真実—⑪—
「龍之助!!」
凛としたサキの声が響き、蒼白い閃光が矛槍を持つ龍之助の傍を駆け抜ける。
二撃目の雷撃を龍之助に放った“政声隊”のメンバーの男の胸を、“指向性熱力”の鏃が貫いた。
男の周囲の空気が灼かれ、彼から閃光が放たれる。
熱力の炎に晒された男から、青緑の人型“アンペア”が霧散。
電撃の悪意の矢が消え、射手の“政声隊”メンバーは膝から崩れた。
「サキ、助かった!!」
「良いけど……でも、ロック……これじゃキリがないよ」
龍之助の感謝をサキが受け取りつつ、研究所への入り口に続く道に顔を曇らせる。
サキの言う通り、ロックの目の前には“政市会”と“政声隊”の面々がひしめき合っていた。
“パトリキウス”と“ベネディクトゥス”の二名が、道を作ろうと先陣を切ったが、やはり人海戦術に手を焼いている。
――単純に殺していないからな……。
こちらが人死にの出るほどの攻撃をしてないのが大きいだろう。
同じ“七聖人”でも、トリガーハッピーの“コロンバ”や“ケンティガン”の様にすれば話は早いだろう。
あるいは、“スコット決死隊”や三条の様な強硬手段も有効だろう。
考えていると、最後尾に回った桃色の風となったシャロンの支援を行う、堀川と秋津の姿が目に入る。
異なる考えだけで、敵となる理由よりも理解しようと歩み寄った二人の少年と少女。
「自分の為に護らないといけない分、楽には行かないな」
苦笑するロックの隣で、“政市会”の女会員の放つ“スウィート・サクリファイス”の光と共に意識を奪うサキが振り向いた。
彼女がロックの姿を眼に入れると、笑顔で返す。
ロックは照れくささを覚えていると、
「おい、俺たち“バタリオン・ピース”が突入するから、俺らと合わせられるほどの足の速い奴を頼む」
“ライト”が後ろから話しかけてくる。
「どうにかできるのか?」
ロックの問いに、ライダースーツを着た狼の耳を噛みの間から覗かせる青年が頷く。
「じゃあ、俺とロックで行く。“ライト”、合図は?」
「今すぐ出す」
苔色の外套のブルースが二振りのショーテル型“命導巧”を構えると間もなく、ロックは背後から熱気を感じた。
ロックに立ちはだかる“政市会”と“政声隊”の眼に、映る解き放たれた炎と雷。
シャロン、堀川と秋津のいる最後尾に集団が見える。
研究所付近で乱闘しているのとは別の“バタリオン・ピース”が援軍として加わったのだ。
街中で、各地で展開していた“電脳右翼”と“電脳左翼”の鎮圧が落ち着いたのだろうか。
ロックは隣のライトの出す唸り声に、思考を停止する。
狼の“擬獣”の青年の顔が、狼類を思わせる形になった。
犬歯を突き立てて、消失。
ロックは翼剣:“ブラック・クイーン”を逆手に、大地を蹴った。
“駆け抜ける疾風”による全身の神経強化を行う“疑似物理現象”で、超神速で突き進む。
“バタリオン・ピース”の一員である“エクスキューズ”達の放つ、炎がロックに立ちはだかる“政市会”の青年に直撃。
突然の攻撃に驚いた“政声隊”の青緑のトルクの男が、“アンペア”を出そうとした瞬間、右に持つ“ブラック・クイーン”の“籠状護拳”を前に出した両腕の突進で跳ね飛ばす。
“政市会”と“政声隊”の面々が、“バタリオン・ピース”の加勢に気づいた時には後の祭りと言えた。
ロックと並列に進むように、右隣りのブルースの双刃が織りなす“エメラルド”の突風と閃光が両政治団体を男女問わず、地べたを舐めさせる。
ロックの左隣では、雄叫びと共に三日月を思わせる閃光の爪による“ライト”の猛攻が、団体の構成員たちを切り刻んでいった。
ロックも右に持つ翼剣の“籠状護拳”で、“政市会”の特殊警棒の“芝打”を振りかぶる女を、警棒ごと殴り飛ばす。
ロックの一撃で砕ける警棒からの“命熱波”封じの光が、周囲に降り注ぐ。
赤いトルクから“ブレイザー”を召喚しようとする初老の男が、光の消失に戸惑った。
彼の眼に自身の姿が映る。
武器をなくし、待てと言いたかったのかもしれない。
しかし、その言葉はロックの放った左蹴りが彼の口を塞いだ。
股関節の右を破壊され、初老の“政声隊”メンバーが痛みのあまり横転。
“芝打”の欠片の憂き目にあったのは、“政市会”も例外ではなかった。
ロックに両腕の命導巧:“スウィート・サクリファイス”の銃撃を放とうとするが、起動の証である眼窩の青白い光が消え失せる。
ロックは空かさず、右にある籠状護拳で一撃を加える。
頭部から全身を揺らすと、ロックは左と再び右の護拳の連打で沈めた。
倒れる“政市会”会員の眼に映る、ロックの背後。
“政声隊”メンバーの二人が好機と思い、白と青緑、それぞれの人型をそれぞれ召喚した。
しかし、そこに二つの人影が、襲撃者を包む。
影の正体は、駅前広場で、速攻を仕掛けていた二人の虎と黒豹の擬獣だった。
黒豹の全身から繰り出される突進の熱力で、青緑の“アンペア”ごと男を吹っ飛ばす。
虎の方は、速さと力の乗法による熱力で白い“フロスト”を出した男もろとも、周囲を巻き込んだ。
「ロック!!」
背後の一平の声と共に、炎の榴弾がロックの側を滑走。
目の前の両派の活動家たちが、攻撃の衝撃で左右に散らされる。
「道を開けるから突っ込んで来い!!」
彼の声に合わせる様に、“バタリオン・ピース”の“エクスキューズ”たちの氷柱が一斉に“政市会”と“政声隊”に降り注いだ。
「行こう、ロック!!」
サキが、ロックの隣を駆け抜ける。
彼女の両隣に浮かぶ“ライラ”と“ヴァージニア”。
二人の”命熱波”の守護者の熱力を感じ、“駆け抜ける疾風”の速度を更に引き上げた。
全ての世界が遅く感じる中で、炎、氷や雷が飛び交う。
獣化した擬獣による肉弾戦の熱力が、“政市会”と“政声隊”から迸っていた。
サキの進む先には、“研究所”の玄関に立つ大柄な男が二人。
一人は“政市会”らしく、特殊警棒の“芝打”を装備するが、筋骨隆々だった。
もう一人は“政声隊”で、その中の白い“力一文字”の黒シャツを着た“力人衆”の男。
巌を思わせるシルエットが黒シャツからも浮かび、白いトルクの“フロスト”による氷の拳を構えていた。
ロックは彼らに向けて、全力で駆ける。
ロックの周囲を囲む空気が、鎧となり、立ちはだかる者たちを弾き飛ばした。
“電脳右翼”と“電脳左翼”の違いは関係ない。
誰が先に立ちはだかったのか。
誰が先に殴って来たのか。
些細な違いがあるとすれば、それだけだった。
先を進んでいたサキと並ぶ。
彼女の黒真珠の瞳に、ロックの獰猛な笑みが浮かんだ。
それに呼応したサキの命導巧:“フェイス”の蒼白い光が、彼女を包む。
彼女の身体が浮かぶと、ロックは翼剣の“籠状護拳”構えた。
「あたし達の前に立つなら――」
「ぶっ飛ばす!!」
空中に浮いたサキの右脚が、速さと重量の乗法の熱力に、守護者二人の光を加え、“政市会”の男に向かう。
ロックの右拳は、“政声隊”の氷の拳を構える大男に狙いを付けた。
全ての粒子の流れが止まったような感覚を覚えるロック。
動き出したと思ったら、ロックの右拳が“政声隊”の門番の左頬から砕いている。
右のサキの飛び蹴りは、“政市会”の門番の胴に入っていた。
刹那、二人の攻撃の衝撃が、空気を揺らす。
その“ベクトル”に乗りながら、ロックとサキはドアを門番ごと破壊した。
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