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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第十章 Pedal to the Metal

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祭禍—⑨―

「させねぇよ!!」


 腹の底から放ったロックの声に、“ケンティガン”が振り向く。


 銀の腕の戦鬼の双眸が捉えた()()()()姿()()()()()()()


 “ケンティガン”の両眼を、()()()()


 “駆け抜ける疾風(ギェーム・ルー)”で肉迫したロックの右(ひざ)蹴りが、禿頭の顎を撃ち抜いた。


 ロックの蹴りに――倒れはしなかったものの――“ケンティガン”の両踵が機械の床を抉りながら後退。


 翼剣:“ブラック・クイーン”の“籠状護拳(バスケットヒルト)”をロックは、すかさず上から仰け反った“ケンティガン”に殴りつけた。


 機械の大地に“ケンティガン”の後頭部が届く寸前で、彼が反動で身体を起こす。


 全身を発条(バネ)にした反発力による“ケンティガン”の頭突きと、ロックの籠状護拳(バスケットヒルト)に包まれた右拳の二撃目が相殺。


 “ケンティガン”の勢いが僅かに勝り、ロックの身体が空中で吹っ飛んだ


 ロックは身体を一回転させ地表に降りる。


 “ケンティガン”が顔面から血を流しながら、右の銀椀をロックに向けた。


 ロックは“籠状護拳(バスケットヒルト)”に覆われた右腕を前に、両腕の突進で迎え撃つ。


 “ケンティガン”から繰り出される衝撃(インパクト)に体幹を揺らされつつ、ロックは彼の右直拳撃(ストレート)を両腕で弾き飛ばした。


 大きく両腕を上げた“ケンティガン”が、頭部を曝け出す。


 彼の顔面に、ロックは“籠状護拳(バスケットヒルト)”越しの右の拳を入れた。


 右膝で潰れた鼻と歯が抜けた“ケンティガン”の顔が、左頬を抉る拳撃に更に歪む。


 ロックは続けて、“ケンティガン”の右頬に左の拳撃を放った。


 ロックの追撃は、“ケンティガン”に届かない。


 “ケンティガン”の銀の右腕が、ロックの左腕ごと抱えたからだ。


 籠手型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“ライジング・フォース”が帯電を始める。

 

 ロックも右手に持つ翼剣:“ブラック・クイーン”を振った。


 “頂砕く一振りクルーン・セーイディフ”による分子配列で強化された斬撃が、“ケンティガン”の左の首の付け根を捉える。


 ロックの攻撃よりも速く“ライジング・フォース”の電界が発生。


 “ケンティガン”が()()()()()電界の檻に閉じ込めた。


 静電気と熱が、ロックの身体を駆け巡る。


 ロックの腕を固定する“ケンティガン”の力が、突然弱まった。


 元“七聖人”の武人の左右を、翠色と蒼白い斬撃が挟む。


 ブルースとサキ、それぞれの攻撃に“ケンティガン”が気を取られたのだ。


 拘束を弱めた“ケンティガン”の胸部に、ロックは右蹴りを放つ。


 蹴りの反動で、“ケンティガン”との間合いから離れたロック。


 “ケンティガン”の瞋怒の口から放った怒号が、電撃の突風を作る。


 荒れ狂う電撃の蛇の咢が、サキとブルースを捉えた。


 二人は“磁向防スキーアフ・ヴェイクター”を発動させ、“ケンティガン”の体内電気の暴風を防ぐ。


 ロックと同じく反動を利用して、“ケンティガン”から離れると、


「ロック、ありがとう!!」


「サキ、礼を言うには早すぎるぜ……」


 サキからの礼に応えつつ、ロックは“ケンティガン”から眼を逸らさない。


 銀色に覆われた身体と、右腕の戦鬼と言える男の姿に、ロックは眼を疑った。


 ――アイツ……()()――!!


 先ほど、ロックは右膝で“ケンティガン”の鼻を潰した。


 加えて、“籠状護拳(バスケットヒルト)”越しの“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“ブラック・クイーン”による一撃で、破壊した“ケンティガン”の左頬。


 “ケンティガン”の頭部全体が、()()()()()()()()()


「何が……起きているの……?」


 隣のサキの声から、生気が失われつつあった。


 目の前の出来事に、ロックも息を呑み、呻き声を漏らす。


「……“()()”だ」


 ブルースが舌打ちをして、順手で二振りのショーテル型命導巧(ウェイル・ベオ)の切っ先を“ケンティガン”に向ける。


 ブルースの言う様に、“ケンティガン”の顔は()()()()()()()()()


 電撃の残り香とも言える煙が、蒸発した血から発生。


 折れた鼻は()()()()()()()()()、元の形になった。


 歯に至っては、歯茎から抜けかけたものは、電撃と共に機械の大地に落ちる。


 抜けた歯茎を染める血の焼け跡から、()()()()()()()()()()()()()()


「……確かに、“命熱波(アナーシュト・ベハ)”使いは、ある程度、回復能力は優れているが……コイツは――!?


 ロックも“命熱波(アナーシュト・ベハ)”を持つ身としては、()()()()()()()()()()()()


 しかし、それでも、全治に最低3日は掛かり、“リア・ファイル”の入った粉末を接種する必要もある。


 今回の連日の戦いでも、応急処置を施されたロック達は()()()()()()()()で病み上がりの身体に鞭を打っている状態だった。


 だが、それを差し引いても、“ケンティガン”の様に()()()()()というのは、()()()()()()()()()()()()


「……これが、“ライジング・フォース”。その“真名”:“銀の腕(アガートラーム)”だ……」


 “ケンティガン”が口を開いた。


 そこから激しい息遣いが聞こえる。


()()()()()()()()になったかよ……」


 ロックは翼剣型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“ブラック・クイーン”を逆手に構え直す。


 “ケンティガン”の次の動作に注視していると、


「中々、楽しませてくれる……“()()()”、“(アンチ)リリス”……そして、”蔵書庫の天使エンジェル・イン・アーカイブ”!!」


「俺たちは楽しめねぇよ……」


 瞋怒の顔にどこか喜びを覚える“ケンティガン”が、震えている。


 それが()()()()()()()()()()ことは、ロックにも分かっていた。


「ブルース……つまり、“命導巧(ウェイル・ベオ)”によって、アイツは()()()()()()()ってことだよな……?」


「ああ……体内電気が()()()()()()()()()()()()!!」


 ロックの疑問から、“ケンティガン”の攻略法を編み出そうとするが、ブルースの回答はその余地を与えなかった。


「……待って、ロック、ブルース……()()()()って……?」


 サキが疑問を投げかける。


 ロックは彼女の問いを周回遅れの様に感じたが、()()()()()()()()()


 ――()()()()……?


 “ケンティガン”との戦いでロックは、サキの問いと()()()()()()が一致しない様に思えてきた。


「サキ、もしかして――」


 ブルースがその違和感の正体を探ろうとしたが、電撃が放たれた。


「滾る、滾るぞ!! ブルース……貴様には、()()()()()()()()()()()!!」


「俺がアイツを惹き付ける!! ロック達は、離れてから()()()()!!」


 怒りのままに突進する“ケンティガン”に、ブルースがショーテル型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“ヘヴンズ・ドライヴ”の二振りの鍔の機銃を向けた。


 ロックはサキと眼を合わせて、ブルースから離れる。


 “ケンティガン”の周囲を電界が覆い、機械の大地と“死神(へルター・スケルター)”の亡者たちを掻き分け、ブルースに迫った。


 “雷袖一触キュアンガル・タラナッフ”による、電界を発生させるナノ弾丸の弾幕が進行する“ケンティガン”を覆う電撃の鎧を弾けさせる。


 銃撃を受けても、“ケンティガン”の勢いは衰えない。


「来いよ、あの時の続き……()()()()()()()()()()()!?」


「望むところだ!!」


 ブルースの啖呵に、“ケンティガン”が応戦する形で銀の右腕を振り上げた。


 銀の拳に一際、眼を焼くほどの電撃が帯電。


 閃光と化した拳がブルースに迫ると、


「ロック、サキ!! ()()()()()()()()()()!!」


 ロックは、ブルースの合図と共に駆け出した。


 “駆け抜ける疾風(ギェーム・ルー)”による神経強化から生み出された速度で、ブルースを攻撃する“ケンティガン”の左側の背後を狙う。


 銀の鎧には、その右側から急襲を仕掛けるサキの蒼白い刃が映った。


 ロックは翼剣型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“ブラック・クイーン”を振りかぶる。


 速さと力による熱力(エネルギー)が紅黒の刃が、“ケンティガン”の鎧を横一文字に刻まれた。


 サキの蒼白い刃が、ロックの斬閃と交差する形で、“ケンティガン”の背を右半分から切り裂く。


 ブルースの鼻先に、ケンティガンの右拳が届く寸前。


 銀の右拳を覆う電流が消える。


 それどころか、銀色の鎧に帯電していた電流が一気に、“ケンティガン”の全身を駆け巡る。


 禿頭の巨体を大きく弛緩させると、両膝を突いた。


 仰向けに倒れようとしたが、“ケンティガン”が右拳を機械の大地に叩き付ける。


 ブルースのショーテル型“命導巧(ウェイル・ベオ)”の鍔に付いた機銃の銃口が、倒れるのを良しとしない俯いた“ケンティガン”の額の前に突きつけられた。


「――ッ!!」


 身体の自由の利かない戦鬼――“ケンティガン”――の慚愧の目線が、ブルースの剣と同じ鋭さを発していた。


「……“策士、策に溺れたな”……“ケンティガン”?」


 ブルースの勝ち誇ったというほどの笑みはない。


 血が滾るほどの戦いで()()()()()で見下ろされるのは、“ケンティガン”の中では、忸怩たるものがあるのだろうか。


 ロックは、知りたいとは思わなかった。

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© 2025 アイセル

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