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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第五章 Flash And Slash

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閃刃―①―

午後8時52分 ロブソン通り(ストリート)の交差点



 疾風(はし)る、灰褐色の衝撃。


 アンティパスという灰褐色の戦士からの一撃を視認した瞬間、ロックの目の前で瀝青(コールタール)の雨空が広がる。


 喫茶店“Perch“内で、ロックとアンティパスの激突で生じた爆風で、店の外に飛ばされたのだ。


 仰け反り様に舞った体を衝撃で流して、更に一回転。


 ロックは、眼下に広がる瀝青(コールタール)の大地に両足を打ち込んだ。


 弾けた水飛沫(しぶき)の壁の向こうで、珈琲(コーヒー)喫茶店“Perch“から珈琲(コーヒー)蒸留器の煙と共に、残骸(ざんがい)が粒子となって舞い上がる。


 瀝青(コールタール)の大地を車の喧騒が駆け抜けている時間のはずだが、沈黙が流れていた。


 横断歩道に人影は、皆無。


 警察の装甲車両と”ワールド・シェパード社”のSUVが、四辺の横断歩道を占拠し、人の流れを遮っていた。


 無数の警官と”ワールド・シェパード社”の隊員の張った非常線の向こう側で、野次馬がひしめき合う。


 警察の特殊部隊が装備する軽機関銃(サブマシンガン)及び突撃銃(アサルトライフル)と、白と黒の装甲を覆った集団による電子励起(れいき)銃は、さながら、合図を待つ狐狩りの猟犬の様だった。


 銃口が捉えるのは、交差点の中心のロック。


――この騒ぎでも聞きつけて来たか……?


 徒手空拳で”ワールド・シェパード社”の社員を圧倒できるロック達を、”ウィッカー・マン”と同等に捉えている為か。


 もっとも、”ウィッカー・マン”に()()()()()()は通じない。


 警察官が、武装を晒すことで住民を遠ざけようとしているのだろうか。


 または、どさくさに紛れて、持ち出されない様に携行しているからか。


 ロックが考えていると、警察と”ワールド・シェパード社”の作る交差点の包囲網が崩れた。


 銃器の立ち並ぶ壁を崩したのは、白い奔流――“クァトロ“の大群。


 勢いのある跳躍から放たれる前脚は、銃火器を防ぐ強固な作りの装甲車をも横転させた。


 それを皮切りに、叫び声と号令が交差点を包み込む。


 軽機関銃(サブマシンガン)の銃声が空気を震わせ、電子励起(れいき)銃が雨の幕を突き破った。


「マジかよ!?」


 ロックが驚いたのは、彼らが撃ったことではない。


 大量の”ウィッカー・マン”が、ロブソン通り(ストリート)という市街の中心部へ、一度に現れたことだ。


――何処から、エネルギーが――!!


 ロックの思案を遮り、二体の“クァトロ“が飛び掛かってきた。


 しかし、その二体はロックに届かず横転。


 空中で、もう二体の“クァトロ“がロックの前に出て、襲撃者を迎え撃ったのだ。


 互いに四肢を絡ませ合う、四体の”ウィッカー・マン”に金色の三日月が落ちる。


 三日月の斬撃が一陣の風となり、四体の“クァトロ“の左胸を切り裂いた。


 砂塵が銀鏡色の肌を刻んだ傷口から、溢れ出る。


「兄さん、大丈夫?」


 そう言ったのは、サミュエルだ。


 彼の持つ長柄に掛かっていた覆いは、もうない。


 両手の散弾銃の銃口の先から、日本の枝垂れ桜を思わせる大鎌の刃。


 “パラダイス“という、サミュエルの命導巧(ウェイル・ベオ)だ。


 ナノ加工された特殊研磨材による、砂塵噴射(サンドブラスト)を散弾銃の様に放つ。


 また、切断に向かない大鎌の摩擦を減らすために、砂塵噴射(サンドブラスト)は接近戦で使われていた。


「シャロン。”ウィッカー・マン”を操ることの利点は、倒しやすくすることだけか?」


 ロックは、サミュエルの隣に立つシャロンに吐き捨てる。


 彼女は、


()()()()の動きに集中しているから、少しの間しか行動を制御できないのよ!?」


 シャロンは乱暴な応答をして、滑輪板(スケートボード)で、飛び掛かってきた“クァトロ“の頭を一つ叩きつけた。


 彼女の能力は、滑輪板(スケートボード)の機動力を活かした格闘術だけではない。


 ”ウィッカー・マン”を()()()()で、()()()()操れる。


 加えて、”ウィッカー・マン”を一体に限り、長距離移動させることも出来る。


 しかし、弱点もあった。


 拠点を探る長距離移動に送った一体に、シャロンは意識を集中させなければならない。


 仮に、この状態で残り二体制御しようとする場合、近くを操る場合は長くて15秒が限界である。


「兄さん、気付いている? ”ウィッカー・マン”……転移した形跡がない」


 隣のサミュエルが、“クァトロ”の頭部から左胸部に掛け、金色の大鎌で引き裂く。


 ロックは右の肘鉄を繰り出し、籠状護拳(バスケットヒルト)から伸びる翼の剣で左胸を貫いた。


 ロックの刺突によって、前かがみに倒れた”ウィッカー・マン”の背を踏み台に、もう一体が跳躍。


 銀灰色の(あぎと)から突出した青白い牙が、紅い外套(コート)に迫る。


 だが、銀色の板がそれを遮った。


 青白い火花を出す上顎(うわあご)を、シャロンは後輪越しに蹴り上げる。


「というか、市内に”ウィッカー・マン”が多過ぎ。そもそも、スカイトレインの破壊が切掛けとは言っても、これは活動的過ぎる!」


「“ガンビー“がいないのは引っかかるが、どっちにしろ、ダウンダウンを覆う壁は、もう意味を成さなくなった」


 ロックは吐き捨てながら、“クァトロ“の左胸部を得物の翼剣で裂く。


 グランヴィル・アイランドで襲撃してきた“フル・フロンタル“は、バンクーバーの悲劇の被害者に変装していた。


 彼らの特性を活かせるほどの熱源が、バンクェットにあったからである。


――人間の体を励起(れいき)させて、やっと転位に必要なエネルギーを得られる。


 しかし、見た限り、警官と”ワールド・シェパード社”の兵士の壁の向こうで、誰かが火達磨になった気配はない。


 ()()()()()()()()が街にある。


 市内のど真ん中へ、“クァトロ“を転移させる程の熱力(エネルギー)の源。


 ロックには、皆目見当が付かなかった。


 不可解さに首を傾げつつロックは、三体の“クァトロ“に向かう。


 正確には、三体の“四つん這い“の背後に立つ、灰褐色の武人――アンティパス。


 ロックは一体目の懐に飛び込む。


 両腕の鉢金で頭部を守りつつ、“四つん這い“の首元を目指した。


 ロックは時計回りに腰を捻りながら、逆手に握った籠状護拳(バスケットヒルト)を握った右半身から突き上げる。


 “クァトロ“の頭部、首と体幹がロックの肘により持ち上げられ、前脚が地面から離れた。


 気合を入れ、ロックは剣を持ち直す。


 剣先をロックの背面から回し、片手の鍵の構えから、“四つん這い“の左胸を穿孔(せんこう)した。


 左足を蹴った勢いで、二体目と三体目も千枚通しの様に重ね、アンティパスに突進。


 しかし、ロックの突撃が、見えない爆発に遮られる。


 爆音と衝撃によって、飛び散った三体の”ウィッカー・マン”。


 アンティパスの左腕に、灰褐色の光が宿る。


 拳大の砲口と化した左手は伝説の宝を守る竜が息を吸い、口腔(こうくう)から威嚇(いかく)で炎を出す様を思わせる。


 灰褐色の左手の守護獣が、雨は愚か、“クァトロ“の残骸(ざんがい)も貪り始める。


 ロックは、“ブラック・クイーン“の籠状護拳(バスケットヒルト)から、イニュエンドを取り出した。


 彼は、神獣の口に向けて銃弾を二回、発砲。


 一発目は、“定めに濡らす泪フアスグラ・ウイルイエアダサン“。


 高熱源であるアンティパスの左手の大筒は、水蒸気と雨、粉塵に触れると残骸(ざんがい)諸共、水蒸気に包まれる。


 水蒸気が更なる炸裂を奏で、雨滴を蒸発させながら、灰褐色の戦士を呑み込んだ。


 二発目は、“供物を味わう舌(チェンガ・ラサール)“である。


 酸素は、助燃材として高熱源の熱量を増加。


 燃焼反応は、一酸化炭素や二酸化炭素が生じ、相手の呼吸も止める。


 二つの爆破でアンティパスの視界を覆い、ロックは彼の間合いに踏み込んだ。


 刺突ではなく、右肩から振り下ろす袈裟斬り――西洋の剣術で言う、“怒りの親父の一撃”。


 不貞を働いた娘の男を殺す父親を表しているという、ドイツの逸話が伝えられている。


 由来が“異性交遊の(いさか)い“か、“金の無心“による揉め事か、定かではない。


 結果は、()()()()()()()()()()()()()()()()構えなのは明白だった。


 しかし、この技には、もう一つの名前がある。


 イタリアでは、“貴婦人の構え“。


 剣を背負う姿が、()()()()()()()()()()()()()から付けられた。


 ロックがアンティパスに放った一撃は、“()()()()()()()”に終わる。


 ロックの刃が、アンティパスの頭蓋ではなくその前に現れた混凝土(コンクリート)の壁を刻み、悔しさで奥歯を噛み締めた。


 彼の一撃で(ひび)を刻まれた灰褐色の壁が、思考するロックとの距離を一気に縮める。


 移動した壁の(ひび)に目掛けて、畳んだ右腕を(しな)らせた籠状護拳(バスケットヒルト)の一撃。


 しかし、アンティパスの全身を隠す混凝土(コンクリート)の壁から生み出された、重量と速度の乗法の力にロックは右腕を押し返される。


 ロックの一撃は、混凝土(コンクリート)壁を壊せたが、その時の移動熱量と衝撃熱量が彼の体を浮かせた。


 灰褐色の壁の破壊の波動が、ロックの腕を通じて肺にまで達し、紅い吐息が漏れる。


 ロックの体が、緩やかな紅い放物線を描いた。


 苦悶を耐えながらも、ロックは瀝青(コールタール)の道に着地する。


 更に、ロックは目と口を引きつらせたのは、アンティパスの傍らに控えていた二つの混凝土(コンクリート)壁。


 まるで、地面から浮いているかのように、紅い外套(コート)の戦士に向け、二柱が滑り出した。


「口があるなら喋れよ、アンティパス!?」


 相手が口を開く理屈と、その理由を持ち得ないのはロックには分かっていた。


 分かり切った事実への徒労感と共に、“ブラック・クイーン“の大きな(つば)へ銃を入れる。


 柱と壁よりも速く動いた二体の“クァトロ“に、ロックは翼の剣を振るった。


 一体は、両断。


 二体目を籠状護拳(バスケットヒルト)で殴って、頭部を左手で掴む。


 両腕を“クァトロ“の長く伸びた首に巻き付けると、二体目の“クァトロ“の胴体を、アンティパス大のコンクリート壁に放り、右足で踏みつけた。


 ロックは、混凝土(コンクリート)柱に挟まれて出来た、”ウィッカー・マン”からの斥力を脚で受け取り、距離を稼ぐ。


 “四つん這い“の残骸(ざんがい)を蹴散らしながら、二柱が迫ってきた。

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© 2025 アイセル

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