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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第九章 Feed The Machine

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真実—⑫—

 ロックの右拳で門番越しに殴られたドアが、研究所の奥に吹っ飛ぶ。


 コンクリートと微かな埃の臭いが、研究所に踏み込んだロックの鼻を突いた。


 ロックの殴り飛ばした黒シャツの“力人衆”の門番と、サキの蹴飛ばした“政市会”の門番という()()()()()()の生む熱力(エネルギー)によって、受付を兼ねたセキュリティの境が木端微塵(こっぱみじん)となる。


 そのままロックとサキのベクトルに乗ったドアが、対峙する政治団体を何人か跳ね飛ばしたのが見える。


 その音が余りにも大きく、そして激しかったのか、ロックより先に入っていた“政市会”と“政声隊”が振り返る。


 男女という性別、世代はおろか()()()()()()()、目を大きく剥き、口を大きく空ける面々。


 ロック=ハイロウズという男を()()()()()()()()()()()()()として、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。


「お前ら、無茶苦茶だな!!」


 灯篭を思わせる輝きの非常電源に囲まれた研究所の広場の奥から聞こえた。


 声の主は、鍔なし(ビーニー)帽を被り、髭を生やした猿顔の男――山土師 靖。


 ロックは応えず、半自動装填(セミオートマチック)式拳銃型:“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“イニュエンド”を翼剣から取り出し、“政声隊”の男に引き金を引く。


 ロックが吹っ飛ばしたドアを避けた“政市会”と“政声隊”により、山土師を遮るものは無い。


雷鳴の角笛アヤーク・ジャラナッフ”のナノ銃弾を三発、研究所を駆けた。


「若さのなせる業もここまでくると、()()級ですね」


 桃色のパンツスーツを纏う、肩まで伸ばした髪の護憲派弁護士の女――三条 千賀子――の感情を一切排した声で、右手を突き出す。


 彼女に応える様に、“政声隊”の首魁の男の前に大きな石碑――彼女の“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“パラノイド”――が現れた。


 ロックの放った“疑似物理現象”の銃弾を、石碑型の“命導巧(ウェイル・ベオ)”の出す不可視の壁が弾く。


「弁護士って、()()()()()()弁護するのが仕事で、()()()()()()()じゃないはずだけどな」


“イニュエンド”を翼剣“ブラック・クイーン”の柄に入れると、ロックは駆けた。


駆け抜ける疾風(ギェーム・ルー)”による超加速で、三条と山土師に向かう。


 しかし、三条の眼の輝きがロックより速い。


 彼女の石碑から、大きな両手が現れる。


 両掌に青緑の雷撃が、宿った。


 右逆手に翼剣を構えたロックの足元のリノリウムの床に、左手から放たれる。


 リノリウムの床が爆砕し、その破片と雷撃を避ける為に、右へ避けた。


 右足を大地に付けた瞬間、三条の召喚した右手から二撃目の雷霆が落ちる。


 ロックは“ブラック・クイーン”の“籠状護拳(バスケットヒルト)”を右手で突き出した。


磁向防スキーアフ・ヴェイクター”を発生させ、三条の雷撃をかき消す。


 右腕からの衝撃が、全身を揺さぶった。


――クソ!!


 電撃を避けつつ、衝撃による損傷に歯を食いしばり、後退する。


 背中の紅い外套(コート)越しに伝わる、研究所の中の壁の冷たい感覚。


 三条の感情の無い眼に映るロックは、壁と放置された設備に囲まれていた。


「人間は原罪と共に生まれるものです……あくまで、()()()()()()()()()()()()()のが私の仕事です」


「そういって、上から通り越して()()()()()()恐れ入るぜ……()()()()()()()が!!」


 三条の言葉に、ロックは吐き捨てた。


 非常電源しかない明かりの研究所の中で、ロックの眼は慣れ始める。


 受付を抜けた先は、大きな広場だった。


 一階は、一般入場者用に様々な科学技術を扱った展示品や解説パネルに彩られている。


 しかし、“白光事件”により放置され埃が被り、設備も十分な管理が行き届いていない。


 なにより、一階から二階が円形の吹き抜けの広場となっている。


 二階から、青緑のトルクをした“政声隊”が立っていた。


 ロックを見下ろしながら“アンペア”を召喚し、両手が帯電している。


()()()()()()()()、人は()()()()上を見上げてしまうものですよ?」


『それでは、貴女にも()()()()()()()()()()()()


 その声は、()()()()()()()()()


 ロックは見上げると、吹き抜けの窓に見える月夜が()()()()()()照らす。


 水色のキャミソールを纏う河上 サキが片刃と軽機関銃の付いた“命導巧(ウェイル・ベオ)”:フェイスを右手に、跳躍した姿が()()()()()()()三条の両眼に映った。


 二階を狙う青緑の雷撃が、ロックではなく天の乙女を思わせるサキに放たれた。


 サキの前に躍り出る鶏冠の兜(ガレア)の守護者――“ヴァージニア”。


 正八面体の結晶が三つ、守護者の周囲を囲む。


 青緑の雷撃の全てが、それらを受け止めた。


『味わいなさい……()()()()()()()()()()()()を』


 主へ牙を剥く、全てにおいて()()()()活動家たちへのヴァージニアの冷酷な宣戦布告が放たれる。


“アンペア”の放った電光が、“ヴァージニア”の結晶から再び炸裂した。


“政声隊”の放った悪意の牙が、担い手に全て返る。


『このババア……平気そうにしてるけど()()()()()()()()()!!』


 サキのもう一人の守護者の“ライラ”が、三条を煽る。


 円らな瞳で項が見える短髪の守護者と共に、サキが放物線を描きながら三条に向かった。


 ”ライラ”が先陣を切り、重力加速度に従い、滑空。


 彼女の右腕の剣を、三条の喉元に突き立てる。


 三条の顔に変化はない。


 彼女の前に金色頭の人型――“パラノイド”の真名:“ライティングス・オン・ザ・ウォール”――が出現。


 巨人の持つ銀色の両肩から放たれる右の剛腕と、“ライラ”の刺突がぶつかる。


 二人の“命熱波(アナーシュト・ベハ)”使いの守護者の織り成す“斥力”に、サキの華奢な身体が三条との間合いから離された。


 後悔の顔をしているサキの前に、炎と青白い光弾が迫る。


 “政声隊”の女の纏う赤トルクから出る人型の“ブレイザー”と、“政市会”の男の両腕に装着した“スウィート・サクリファイス”による攻撃。


 ロックとサキが、門番越しに吹っ飛んだドアの衝撃で倒れていたそれぞれのメンバーが体勢を整えたのだ。


 二つの団体に放たれたサキへの殺意は、“黄金色”の旋毛風にかき消される。


 それぞれの襲撃者が狼狽するが、サミュエルの駆る砂嵐“報復の車輪クウィレ・ド・イーオラウ”の“眼”に呑まれた。


 息を吹き返した襲撃者たちを蹂躙しながら、サミュエルが三条 千賀子と山土師 靖に進攻する。


 三条の“破滅の兆しライティングス・オン・ザ・ウォール”という名の巨人が、両腕を突き出し、サミュエルを包む嵐を抑えた。


 荒れ狂う風の運ぶ砂塵に切り刻まれる、銀色の両肩部。


 三条と山土師の間から、黒いシャツを着た男が躍り出る。


「待っていたぜ!! サミュエル!!」


 生来の目付きの悪さに加え、威圧目的で眉毛を細くしたビール腹の男――間崎が氷に覆われた右拳を、サミュエルに振りかぶる。


「もしかして名前、調べてくれたの? 嬉しいね……今度は、どんな()()()を見せてくれの、“()()()()()()()()”!!」


報復の車輪クウィレ・ド・イーオラウ”の中心から飛び上がり、サミュエルが散弾銃型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“パラダイス”を左から振りかぶる。


 起立した大鎌の鎌先を覆う砂の刃――“金砂波刃(スピール・オー)”――が、三条と共に間崎へ斬閃を刻んだ。


「サミュエル、離れて!!」


 桃色の風となったシャロンが、サミュエルの前に出る。


 彼女の駆る滑輪板(スケートボード)の車輪のある面から、電気を帯びた鰻の群れが荒れた。


 電流を帯びた鰻が空でのたうち回る。


 銀色の電気鰻が覆っていたのは、()()()()()()だった。


 鰻の覆う場所を駆け抜けるのは、エメラルドの双閃。


 ブルースのショーテル二刀流が、もう一つの分銅を放とうとするオーツを覆った。


 彼が手前にある分銅でブルースの双子の斬撃を受け止める。


「ずいぶんとまあ、横取りなんて姑息な真似をするじゃねぇか……オーツ。どっちが怖い、“()()()()”、それとも“()()()()()()”か?」


「強いて言うなら、お前だな……ブルース。()()()()()()()()()()()


 吐き捨てるオーツの眼に宿る、殺意の光。


 シャロンの召喚した鰻に覆われる分銅が、引き寄せられる。


 ブルースの背に迫る、オーツの分銅型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“アンダー・プレッシャー”の片割れ。


 挟撃に挟まれるブルースを、オーツの銀鏡の両眼が捉えた。

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© 2025 アイセル

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