真実—⑯—
――何があるってんだ……?
ロックは鼻を突く香草の臭いを仄かに感じながら、駆け出した。
地下に続く階段を背に、“政市会”の男の特殊警棒“芝打”が、紅い外套を纏うロックに放たれる。
ロックは翼剣の籠状護拳を右から突き出し、男の攻撃を食い止めた。
それどころか、ロックは全体重を掛けて男に飛び込む。
後続の“政市会”会員が、ロックから生じる加速乗法と重力加速度の熱力を受けた男の背を正面から受ける。
何人かを脇に押しやり、将棋倒しの要領で残りの“政市会”会員が階段から足を踏み外した。
ロックの突進で“政市会”会員たちが、鉄製の床に仰向けに倒れ、手すりに叩きつけられる。
「あれ、もしかして……前に河竹市で関わった――」
一平の声に、ロックは上を見上げる。
爆轟が響くと、ロックの飛び降りた階段から二人ほど滑り落ちた。
赤、白のそれぞれのトルクを纏った“政声隊”メンバーだ。
一平が、階段で仰向けに寝ている“政市会”会員を除けながら降りてくる。
「確かに、“遺跡”……だね」
サキも“命導巧”:“フェイス”の片刃を突き出しながら、一平に続く。
「そう呼んでるの!? 何か、カッコいいな」
一平が振り返り様に叫ぶと、サキが困惑する。
「バカ……楽しいものじゃねぇよ」
「なんでだよ!? “街に眠る聖杯”とか“地中に眠るUFO”とかいう感じで熱いじゃねぇかよ!!」
「というか、そういった代物を左右の過激派が実際に狙ってんだから、尚、笑えねえよ」
反論に窮する一平を放置して、ロックは呆れながらも階段を下りる。
一平とサキの言う“遺跡”を臨む形で、鉄骨式の折り返し階段は切り立った崖に建てられていた。
尾咲と山土師という“政市会”と“政声隊”の首魁たちが使うエレベーターと並行する形となる。
紅い外套と自分の頬を熱波が撫でた。
階下から“スウィート・サクリファイス”の青白い弾丸が、螺旋階段を弾く。。
ロックばかりでなく、階段に踏み込み始めた一平とサキ、龍之助、サミュエルとシャロンにも、地の底からの“死の眼差し”に晒されていた。
半自動装填式拳銃型“命導巧”で、ロックも応戦する。
螺旋階段から覗き込んで見えた二人に、“雷鳴の角笛”のナノ強化銃弾を撃った。
一人を倒すが、二人目は階下に逃げたため、二発目を外す。
ロックの隣を疾風が駆けた。
ロックは、鉄骨式の折り返し階段の内側に立っている。
彼を押しのける形で、手摺を苔色の外套を纏うブルースが、折り返し階段の手摺に腰を乗せて滑走。
ロックを狙う階下の“政市会”会員を、ブルースは勢いに乗せた飛び蹴りで力化させていく。
「……一番、楽しんでいる奴がいた」
頭を抱えてロックの隣に、追いついたサキが苦笑して返す。
「こういうのは楽しみながらやるのが、一番だぜ!!」
ブルースの繰り広げる踊り場の乱闘が、鉄骨式階段の全体を振動させる。
緑の閃刃が、作業用空間を照らす人工照明の中で煌き、青白い光の担い手をねじ伏せていった。
「ま、煙となんちゃらは高いところが好きと言うよね」
サミュエルが追い付いて言うと、
「あれ……それって、高いところかそこ見下ろすのが好きとかじゃなくて?」
「まあ、高いところから下りる爽快感も込みなんだろうな……」
シャロンが疑問を呈して、龍之助がブルースの様子を見ながら言った。
いずれも、ロックに負けず劣らず、ブルースへの評価があんまりとしか言いようがない。
というよりは、ロックですらも酷いと思ったのをサキもそう感じたのか、周囲を諫めている。
ロックは溜息を出しながら、ブルースが昏倒させた“政市会”会員で溢れる踊り場にたどり着いた。
「バカが高いところ云々なら、目の前にいるぞ!!」
上から鉄骨を響かせながら、ロックの耳朶を叩く。
声の主は、“バタリオン・ピース”所属でライダースーツを纏う“ライト”だ。
寡黙な彼の相棒である大男の“バイス”も、背を向け秋津と堀川を折り返し階段の内側に移動している。
折り返し階段の外側は、洞窟の空洞が広がっていた。
しかし、目の前を煌く火柱が遮る。
「止めるぞ、“政市会”に先を越されるな!!」
“政声隊”のメンバーの怒号が、折り返し階段の外側から響いた。
彼のトルクの色は赤色。
“ブレイザー”の炎の人型が両腕から炎を下に放ち、上昇してきたのだ。
「それだけじゃない!! 上からも来るぞ!!」
“バイス”が上を向いて叫んだ。
折り返し階段の最上階を見ると、足音が折り返し階段を振動させる。
「“ベネディクトゥス”達の攻撃を逃れた奴らが、来たのかもしれない!!」
龍之助が背後に回り、階段を下りてくる集団と対峙する。
矛槍型“命導巧”:“セオリー・オブ・ア・デッドマン”を構え、穂先から“加圧水流”を放った。
“ライト”と“バイス”も加わり、龍之助と共に応戦。
三人が秋津と堀川を背にして、
「えーっと、バカに対する専門家のロックに聞くけど上に限らず、下からも来るバカたちはどうする!?」
「変な肩書を付けんじゃねぇ、ブルース!!」
抗議を込めて、ロックは半自動装填式拳銃型“命導巧”:“イニュエンド”を空から乗り込もうとする“政声隊”メンバーに向けて撃った。
“雷鳴の角笛”の銃弾が、空中の“政声隊”メンバーを撃ち落とす。
「ロック、単純明快で良いと思うよ!!」
サキがロックの銃撃と共に、駆ける。
“ブレイザー”の上昇噴射を使って手摺を超えてきた“政声隊”の男に、片刃型“命導巧”:“フェイス”の指向性熱力の刃で応戦した。
「サキ……察した様に、言うんじゃねぇよ!!」
「というか、こういう状況なら、こうするしかなくない!?」
一平が叫びながら、手甲型“命導巧”の“ライオンハート”から、炎の榴弾を両手から放った。
ロック達のいる折り返し階段の踊り場の上空にいる、“政声隊”メンバーを炎の榴弾が遠ざけていく。
「そういう意味で言えば、確かに兄さんはこういう事態の専門家だね!!」
ロックの側で、サミュエルが散弾銃型“命導巧”:“パラダイス”の大鎌を立ち上げる。
サミュエルが“金砂波刃”の砂塵の刃で一人切り伏せ、“金剛風波”による砂塵風射を、手摺を超えようとした“政声隊”二人に放った。
散弾銃の発砲の衝撃で、手摺に叩きつけられる。
「ロック、シャロン!! 二人で地上まで突っ切って行け!!」
「人使いが荒いな!!」
「そこだけは、同意だ!!」
シャロンの唯一同意できる不平に共感して、ロックは跳躍。
ブルースがやったように、ロックは両腿を手摺に乗せて階下まで一気に下った。
左手で“ブラック・クイーン”を持ち、“籠状護拳”を前に加速。
折り返し階段の中心を上る“政市会”会員を、ロックは風を感じながら次々に跳ね飛ばした。
ロックの向かいでは、シャロンが“滑輪板”に乗っている。
彼女は滑輪板の胴の部分を、手摺に交差させるように乗せて、バランスを取っていた。
彼女の体重による滑走も――ロックと並行で――“政市会”会員を押しのけながら、滑っていく。
ロックとシャロンが階段の両手摺で急加速の襲撃を“政市会”会員達は、彼らに背を見せて、階段を引き返した。
“政市会”会員達は彼らを避ける際に、転び、跳ね飛ばされる。
また逃げる途中で列を崩して、階段から落ちる者もいた。
「よし、着いた!!」
シャロンが向かいの手摺から、飛び降りる。
ロックも底に付く、直前で飛んだ。
洞窟最下層から伸びる折り返し階段の一階部分に、“政市会”会員達はいない。
むしろ、階段に集中していたのか、ロックとシャロンの急襲とも言える移動で、階段の途中で倒れている者が多い。
「ロック、着いたか!!」
後ろからブルースの声が聞こえた。
彼に続いて、サキ、秋津と堀川、サミュエル、一平、龍之助、“ライト”と“バイス”が、是音台研究所の最下層に降り立つ。
彼らが進む内に、後ろから来る団体の構成員を対処したのか、追手の気配はなかった。
「研究所の下にこんな洞窟があったのか?」
ロックは、奥にある機械に蝕まれた洞窟を見る。
「ああ、元々住宅地を立てる予定だったんだが、この洞窟の“遺跡”を発見した。その調査も行う為に、地表に研究所を建てたんだ」
ブルースの目線は、機械に覆われた洞窟の奥を見据える。
ロックも視線を合わせると、その先には、小太りと瘦せた二人の後姿が見えた。
「少し遅れているが、尾咲と山土師に追い付きそうだな」
ロックは言うと、走り出した。
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