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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第九章 Feed The Machine

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真実—⑮—

――クソッタレ!!


 ロックは“駆け抜ける疾風(ギェーム・ルー)”で神経の反応速度を上げた。


 目の前の炎を避け、天井に飛ぶ。


 身体を一回転して、右足で天井を蹴った。


 ロックの跳躍から生じた衝撃波により、自ら出した炎に覆われる姿を眼にして、奥へ突き進む。


 すれ違った“政市会”と“政声隊”がそれぞれ、立っていた。


 ロックの“疑似物理現象”による超高速移動を視認できない所為か、二人は「()()()()()()()()()?」すら把握できていない。


 “政市会”の尾咲・菅原一派と、“政声隊”の山土師たちの乗ったエレベーターの行き先へ通じる階段を見つける。


 ロックは地へ降り立つと、再度“駆け抜ける疾風(ギェーム・ルー)”の超反応と超神経強化による右の蹴りで更に加速した。


 ロック達を想定しつつ、()()()()()()()()()滑稽な両政治団体の構成員を縫う様に前進。


 階段の入り口の前には、緑トルクを纏う大柄な女性が立っている。


 彼女の傍らに立つ青緑の人型の“アンペア”から、紫電が放たれていた。


 彼女の眼はロックと焦点があっていない。


 恐らく、ロック達が突入した時の“政声隊”の放った“ブレイザー”の炎を先攻と思ったのだろう。


 矢継ぎ早に、“アンペア”の雷撃を放ったのだ。


 皮肉なことだが、一撃目の炎はロックを外したが、


――()()当たりそうだけどな!!


 ロックは“磁向防スキーアフ・ヴェイクター”を発動しつつ、右腕を前にして両腕を突き出す。


 大柄で筋肉質な女に、ロックは全身の体重を掛けて突進した。


 傍らの“アンペア”が立ち消え、女の方は何が起きたか理解できないまま、腹から空気を吐き出す。


 ロックの体重と加速度の乗法の熱力(エネルギー)により、彼女と共に、地下へ通じる階段の踊り場に突っ込んだ。


 筋肉質な女は、ロックの突進の勢いで手摺に背中を叩きつけて止まる。


 ロックは踊り場の中心で、前のめりから立ち上がった。


「……まあ、突き抜けたところで……()()()()()()()()()()?」


 階段の入り口を振り向くと、漸く、彼らは理解した様だった。


 ロックに出し抜かれた両政治団体の構成員が、階段の入り口と通路の境界線に立つ。


 性別や世代を問わず、それぞれの得物を手にロックへの()()と言うよりは、殺意に眼を輝かせていた。


――“磁向防スキーアフ・ヴェイクター”は使えない……か?


 基本的に、物理攻撃や化学反応による攻撃を防ぐ、“命熱波(アナーシュト・ベハ)”発生時の結界である。


 ただし、()()()()()()()()()()()()()()()、だが。


 加えるとしたら、()()()()()()()()()


 ロックは例えるなら、水泳をして水面から顔を出し、今は水の中の状態だった。


 ()()()()()()()()()()、一溜りもない。


 彼らの眼に、ロックの背後に()()()()()が映った。


 ロックは振り返り、跳躍して後退する。


 先回りしていた“政市会”会員の右腕に、特殊警棒の“芝打”が洞窟の暗がりで青白く明滅していた。


 ロックを追う地獄の獄卒の持つ鬼火を連想させながら、一人ずつ階段から登ってくる。


 “政声隊”も特殊なトルクである、“コーリング・フロム・ヘヴン”の赤、白、青緑の三色の人型を伴い、踊り場の影の部分から出て来た。


 地下に先行していた構成員たちと、通路にいた者たちの眼がロックを捉える。


 階段から登る者たちと踊り場に潜んでいた者たちの眼の中に映る“紅き外套の守護者クリムゾン・コート・クルセイド”の姿が、()()()()()()()()


 ロックは振り返ると、通路側から大きな爆音が発生する。


 その中から、鋭い斬閃が躍り出た。


 天井が広がる地下階段の踊り場で描かれる頂点が、ロックに立ちはだかる“政市会”会員に着地して放物線を描く。


 狼の擬獣(エミュレータ)、“ライト”の爪が階段から上ってきた“政市会”会員に、両手の爪の斬閃を見舞った。


 暗がりで眼を潰すような閃光が疾走(はし)り、“政市会”会員たちは“芝打”の青白い光の明滅と共に倒れる。


 通路側の異変に感じた黒シャツの男――“政声隊”の荒事専門集団の“力人衆”――が、ロックに向けて氷の両拳を構えて肉迫。


 足の裏と通路に用意した氷による滑走で、瞬時に間合いを詰めるが、


()()()……」


 ()()()()()()()()()()()()、黒シャツ男が苔色の風に阻まれる。


 苔色の外套(コート)を翻しながら、ブルースが二刀のショーテルを振るう。


 黒シャツ男の腰のベルトを左の剣で斬り、パンツを落とした。


 黒シャツの男が羞恥に晒される。


()()()()()()()()()()()()()……()()()()()


「ロック、()()()()()()()()()()ユーモア、ユーモアね?」


 ロックは視線で突き刺そうとするが、ブルースの顔は鉄壁の笑顔に躱される。


 ボクサートランクスが露わとなった怒りをブルースにぶちまけようと、黒シャツ男が飛び掛かった。


 だが、男の両脚がズボンで引っ掛かると、


()()()()()()()、晒すなよ?」


 ブルースが両手のショーテルの刃を消すと、瞬時に外套(コート)の下に隠したホルスターに“命導巧(ウェイル・ベオ)”を収める。


 前のめりになった黒シャツ男の顎に、右肘鉄(エルボー)の一撃を放った。


 言語化できないほどの情けない声を出し、黒シャツ男が大の字で倒れる。


「お笑いと言って、()()()()()()()()()英国仕草……モンティパイソンから変わらんな」


()()()()()()()()()、まだ穏便だろ? 調子はどうだ?」


 ブルースの返しに、ロックは呆れつつ、肩をすくめる。


 状態については、ロックの態度でブルースが問題なしと見たのか、これ以上聞いてこなかった。


 ロックは踊り場に待機する“政声隊”に目を向ける。


 ブルースの乱入に、“政声隊”の面々が警戒し、間合いを見ながら後退していた。


「おっしゃー!! 一網打尽!!」


()()()()()()()()()()けどね!!」


 ロックの背後で、通路で倒れる政治団体の構成員を足で除けながら、一平が出て来た。


 隣にいるサミュエルだが、両耳を指で弄りながら、不平を漏らす。


「ちょっと、()()()()()()()


「まったく、下手したら共倒れだよ!!」


「だが、あの中では身動きも取れなかったからな……」


 サキの声は、サミュエルよりは内容は柔らかいが、同じく耳の違和感で顔が若干青い。


 シャロンに至っては、頭に残った何かを振り払わんばかりに、全身を揺らしてガニ股で、歩いていた。


 龍之助の口調は、状況的には割り切れないが、身体を襲う不快感を隠せていない。


 ロックは、各々の表情から判断して、


「一平……お前、何使った?」


 一平に問うが、返ってきたのは炎の榴弾だった。


 数発の燃焼現象を一纏めした榴弾が、ロックへ攻撃しようとした“政声隊”メンバーを吹き飛ばす。


「ああ、“爆衝烈拳ドーン・ナ・セーイジェ”ってやつだよ……炎に炎とかだと、巻き添え喰らうだろうし」


 一平の答えとしては密閉された空間での火炎による、共倒れを避けたのだろう。


「だからと言って、爆轟の衝撃波を()()()()()使()()()()がいる!? “磁向防スキーアフ・ヴェイクター”を使える“命熱波(アナーシュト・ベハ)”使いだったら、炎、氷や雷撃は防ぎながら行けるって思わない、普通!?」


 シャロンが感情を露わにして、一平に詰め寄る。


 状況から判断して、“爆衝烈拳ドーン・ナ・セーイジェ”で、一平が突き抜けようとしたのだろう。


 ブルースと“ライト”が、高速移動で倒していこうと思っていたのだろう。


「だが、暗がりで全く見えなかったし……シャロン、サミュエルもあまり――」


()()()()()()()()()()()()!!」


()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ブルースも特に!!」


 龍之助が、“望楼(ヴェルヴェデーレ)”出身の二名の怒りを宥めようとするが、彼らの矛は収まる気配がない。


 爆破事故で一番厄介なのは、物理的な裂傷ではない。


 爆轟による衝撃波による、体内への損傷(ダメージ)だ。


 耳の様な三半規管から意識を奪い、下手したら肺にも損傷を負う。


 サミュエルとシャロンの怒りも尤もだった。


「みんな、大丈夫!?」


「何と言うか、大胆だね……」


 長髪を二房に分けた少女の秋津と、小綺麗にした堀川が遅れて、踊り場に抜ける。


 彼らが茶髪の大男“バイス”に伴われて、周囲をマジマジと見つめる。


 恐らく、戦闘をしている中で、最後列で二人を護っていたからだろうか。


 一平との距離がある者たちに比べて、割を食わなかったようだ。


「ってか、遠足じゃねぇんだぞ……」


「良いじゃねぇか……」


 ロックのため息に、ブルースが笑いながら、ショーテル型“命導巧(ウェイル・ベオ)”を構える。


()()()()()()()()()()()()()()()奴らよりは、()()()()()()()!!」


 ブルースに言われて、ロックは翼剣:“ブラック・クイーン”を構える。


 踊り場にいる“政声隊”は勿論、階段から上ってくる“政市会”会員も視界に入れ、


()()()()!!」


 ブルースの眼のロックは、獰猛な笑みを浮かべる。


 立ちはだかる者たちの背後に広がる深淵を思わせる、地下洞窟の暗がり。


 その奥で、機械に浸食された洞穴に蠢く輝きをロックは見た。



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© 2025 アイセル


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