草の根―⑥―
“UNTOLD”。
正式名称は“Utilization of Nucleus, Theory, Object, Leverage and Dimension”(原子、物理法則、物体、力学と事象干渉を伴う技術)”で、サキ達の使う武器である“命導巧”と、それを起動させる”命熱波”も含める。
更に広げると、それらの技術で屠れる“ウィッカー・マン”もその範疇だ。
ブルースが演算器を操作して、三人の映る動画のウィンドウを縮小化。
箇条書きのスライドが出てきた。
「まず、上万作市の中で、二つの政治団体が対立している。恐らく、“是音台広域災害”――通称“白光事件”――の節目の記念式典を4月18日に迎えるから、政治活動と宣伝活動をしているのだと思う」
サキがスライドに視線を向けると、一人の男の写真が映写幕に大きく出てきた。
眼鏡を掛けた男性で小太りの外見にも関わらず、整った背広姿で小綺麗な印象が漂う。
「まず、“政治をまともにしたい市民の会”――通称、“政市会”。代表の尾咲 一郎は“電脳右翼”であり、移民排斥と憲法改正を掲げている団体の代表で、手段を選ばず“憎悪犯罪”を正当化する行動が目立った結果、訴訟によって敗訴に次ぐ敗訴で、社会的な信用を失いつつある」
ブルースはそう言って、更に六人の写真を投影させる。
「そして、尾咲を始めとした“政市会”は、”命熱波”使いを用心棒として雇った。名前は“スコット決死隊”……かつて、”ブライトン・ロック”社に所属していた」
サキが驚いて、ロックを見ると、
「野郎ども……」
サキの隣でロックが牙を
「ロックが“ブライトン・ロック”社から追い出したからな」
ブルースの言葉に、サキはさらに驚くとロックは、
「徒党を組んでやることと言えば誘拐、人殺しだのだから潰した」
サキは、ロックからの言葉に曖昧に頷くと、
「でも、“スコット決死隊”の内の三人は捕まった。ディンズデール、シリック、ホーテスキューの三人だ。ホーテスキューは早い内にイギリスに返されたが、残りの二人は”ワールド・シェパード”社の日本支社に今も囚われている」
サキは驚くと、“電脳右翼”と”命熱波”使いの愚連隊の画像がコンピューターのタスクバーに収まる。
「次の団体に入るけど。二つ目は、電脳左翼の“政治に声を張り上げ隊”。漢字三文字でこちらは“政声隊”。政声隊については、反ファシズムを掲げるANTIFA団体で、現政権に対する不満を抱える活動員で構成されていて、“政市会”の排斥デモを妨害している」
ブルースの出した箇条書きのスライドが、政声隊に変わる。
男と女の画像に変わる。
写真の中で鍔なし帽子を被った男が、右手に釘バットを握り、左親指を下に向けている。
「男の方は、“政声隊”の代表である山土師 靖。運動家で、前に反原発を中心に活動をしていたけど、方針の違いで脱退。サキの世代だと、S.P.E.A.Rが身近だと思うんだけど、他にも“地自労”や左寄りの政治団体を寄せ集めて、色々団体の結成、デモや活動も企画しているけど……背後にはこいつがいると思っていい」
ブルースの言葉をロックが引き継いで、
「確か“力人”という、荒事中心の団体も奴の息が掛かっているとみていい」
「そして、こいつ等の厄介なところは、ある”命熱波”使いを雇った」
「……三条千賀子」
ブルースの言葉に、サキは広島と島根の境界で剣を交えた、女弁護士を思い出す。
政声隊の情報のスライドの上に、三条の顔写真が大きくなる。
「こいつの厄介なところは、“ウィッカー・マン”の起動ができることだ」
ロックの言葉に、サキは驚いた。
“ウィッカー・マン”。
その名は、二十一世紀初頭に現れた“謎の機械生命体”で人類の生活圏を侵食せんとする、人類共通の敵というのが、カナダに来る前に持っていたサキを始めとした人類の共通認識である。
「それって、サロメたちが――」
そう、ロックからカナダの事件で聞いたことだが、“ウィッカー・マン”の起動はサロメ達“ホステル”の仕業だという事実がある。
そのことでサキは“バンクーバーの事件”の渦中に立たされたが。
サキの疑問にブルースが、
「三条は元々、サロメ達“ホステル”と一緒に行動していた。そこでウィッカー・マンの起動の手段を知った。それから、サロメ達と別行動を取って、欧州でいくつかテロ活動を起こしていて、俺たちが追っていたが……」
「日本に来た」
ブルースとロックの説明に、サキは答える。
彼らが頷くが、三条の日本入りの理由の答えではないことに、サキは不満を覚えた。
それを感じ取ったのか、ナオトが、
「実は、サキちゃんと一平、キョウコちゃんが前に関わった河竹市の事件を覚えている? そこで“ウィッカー・マン”や“UNTOLD”関係の技術の保存されていた施設――便宜上、“遺跡”と弊社で呼んでいるけど、あれから、日本に限らず世界で結構発見されたんだ」
だいぶ前だが、広島から山陰の河竹市に疎開していた時に、サキ、一平とキョウコの三人がナオトと彼の友人たちと共にひょんなことから、“遺跡”というものに関わってしまったことがある。
サキは、“ワールド・シェパード”社の契約社員としての研修を受けていた時に、“遺跡”が話題に出て驚いた。
「そして、サキちゃんを預かっている弊社の日本支社……支社長の、振志田 樹二のことは知っているよね?」
「確か、方針としては、“UNTOLD”の技術を有効活用す――」
そう言って、サキの頭の中で、疑問のパズルのピースがハマった。
「ご明察。三条と振志田 樹二は繋がっている。しかも、政声隊を政治的に擁護している、兄で憲政主民党の参議院議員の振志田 義一も」
「だから、“政市会”のデモを警察が守り、“政声隊”側に“ワールド・シェパード”社が立っている……ということですか?」
サキの言葉にナオトが重々しく頷いた。
プロジェクト“信念”。
カナダで起きた“バンクーバー・コネクション”により、“ブライトン・ロック”社と“ワールド・シェパード”社の二社が協力関係を正式に結んだ際に発足された事業だ。
その目的は、サキの“命導巧”である“フェイス”の様な、独自の“命導巧”を”ワールド・シェパード”社を始めとした様々な企業が開発出来るようになることだ。
命導巧と“命熱波”を使った“ウィッカー・マン”の討伐はブライトン・ロック社。
一方で、サキの所属する“ワールド・シェパード”社は――殺傷能力は落ちるものの――独自の武装である“電子励起銃”や“ウィッカー・マン”の装甲を研究したことで製作したことによる防具と組織的戦略に特化している。
二社のそれぞれ得意とするもので、対“ウィッカー・マン”戦略を有利に進め、世界にその技術の波及に努めるというのが“グランヴィル協定”だ。
「僕も日本支社の社員から振志田支社長の情報を得ながら、牽制は仕掛けているけど……」
ナオトが、映写幕の向こうで顔を曇らせる。
“ウィッカー・マン”という二十一世紀初頭に現れた謎の機械生命体。
それを敵とする共通認識がありながら、“ブライトン・ロック”社と“ワールド・シェパード”社の間の協力関係が、最近まで持ち上がらなかった。
“ブライトン・ロック”社による“グランヴィル協定”は、あくまでエリザベス=マックスウェルが提唱。
だが、“UNTOLD”の利用を独占したい同社の強硬派による抵抗もある。
他方“ワールド・シェパード”社の社長である、ミカエラ=クライヴの立場はカナダのバンクーバーでの事件の解決の為に“グランヴィル協定”を結んだだけの強硬派だ。
「振志田支社長の兄、参議院議員で憲政主民党の振志田 義一が今回の出来事に大きく絡んでいる。主民党はイラクへの自衛隊派遣について難色を示していて、何人かの党員は“民間軍事会社”――つまり、“ワールド・シェパード”社――にイラクでの役割を担わせるべきという考えもあったほどなんだ……護憲の観点から日本が“民間軍事会社”と協力というのは、否定されているけど」
しかしながら、“ワールド・シェパード”社との繋がりは、振志田 義一を中心に今日まで保たれていた。
ナオトは比較的に現実路線で、様々な勢力との協力の方向性を模索する穏健派である。
本社のミカエラと支社の樹二にとって、彼の姿勢が共通の敵と認識されたのだろう。
「振志田兄弟は”UNTOLD”に関して言えば、“遺跡”が地方から出たとなれば、その所有権は地方にあると考えている。同時にエネルギー問題も原子力が絡んでいないなら、“遺跡”を使えばよいという方針だ。太陽光発電よりも効率的な自然派エネルギーとも解釈しているから、いくつかの左派系の政治団体とも親和性がある」
「それが“政声隊”や“S.P.E.A.R”、“ワールド・シェパード”社が繋がっている背景、ということですか?」
サキがナオトに確認を取り、彼は映写幕の中で首肯する。
「その繋がりで、振志田兄弟がナオトへ干渉している……当然、ミカエラも強硬派として乗っかっているから、”ブライトン・ロック”社も関心を持たざるを得ないんだ……エリザベスも“プロジェクト:信念”の難航だけは避けたいから」
ブルースの言葉に、サキは遠く英国で奮闘する友人の姿を想像した。
彼女の献身が、今のサキの重要な部分を構成している事実がある。
今回の振志田一派とミカエラの思惑に、サキが巻き込まれつつあることに心を痛めるのは想像に難くない。
「“UNTOLD”の戦術はおろか、喧嘩の礼儀すらも分からん電脳活動家どもだ……近いうちに死人が出る。全面衝突を防ぐために、ブライトン・ロック社も妨害をしているが……」
ブルースはそこで言葉を区切り、
「ここまで”UNTOLD”が関わっていることを考えると、市民活動家の背後には様々な組織が絡んでいる可能性も否定できません。現に、政市会を警護している“スコット決死隊”と“ホステル”が繋がっていることは確認しています」
「そして、”UNTOLD”関係の犠牲者を保護目的で活動する組織の“ソカル”、”UNTOLD”の監視で有名な望楼も我が国で活動していることも確認済みです」
“ヘラルド”と伊藤官房長官が口々に言葉を述べると、
「”白光事件”の記念日も控えている中、我が国は極めて前例のない“UNTOLD”関係の組織が集中している事態となり、これらの衝突は避けなければいけません」
サキは、伊藤官房長官の結んだ言葉に緊張するが、
「サキちゃん、そいつらと戦ってほしいということじゃないんだ……僕たちは、“ブライトン・ロック”社を始めとした関係者や政府と連携しつつ、活動家団体の衝突を避けることに全力を注ぐ」
ナオトの言葉にブルースは、
「つまり、サキとロックに依頼したいのは、主に二つの団体の対立の渦中にある、お友達のリュウノスケ=ハラダを守り、政声隊から抜けさせてほしい」
サキは戸惑うが、
「無論、二人だけじゃない。“ブライトン・ロック”社の協力者や、現地の“命熱波”使いや“望楼”関係者の協力も得られそうなんだ。くれぐれも思い切ったことはしないように」
サキは驚き、ロックに目を向ける。
「協力者は主に“ブライトン・ロック”社の”命熱波”使い達と現地の住民たちだ。まず、アンナと“ベネディクトゥス”……」
サキはブルースに言われた二人の名前の内、
「アンナって、もしかして――!?」
サキは声を震わせながら、壇上に立つ担任を見た。
「よろしくな……ブルース、生徒に無茶はさせないからな?」
杏菜の言葉に、ブルースは無言で肩をすくめる。
サキは了解したが、ロックはどこか複雑な表情をしていた。
「ベネディクトゥス……」
サキの隣で、その名を呟くロック。
憎悪の炎が、彼の眼に宿っているようにサキは見えた。
※※※
「サキ、何があったの?」
「大丈夫だったのですか?」
視聴覚室から教室に戻ったロックとサキ。
ロックの隣で、サキが友人たちから質問攻めにされていた。
彼女たちの視線には、サキを思う深い感情が伝わることが伺える。
サキのぎこちない回答のせいか、なぜか彼女たちからの視線をロックは感じた。
サキから満足いく答えを得られなかったので、標的を変更したらしい。
短髪で褐色のキョウコの視線には、面白いことを引き出そうとする野次馬根性。
かたや、長髪で黒髪のアカリは、どこか、娘を持つ母親を思わせる笑顔の中に含まれる鋭い視線を感じ取れた。
ロックは居心地が悪くなり、サキに目を向けるが曖昧な笑顔で返される。
――頼むからフォローしてくれ。
ため息混じりに、ロックは自らを――“ブライトン・ロック”社であることを隠しつつ――キョウコとアカリに紹介し、彼女たちも自己紹介で返す。
それから、会話はサキ達が中心となり、勉強会を行うことを提案などで話題が盛り上がる。
ロックは彼女たちの談笑に、日常を思い出す。
会話の中心にロックがいないことを確認すると、別の方向へ視線を向ける。
サキの友人とも言える二人の男子――原田 龍之助と斎藤 一平。
こちらは二人が視線を交わすと、会話少なく、それぞれが席に戻る。
二人に交錯する感情のぶつかる波。
ロックは二人からそれを感じながら、席に戻った。
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