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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第四章 A Night For The Knives

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刃夜―⑤―

午後8時17分  西(ウェスト)ヘイスティング通り(ストリート)



『アメリカ政府が絡んでいるだと……全くあの国は、左右関係なく、物事をややこしくする』


 エリザベスのぼやきが、ブルースの携帯通信端末(スマートフォン)の受話器から聞こえる。


 ロックから数分前に送られた情報を見て、エリザベスからの着信がブルースの携帯通話端末に届いた。


「正確には、そこの()()()()()が。”ワールド・シェパード社”や“ホステル“の対応にも追われているのに」


『使えるものは使うというが、“使()()()”後のことを全く考えないのがアイツ等らしい』


 スピーカー越しからのエリザベスのオチに、ブルースは大きく笑った。


使()()()()か、こっちも耳が痛いな……」


『耳よりも、()()()()()()()()()の対応を優先しろ。状況は?』


 エリザベスに促されながら、頭痛の元凶を見つめる。


 赤と青の光が、雨に覆われたビル街の一角で散乱。


 二色の光の大本である、警察車両の警告灯はビルの中で一際突き出た、大槌の様な陰影を浮かべる。


 ハーバーセンタービル。


 円盤型の展望台は、360度回転するレストランで、西海岸の山々を楽しみながらの食事が出来、気象によっては、隣国も国境線なしで一望出来る場所だ。


 90年代のITブームの象徴にして、地元の大学という二つの顔を持つ。


 だが、それはあくまで、()()()()()()()()()に過ぎない。


 目に見えない地下には、”ブライトン・ロック社”が資金援助をしている研究施設が人知れず存在していた。


 企業で研究を行う場合、どうしても利益が優先となる。


 必然的に、そう言った方向に舵が取られるので、”ウィッカー・マン”の解明というよりは、“殲滅“が主軸となり、殲滅方法を巡った営利競争が起きてしまう。


 純粋に利害を超え、未来に向けた建設的な研究が出来る大学に”ブライトン・ロック社”は研究の許可を出しているのだ。


 しかし、やることは”ウィッカー・マン”の残骸(ざんがい)の分析やUNTOLD関係で亡くなった者の検視に限られていたが。


 今回の出来事で命を落としたキャニス、首無し騎士(デュラハン)に入っていた男も、その場所に保管されている。


 ブルースが、仲間のキャニスの遺体の対応について、協議をしようと施設へ連絡したが通じなかった。


 その後、ナオトから『ハーバーセンタービルで話したいことがある』という連絡を受ける。


 ブルースは、警察の赤と青の警告灯で彩られた、ハーバーセンタービルの花祭を眺めるに至っていた。


「結論から言うと、()()()()()()()()()と言われれば、前者と考えた方が良い」


 警察官との話を終えたナオトが、雨の下、ブルースに向かって来る。


 右手の携帯通信端末(スマートフォン)を、銀色の鎧を纏う”ワールド・シェパード社”の専務に渡すと、


「そちらの研究員の親類が、連絡のつかないことを不審に思って、関係者同士の連絡を取り合ったら――」


 ナオトが受話器越しに、エリザベスに状況を話し始めた。


 短文投稿サイトの様なSNSなど()()()()()()、職場の情報を公開してはいけないことは、情報管理として当然、徹底させている。


 だが、人間関係まではそうはいかない。


 労務管理がある以上、()()()()()()()()()()()からだ。


 ナオトから携帯通信端末(スマートフォン)を返され、


『人の口に戸は建てられない。結婚や交際の自由も……仕事に支障が無い限り、否定できんからな』


 端末の向こうでエリザベスが鼻を鳴らすと、ブルースは端末を切る断りを入れた。


 隣のナオトともに、警察官の集まる場所へ向かう。


 背広の上に市警のマークの入ったジャケットを纏った男性が、ブルース達を出迎えた。


「ナオトさん、ブルース=バルトさん。レイナーズと言います。ミシェル=ジョアン=レイナーズ。警部です」


「ブルースで良い。レイナーズ警部」


 右手で握手を交わし、レイナーズが戸惑いながら、


「ナオトさん。この方が……」


()()()()()()()()人物だ」


 ナオトに紹介されたブルースは警部に向かって、愛嬌の瞬きを見せた。


「多様性の範囲は、()()()()も例外ではありません」


 レイナーズは、ブルース達を見て大きく笑う。


 雨に濡れた焦げ茶色の髪が、ビルのネオンと警告灯の明かりで映えていた。


 体は、自分とナオトの中間位の背であるが、現場を活動するに足るガタイの良さが、自分と知り合いの東洋人に比べて引き立っている。


「鍵の選択として、自分を認めてくれたことに感謝する。レイナーズ警部」


 ブルースも、笑顔で返した。


 警察が、得体も知れない海外の勢力と共に、”ウィッカー・マン”と戦うことに拒否感を示す者は多い。


 だが、何人かは、”ワールド・シェパード社”との協力関係が欠かせないことも理解していた。


 レイナーズ警部は、”ワールド・シェパード社”内の少数派であるナオトを選んだ様だが、ブルースの視線に気づいて、


「あくまで、街を守るための選択肢です。最善と言われるものを取るか、引き出すための」


「それで、十分だ。応援は――」


「必要なし。ナオトさんとブルースさんが、事態を確認してから、ですね」


 そのあとに続く言葉をレイナーズに言われ、ブルースは面食らった。


「必要事項の確認はある程度済ませているよ、ブルース。問題は……」


「暗証番号を知っているか、だけです。知らなかったら、後ろに手を回して這いつかせ、取調室で()()()()()()()()()珈琲(コーヒー)責めに合わせます」


 レイナーズの皮肉に、ブルースは肩を(すく)めて、ハーバーセンターの入口へ向かう。


 ハーバーセンタービルのドアを開けると、大学内の図書館がブルース達三人を出迎えた。


「図書館ですか……?」


 夜の帳が降りる午後5時に閉まる為か、教育機関に通う者達の醸し出す、独特の喧騒は無い。


「人の活動を律し、意思を決定づけるのは、何時だって言葉と文字と本だ」


 ブルースは鍵を、胡乱(うろん)な顔と神妙な顔もちをしているレイナーズとナオトの前で開けた。


 扉を開けて、静寂に包まれた図書館を進み、ブルースはルネッサンス期の文学の本棚に止まる。


 ブルースが取り出した本を見たナオトは、


「ダンテの“神曲”……ブルース、それ好きなんだ」


「家内が好きです。イタリア関係の文学……特に、ルネッサンス期は(うるさ)いですよ?」


 ナオトは大学時代、レイナーズは新婚旅行という、それぞれのイタリア旅行の話を背に、ブルースは“神曲”のページを開く。


 そのページは、地獄篇の“第三歌“。



 憂いの国に行かんとするものはわれを潜れ


 永劫の呵責に遭わんとするものはわれをくぐれ


 破滅の人に伍せんとするものはわれをくぐれ


 正義は高き主を動かし、


 神威は、最上智は、


 原初の愛は、われを作る。


 我前に創られし物なし、


 ただ無窮あり、われは無窮に続くものなり。


 われを過ぎんとする物は、一切の望みをすてよ



 ブルースが暗唱し終えると、機械音が響いた。


 目の前の本棚が、振動し、左へ滑る。


 本棚のあった場所には、鉄の扉。


 ナオトとレイナーズが息を呑んでいるのを横目に、ブルースは鉄の扉を開けた。


 奥には、更に同じ素材の扉がもう一つ佇む。


 ブルースは、その隣にあった液晶受視機(テレビ)台の鍵盤を叩いて出た画面を一瞥(いちべつ)して、


「レイナーズ警部。人が出入りをした場合、ここのコンピューターから記録が発信され、関係者に送られる。つまり()()()に。しかし、俺たちは()()()()()()()()()()()()()


 ブルースの言葉に、口を開いて呆けていたレイナーズの顔に緊張が走った。


「わかりました。応援を呼び、外で待機させます」


 携帯無線を掴んだ、焦げ茶髪の警部は、その場を後にする。


「死んでいるということか?」


「ああ、全員な」


 ナオトの言葉に、ブルースは短く答える。


 “UNTOLD“に目を付けられた者は生きられない。


 先程のナオトとレイナーズの会話で出たテーマではないが、地獄巡りの入口のドアノブを、ブルースは握った。


「安心してくれ、ドアは普通に開けられる」


「安心していいのかな……そこ?」


 ブルースの言葉に、背後のナオトは溜息と共に応える。


 我ながら、ダンテにちなんで言うが、ナオトは愚か、ブルースの内心も笑っていない。


 何故なら、二人を出迎えたのが白い冷気だったからだ。

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© 2025 アイセル

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