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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第八章 Reckoning

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落とし前―⑫―

 堀川の胸に頭を寄せる秋津の顔に、“政声隊”の集団の放つ雷鳴が照らされた。


 キャミソールとサシュベルトを纏う河上 サキ。


 彼女が雷鳴の切っ先に、彼女の凛とした黒髪と似ても似つかない、炭化させられる。


 恐らく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、堀川も行った。


 しかし、堀川の思考も、彼の視点から伺える彼女のそれ。


 ()()()()()()()()()


 河上 サキの前に突如として正八面体の結晶が現れた。


 ()()()()()()()()()()()()、一つではなく、三つも。


 結晶群が、青緑の人型からサキを狙って放たれた雷撃の全てを受け止める。


『“ライラ”、上空!!』


『分かってるよ、“ヴァージニア”!!』


 サキの後頭部から、浮いて現れる、鶏冠の兜(ガレア)を被った鷹の眼の凛々しい女性。


 そんな彼女を“ヴァージニア”と呼ぶ、つぶらな瞳をした女がサキから飛翔する。


 “ライラ”と言われた女性の肉体は均整のある肢体だが、少女を思わせる顔立ちのアンバランスさを併せ持っていた。


 彼女のつぶらな瞳が捉えるのは、組織立った白い人型の群れの放った氷。


 光の細剣(レイピア)となった右腕を左から右に振り、夜を灼いた。


 サキを狙った氷塊たちに、光が疾走(はし)る。


 光に刻まれた氷の一つ一つ、全てが炸裂した。


 刻まれた氷に映る、鶏冠の兜(ガレア)の女――“ヴァージニア”。


 彼女の作った、三つの正八面体の結晶から雷撃を放った。


 扇の中心から端まで広がった“政声隊”の足元に降り注いだ氷から、紫電が現れる。


 刹那、上空と地上からの電位差の槍が、白いトルクと青緑のトルクの集団を貫いた。


 倒れ行く、白と青緑のトルクの“政声隊”に、サキは駆け出す。


 白髪交じりの中年男性が、彼女を迎え撃つ。


 赤いトルクを輝かせながら、右手で炎の拳を振りかざした。


 しかし、()()()()()()()()()()()()()


 右からの横殴りの斬撃で、白髪交じりの男の胴が爆発。


 僅かに衣服を焦がしながら、サキの一撃で吹っ飛ぶ。


 白髪交じりの男をかき分けるように、赤いトルクを纏う女が二人、躍り出た。


 女性二人は、二十代前半。


 眼元の黄色をベースにしたアイメイクと、顔を覆うファンデーションが明るめなのが、二人を分ける。


 ファンデーションの明るい女の方が、一歩止まり、火球を放つ。


 サキの動きが鈍ったのを狙い、黄色いアイメイクの女が炎を纏った平手打ちで続いた。


 しかし、大振りに空いた彼女の胴に、サキは左回し蹴りを放つ。


 アイメイクの女の右半身がくの字に曲がると、サキは空かさず、右の蹴りで彼女の腿を狙った。


 一撃が命中し、間髪入れずに、脛が二撃目を食らう。


 サキの蹴りの連撃で生じた痛みに、アイメイクの女が膝から崩れた。


 サキの接近戦に目を奪われた、明るめのファンデーションの女。


 彼女が、正気を取り戻し、二撃目の火球を出す。


 サキの構えた、機関銃の付いた大きな片刃が火球を照らす様に蒼白く輝いた。


 蒼白い爆発がファンデーションの女の上半身を覆い、火球が消える。


 サキの不可視の衝撃で、仰向けに倒れた。


 サキに攻撃を放つために、離れた赤いトルクの“政声隊”が二の足を踏み始める。


 彼女の放つ蒼い攻撃か、接近戦の足技に恐れをなしたのかは定かではない。


 そんな彼らを黙らせたのは、()()()()()()()()


『邪魔です!!』


 鶏冠の兜(ガレア)の淑女――“ヴァージニア”の凛とした叫びが広場に木霊する。


 彼女の声に呼応するように、二つの正八面体の結晶が、サキの横を突っ切った。


 赤いトルクを纏った集団の先頭に立つ、パーマをした中年女性と、野球帽の鍔を後ろに被った二十代の男に、二つの正八面体が狙いを付ける。


 見たことない二つの結晶に、追い回される男女。


 彼らの後続も、それらに追い立てられた。


 “政声隊”のうねる様に逃げて作られる人波の壁。


 その向こう側で、“政市会”が止まる。


 彼らと敵対する団体の仕留め損ねた、河上 サキを見据えていた。


 “政市会”の中から出て来た一人の男がサキに狙いを定めて、“政声隊”の人波の壁に突っ込む。


 右手に持った警棒で、“政声隊”の老若男女を問わずかき分けながら進む。


 一番手の男は三十代の整った顔立ちで、髪を後ろにし、額を出していた。


 その彼を先導者に、“政市会”の面々が“政声隊”の人波の河に乗り出す。


 堀川の目の前で、オールバックの“政市会”会員と、彼を代表にした者たちの眼に河上 サキを据える。


 しかし、彼らの眼に映っていたのは、()()()()()()()()()()()()()だった。


 堀川の前で、短髪のつぶらな瞳の女性――“ライラ”が笑顔を“政市会”会員達に向けた。


『みんな、お疲れ!! そして……()()()()!!』


 笑顔が不敵なものに変わり、“ライラ”の右手が、眩い光を放つ。


 その光が、“正八面体の結晶”に注がれた。


 正八面体の結晶が輪郭すらも霞む光度となり、光条が放たれる。


 その一撃目はオールバックの男に晒された。


 “スウィート・サクリファイス”と特殊警棒が閃光に晒され、光の伝播により結晶が爆発。


 飛ばされた破片で、オールバックの男は腹と頭に受けて倒れる。


 熱力(エネルギー)を含んだ光が、“政声隊”を追い回す“二つの正八面体”にも宿った。


 それは、人波に足を止め、オールバックの男に続いた“政市会”会員たちにも、降り注ぐ。


 サキ達の光から伝える熱力(エネルギー)の衝撃による結晶爆弾の破片が直撃して、“政市会”会員たちは足から崩れた。


 あるいは、それによる爆砕の衝撃で吹っ飛ぶ。


 無論、正八面体に追い回されていた“政声隊”たちも、光による破壊熱力(エネルギー)で、その後を追った。


 “政市会”と“政声隊”を蹂躙する欠片が、堀川を映す。


 星が広場にでも落ちたかの様に、輝くサキ――というよりは、彼女に付き添う二人の女性――の出した結晶が光を受けて、乱反射。


 しかし、その欠片の一部がサキと彼女に迫る影を映す。


 トルクを纏いつつ、黒地に白一文字で書かれた“力”というシャツを着た老若男女の一団。


 そして、双椀に羊の頭蓋と右手に警棒を手にして、背広を着た男とパンツスーツの女の集団。


 どちらも、ロックとサキよりも身体の大きさで言えば、両集団に分があった。


「“力人衆”!!」


「“政市会”のは……見覚えあるけど……まさか!!」


 秋津の叫びに、堀川は見たことのある顔を見て驚いた。


「政経塾!! 民自党だけじゃなく、“大和保存会”に近い政治塾もいる!!」


 胴田貫から、“政市会”に民自党関係者が入り始めているというのを堀川は聞いていた。


 彼は眼を疑いながら、政市会陣営のメンバーを改めて見回す。


「やっぱり……“大和保存会”の関係者のいるって評判の大学からも来ている……剣道や武術で成績を残している奴らだ!! よく見たら、進路で貰ったパンフレットで載っていた自衛隊関係者もいる!?」


 堀川が叫ぶと、ふとシャツを掴まれる。


 彼の胸元で秋津が唇を噛み締めた。


「……大丈夫だから」


 どこか力なく呟くと、二つの団体の精鋭が河上 サキに向けて歩き出す。


 肩で風を切るように歩くのが、“政声隊”。


 同じような歩き方をする者もいたが、“政市会”は背を伸ばして、重量のある歩みだった。


 河上 サキを前にした、二つの政治団体の武闘派たち。


 彼らの歩みが止まる。


 “政声隊”は荒れ狂う水流を受けて、下がる。


 炎の咆哮が“政市会”の行進を遮った。


「サキ、ここは任せろ!!」


「お前……凄い暴れっぷりじゃね?」


 河上 サキを背に、二つの政治団体に対峙する二人の青年。


 眼鏡を掛け、細く強靭な青年――原田 龍之助――が、矛槍の切っ先と鋭い眼を“政声隊”の“力人衆”の眼に孕む敵意へ向ける。


 橙色のパーカー、炎で煌く手甲を両手にした斎藤 一平が、“政市会”の腕利き達に、挑発的な眼光を放った。

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© 2025 アイセル


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