真実—⑲—
ロックの攻撃で砕け散った氷が、首魁である間崎の不利に揺れる襲撃者たちを映し出す。
「ほらほら、手足がお留守だよ!!」
サミュエルが金髪のポニーテールを揺らしながら、動揺する“力人衆”との距離を縮める。
飴色のジャケットの青年の煽りに応える形で、黒シャツ男が白色トルク――“フロスト”――の氷の両拳を構えて踏み込んだ。
だが、サミュエルの前で“力人衆”の男が大きく尻餅を付く。
「そういえば、僕の出身がカナダのバンクーバー……って、話したっけ?」
転ばせたのは、サミュエルの散弾銃型“命導巧”:“パラダイス”の大鎌――その先端の刃を留める金具である。
サミュエルはその先端を、男の拳撃の軸足である右足を引き寄せたのだ。
「焦って、二足歩行に戻る……典型的な、スケートの素人動作だね」
サミュエルの指摘が、男の羞恥心を煽ったのか、全身をバネにして飛び掛かった。
だが、“フロスト”の摩擦係数が皆無な足下で、跳躍するので前のめりになる。
倒れようとした男の顔面に、サミュエルが右膝蹴りを放った。
「おっと……喧嘩を売る相手を選ぶのも大事だけど、まず間違ってたら頭を下げないと――って、もう聞こえないか?」
黒シャツ男の身体が、サミュエルの膝蹴りの慣性の法則に従い、上体を大きく逸らせる。
潰れた鼻と、砕けた歯と血で汚れた口腔を洞窟の天蓋に晒した。
サミュエルが時計回りに振り返ると、
「君は、重点が定まっていない!!」
大鎌を畳むと、散弾銃型“命導巧”の後部――スリングを取り付ける金具――を“力人衆”の男の背に叩き込んだ。
男は加速に乗せて、サミュエルに右拳を振りかぶったのだろう。
大きく空振りをするだけでなく、後ろから叩きつけられた衝撃で体躯が宙を舞った。
加速に乗せられ、宙に完全に浮かぶと、
「はい、一丁上がり!!」
快活なシャロンが、声と共に跳躍。
彼女が男の両肩に両手を添える。
吹っ飛んだ男が地上に落ちる寸前で、シャロンが右飛び膝蹴りを繰り出した。
シャロン自身も滑輪板で加速していたので、彼女の力を乗せた攻撃が綺麗に男の顎に入る。
「ただ一つだけ、アイスホッケー自体は、重心を安定させた速さとパワーがモノ言うから、加速させて襲撃は及第点……シャロンの方が上だったけど」
意識を失った“力人衆”の男なぞ、視界から――否、初めからこの世界に存在していなかったかのように、誉め言葉を掛けたサミュエルに、シャロンが一直線で向かう。
「そういえば、アイスホッケーって……バンクーバー強いんだっけ?」
サキがサミュエルを見ながら、片刃型“命導巧”:“フェイス”を構えながら、滑走してくる“力人衆”を数人避ける。
間合いを取りながら、“フェイス”の指向性熱力の刃を振るった。
氷の装備を狙った斬撃の破壊熱力と、氷の足裏と地表により、“力人衆”
は大きく転ぶ。
「ここ数年で調子が良いからスタンレーカップは、カナックスが絶対に獲るよ!!」
「アイスホッケー……深夜のケーブルテレビで観たけど、面白そうだよな!!」
サキに喜々と答えるサミュエルの横で、一平が黒シャツの“力”一文字を消滅させる勢いの右蹴りを男に放った。
土手っ腹に放たれた蹴りで、男の両脚が地表から一瞬浮かぶ。
一平の蹴りで跳ねあがった男は、膝から着地すると腹を抱える様に崩れた。
「一平、是非ともカナックス応援してね!!」
「一平が言うなら面白そうだな……俺も観ようかな」
龍之助が矛槍型“命導巧”の柄で――サミュエルのやったように――不安定な軸足を引き寄せた“力人衆”の顎に、右肘鉄をかまして言った。
龍之助の興味が、推しているチームに向いたサミュエルの機嫌が良くなっている。
「ただ、最近、鳴かず飛ばずだがな……」
ロックは“力人衆”の男の放つ、連撃を躱しながら言う。
右と左、それぞれからの軽拳撃は、足元の氷を無くしたのか安定していた。
「兄さん……盛り上がってるのに。酷いねー」
「事実だ」
ロックは、“力人衆”の男の動きが止まると、咄嗟に身体を時計回り。
男の攻撃が右直拳撃と踏み、右後ろ回し蹴りを放つ。
男が踏み出した時には、ロックの右踵が男の右首から延髄に食い込んだ。
右直拳撃の体勢で、黒シャツ男が崩れる。
「なんか、ムカつく」
「シャロン、兄さん……ホッケー嫌いだから」
彼の好みも自分の趣味とするシャロンとしては、ロックに腹が据えかねるものがあるのだろう。
怒りの発露として、飛び掛かる“力人衆”に、頭の上から滑輪板を叩き込んだ。
サミュエルが、そんな彼女を宥めていると、
「そうなの、サミュエル?」
「だって、兄さん……滑れないから」
サキの問いかけに、サミュエルが、しれっと聞き捨てならない言葉を放つ。
「おい、サミュエル……?」
「なら、兄さん……“PS勝負”やる?」
ロックは、無意識のうちに翼剣を順手にして、“迷える者の怒髪”の墳進火炎で五人の“力人衆”を薙ぎ払った。
「一平、PSってなんだ?」
「“ペナルティショット”の頭文字から取ったサッカーで言うPK戦だけど――って、ロック……なんで睨んでくるんだよ!?」
龍之助に解説していた一平が、抗議してきた。
彼の眼に映るロックの姿は、右手に炎が宿った翼剣を手にしている。
「まあ、カナダって寒冷地だし、滑れないのは……ね?」
「楽しむなら、季節と場所問わず出来るバスケの方が良いじゃねぇか?」
ブルースが背後に向けて、二振りのショーテル型“命導巧”:“ヘヴンズ・ドライヴ”の柄を突き出す。
銃口と化した柄から、弾が吐き出された。
“政市会”会員の両腕に付けられた羊の頭蓋――“スウィート・サクリファイス”――の青白い眼窩が、銃撃を浴びて消えていく。
「……ロック、そういう問題だったか?」
「……兄さん、しれっと話を変えるよね?」
龍之助が疑問、サミュエルの逃げを指摘されると、
「前に進むぞ!! 階段で寝ていた“政市会”も来ているからな!!」
ロックは祭壇に向けて、進んだ。
「お前ら……仲が良いな」
ライダースーツを纏う男の“ライト”が、横に付く。
その隣には、秋津と堀川がいた。
「会ったばかりのが、割と多いがな」
「でも……楽しそう」
「そうだね」
ロックの言葉をどう受け取ったのか、定かではないが、秋津と堀川の表情には柔らかさと言うのがあった。
少なくとも、ロックの見る限りでは、彼らの関わりで無縁だった何かを見出したのかもしれない。
「そんなこと考えるくらいなら……アイツ等の中に入れば良いだろ?」
茶髪の大男“バイス”が、突然言ってきた。
ロックの視線に、無言ながら彼から。
「問題があるのか?」
そう言われた気がしたロックは、
「……見ての通り、右だの左だの、国だの平和だの……そんな話とは、無縁でちゃらんぽらんな奴らだ。ただ――」
気づいたら、言葉が紡がれていた。
二人がロックを見て呆然とするが、
「アイツ等は、何かにつけて人や属性に優劣付けるような奴らじゃない……人様の大事なモノを傷つけるようなら、その限りじゃないけどな」
ロックは、言葉を精一杯選んだからか、頭に熱さを覚える。
だが、二人の返した笑顔。
堀川の純朴さの中にある熱、秋津の芯の籠った優しさ。
それを眼にして、ロックの頭を覆う熱源が消えた様に思えた。
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