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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第八章 Reckoning

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落とし前―⑩―

 悪意のこもった声が、駅前広場のどこから来たのかはわからない。


 堀川にとって、それは()()()()()()()()


「若いよね……あんたら、()()()()()()()()……じゃないの?」


 今度の声は女だった。


 年配の声なのはわかる。


 羨望の一言だが、その中に含まれる蔑みの毒が堀川の心を巡った。


「“政声隊”のお嬢ちゃんも、()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()


 若い男の声が聞こえた。


 “政市会”側としての一言だろう。


 しかし、その内容は()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()()()


「“政市会”のお坊ちゃんも……()()()()()()()()()()、『()()()()()()()()()()()()()()!!』とか言うかと思ったら、()()()()()()()()()……」


 “()()()”からの声も聞こえる。


 その悪意は、堀川に向けたものだろう。


 だが、悪意の刃の光は()()()()()()()()()()()()()()()()


「まあ、年頃だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


「失礼なこと言わないでよ……まだ、()()()()()も言ってないでしょ!!」


 周りから聞こえた言葉に堀川は、秋津に目を向ける。


 彼女は彼の胸に顔を埋めたまま、何も言わない。


 しかし、彼女から伝わる温もり。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


「でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」


 政治の信条による違いは関係なかった。


 ただ、堀川と秋津に注がれる、()()()()()()()()()、破廉恥な視線。


 それが、大きな悪意の渦として、駅前広場を包み込んだ。


「これでわかったよ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


 堀川は自分たちを囲う、活動家集団からの一言に耳を疑った。


「何言ってんだよ……こんな、()()()()()()()()()()()()()()()()()”が、()()()()()()()()()()!!」


――何を言っているんだ……コイツラ……。


 堀川の中で、声を発したのが何処の誰かは知る由もない。


 いや、()()()()()()()()()()()()鹿()()()()


 秋津の身体から伝わる冷える感覚。


 それを感じるたびに、堀川の心の溶鉱炉は爆発せん勢いで、その温度を上昇させていた。


「……それ以前に、こいつら分かってねぇんだよな……“平和”ってのが」


「レイシストや排外主義は染まったら、変えることは出来ないんだよ!!」


「だから、戦うしかねぇんだよ!!」


 “政声隊”と思しき者たちの怒号が響き渡る。


「そういうお前らも、お花畑なんだよ!!」


「日本のことや文化を全く考えない、自分勝手に言うから、この国が危機なんだよ!!」


「つうか、テメェ等が外国の工作員を招いてるから立ち上がるんだよ!!」


 “政市会”も“正義”と言う名の罵倒で迎え撃つ。


 自分たちを囲いながら、正義の押し付け合い。


 堀川は今すぐにでも、自分たちを舐め回す様に見つめる者たちを、手当たり次第に殴りつけたい衝動に駆られていた。


 しかし、堀川はそれを敢えてしない。


 ただ、自分の両腕で抱きしめる少女。


 ()()()()()()()()()()()()()()


 それが、分かっているから。


 再び、眼から流れる熱いもの。


 それに従うままに、堀川は秋津 澄香と言う少女を強く抱きしめた。


「おいおい、こいつら泣いてんじゃん?」


「こんなシンプルな事実の前に泣くか、フツー?」


 言い争いをしていた両陣営。


 彼らが、再び堀川たちに目を向けた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


 集団の罵声の一つが、堀川の心を抉る。


 その返し刃が秋津に達したのか、声にならない泣き声が聞こえた。


()()()()()()()、“政市会”なんだよ!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”!! ()()()()()!!」


 周りの分断を煽る一言。


 大きくなるたびに、秋津を包む腕の力を強くした。


 ふと、堀川の胴が優しく包まれる。


 堀川の力に応えるように、秋津も両腕で囲んだ。


 ただ、離れないように。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


「こいつら、聞いてねぇな」


 男の声が聞こえた。


 悪意の渦から出てきた男は、どちらの陣営かはわからない。


 そして、()()()()()()()()()()()()()()


「ガキは大人の言葉を聞いて頷きゃいいんだよ」


「俺が身体で叩き込んでやらな――」


 堀川たちを未熟と見做す声が、()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


 やがて、悪意の渦の言葉は、()()()()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、堀川たちを揺らし、迫る二人の男たちを吹っ飛ばした。


 ()()()()はおろか、()()()()()()()()()()悪意の渦。


 その視線は、もはや堀川たちに向いていなかった。


「……あとは、任せろ」


 風が吹くと共に、堀川と秋津に紡がれた一言。


 “紅き外套の守護者クリムゾン・コート・クルセイド”という二つ名を持つ少年――ロック=ハイロウズが、()()()()()()()()半自動装填(セミオートマチック)式拳銃を右手に、堀川達の前に立つ。


 彼が、革帯(ベルト)の束に引っ掛けた鞄から何かを取り出した。


 それと、半自動装填(セミオートマチック)式拳銃を重ねると、紅黒の剣が彼の手元に現れる。


 翼を思わせる造形が、夜の闇に輝いていた。


「ありがとうな……()()()()()()()()()()()立ち上がってくれて」


 苔色の外套(コート)を纏ったブルースという男。


 彼の柔和な笑みを浮かべる眼に、泣きはらした堀川と秋津の顔が映っていた。


 どこか、気の抜けたような顔と思っていると、ブルースはロックの向ける視線に合わせて、二丁の機関銃を取り出す。


 それぞれの機関銃から、三日月を思わせる反った刃が出た。


「サミュエル、“政市会”と“政声隊”を散らせろ」


 力強く、不純物の無い鉄のように響く声。


 堀川の隣には、飴色のジャケットを着てポニーテールをした青年が応えるように立った。


「シャロンは飛び越えて、おっきく固まったやつらを引っ掻き回せ」


 桃色の少女が、苔色の外套(コート)の青年に応えるように、前に躍り出た。


「スミちゃん……()()()()()()()()()()()()!!」


 シャロンが笑顔で、右腕で力こぶを作る。


「龍之助は、正面」


 眼鏡を掛けた原田 龍之助が堀川の右隣を歩き、ブルースよりも前に出る。


 強靭とも言える彼の背と同じくらいの矛槍を手に、頷いた。


「ロックとサキと一平は……」


 ブルースが周囲を見渡すと、前髪を炎色に染めパーカーを着た斎藤 一平が、


「右だろうが左だろうが…」


 炎の燻る手甲の両拳を叩きながら、


「掛ってくる奴を……」


 翼剣とも言える武器を逆手に持ったロックが継ぎ、


「ぶっ飛ばす!!」


 河上 サキが、機関銃と大きな片刃が一体となった武器を右手に、声高に宣言する。


 そんなロック達の背を見る堀川。


 彼らを背に、一陣の風が吹く。


 旋毛風が、彼らを覆う悪意に満ちた渦を大きく乱した。

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© 2025 アイセル

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