流転―⑦―
ロックは、銀灰色と灰褐色の瓦礫に飛び込む。
翼剣を構えたロックを、リリスは己の月白色の眼で捉えた。
彼女からの応酬は、紅い外套の右側から飛んで来た、黒い両端投槍の煌く一刃。
ロックは逆手の“ブラック・クイーン“の翼剣を、頭の高さへ運ぶ“屋根の構え“で右側頭部への一撃を防ぐ。
槍の手応えを籠状護拳越しで覚えながら、リリスに肉迫。
しかし、右に集中した防御の為、左側に空白を作った。
空かさず、左から疾走る白い両端投槍の一振りが、ロックを襲う。
赤い外套を翻し、左膝を地面に付けるほど屈んだ。
ロックの頭上で、二色の翼槍が交差したことを確認すると、左脚を蹴って時計回りに回転。
左から右への回転力によって、ロックは両端投槍が無くなったリリスへ距離を縮める。
右脚を軸に据え、左脚の発条反動力を使って、右腕の翼剣を振り上げた。
リリスは、翼槍を戻すことに集中し、ロックの剣の迫撃砲に反応出来ない。
歯を食いしばりながら、月白色の魔女は掌から出した磁向防でロックの斬撃を防ぐ。
しかし、リリスは、ロックの攻撃に今回は無傷で済ませることが出来なかった。
彼女はロックが寸前で出した“迷える者の怒髪“の噴進火炎を防ぐ為に、磁向防へ熱力を注いでしまう。
噴進火炎と不可視の壁が激突をし、熱力の爆風が竜巻と化した。
中心である“眼“では、二人の力の衝突が拮抗する。
競り合いに負けたのは、リリスだった。
右手を使って出した不可視の壁で、全身を守ったものの肩の揺れと共に口から、疲れを吐き出す。
だが、リリスが呼吸を選んだ時点で、彼女はもう一つの口を月白色の眼に映した。
それは、ロックのイニュエンドの銃口。
“迷える者の怒髪“を放った後、空かさず次弾を装填したロックは、“道作る蹄”で、リリスの足元を狙った。
リリスは、崩れた足場の上で吐き出したものに、息から怨嗟に変える。
息を尽かせず、ロックは“怒れる親父の一撃“による、振り下ろしを繰り出した。
だが、親父の怒りは娘の前では唯の威嚇に終わる。
巨大リリスの残骸の浮島の対岸で煌くサロメの象牙眼が、ロックの背後の黒と白の翼槍を映す。
溶解し始めた混凝土と“リア・ファイル“の銀灰色の孤島の上で、リリスは勝ち誇った笑みで、
「ライラとヴァージニアの力が無いとでも思ったか……残念ながら、そいつらは元々、我から生まれたモノだ。使えない理屈なぞ、ある訳無いわ!!」
ライラとヴァージニアを乗っ取れなかったのは、ダンディーで負ったロックとファンによる致命傷の回復に時間が掛かったからだ。
雨雲が消え、“救世の剣“に残った熱力量は、リリスの思い人を生き返らせることは困難となった。
だが、自分の身を分けた”命熱波”の物質化に不足している訳ではない。
ロックの剣を振りかざした背中に、一対の両端投槍が高速で移動。
推力に乗って、紅い外套の青年の背後を捉える。
だが、槍の穂先がロックの背中を貫くことは愚か、掠ることも無かった。
黒と白、二つの光が彼の背後で爆発。
「ただ……」
「使えるのも半分だけどね!」
リリスは双眸の三日月を歪めながら、二人の少女――ヴァージニアとライラ――に見入っている。
「そんな……お前たちは、私から作られた。なのに、何故、私の超微細機械の主導権を握れる!?」
リリスの背後に、黒と白の翼槍が戻る。
「……テメェ、馬鹿か?」
ロックは口端を釣り上げながら、翼剣“ブラック・クイーン“を逆手に構える。
「貴様……あの人の魂を入れただけの器の分際で!!」
リリスの月白色の顔が嚇怒で歪んだ。
黒と白の翼槍が羽ばたき、ロックに飛んで来る。
「このオバサン……“ブンザイ“って、自分がどういう存在か、分かっていて使っているのかな、ヴァージニア?」
短髪で豊満な胸部をベストで覆った守護者のライラが溜息を吐いて、右腕の剣でロックに飛び掛かった白い両端投槍を弾いた。
「恐らく、分かってないから使っているのだと思いますよ、ライラ?」
ガレア帽の乙女が、呆れて首を傾げながら右腕の弓から放ったフォトニック結晶の鏃を放ち、黒い翼槍を牽制。
それぞれの色が衝突して、熱力の突風を生んだ。
「ロックさんは、分かっていますよね?」
有無を言わさずに、話題を振って来るガレア帽の女戦士を、ロックは無視。
「これで分からなかったら、唯のアホだよね?」
嘲る視線の短髪の少女――ライラ――へどの様な視線を見せたのか、ロックは分からなかった。
ただ、彼女はロックに、一瞥と溜息だけを返し、リリスへの敵愾心を向ける。
ロックは、熱力の波を籠状護拳で、リリスに向けて叩きつけた。
「聞いての通りだ。守護者の口の利き方……改めさせる為に、早く起きろ。サキ!!」
ロックの言葉と共に拳から広がる、不可視の爆発が広がる。
「サキ……この体の持ち主が、目を覚ますわけが――!!」
リリスの月白色の肌ごと、空間が歪んだ。
「そんな……サキが、目覚める!?」
リリスの眼の中で、サロメの眼が港跡地で見開くのが見える。
金色の鎌による、サロメの象牙眼の入った顔の両断も、リリスの双眸が見届けた。
「寝惚けている暇はないんじゃないのかな、サロメ?」
大鎌型命導巧、“パラダイス“を振ったサミュエル。
柔和な顔だが、眼光はその鎌と違わぬ、鋭さを孕ませていた。
サミュエルに向けて、サロメは胴から伸びる“クァトロ“の下半身を走らせる。
“救世の剣“の熱力量をリリスが使えるなら、サロメや”ウィッカー・マン”も例外ではない。
“フル・フロンタル“も活力を戻し、レッドガーターヘビの特性による“盗熱“で、”ワールド・シェパード社”の兵士と警察官から熱力を吸収し始める。
「ナオト、レイナーズ警部。皆を離れさせろ!!」
ブルースが、熱力を得始めた“フル・フロンタル“を五体、ショーテル型命導巧、ヘヴンズ・ドライヴの二刀流で切り裂いた。
だが、切り逃した残りが、サロメに、”ワールド・シェパード社”の兵士と警察官から奪った青白い”命熱波”を送る。
光を受け取ったサロメは、縦に割れた顔の傷を塞いだ。
青白い光が、偽腕として使っている“ガンビー“の右腕に集中し始める。
大猩々の右腕に、青白い光が雷電に変わった。
閃光と迅雷の蛇が、サロメの周りでのたうち始めた。
「デュラハンと同じ……“ウィッカー・マン”の“命熱波”を放つ攻撃か!?」
ブルースが吐き捨て、ショーテルの仕込み鍔の銃撃に切り替える。
だが、サロメの熱力の発生の方が速く、ブルースの銃弾を焼き尽くした。
サロメと一体になった”ウィッカー・マン”が、巨大な青い光を孕み始める。
ダンズミュア通りのそれよりも、輝く恒星の光は超新星爆発のそれだった。
「離れろ、ブルース!」
サミュエルの声で、ブルースは左側に飛ぶ。
サミュエルの“報復の車輪“による特殊研磨砂の竜巻が、サロメの青白い閃光の竜巻と衝突。
砂塵と雷が絡み合い、突風を生んだ。
「アンティパスとやらの努力も、徒労に終わったな。お前たちが不利なのは変わらない」
リリスが、ロックの籠状護拳による一撃を磁向防の向こうで嘲笑う。
サロメを中心に集められた”命熱波”の青白い光が、リリスにも送られていった。
リリスはその力で、ライラとヴァージニアを模した、白黒それぞれの両端投槍を、ロックの破壊した足場から離れる為の翼を得る。
「その力があるなら、アタシも負けない!!」
嘲笑を込めたリリスの眼が、滑輪板を背負ったシャロン=ケイジが、サミュエルとサロメの拮抗する中心に飛び込んだのを映した。
叩きつけられた滑輪板の車輪が、銀色に変わりサロメを纏う青白い光と化した熱力を吸収する。
シャロンとサミュエルの攻撃に抗う、サロメの体が瓦礫の港で崩れる。
下半身や欠損した体を補う”ウィッカー・マン”達が、蠢めき始めた。
サロメの体の一部の銀鏡色が波打ちながら、形を作る。
作られた形は、三つ。
それぞれ、牛と狼と鰻となり、象牙眼の魔女の足下から食らい始める。
「……“バズヴの寵愛”……同じ”ウィッカー・マン”を嗾けて、力を奪うつもりか!?」
シャロンの滑輪板を見て、リリスは忌々しさの余り、ロックから目を逸らした。
「ロック、こっちはアタシたちが片付けるから、サキを目覚めさせて!」
シャロンの一言で、大きな鼓動が響いた。
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