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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第八章 Reckoning

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189/257

落とし前―⑰―

――間に合うか!?


 ロックは翼剣型命導巧(ウェイル・ベオ):“ブラック・クイーン”を構えて、堀川と秋津の方角に駆けた。


 しかし、駅前広場の中心部に向かうロックの足元に火柱が立つ。


 思わず後退ると、青白い弾丸がロックの紅い外套(コート)の裾を撫でた。


 右側を見ると、赤いトルクを纏った“政声隊”の男が三人、炎の拳を纏っている。


 黒いシャツに白い文字で書かれた“力”の一文字――“力人衆”という“政声隊”の武闘派達。


 いずれも、上半身が逆三角形で鍛えられている。


 それぞれ、緑に染めた髪、角刈り、サングラスと言う特徴だった。


 左には、“政市会”の会員が4人。


 前衛に顎鬚で巌の様な体格の男と、強靭とも言える細身の男が背広を纏っていた。


 “命熱波(アナーシュト・ベハ)”封じの警棒――“芝打”を、二人は右手に持つ。


 彼らの後ろにいる二人の女は、黒いパンツスーツを着ていた。


 それぞれ、項の垣間見える短髪に眼鏡、切れ長でイヤリングを付けている。


 二対の腕には、“スウィート・サクリファイス”の眼窩に青い炎が灯っていた。


 “政声隊”と“政市会”の七対の視線が、ロックに注がれる。


 いずれも、()()()()()()()()()()()()堀川と秋津への道を塞いだことへの優越感に満ちていた。


 そんな彼らの視線に映るロックの背後。


 ブルースとシャロンは青緑のトルクの連中からの雷撃の雨に晒され、その隙を突く“政市会”会員に阻まれる。


 一平、サミュエルは“芝打”で雪崩れ込む“政市会”会員に足止めを食らっていた。


 龍之助は彼らに加勢しようとするが、白いトルクの“政声隊”の繰り出す氷の攻撃が塞ぐ。


 彼は、矛槍型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“セオリー・オブ・ア・デッドマン”の“加圧水流(ウォーター・ジェット)”で、彼に降り注ぐ氷塊を破砕。


 しかし、“政市会”の“スウィート・サクリファイス”と“政声隊”の炎の攻撃に進めない。

 いずれも、ロック達にとって、取るに足る相手ではない。


 だが、彼らの集団戦はロック達の機動力を確実に奪っていった。


――クソッタレ!!


 ロックは“翼剣”を逆手から順手に持ち替える。


 “芝打”を持つ強靭な男と緑に染めた男の炎の拳が、思案するロックに襲い掛かった。


 彼らの眼に映る翼剣に、紫電が孕む。


 “頂砕く一振りクルーン・セーイディーフ”による原子配列を操作し、地球上でもっとも硬い金属の刃に変えた斬閃が疾走(はし)った。


 その際の熱力(エネルギー)が見えない爆轟を作り、二人の刺客を薙ぎ払う。


 しかし、そんな彼らの背後。


 “政市会”の後衛の女二人の“スウィート・サクリファイス”と、“政声隊”の男二人の火の玉がロックに放たれた。


「いいから、どけよ!!」


 ロックは逆手にして、翼剣の腹でそれぞれの攻撃を受ける。


 “磁向防スキーアフ・ヴェイクター”を発動させ、炎と青白い弾丸をかき消した。


 しかし、彼らの攻撃による衝撃(インパクト)によって、後退させられる。


 歯を食いしばるロックが、四対の眼に映った。


 彼の姿を見て愉悦に浸る二派の構成員の眼に、()()()()()()()()()()


――あれは!?


 彼らの目に映るそれにロックは声を出さなかった。


 ()()()()()()()()


 しかし、堀川と秋津への悪意が一斉に、彼女に向かった。


「河上さん!?」


 堀川の胸元に寄せていた秋津が叫ぶ。


 彼女の眼に映るサキが“タニグク”に目掛けて疾走。


 キャミソールとサシュベルトの少女に、羊の頭蓋から青白い光が放たれる。


 サキは、それに対して何もしない。


 それどころか、()()()()()()()()()()、攻撃を気にせず速度を上げていった。


 “政市会”会員からの攻撃が当たる。


 ロックを始め、誰もがそう思っていた。


秋津は涙を滲ませ、眼を逸らす。


だが、()()()()()()()()()()()()()

 

 “スウィート・サクリファイス”の青白い弾幕が、サキを横切っていく。

 

 彼女の肌はおろか、()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、彼女の背後からの“政市会”会員の攻撃も()()()()()()()()()()()()

 

 赤いトルクと青緑のトルクを纏った“政声隊”のメンバーが、サキに狙いを定める。


 だが、火球と雷撃は、彼女の華奢な身体を刻まない。


 ()()()()()()()()()()()()()()、誰も彼女に攻撃を浴びせられない。


 サキを狙うのをあきらめた両派は“タニグク”と堀川達に照準を向ける。


「二人とも“タニグク”に入って!!」


 サキが、堀川達と合流して叫ぶ。


 彼女の勢いに押されて、堀川と秋津は対“ウィッカー・マン”用装甲車両の“タニグク”の開いたドアに駆けこんだ。


 始まる一斉砲火。


 “政市会”の青白い弾丸と、“政声隊”の炎と雷がサキと“タニグク”に降り注いだ。


「いくら、対“ウィッカー・マン用”って言っても、あれだけの攻撃を受けたら――」


 シャロンが、“政声隊”の青緑のトルクを滑輪板(スケートボード)に乗って突進して、倒す。


 しかし、彼女の懸念――それに同意していたロックも含め――が、目の前で繰り広げられる光景で否定された。


 それぞれの攻撃が放たれる。


 しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ひっかき傷すらない。


 ただ、攻撃の矛先はサキ達を超え、囲っていた二派――“政市会”と“政声隊”――に向いた。


 放たれた火球が“タニグク”を囲う様に、爆発。


 電撃や青白い弾丸も、飛び交った。


 ()()()()()()()()()、“タニグク”の周囲で、ロック達を狙う者たちの同士討ちという形で展開される。


 “タニグク”への攻撃が思いもよらない結果となり、ロックの行き先を塞ぐ“政市会”と“政声隊”が呆然と立ち尽くす。


 そして、遅れて“白いトルク”を纏った一団の放った氷が上空に出来た。


 氷塊は上から落ち、大きく平べったい対“ウィッカー・マン”用装甲車両の屋根から下を揺らす。


――……そういうことか!?


 ロックは、サキとその“守護者”である二体の“命熱波(アナーシュト・ベハ)”――“ライラ”と“ヴァージニア”――に囲まれた光を見て、理由を確信した。


 19世紀のドイツ出身の生理学者にして物理学者のヘルマン=フォン=ヘルムホルツは、検流計を使った蛙の反応時間を、電流を流して計測。


 結果、“神経伝導時間”は一秒に付き約100mと判明した。


 脳から脹脛(ふくらはぎ)までは約20m/秒であり、光の秒速約30万キロの速さを大幅に下回る結果を出した。


 また、同時期の北オランダで開業した、同国最初の眼科医のドンデルスも、ある実験を試みる。


 フォノトグラフを用いて、「心のタイミング」と「メンタルアクション」の測定を行った実験で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を証明した。


 同時に、認知処理の速度が()()()()()()()()()()()()()()ことも明らかとなった。


 人間の脳の中では、生存に必要な“トップダウン型注意”と“ボトムアップ型注意”の二種類がある。


 “トップダウン型注意”は、車の運転や仕事に集中するという、意志によるもの。


 “ボトムアップ型注意”は“名前を呼ばれる”、“羽ばたき”、“呼び鈴”と感覚的な刺激への反応を指す。


 二つの注意によって、人の脳は常時せめぎ合っている状態にある。


 更に言うなら“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()9()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()


 それは、第一次世界大戦で飛行機が戦力として運用され、その対策として第二次世界大戦で索敵機(レーダー)が出てきたのに()()()()()()ことが多く報告されていることからも明らかだ。


 極めつけが、社会で普及している携帯通信端末(スマートフォン)などの電子機器から発せられる460から480nmで人の脳を刺激しやすい波長域の光――所謂、“ブルーライト”――である。


 内因性光感受性網膜神経節細胞――ipRGC――は“ブルーライト”に()()()()()()()()、脳の覚醒中枢である“視床下部”へ信号を送る。


 その結果、睡眠を促す“メラトニン”分泌の抑制を招き、認知的な注意水準を高める。


 つまり、人の“()()()”を()()()()最大限まで引き上げられるのだ。


 サキの“命熱波(アナーシュト・ベハ)”は、()()()()()使()()


 “ブルーライト”の波長を()()()()()()、“政市会”と“政声隊”の両派の標的を()()()()()()


 ()()()()()()()、彼女を囲う者たちを狙う様に。


 ロックは舌を巻きつつ、サキのいる駅前広場の中心部に向かった。

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© 2025 アイセル

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