表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第六章 Hash

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/257

姦計―⑦―

 リリスに煽られたアンティパスを止めるために、ロックは“ブラック・クイーン“の籠状護拳(バスケットヒルト)を右手から突き出した。


「そうはいきませんよ……ロック=ハイロウズ?」


 背後から生暖かい呟きと吐息を感じると、二対の象牙色と石榴色を一つ付けた生首がロックの左にあった。


「サロメ……!?」


 ロックは、右手の翼剣を振りかぶる。だが、右腕が動かない。


 それどころか、首の圧迫感と胴と残りの体の節々への締め付けが強まり、ロックの四肢に掛かる力の流れを遮った。


 羊の角の()()()()()()()()が、ロックに羽交い絞めを仕掛けている。


 サロメの首は、仕上げにロックの喉に巻き付きながら、


「塵は塵に、灰は灰に。ゴミは……燃えるゴミだろうが、燃えて……消えて」


 サロメの歌う前で、アンティパスがリリスに飛び掛かった。


 ”ストーン・コールド・クレイジー”の刀身が、夜輝く月の魔性へ雨と共に降り注ぐ。


 剣の先端を飾る翼魔の(くちばし)は、()()()()()()()()を斬った。


 アンティパスは空かさず、白黒二色の羽衣に体を乗せるリリスに向け、左腕の拳砲から混凝土(コンクリート)弾を発射。


 羽衣がリリスの前に広がり、混凝土(コンクリート)の塊は雨天の下で、爆発した。


 灰褐色の煙幕が、月白色の美貌と共に、アンティパスも覆う。


 リリスの高熱力(エネルギー)の光を放つ羽衣が、灰褐色と雨の中を縫った。


 白い羽衣が星屑(ほしくず)の様に舞うと、黒い羽衣から放たれた閃光を照らす。


 星屑(ほしくず)と化したフォトニック結晶に運ばれ、高出力の閃光が灰褐色の霧を焼き尽くした。


 閃光が、ロックの眼を奪う。


 だが、リリスの視界も、同じ様に見えないことを意味していた。


 リリスの目の前に、アンティパスの姿は無い。


 だが、“ストーン・コールド・クレイジー”の槌の先端は、月の衛星の名を持つ女を背後から捉えた。


 リリスの宝玉の様な後頭部に、アンティパスが刃を突き立てる寸前。


 ロックの視界が乱れ、映像が流れ込む。


 二人の男と一人の少女。


 一人はアンティパスで、もう一人は……自分の”命熱波(アナーシュト・ベハ)”の元となった男。


 少女は、ライラだった。


 彼女を恐れたアンティパスは、ライラを殺す為に武器――“ストーン・コールド・クレイジー“――を取る。


 ()()()()()()()()()()()()は、彼女を守るためにアンティパスを討つ。


 だが、死()()()()()()()()()()()()()()()を鉢金の男は見た。


 三日月の様な目と口を作るリリスの嘲笑。


 それが、ライラから浮かんだところを。


 ()()()()()()()()()が、リリスに振り下ろされる筈だったアンティパスの槌剣が映した。


 刹那、三日月の様に裂けた()()()()()()()の笑顔が()()()()()()()()


 槌剣を振りかぶったアンティパスの肉体を包み込んだ。


 閃光の中で、アンティパスの肉体が収縮と弛緩を繰り返す。


 灰褐色の戦士の両胸に大きな穴が開いた。


 リリスの二色の羽衣の背後に伸びた鋭利な光が、アンティパスを貫く。


 リリスの背から羽化した刃が、アンティパスを切り裂いた。


 屈強な肉体は四散し、()()()()()()()()()()()()()()()()となる。


 灰褐色の残り火が、リリスの周囲を流れた。


 ()()()()()()()()()灰燼は、ロックも覆う。


 残り火は、周囲で蛍の様に輝き、雨に消えた。


「アンティパス……欧州やバンクーバーで得た魂を肉体に定着させて、あそこまで戦えるとは思わなんだ」


 リリスは下弦の月を口で作る。


 嘲笑に満ちた彼女の赤珊瑚の双眸(そうぼう)と共に、“灰褐色の戦士“を焼いた双翼をロックに向けた。


「あんな下賎ではなく、()()()()()()なら、さぞかし……()()()()()()だろうな」


 リリスの月白色の眼から放たれる蔑みに、ロックは”命熱波(アナーシュト・ベハ)”を展開。


 過去と未来に囚われない意思を、あの男が認めた。


 この世界で生きる道を、彼もまた決めていた。


 それを、過去に執着する目の前の、魔性――リリス――が踏みにじった。


 その怒りを、ロックは口から発露しない。


 ただ、衝動と共に剣とロック自身から出た紅黒い雷が、自らを縛るサロメの四肢を焼き切った。


 人形の柵から抜け、疾走(はし)る彼の目の前には、紅い唾帽子とお揃いのドレスを纏った女が立つ。


 紅色を纏った象牙色の眼が、羊の圏――“スウィート・サクリファイス“――を構える。


 だが、その動きが止まった。


 赤いドレスを着たサロメ、背後にいるリリスに飛翔体が飛んで来る。


 ロックの前で、大地が抉り取られ、二つの火柱が立った。


 晴れた火の霧の向こうで、サロメが目を見開く。


 滑輪板(スケートボード)を振りかぶったシャロン=ケイジの一撃が、リリスの寸前で止まる。


 シャロンの打ち下ろした滑輪板(スケートボード)を、リリスの前を覆う羽衣に遮られ、口を歪ませた。


 サロメは紅いドレスを舞いながら、リリスの宙に浮かぶシャロンへ雄羊頭蓋の圏で迎撃。


 それを阻んだのは、金色の軌跡――サミュエルの鎌だった。


「兄さん……取り敢えず、死んでない?」


 あんまりな問い掛けに、突っ込もうとするがロックは言葉に詰まる。


 弟の鎌の一撃を受け、下がるサロメも、目の前の闖入者に目を見開いた。


 ロックが見たのは、上空から降り立つ鉄の塊――蹄鉄“ラ・ファイエット“。


 脚部の伸ばされた蹄鉄の甲羅が、硝煙と土煙を巻き上げながら、月白色の死神を踏みつぶさんとした。


 下弦の月を描いたリリスの口が、微かに動く。


 阻まれたのではなく、汚らわしいものに視界を遮られた嫌悪感で、月白色の顔を歪ませた。


 リリスの黒い翼から、一筋の光線が放たれる。


 鋼鉄蟹(てつがに)の胴体を両断した。乗り捨てられた人型戦車の欠片が、リリスの前に落ちた。


 蹄鉄の操縦席の甲殻が割れ、緑の雷撃を翻った外套(コート)が翻った。


「シャロン、サミュエル。離れろ!」


 ブルースの一声の後、視界を奪う程の激しい緑雷が、リリスとサロメに落ちる。


 二振りのショーテルから雷撃を振り下ろされ、衝撃で大地は隆起。


 砂煙だけでなく、雨と人型戦車の残骸(ざんがい)も舞った。


 (こけ)色の外套(コート)の戦士は、ロックの前に降り、


「ロック……死んでないようで、安心した」


「ブルースに、サミュエル。テメェら、『()()()()()()()』生存確認してんじゃねぇよ、この馬鹿ッ!?」


 ブルースから出た言葉に、ロックは眩暈(めまい)を覚えながら叫んだ。


 異議を唱えるロックを他所に、(こけ)色の外套(コート)の男の右手から何かが放り投げられた。


 飲み口の付いたプラスチック製の袋を受け取る。


 “リア・ファイル“の入った回復水を確認し、ロックは飲み口のプラスチックを噛み切った。


 一呑みすると、”命熱波(アナーシュト・ベハ)”を使い過ぎて、熱くなった体が冷却していくのを、ロックは感じる。


 ロックが飲んだのを確認したブルースも、懐から回復水の袋を取り出し、一飲み。


「ロックが死んでいてくれた方が、私は安心する」


 空気を読んで、あらぬ方向へ持っていくシャロンの言葉をロックは無視して、空のプラスチック袋を放り捨てた。


「でも、兄さん……()()()()()()が、()()()()()()が安心できない、目の前の存在を忘れていない?」


 ブルースからロックの口にしたものと同じ、プラスチック容器が二つ放られた。


 サミュエルとシャロンは、それぞれ右手で受け取る。


 二人が容器の水を飲む様子を他所に、ロックは眼の前の爆風を凝視。


 ロックは、右払いの斬撃と共に爆風を薙ぎ払った。

面白ければ、評価、ブックマークをお願いいたします。



© 2025 アイセル

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ