表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第九章 Feed The Machine

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

231/257

真実―㉜―

「……身体が……()()()這いずって――!!」


「助け……て……」


 ロックの眼の前で、青白い光に覆われた”政市会”と青緑の光に包まれた“政声隊の苦悶の声が溢れていく。


 堀川と秋津にそれぞれ送られる光が強くなるにつれ、構成員達が性別と世代を問わず一人ずつ倒れていった。


「何が起こってんだ!?」


()()を取られてんだ……“ヘルター・スケルター”が“命熱波(アナーシュト・ベハ)”で、“政市会”と“政声隊”の“命導巧(ウェイル・ベオ)”を通して力を使っていたからだ!!」


 一平が戸惑うと、ロックは堀川と秋津に向かい、三条に流れる二つの光を見て吐き捨てる。


 それから、堀川と秋津に流れる、二色の光を見て、ロックの中で()()()()()が浮かんだ。


「……()()……まさか、“ヘルター・スケルター”の狙いは!?」


()()()()()()……ですよ」


 ロックの戸惑いに、三条の声が聞こえる。


 振り返ると、ロックの目の前にいた筈のピンクのパンツスーツの女の姿がない。


 声の場所を探すと、三条の華奢な身体は地表より離れ、宙を浮いていた。


 堀川と秋津を通したそれぞれの光が、三条を包み


 堀川と秋津の中心を結ぶ位置で、ロック達を見下ろしている。


「“()()()()()”……だと!?」


 一平の三条に向けた叫び声が祭壇に響いた。


「平均“3()0()0()0()()()()”前後……この数字の意味が分かりますか?」


 三条の問いに、ロックは首を傾げる。


 サキ達も怪訝な視線を彼女に送ると、


「ここ10年で()()()()()()()()()()()()()()()()ですよ!!」


 三条が叫ぶと、両腕を“祭壇”の天井に向けて広げる。


「アインシュタインの“質量熱力(エネルギー)等価式”によると、一円玉1グラムで、()()()()()()()()()()1()()()……そして、新生児一人で8から9GWh(ギガワット)で火力発電所の()()()()8()()()!!」


 恍惚とした三条の天を仰ぐ声を中心に、大きな陽炎が揺らいだ。


 三条の後ろに出てきた陽炎は、()()()()()()()()()


 ロックの鼻孔が、“四つの香草(ハーブ)の香り”に支配された。


「“へルター・スケルター”……姿を現したか?」


 口を開いたのは、ホステルに寝返った“七聖人”――ケンティガン。


 瞋怒の刻まれた皺が、三条から放たれる光に照らされた。


 しかし、どの光よりも鋭い彼の眼光を放つ相貌は映す。


 扁桃の形をした頭部と両肩と胸部が、()()()這い出てくる姿を。


「“スターマン”……()()()()()()ですね、ブルース?」


 三条の見下ろす視線に、ブルースが睥睨で返す。


「……ブルース、三条の言葉を聞いてからでしか判断できないが――」


「……ああ、三条(アイツ)も“白光事件”に居合わせていた!!」


 ロックの胸中にあった悪い予感を否定したかったが、ブルースの一言はそれを許さない。


「“センセー”……何だよ、アレ!? どういうことだよ、()()って!?」


 “ライト”が“パトリキウス”に正面から問う。


 その姿勢は、今にも彼を正面から掴み、凶事を止めたい気持ちに溢れていた。


「“へルター・スケルター”は“白光事件”で学んだ……ただ、()()()()()()()()()()()()()()だと。()()()()宿()()から熱力(エネルギー)を得て、それを交配させることで()()()()()()()を……」


「“パトリキウス”……そこまで知るなら、何故()()()()()()()()手を貸す?」


 牛男の擬獣(エミュレータ)――“バイス”が、ライダースーツの“ライト”を“パトリキウス”から引きはがす。


 彼の背が、“ライト”に頭を冷やす様に伝えるものの、“パトリキウス”への追及の視線を緩めない。


「“へルター・スケルター”の復活……それは、上万作(あまんさく)症候群に罹る()()()()()も意味するから……ですよね?」


 指摘したのは、鍛冶 美幸だった。


 扁桃型の眼の色を()()()()()、赤毛の男を映す。


 彼女から生じる感情は何処か、悪戯を見破る子どもの笑顔を思わせた。


「住民の意識に入ったのが、そもそも……“()()()()()()()()()()()()……」


 ロックは舌打ちをするが、


「でも話が見えない。それなら何故……()()()()()()()殺されなきゃいけない?」


「それは、体外受精――否、“リア・ファイル”を使った()()()()()()で生まれたからだよ」


 龍之助の困惑に、サミュエルが応える。


「果実や植物を育てるのと同じだよ……却って、()()()()()()ということは、その分“熱力(エネルギー)”の()()()()()()()()――つまり、()()()()()


「ああ、“ヘルター・スケルター”の望む()()()()宿主に、熱力(エネルギー)を送るために、“ケンティガン”と“コロンバ”が殺していた!!」


 ブルースが“象牙眼の魔女”と対峙する。


 その言葉に、ロックは歯を食いしばり、サキ達は青白くなっていた


「そうだ……“B.L.A.D.E.”地区の住民でも、()()()()()()()()()()()()()()()重篤な者がいる」


 “パトリキウス”の口から出た内容に、“ライト”が唖然とする。


 その言葉を噛みしめる様に、口を開閉させる“ライダースーツ”の青年。


 ただ、ロックの隣のサキは疑問に思ったのか、


「……でも、何で“へルター・スケルター”のためにそこまで――」


「“へルター・スケルター”が入ったのは()()()()()……でも、入ったら最後……()()()()()膨大な熱力(エネルギー)()()()()()……じゃないの、“パトリキウス”?」


 シャロンが、サキの疑問に対する推察を“パトリキウス”に叩きつける。


「その為には、()()()()()()()()()()()()()()()……復活しないと、()()()()()()熱力(エネルギー)も得られないからな!!」


 薄桃色の少女の一言に、大鉄槌型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“サウンドチェイサー”を“パトリキウス”が、“コロンバ”、“ケンティガン”と鍛冶 美幸に向ける。


 言葉なく、されど鋭い眼差しは肯定を示していた。


 赤毛が業火を思わせ、眼の輝きも怒りの色で爛々としている。


「オイオイ……これでも、俺らはちゃんと()()()()()()()選んだぜ……“へルター・スケルター”の()()()を傷つけず、“B.L.A.D.E.”地区の住民にも()()()()手を出さず――」


「私たちのいる場所の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()殺したのなら、どっちも変わらん!! 命導巧(ウェイル・ベオ)を三条と同様に、“政市会”にも流しておきながら、見苦しい言い訳だな!!」


 “コロンバ”がポンチョから両掌で“パトリキウス”を制する動作を見せるが、赤毛の“七聖人”の怒りは収まる様子が無い。


「“コロンバ”……お前ら“ホステル”も“へルター・スケルター”復活の目的が、“リリス”復活の熱力(エネルギー)目当てなら、()()()()()()()()()()?」


 ブルースの言葉と視線に、ロック達はある方向へ向かう。


 ロックの視界には、“へルター・スケルター”――と言うよりは、それを含めた“スターマン”――の前で浮遊する三条がいた。



「お前等が、“へルター・スケルター”の熱力(エネルギー)()()()なら、あの三条は()()()()()()()()目障り……違うか?」


 ブルースの視線の刃が、“ホステル”の面々に向かう。


「……痴れたことを、ブルース……我々は“リリス”の為に“熱力(エネルギー)”が必要だが、“へルター・スケルター”の()()()()()()()()()()()()()()()ではない」


「というよりは、その為の熱力(エネルギー)と引き換えに、“へルター・スケルター”とかの知識や“命導巧(ウェイル・ベオ)”を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()“大和保存会”と()()()()()次第だけどな?」


 重量感のある声の“ケンティガン”と、軽薄な“コロンバ”の言葉にロックは愕然とした。


 ――つまり、“へルター・スケルター”()()()()()()()()()が、()()()()()()()()()にもいる!?


 ブルースもその内容を想定していなかったのか、言葉を失ったようだ。


 サミュエルとシャロンも、予測していなかった告白に眼を合わせる。


「だって……俺たちの必要な熱力(エネルギー)って、()()()()()()()()()()()だけであって、()()()()ほどじゃねぇしな?」


「ただ……()()()()は、()()()()()()()()ではないですけどね? 少なくとも、()()()()“ヘルター・スケルター”への熱力(エネルギー)を送る為に“コーリング・フロム・ヘヴン”を“政声隊”に与えていましたしね」


 “コロンバ”の言葉に同意する鍛冶が象牙眼を、ピンクのパンツスーツの女に向ける。


 無言で、“ホステル”の構成員からの視線を受けた“ケンティガン”が空から杖を出した。


 左腕に掴むと、杖の先を空中で愉悦に浸る三条に向ける。


「あらあら……残念ですね。熱力(エネルギー)()()()()()()出来れば良いのですけど――」


「そんな気、毛頭ないだろ……“サロメ”、“()()()()()”」


 赤毛の男――“パトリキウス”の敵意の瞳で、二人の女の仇名を呼ぶ。


「さっさと、“ヘルター・スケルター”を召喚しろ……住民たちの目覚めの為に」


「テメェ!!」


 ロックは“パトリキウス”に立ちはだかる。


 “命導巧(ウェイル・ベオ)”:翼剣“ブラック・クイーン”を順手に構えた。


 赤毛の男の大鉄鎚を持つ右手の力が、強まる。


「退け……」


「堀川と秋津はどうなる!?」


 ロックの詰問に、“パトリキウス”は鼻を鳴らすと、


()()()()()()()()()()()()適切でない。加えて、()()()()()相応しくない」


 “パトリキウス”が一歩踏み出すと、翼剣の切っ先をロックは突き出した。


「答えろよ……」


「貴様は、苦しむ住民たちを無視できるのか?」


 “パトリキウス”の言葉に、意外な人物が声を上げた。


「“センセー”……コイツ等のことも、少しは考えてやってくれ!! 確かに、“B.L.A.D.E.”地区の皆には元気になってほしいけど……こんな仕打ちないじゃねぇか!?」


 “ライト”が半身半獣の身で、ロックと“パトリキウス”の間に割って入る。


 ただ、ロックは、彼の言葉の意味を量りかねた。


「待て……“ライト”、お前……()()()()()()()()()()()()()()!?」


 龍之助のロックの胸中を代弁した叫びと、眼鏡の奥の鋭い眼光が狼型の擬獣(エミュレータ)の青年を映す。


「話さなかった……()()()()()()()()()()()()眼に見えていたからな」


 “パトリキウス”の眼の輝きが、ロックの前で僅かに揺らぐ。


「あなた達は、本当に面白いですね……()()()()()()()()戦っている……でも、その実……()()()使()()()()()()()()()している。滑稽ですね……」


 含み笑いをして、空中から見下ろす三条。


「そういえば、ロック=ハイロウズ、こう言いましたね……堀川さんたちを指して『()()()()()()()()()()()!!』と……じゃあ、戦ってみなさいな……()()()()に、“上万作(あまんさく)の住民”を殺してみなさい!!」


 三条の蔑みの視線が、“紅き外套の守護者クリムゾン・コート・クルセイド”の見上げる視線を映す。


 彼女の双眸の中のロックは、翼剣を無意識に逆手に構え、立ち尽くしていた。


 天空の三条の喉笛に食らいつかんとする、獰猛な碧眼の輝きを研ぎ澄ましている。


 しかし、ロックの中で“パトリキウス”の眼の輝きが、過り出した。


「ロック……()()()()()()()


 彼の右隣りにいた、蒼白い刃を持つ少女――サキの一言がロックに響く。


「対立させられているけど……その大元は、“ヘルター・スケルター”を使おうとする()()()()だから!!」


 サキの持つ“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“フェイス”の切っ先が、青白い光と青緑の光を宿す三条 千賀子を捉える。


 その刃にロックの顔が映ると、


「そうだな、サキ」


 ロックは鼻を鳴らす。


 彼は翼剣を構え、前傾姿勢となった。


「やれやれ……シンプルなことだけどな」


「この状況の()()()()()()()()言われたくないけど、()()()()()三条を倒した方が最適だね」


 苔色の外套(コート)の戦士――ブルース・バルト――と飴色のジャケットを纏うサミュエル=ハイロウズがロックの隣に立つ。


 二刀のショーテルの放つ翠色と、小麦色に輝く大鎌の刃が桃色のパンツスースの女に向けた。


「スミちゃんと堀川を助けないと!!」


「お、堀川の名前を()()()覚えたか、シャロン?」


 薄桃色のトレーナーと滑輪板(スケートボード)で武装したシャロンに、橙のパーカーと両手に炎を宿した“命導巧(ウェイル・ベオ)”を構える一平が続く。


「それは良いことだな。あと、俺たちも、応えないとな!!」


 そんな二人を見て、口の端を吊り上げた龍之助が、矛槍型“命導巧(ウェイル・ベオ)”の矛槍を突き出した。


「あらあら……これは、どうしたものでしょう?」


「“ヘルター・スケルター”と心中する時の遺言でも考えてろよ?」


 三条の言葉に、ロックは吐き捨てる。


「“ヘルター・スケルター”についてなら、残念ながら()()()()()()!! 堀川と秋津も助ける!! “ソカル”だろうが“ホステル”だろうが、“大和保存会”だろうが、邪魔するなら叩っ斬るぞ!?」


 ロックは“パトリキウス”、鍛冶 美幸と“ホステル”の刺客二人に、斬閃にも似た視線を送る。


「あらあら……怖いですね」


 そういう三条には感情の昂りが落ち着いたのか、口調は平静となっている、


 彼女の視線の下に、集うロック達。


 彼らの眼に宿る戦意の輝きが、三条と彼女の後ろで輝く青白い巨人を捉えていた。

面白いと思ったら、リアクション、評価、ブックマークをお願いいたします!!

© 2025 アイセル


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ