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第二十七話 レジオ解放

 俺は、なんとかつながった足から血を流しつつ、教会の前に出た。

 大量に流れた血は、遠慮なく俺の体力と体温を奪っていく。

 ちくしょう余裕がねえ!

 ヒール(小)もすてたもんじゃねえな。

 こうして、何回もかければ切れかけた足だってつながる。

 ま、気分まで回復するわけじゃないがな。

「ちくしょう、吐き気までしてきやがった、かなりヤベえ。」

 外傷性ショックまで、あと何分だ?

 ヒール(小)

 ヒール(小)

 こまかくヒールをかけながら、なんとか足が千切れ飛ぶのを阻止する。



 教会の周りは美しく石畳が敷きつめられて、荘厳な雰囲気を醸し出している。

「神様ってやつがいるのなら、こんな理不尽がおこるもんかよ!」

 オシリス神殿は、無人の静謐を醸していた。

 教会は、凄惨な襲撃があったにもかかわらず、白い外壁もそのまま残っている。


 そんな中を、ズルズル逃げる。

 逃げるしか手がねえ。


 たまに、白壁に血の跡が飛んでいたりするがな。


 正門前広場には、きれいな白い敷石が敷きつめられて、美しい前庭を象っている。

 その石畳にも、そこかしこに血糊がべっとりと染みついている。

 いまそこに、オーク鬼がでかいバスターソードを振り回して、醜悪な顔をさらしているのだ。

 おめー顔がこえーよ!

 がきいんと音がして、オークの剣が石畳を打つ。

 俺は、かろうじてその剣をよけて、転がる。

 体力のバケモノめ!

 俺の武器は、みんな跳ね飛ばされて、メイスも刀もない!

 相手にスキがないので、マジックアローを打ち出す暇もない。

 無様にころがり、尻をからげて逃げ惑う。



 教会の入り口前には、大きな石の周りを鎖で囲ったオブジェが見える。

 俺は、痛む足を引きずって、その後ろに隠れた。

 だって、足がちぎれそうに痛いんだぜ!

 石には無造作に、剣が刺さっている。

「なんだこれ?」



『その剣を抜きなさい。』



 いきなり剣が輝きを放った。



「はい?」

 石のほうから女の声がする。

『その剣を抜くのです、カズマ。』

「カズマってだれよ?」

『あなたの本当の名前です。さあカズマ、その剣を抜くのです。』

 見ると、オークキングは剣を振り上げたまま、凍りついたように動かない。

『いま、時は停まっています。この時をおいて、チャンスはありません。すぐに剣を抜きなさい。』

「言われるままってのは気に入らんが、武器がねんだからこの際しょうがねえ!」


 俺は、鎖を乗り越えて、剣に手を伸ばした。

「なんだよ!柄までずっぱりめりこんでるじゃん!だちかんじゃ!」

 剣の柄をにぎったところで、すっげえ抵抗を感じた。

 動かん!!

『あなたの魔力を注ぐのです。』

「こうか?」

 手の先から剣の柄に魔力を送る。

 すると、石が豆腐に変わったみたいに、剣はするすると持ち上がった。

 けっこう細身の剣で、白銀に輝く美しさを持っている。

「こいつぁ切れそうだ。」

『これは、サービスです。』


 サービスサービスぅ?


 空中に浮かぶ剣の鞘。


 その上、俺の足にかけられた癒しの秘術。

 なんだこりゃ?

 痛みに気を失いそうになっていた足は、くねくねと動いて見事にくっついた。

「ありがてぇサービスだな。」

『出血大サービス期間中です。』

「じゃあ、遠慮なく。」

 鞘を腰に刺して、立ち上がる。


 そのとたん、俺の中になくしていた記憶が流れ込んできた。


 まるで、どっかに隠していたみたいじゃないか。



 谷和馬という名前の、五八歳(!)

 農協職員?ダッサ!

 なんだこれ?

 トラクターの横転事故で死亡?



 ちょ、カミサマ、なにこれ?

 いま、命のやり取りしてるときに、なんでこういう無駄なことするかな?

 混乱している暇はないんだよ。

『とにかく、今は生き残りなさい。』

 おっしゃるとおり、今は緊急事態だ、生き残ることを優先しよう。


 立ち上がると、確かに痛くない。

 こりゃあヒールなんかじゃないな、ヒーリングか?

 奇跡の光かもしれん、とにかく異常な活性化をしている。

 体力も戻っている。

 以前より良く動くくらいだ。

 俺は、抜いた剣を持って、オークキングの横を走る。

 振り下ろす剣を、がぎんと逸らして、もう一度男爵亭に向かう。

 落とし穴に落とすんだ!

 教会から男爵亭までは五〇メートル、ほぼ五秒で走り抜けた。


「着いてきやがる!さすが早いな!」

 オークキングは、俺に負けない速さで駆け抜けてきた。

 片目やられて、それでもめげない根性がスゲエ。


 俺は、五秒詠唱で粘着性ファイヤーボールを打ち出した。

 ほら、キャンプ用品でチューブに入ってる着火剤あるじゃん、あれをイメージした新技だよ。

「ごわあ!」

 すげえな、剣を持っていない左手で、ファイヤーボールを殴り返そうとした。

 もちろん、粘着性があるんだから、そんなことすると拳にくっつくんだよ。

「ほげえええ!」

 バカだね~、ほ~ら左手がアチチだぞ。

 右手に持ったバスターソードを放り捨てて、左手の炎を払う。

 が、両手にくっついて、なかなか消えないんだよ~。

「もういっちょう!」

 今度は、狙い通り顔に向かって走るファイヤーボール。

 ぱあんと音がして、オークキングの顔に当たる。


 普通ならはじけ飛ぶんだが、粘着性ファイヤーボールは、そこでずっと燃えている。


「ごああああああ!」

 熱いわなあ、両手がお留守になるのを見て、俺はオークの後ろに回った。

 ふらふらと足踏みしながら顔をかきむしっている。

 落とし穴に向かって思い切りケリをくれてやると、ふちにがんがん当たりながら穴に落ちて行った。

「ぐわあああああ!」

「あーあ、角折れてやがる。まあしょうがないな。」

 体がでかいので、穴の中でまっさかさまになって、身動きが取れない。

 しかも、角が壁に刺さっていて、アタマも振れない。

 俺は、石の槍で、手足を縫い付けた。

 それを確認して、ラルのいる丘に戻る。


「どうだい、兄ちゃん!」

 ラルは、塀の上から街を見ていたようだ。

「ラル、着いてこい。オークキングをつかまえた。」

「ほんとか!」

 ラルは顔いっぱいに喜びをたたえて、二メートルの塀を乗り越えてきた。

 ぱん!と飛び出す。

 俺は、それを受け止めながら、答えた。

「ああ、本当だ。もうほとんど魔物はいない。オークキングは、落とし穴に縫い付けてきた。」

「すげえ…すげえよ兄ちゃん!」

 二人で町に入って、男爵の屋敷を目指す。

「案外壊れてないなあ。」

 街は、だれもいないので、しーんとして廃墟くさい。

「なんか不気味だな。」

「まあ、みんないなくなったからな。」

「すげえな、全部兄ちゃんがやっちまったのか。」

「まあ、基本魔物はバカだからな。」


「いや、その一言でカタがつくもんでもないと思うけど。」


 広場の穴からはゴブリンの手足が生えている。

「なんだこれ?」

「ああ、メンドクサイから落とし穴に落として埋めてみた。」

「埋めてみたっつって、こいつら死んでるのか?」

「たぶん。」

「た、たぶん?」

「もし生きていたってゴブリンくれぇ、自力で何とかしろってのさ。」

「それは、兄ちゃんにしか無理だ。」

 しょうがねえから、こいつらも収納する。

 男爵の館に向けて、少し坂道を上ると向こうから異様な声が聞こえてくる。

「ごあああああ!」

 ラルは、びくっと引きつった。

「でェじょうぶだよ、さかさんなって穴に打ち付けてあるんだから。」

「そ、そうかい?」


 男爵の館に着くと、玄関前の穴にさかさまになったオークキングが挟まっていた。

「す、すげえでっけえ!こいつが親玉か!」

 そりゃ三メートルもあるからな。

「そうみたいだな、言葉も話せるようだし。」

「オークのばかが?」

「そうだよ。オークキングになると、けっこう頭も良くなるらしい。」

「へ~え、おい、バカ鬼!聞こえるか。」

「ごわあああ!痛い!熱い!」

「お前らに喰われた町の人は、もっと痛かったさ!」

 俺の言葉も聞こえはしない。



「ほれ。」

 俺は、ラルに落ちていた剣を渡した。

「これでカタキ討ってやれ。」

 ラルは、剣を黙って受け取った。

「父ちゃんと母ちゃんの仇だ!」

 思い切り振りかぶって、穴の中に剣を投げ入れると、剣はオーク鬼の頭に当たる。

 がいんと音がして、跳ね返された。

「ちくしょう!」

 その辺に落ちている大きな石を持ってきて、再度投げ込む。

「ちくしょう!ちくしょう!」

 俺は、ラルの気のすむまで、それを見守っていた。


「はあはあ、もう持ち上がらない。」

「わかった、じゃあちょっとどいてろ。」

 俺は、特大のストーンランスを作り上げた。

 直径で一〇センチ、長さで三メートル。

 固めに固めて、硬度は鉄のように硬くなっている。

「くらえや!」

 それに、風でブーストをかけて天高く飛ばし、Uターンさせて、穴に導く。

 どーんという衝撃波の後、オークキングの断末魔が聞こえた。(音速超えたな。)

『ごはああああああああ!』


「終わったな。」

「兄ちゃん、すげえよ。それと、とうちゃんたちの仇打たせてくれてありがとう。」

 ラルは、紅潮した顔を上に向けて、興奮して言った。

「ああ、よかったな。とりあえず、パリカールを出してやろう…とっ。」

 思わず足から力が抜ける。

「兄ちゃん?」

「眠い。」

「へ?」

 そう言ったきり、俺はよく言われるように、泥のように眠りに落ちた。

 まさに落ちると言う表現に間違いはない。

 もう動けなかった。



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