町はどうなっておる?」

 準男爵が声を張り上げた、ちょっと痩せ気味だからかな?

 爵位だけで中隊長やってるようなもんだな。

 やせ形の四十がらみのおっさんで、あんま強そうでもない。

 ちょっと前の武田鉄也みたいな感じだ。

 ステータス見ても、魔法もショボい。

 さえない中間管理職みたいな、貧相なおっさんだ。

 黒い顔は、日に焼けているみたいで、軍隊ではたたき上げなんだろうか?

 まあ、三百人規模の隊長なんだから、けっこう偉いんだよな。

 口の周りの髭も、なんかドジョウみたいだ。


「はあ、三日ほど前にきました。魔物が無茶苦茶いましたので、ワナをかけて始末しました。」

「なんと!それはどういうことであるか?」

「言ったままですよ、魔物の暴走で町が占領されていたので、とにかく数を減らそうと努力したんです。」

「で?」

「で、この落とし穴を掘って、魔物をおびき寄せてここに落とし、水責め氷攻めにして、殲滅しました。」

「それは…」

 純男爵は、ひげに手を添えて、俺のことを凝視している。

 池と俺の顔を交互に見ている。

 池にはまだ、ゴブリンやオークが浮いているしな。


「もうじき、マゼラン伯爵領に避難していたレジオの住民も帰ってまいります、兵隊が町に侵入されるのは、ご遠慮願いたい。」

 俺は、男爵にメンチ切ってやった。

「なんだと!きさま、男爵様に向かって!」

「勝手に略奪されちゃ迷惑だって言ってるのさ、ここは人っ子一人いないんだ。見ればわかるだろう。」


「泥棒に入られたってわかりゃしないんだ、勝手なことしやがったら、たとえ王様だって叩きだすぜ。」

 俺は、ちょっと凄んで見せた。

「なにをこの小僧がちょこざいな!。」

 兵隊は剣に手を添えた。

「おお?やってみろよ。抜いたら、おれも本気出すぜ。」

 隊長さんは、ちょっと困ったような顔をした。

「あいわかった、その方の申しじょうもっともである、われらはここで住民を待つとしよう。」

「男爵様!」


「そいつはありがたいですな、それでは皆様に食料を提供しましょう。」

「食料?」

「へい、ここに巣食っていた魔物たちでございますよ。」

 城門から外に出て、その前にゴブリンを山盛り百匹ほど積んでやった。

「こ、これをワナにかけて殺したと言うのか?」

 ええ、この落とし穴に、五千匹くらい落ちたんですよ。」

「ご・ごせん!」

「ですからね、私とけんかするのはお控え願いたいんですよ。手加減が難しいので。」

「ゴクリ。」


 準男爵、蒼くなってる。


 ティリスが俺の後ろから顔を出す。

「この町はいきなり一万匹に及ぶ魔物に襲撃を受け、壊滅状態になりましたが家などはそのまま残っております。」

 ティリスは、馬上の隊長を見上げる。

「住民がお戻りになった時に、だれかに荒らされておりましてはみなさまお困りでしょう。」

「む、シスターのおっしゃる通りですな。」

 俺も、ちょっと丁寧に対応する。

「みんな着の身着のままで逃げだしたようですので、マゼランに着いた時にはボロボロでした。ぜひ、そのまま残った町を返してあげたいのです。」

「まあ、町が無事であれば、ワシもその旨報告するだけじゃ。」

「男爵様は、こころがおひろい。ありがたく存じます。」

「まあのう、ひひひ。」

 準男爵は、男爵さまと言われて、ちょっといい気分のようだ。

「それに、無事解決ともなれば、昇爵もかないましょうし。」

「さようじゃの、よし!皆の者兵舎で野営するぞ、よいな!」


「「「ははー!」」」


 うまく行った、ここでよそのやつらに町を荒らされたら、目も当らん。

 断固として、誰も入れんぞ。

 俺は魔力が回復しているので、城門前の穴を埋め戻した。

 男爵さん、目をむいていたけどな。

 これだって、ただの土凹だ。

 知れたものよ。



 昼過ぎになって、ひーひー言いながらヘルム爺さんたちが現れた。

「な、なんじゃこれは!」

 川からここまで、大きな平地ができている、そりゃびっくりするわな。

「ようじいさん、町は取り返したぜ。」

「ユフラテ!どうやったんだ!こちらの兵隊さんは…」

「おとといのうちに、魔物は全部やっつけた。隊長の男爵さま!ちょっとつきあってもらえますか?」

「なにごとじゃ。」

「ヘルム爺さんもつきあってくれ。」

 ヘルム爺さんは、疲れているのでパリカールの馬車に乗せた。

 そのほかに、責任者らしいのがうろうろしているので、一緒に連れて行った。


 町の連中には、食いもん出して休ませた。



 男爵亭の前の落とし穴に着く。

「こいつがオークキングです。」

 串刺しになったオークキングを見せると、ふたりは息をのんだ。


「こいつと、オークロードが二~三十匹いたので、始末したよ。でっかいトロールもいたし。」

「「オークロードにトロール!」」

「見るかい?」

 二人は首を横にふった。

「見なきゃ、本当だとわからないじゃないか。」

「この穴を見ればわかるわ!お前の言うことは嘘ではないと。」

 準男爵は、悲鳴のように叫んだ。

「男爵さまは、ご理解が早くていらっしゃる。まあ、そういうことです。」

「むむむ~、おそろしい剛の者であるな、わが臣下に欲しいものじゃ。」

「俺は、冒険者ですよ。」

「勇者のまちがいであろうよ。」


「ちげぇねえ。」

 ヘルム爺さんまで、なんか言ってるし。


「二千人はなんとか戻れたってことかい?」

「そうだな、王都に逃げた男爵さまとか商人は、どうだかわからんがな。」

「レジオ男爵か?」

 準男爵が口を挟む。

 まあ、人のよさそうなおっさんだからな。

「ええ、そうです。」

「レジオ男爵なら、家名断絶、一族郎党打ち首獄門!商家の者たちは、家財没収の上、王都ところ払いとなった。」

「え~、即日ですか?」

「国王はえらくご立腹でな、それはそうじゃろう、領土を守ることもせずに王都に逃げ込んだのだ。」

「それは…」



 俺たちは、難民に飯を食わせて、それぞれの家に向かわせた。



 どっかに魔物がいたら、逃げてくるだろう。

 教会の前に来て、男爵は石に腰を下ろした。

「なんのための貴族であるか?領土を安堵し領民を守るのが、領土もちの貴族のなすことであろ。」

 この男爵さん、けっこうまともなことをおっしゃる。

 この国では、貴族は領土の管理人のような役目を負っている。

 領土の管理と、徴税が課せられる。

「そのとおりです。」


「ワシは、魔物を排除し、レジオの町を一時的に管理するためにやってきた。」

「さようですか、ワシは西地区の村長をしておりましたヘルムと申します。」

「そうか、よく領民を逃がしてくれたの、大儀である。」

「はあ、わしらはこのまま自宅に入ってもよろしいでしょうか?」

「うむ、それはもちろんじゃ。ただ、死んだ者たちもおろう、ねんごろに弔ってほしいのじゃ。」


「ほら、ティリス、出番だよ。」

「わ、私は還俗する身ですよ。」

「そうは言っても、教会関係者はティリスだけじゃないか、せめてみんなの供養くらいはしてやろうよ。」

「まあ、カズマさんがそうおっしゃるなら…」

「やれ。」

「はい!」

 なんということでしょう、ティリスはすっかりカズマの言うがままです。

 

「殿様、男爵の家はぶっ壊れたままなんだけど、どうしますかね?」

 男爵邸の尖塔は折れたままだ。

「ならば、教会を利用しようか、のうシスターどの。」

「はい、けっこうです。私は、外に出ますから、存分にお使いください。」


「なんと、それは悪い。」

「殿方でいっぱいのところには居られません。」

「それもそうかのう。」

「それに私は、近々還俗してカズマと祝言を…」

「そうであったか!いや、めでたいのう。」

 殿様、扇子をぱっと広げてご満悦。

「ばかやろ、勝手なことを言いやがって。」

「あら、嘘なの?」

「嘘じゃねえよ。」

 俺はブスったれて、踵を返した。


「殿さま、すこしそうだんなんだけっどもよ~。」(昭和五十五年くらいのルパンの口調で。)


「なんじゃ?」

「この町の北にある遺跡のところに、ブルードラゴンが住み着いたんだって、今度の暴走はそれが原因らしいよ。」

「なんと!それはまことか!」

「まことまこと藤田まこと、あたり前田のクラッカー。」

「前田のクリケットもよろしくネ。」

「アホなことさすな。」

 殿さまだってノリノリだったくせに。


「使徒ジェシカが教えてくれました。」

「ジェシカ?主神オシリスの前に、常に描かれているあの、赤い第一使徒のことか!」

「信じる信じないは、そちらの勝手ですが、夢枕に表れて教えてくれましたよ。」

「信じるさ、信じざるを得まい。」

「ならば、討伐を。」

「わしらだけで?それはちと無謀であろう。」

「だって、オシリスさまに約束しちまったもんよー、嘘はつけねーよ。」

「討伐すると?」


「あんたたちに頼めないんなら、しょうがねえ、俺一人でもやるよ。」

「あ、あたしも行きます、夫婦は一蓮托生ですよ!」

「よせやい、一撃で黒こげにされちゃ、寝覚めが悪いってもんだぜ。」

「はう!」

「俺も行くぜ、馬車の御者は必要だからな。」

「しょうがねえ、明日片づけてくるかい。」

「兄ちゃん、かっこいい!」

「よせやい。」


「本当に着いてくるのか?」

 カズマは、ちょっと困っていた。



 俺は、レジオの崩れ落ちた東門に来ている。

 男爵(準男爵だけど。)は、甲冑に身を固めて俺の前に立った。

「男爵、意気込みは買うけど、歩兵ばっかしで空を飛ぶドラゴン相手は難しいと思うが。」

 ゴルテス準男爵に向けて、しごくまっとうな質問をあててみる。

「なに、わしの鍛えた精鋭三〇〇人、何かの役に立つであろうよ。」

 胸を張ってみせるんだが…

「盾とか?」

「ううむ…」

「ま、なにがしか期待はしておくよ、とりあえず作戦は、空に逃げられないように羽を痛めつけて、地面に落ちたところをボコるってことで。」

「ブレス対策は?」

「死ぬ気でよける。」

「それだけ?」

「それだけ。」


 男爵は、あきれたような目で俺を見た。

 この急場で、ほかにやりようがあるなら、ぜひ聞かせてほしいものだ。

 そのくらい切羽詰まっている。

 なにしろ、レジオの街とほんの目と鼻の先に、巨大なドラゴンがいると言うのだ。

 その大きさは、斥候によると、伏せている状態で高さ一〇メートル以上。

 丸まっている尻尾を含めて七~八〇メートル。

 立った状態では、高さ五〇メートル程にもなりそうだと言う。

 昭和の大怪獣●ジラを彷彿とさせるが、体重も負けずに二万トンもあるのだろうか?

「どうせ細かい作戦立てたところで、全体で動けるわけじゃない。だったら、その場その場で動くしかない。」

「うむ。」

 表皮の耐久性や、魔法に対する抵抗値など、バケモノじみているのは想像に難くない。

 これに対抗できるのは、ギ●ラかモ●ラしかいない。

 はたして、マートモンス山に帰ってくれるだろうか?



「男爵たちは、後方でドラゴンがどっかいかないように見張っていてほしい。」

「心得た。」

 ま、邪魔スンナってことさ。

 見張っていたって、羽根のある生き物だぜ、飛んで行っちまうことだってあるさ。

 三〇〇人の歩兵程度でなにができるものか。

 絶望的な気分になるぜ。


 歩兵を盾にしたって、気分が悪いし申し訳ない。

 これ以上の死人は必要ないってのが本音だ。


 俺は、遺跡の前に立った。

 遺跡の壁には、オシリス女神の威光を讃える、ちいさなレリーフが見える。


 外壁も崩れ、屋根もなくなった白い石造りの建物の横に、そいつはいた。


 でかい、丸まっていたって高さは一〇メートルを超え、蒼く光り輝くうろこは、ブルーアルマイトみたいにきれいだ。

ときおりぷるぷる震えているのは、夢でも見ているんだろうか?

 ドラゴンの夢ねえ…

 ちなみに、ティリスがのこのこ着いてきた。

 なんでもドラゴンを見てみたいそうだ。

 攻撃前なら、危なくないかもしれんと思って、着いてくるのを許したけど、どうかな?


 しかし、ブルードラゴンは眠っていたわけではなかった。

 目の前に立つ俺を認めると、傲然と立ち上がる。

「うげ!でかい!」

 そうなんだ、寝てるだけでも一〇メートルを超すって言うことは、立ち上がると五〇メートルくらいになるんだ!

 そのうえ、口に集束を始める、とてつもない魔力!

 いきなりかよ!

「危ない、ティリス!さっさと逃げろ!」

 俺は、ティリスのケツを蹴飛ばした。

 ティリスは、射線上からあわてて走り出す。

 実のところ、ドラゴンのブレスにはどの程度の幅があるのかはわからない。


 うかつだった、ここまで性急に攻撃態勢に入ると思わなかったんだ。


 ただ、やはりブルードラゴン、水系のブレスのようだ。

「って、余計に相殺しにくいじゃん!」

 まだ炎系のほうが、水ぶっかけりゃ消える可能性がある。

 テキさんの魔力の集束を待つ必要はない、俺はティリスと反対方向にずれて、自分の前に凍結系のシールドを形成した。

 つまりは、水が来るなら凍らせればいい。

「ぐるおおおおおお!」

 魔力が固まって、ドラゴンのブレスが吐き出された。

 すげえ!

 並大抵の魔力じゃねえな、横によけているにもかかわらず、その圧力で俺の体が持って行かれる。

 オリフィス効果ってやつだ。

 俺は、シールドの形状を先のとがった流線形に整えて、ブレスの流れを整えようとする。

 うまいぞ!

 ブレスの横で、凍結シールドが氷を作っている。

 なのに、その脇から漏れる魔力に、俺は吹き飛ばされた。


 ごろごろと草原を転がっていくが、手に持ったメイスは離さない。

「こんちくしょう!」

 起き上がったところに、尻尾の一撃が飛んできた。

 上から下に向けて、どすんと振り下ろされる、直径三メートル以上もあるしっぽ!

「うわ!]

 危うくよけると、尻尾は一メートルくらい地面にめり込んでいる。

 なんちゅう力だ、さすがドラゴンと言うべきか。

 しっぽの重量もハンパねえ!

 こんなのに押しつぶされたら、原型も残らねえ。



 こんな非常識な奴に、単独で挑むおれって、単なるバカ?


 無謀と言う文字が、頭をよぎる。

 が、始まっちまったモンはしょうがねえ。

 力及ばなかったときは、死ぬか逃げるかだな!

「ティリス!遺跡の向こうにかくれろ!射線は、こっちに向けさせるから!」

「はいっ!」

 ティリスの黒いローブが、かさかさと遺跡の影に向かう。

 よし、うまく隠れたな。


 尻尾は大きすぎて、小さな的には当たらないと思ったのか、ドラゴンは短めの手で攻撃してきた。

 でっかい顔が目の前にある。

 聞くところによると、ブレスを吐くにはかなりインターバルがあるらしく、長い奴になると三〇分とか一時間とかかかるらしい。


 だからって、この物理攻撃はよけいにひどいぞ!


 よけながら、無詠唱のレーザーを打ち出すが、青い鱗が全部跳ね返してしまう。

 体にはぜんぜん効かねえ!

「ちくしょう!きかねえ!」

 後ろに走りこんで、落雷の魔法を落とすが、しびれているのは準男爵の兵隊ばかりだ。

「男爵!兵隊を下げてくれ!できれば城門まで!あんたも逃げろ!」

「心得たり!」

 男爵と、兵隊は一目散に逃げ出した。

「戦略的撤退である。」

「なんでもいい!ブレスの射線上からいなくなればいいんだ!」


 しびれた兵士も、ほかの兵士に引きずられて、なんとか避難する。


 体力の限界まで走る!走る!

 ティリスと兵士たちの射線に入らないように、必死でターンする。

 どかんどかんと、てのひらが俺の後ろにめりこむんだ!

「どわ~!」

 こわいこわい!

 必死によける足に、無意識に力がこもる。

 なんか重力が低いせいで、俺のジャンプ力はけっこうすごい。

 右に左に、よける飛ぶ!


 おもきし飛び上ったら、頭の上まで飛んでしまった。

 低く構えているとは言え、ドラゴンの頭の上までは十五メートルくらいはある。

 俺は、思わず鼻の上に、ちょんっと立ってしまった。

 目の前には、サファイア色した、直径一メートルぐらいのメンタマがある。

「どっっせええい!」

 俺は、手に持ったメイスを鼻づらの先っちょに叩き込んだ。

「ごわ~!」

 あんま痛かったか、ドラゴンが悲鳴を上げて立ち上がる。

 やめろって!

 立ち上がると、俺の体は五〇メートルも持ち上がるんだ!


 俺は、いつでも頭に走れるように構えながら、牙の出ている顎に向けて、もう一回メイスを振り下ろす。

 ごきんと音がして、ドラゴンは掌を鼻づらに持ってきた。

「おわわわわわw!」

 俺は、眉間を通ってドラゴンの背中に向かって走る。

 掌が鼻に触ったとたんに、もっと大きな声をあげてドラゴンが吠えた。

「ごわ~~~~!!!」

「このやろう!こいつぁおまけだ!」

 眉間にもういっちょうメイスを振り下ろす。

 がこんと派手な音がする。

 

「むぎゃ~~~!」

 さっきより情けない声がする。

 俺は、持ったメイスを無茶苦茶に振り回して、ドラゴンの顔と言わず頭と言わず、殴り続ける。

「ごわ~!ぐわっ!ぐわゅ!」

「なんか言ってるぞ。」

 ドラゴンが、涙を流してなんか言ってる。

 滝のような涙が、地面にぼたんぼたんと流れ落ちる。

「あ~!竜の涙!もったいない!」

 ティリスが、場違いなことをわめいている。

 竜が流した涙がどうした?

「ポーションの材料!」

 なるほど。



 鳴き声が、言葉っぽくきこえるんだけど?

 何か言ってるのか?


 俺は、ドラゴンの背中を通って、地面に下り立った。

 五〇メートルの高さで動くのは、かんべんしてほしいんだよ。

 人間三〇歳を超えると、高所恐怖症になるらしい。

 体は一七歳でも、心は五八才だからな、高いところはあんまうれしくない。

 息を整えながら、ドラゴンの次の動きを見ていると、ティリスが駆け寄ってきた。

 なんだよ、桶なんか持って、あ、涙を一滴受け止めた、すごい量だな。

 バケツ大の桶が、なみなみと波打ってる。

 祠の中にあったらしい、ティリスは満足そうな顔をしている。

「ドラゴンが、何か言ってるわ。」

「おれも、そう聞こえる。」


 二人でドラゴンを見ていたら、ぴこーんとティリスの頭の上に、ステータス画面が出た。

「はい?」

 いったいなにがおこった?

 しげしげと見ると、スキル追加の文字。

 異種族言語理解、レベルゼロとなっている。

 レベルゼロ?使えないじゃん。

 そんなもんどうするのかと思ったら、俺のステータス画面に、経験値贈与の文字。

 経験値贈与:自分の獲得した経験値から、スキル取得のための経験値を他人に贈与することができる。

 …ご都合主義もここに極まれりだな。

 オシリス女神のせいか、ジェシカのせいか…


 ジェシカ、次に現れたらそのタレた巨乳を絶対もんでやる!


「ひ!タレてません!」

 天界でジェシカはぶるっと震えた。

「どうしました?」

 主神オシリスが、怪訝な顔で聞く。

「いえ、なんだか背筋に悪寒が…」

「まあ、どうしたんでしょうね?」



 背筋をオカンが走ったら、重いわ!



 俺の経験値は、レジオの町での超無双したがため、とんでもない数値を出している。

 はっきり言って、レベル上げ、当分しなくても平気なくらい。

 自身のレベルは、最初6で表示されていたが、現状32。

 どこでなにをやったかと言うレベルだな。

 これだと、RPGなら中ボスに対抗できるレベルか?

 実を言うと、俺が昔三十五くらいのころ、SSにハマってRPGをやりまくっていた時期があるのだ。

 子供が生まれて、なんか暇ができて、つい手にしたものだが、いや~レベル上げ面白いわ~。

 昔、漫画家になりたかった時期もあるし、おっさんになってもAma○onを使えば、LOコミックなんかも買えるもんだから、つい買い込んでしまい、嫁に見つかってこってり絞られた。

 しかも全部捨てやがって!

 くやしいから、わかんねえように農機具小屋に隠し部屋作って、そこにしまいこんださ。

 もちろんセ○サ○ーンも○レス○も。



 おっと、記憶が戻ったからって、そんな黒歴史まで披露するこたぁなかった。



 異種族言語理解って、ネコの言葉がわかりますってやつか?

 どっかのミカちゃんみたいに。

 スキルポイントは、五か…まあ、おれのところから分けてやればすむのなら、使ってみるか?

「おい、ティリス、お前あたらしいスキルができるとうれしいか?」

「はい?新しいスキル?」

「ああ、異種族言語理解ってやつ。」

「ほかの国の人と簡単に話ができるの?」

「まあそんなとこだ。」

「おもしろそうね、やってみる。」


 よしよし、なにごともチャレンジ精神は重要だよ。

 俺のポイントからティリスのほうへ、ポイントを割り振る。


ててててってて~


 なんだその気の抜ける電子音は!

 ティリスは、異種族言語理解LV.1になりました。

 はいはい、お約束ね。


 俺は、敵を過大評価するクセがあって、そのステージのモンスターを一撃で倒せるくらいレベルを上げないと、安心できないタチなんだ。

 だもんで、よく時間の無駄遣いをしていた。

 あの、無駄にフィールドに出て、モンスターにエンカウントしてレベルを上げるやつだ。

 今回のブルードラゴンが、どの程度のモンスターかはわからんが、少なくとも中ボスクラスではあるまい。

 というか、この大きさだと、ラスボスじゃないのか?

 物語の前半で、主人公が死ぬって、アリなのか?

 ちょっと、オシリスさんのタレたケツも揉んでやりたくなった。


「ひ!タレてません!」

 オシリスは、自分のお尻を押さえて立ち上がった。

「オシリスさま、どうされました?」

「い、いえ、なにやら背中に悪寒が…」

「まあ、どうしたんでしょうね?」


 背中にオカンが走ったらたいへんだわ!


 さて、たまにぴくぴくと痙攣するような、震えるような動きのほかは、いたって静かなブルードラゴン。

 目からぼろぼろと泪をこぼしている。

 俺のメイスが通用したのか?

 こわごわ近寄ってみる。

 しかし、なにやら難しそうな顔をしているな、なにか悩みをかかえているように、眉間にしわを寄せている。

『あの~、ドラゴンさん?どうしてそんな顔をしているんですか?』

 横からティリスが、がうがう言い始めた。

『だれだ?』

 がうっとドラゴンの口から声が漏れる。



 くっさ!



 ドラゴン、口、くっさ!



『私です。』

『なんだ小さきものよ、私はいま大変なんだ。』

『たいへんなんですか?なにがたいへんなんでしょう?』

『うむ、私の奥歯が痛くてたまらんので、飛ぶこともできずにここにいる。』

「…ですって。」

 本当かよ!



 ティリスは、なんとドラゴンともお話できるんです!



「おれのヒーリングで治してやろうか?」

「そうですね、聞いてみます。」

 がうがう?

 がう!

「やってみてもいいそうです。」

 俺は、大きく開かれたドラゴンの口の中に入った。

 少なくとも五メートル以上ある口は、なんかドブくさイ。

「あ、でっかい虫歯発見。」

 においの元はこれか~、ホンマにドブのような腐ったようなにおいがする。

「ほえ~、これはクサイです。」

 がうがう!

 がう~!

「そこが痛いんだそうです。」

「ふうん、とりあえずヒール。」



『どうですか?』

『あまり効かん。』

「だめだそうです。」

「そうか、よし、長時間詠唱に入る、口を開けておいてくれ。」

 がうがう!

 あが~


「いいですよ。」

「よし。」

 ヒーリングを最大級で出すために、長時間魔力を注ぎ込む。

 およそ一分ののち、百人ぐらいは平気で治癒できる量のヒーリングが完成した。

「いくぞ!ヒーリング!」

 俺の手から、目に見えるほど強力な聖光がほとばしる。

 すべてが、虫歯に向かってはしっているのだ。

 ドラゴンの虫歯は、徐々に変化をはじめ、五分ほどの間にきれいにふさがった。

「どうだ?もう痛くないだろう?」

『本当だ、痛くない。』

『よかったですね。』


 だいたいドラゴンなんだから、ヒーリングくらいできるだろうに。

 痛くて集中できなかった?ああそう…


『うむ、小さきものよ、礼を言う。わが鱗の加護を授けよう、よいか?』

「なんか加護をくれるって。」

「へえ、なんだろうな?」


 周囲に強力な魔力が集まってくるのが見える。

 視覚にとらえられるほどの濃密な魔力は、自然界のものなのだ。

 光の粒が、ドラゴンのまわりに濃密に集まってくる。

 それを思い切り吸いこんでから、ドラゴンは俺たちの前に顔を運んだ。

 ドラゴンが、くちから柔らかいブレスを吹くと、俺たちの周りに青い光の粒子がまとわりついた。

「竜の鱗の鎧だ!」

 男爵が遠くから叫んでるよ。

 おれたち二人の体には、竜の鱗のプロテクターが全身を蒼く輝かせた。

「へえ、これは軽いな。」

『物理、魔法、各種衝撃から守ってくれるだろう。』

『ありがとうございます。』

『礼を言うのはこちらのほうだ、我はメルミリアス。困ったことがあれば助けてやろうほどに。」

「それは助かる。」


「礼なら、マッドブルの肉でよいぞ。」

 ドラゴンはにやりと笑って、振り返った。


「では、これにてマート=モンズに立ち返る。』


 この大陸の東端にある高さ八千メートル級のマートモンズ山は、活火山と言われている。

 いきなり舞い上がったと思ったら、ブルードラゴンは一気に上昇し、その羽根を大きく広げた。

 上空三〇〇メートル程上がったところで、ばっと音が聞こえるくらい素早く展開された羽根。

 全長一〇〇メートルはあんじゃねぇか?



「迷惑かけたなんて感覚は、あの虫歯ドラゴンにはないんだろうな。」

 俺は、ため息とともに吐き出した。

「ですねえ、小さきものがいるなあって程度でしょうねえ。」

 どちくしょうが、あんなやつのせいでレジオの町は壊滅したのか!

 迷惑なラスボスだな!


 ブルードラゴンは、大きな羽を広げると、さらにふわりと舞い上がる。

 体重を感じさせないような動きは、あきらかに魔法を使っているんだろう。


「いっちゃいましたねー。」

「いっちまったな、ばかやろうが。」

「いい迷惑でしたね。」

 ドラゴンにとっては小さな人間の存在など、取るに足らないものなんだろう。

「どれだけの人生が狂ったもんだか、レジオ男爵もひどいとばっちりだな。」

 お家は断絶・身は切腹。

 たまったものではない。

「まあ、領民見捨てたのにはちがいありませんよ。」

「それもそうだな。」


「おぬし、無事でよかったな!」

 ゴルテス準男爵がやってきた。

「いや~、死ぬかと思いました。帰ってくれてよかったです。」

「よくまあ、撃退できたものだ、これでお主もドラゴンスレイヤーだな。」

「殺しちゃいませんがね。」

「あれほどの巨大なドラゴンに一人で立ち向かえるものはおらんよ。」

 男爵は、俺の両肩を両手でたたいた。

「だれにはばかる必要もない、堂々とドラゴンスレイヤーを名乗るがよかろうさ。」

「そう言うもんですか。」

「しかも、ドラゴンから祝福まで受けるとは、名実ともに勇者に匹敵するぞ。」

「いや、それはないない、俺なんか駆け出しの冒険者だし。」




「兄ちゃん!SUGEEEEEE!ドラゴン追い払っちまった!」

 ラルが飛びついてきた。

「ラル!」

「すげえなあ、ドラゴンの頭に乗っかって、メイスでガンガンなんて、ふつうできないぞ!」

「いやまあ、偶然だけどな。」

「ドラゴンが泣いて謝ってたじゃん!その鎧も、あいつがくれたんだろ?」

「そ、そう見えたのか。」

「まあいいじゃないですか、これでレジオの町の騒動も終結です。」

「なるほどね、そう言えばそうなるのか。」

「はい!これもオシリスさまのご加護ですよ。」


「なるほどね…」

 遺跡の前に立つ、小さなレリーフに目をやる。

『ご苦労でしたね、カズマ。』

「あ?ジェシカか?」

 レリーフの上に、赤い衣のジェシカが舞い降りた。

 背中に後光しょってやがる。

『懸案であった、レジオの町の乱れが、これで終結です。こちらにいらっしゃい。』

 おれは、レリーフに向かって歩き出す。

 後ろでは、準男爵以下三〇〇名が、地面にひれ伏している。

 ティリスとラルは、呆然とジェシカを見ている。


 俺がレリーフの前に立つと、ジェシカは組んでいた手を開いた。

『あなたに、新しい力を授けましょう。』

「新しい力?」

『すべてのものを浮かべる力、浮遊力レビテーションです。』

「れびてーしょん?」

 ジェシカが俺の頭の上に手をかざすと、俺のステータス画面にレビテーションLV.2と追記された。

『使い方次第で、大きな力となるでしょう、精進なさい。』

「あ、ついでに空飛んだり、瞬間移動したりは?」

『それはまたいずれ、一度に欲張るものではありませんよ。』

「それもそうか、ちょっと欲張りすぎたな。」



『あなたがいた商人の家、もうだれも生きていないので、あなたが使いなさい。』

「そんなことジェシカが決めていいのか?」

『ええ、いいのです。そして、オシリスの司祭として、レジオの町の復興を手伝いなさい。ゴルテス準男爵、よろしいですね。』

 ゴルテス準男爵は、目を見開いて固まった。

 すぐに膝をつく。

「はは!使徒ジェシカ様のおっしゃるままに!」

『では、そのようにお願いします。オシリスさまも、今回はたいへんお喜びです。』

「じゃあしょうがねえ、今回はあんま儲からなかったよな。」

『魔物一万匹でも?』

「ああ、そう言えばそうか、でも、レジオの町の冒険者ギルドはつぶれてるじゃん。」

『それもすぐに元に戻りますよ、準男爵、王都への報告は、信義に基づいてゆめゆめ間違うことの無いように。』

 ゴルテス準男爵は、満面に笑みをたたえている。

「はは!すべて包み隠さず報告いたします!」

『よろしい、カズマたちのことも、よろしく頼みましたよ。』

「はは!」


 地面に土下座したまま、ゴルテス準男爵は大きな声で返事した。


「聖女ティリス。」

「わ、私?」

「あなたは、先ほど竜の涙を集めていましたね。」

「ははい。」

「では、ポーション生成のスキルを与えます。聖女として、民衆に安らぎを。」

「はは、かしこまりました。」

「カズマと仲良くね。」

 ジェシカは、いたずらっぽくウインクしている。



 やがて、来た時と同じように、ジェシカは光を放ちながら上に向かって浮かび上がっていった。


 あ!ちくしょう!巨乳をもんでやるのを忘れた!

『へくしょん!』

 あ、空中でくしゃみしやがった。

 俺は、レリーフの周りにちらばった、遺跡の部品をレビテーションで持ち上げて、土魔法でくっつけてやった。

 これで、オシリスの聖堂はもとの形に戻った。

「これでいいだろう、オシリス神の加護に感謝を。」

「「オシリス神の加護に感謝を!」」

 全員が唱和した。




 かぽかぽ

 俺は、ラルのあやつる荷馬車に揺られて、レジオの町に戻った。

 そのあとを、ゴルテス準男爵の馬と、配下の三百人が続く。

「男爵さま~、くたびれたなあ。」

「まあ、そうですな、帰ってゆっくり休みましょうぞ。」

「そうだな、教会に喰いもん届けるよ。」

「糧食は持って来ておるよ、そうそうカズマ殿に甘えてばかりもおれん。」

「か、カズマ…どの?」

 俺は、その言葉にびっくりしたよ。


「だいたい、お主はわかっておるられるのか?主神オシリスさまの第一使徒ジェシカ様が現れたんですぞ。」

「ああうん…」

「この国の国王ですら会ったこともない、尊いお方だ、その直答をいただくなど、信じられん。」

 ゴルテスは、首を振って嘆息した。

「そんなもんか?俺の魔法は、オシリスからもらったぞ。」

「そう、それが信じられんのだ。お主、本当に勇者なのではないのか?」

「さあね、勇者なんかまっぴらだよ。俺は駆け出しの冒険者だよ。それだけだ。」




 ゴルテス準男爵は、酢でも一気飲みしたような顔になった。

「まあよい、お主はそのうちでかいことをすると思いますぞ。そのときは、ワシのことをお忘れなきよう。」

「どうしてさ。」

「これから、お主のすべての便宜を図ってござる。お主は出世するのです。」

「へえ~、まあ、とりあえず腹減ったよな。」

 がくう!

 男爵は、肩からズッコケた。

「いいからこのゴルテス準男爵を忘れるでないですぞ。」

「へいへい、髭の男爵さま。」


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